150話 謎の中堅
さて、予告通り次週からは投稿ペースが落ちます。
また、155話以降は一話分の分量を短くします。
第ニ試合。
相手チームはアザミさん。これも華奢なショートソードだ。近接タイプかな。
対するBクラス次鋒は、熱血男子だ。彼も転校初日に何かと話しかけて来たな。獲物は手斧。
クラスの中では体格がいいが、筋肉の付きかたはまだ未熟かな。今後の成長に期待だ。
数分後、今後の成長に期待とか言うんじゃなかったと、居た堪れない気持ちになったが。
例によってのんびりしたお爺ちゃん審判の掛け声で、試合が始まった。
「ふっ」
短い呼吸と共に手斧が回転しながら放たれた。
受けるでも逸らすでも無い。悠々とかわした。そこへもう一投。獲物は両手に有ったのだ。
これも難なくかわすかと思いきや、分裂した。残像のように気味の悪いブレかたをしたと見るや、手斧は無数に分かれてショートソードの少女に襲いかかった。
「オラァ、決まったぜ!!」
熱血男子が勝利を確信したのと同時であった。
アザミさんの右手が霞んだ。
遅れて、澄んだ金属音が響いた。
全ての斧にショートソードで反応していた。
「あのお姉さんの動き。私に近いですね」
君基準なの?
「マリーが時々変な動きをするが、それと同等か」
「流派的なものです」
ジョブとは無関係に、マリーはある戦闘術に長けていた。
あれは確か――。
「かかったなぁ!!」
いつの間にか熱血男子が接近し、バトルアックスを振るう。背中に背負っていたな。あまり気にしなかったのは、彼がそう立ち回っていたからだ。
力の限り振り回された先端が、アザミさんの細い体を横から凪いだ。
スコーンといい音がした。
バトルアックスが捉えた物。制服を着た丸太だった。
「変わり身の術!! やっぱりあのお姉さんは忍術使いです!!」
そうか。
だと本体は――。
「とりました」
「テメェ!!」
熱血男子に肩車するように、細い足で喉元を締めていた。
制服の無い姿で。白いブラに生足だ。
折れてしまいそうな儚い流線でありながら、振り解こうともがく彼の頭部をがっしりと掴む。
「忍法・水遁の術」
壇上の小さな声にマリーがハッとする。
「水遁!? 高度な術をよもや使えるだなんて!!」
首から顎までホールドされ、熱血男子はギリギリと仰反らされ、少女の両指で口を大きく開けた。
同じく、向かい合うようにアザミさんの顔が熱血男子を覗き込む。口は窄んでいた。
可愛らしいしたをぺろっと出す。
――まさか!!
「や、やめろ!! 出すな!!」
熱血男子が悶えるなか、とろーりと透明な線が彼女の口から垂れた。
涎だ。
「ヒィイ」
強引に口腔を晒され、悲鳴にならない悲鳴を上げる。
ここから先の光景は無惨だった。
次々と溢れる少女の涎。
次々と垂れ流される熱血男子。
嚥下しきれず、注がれる側から、ゴボぉゴボぉと溢していた。
観客席の一部から「くそ、羨ましいぜ」という声が聞こえる。
いや男子学生だけじゃ無い。女子生徒の中にも、陶酔した顔で見つめる者がいた。
あぁ、山百合のような細く艶やかな少女が注ぐ涎に、体の内から侵されたいと。
やがて熱血男子が白目を剥き、審判がアザミさんの勝利を宣言して試合は終了した。
「勝者、Aクラス。決まり手、合掌涎」
「私の知っている水遁の術と何か違う!!」
第三試合。
「いよいよ師匠の番ですね」
「やっぱあいつか……他猫のそら似じゃ無かったか」
「ドラゴン戦でも活躍された腕前です。果たしてどんなファイトを見せてくれるのでしょうか」
「あまり見たくないが」
だが、中堅戦である巨大猫vs委員長は、俺の心配を他所に無残な結果にはならなかった。
「わしゃわしゃわしゃわしゃ!!」
「にゃ!? この女、にゃーの弱点を的確に攻めるにゃ!! やる奴にゃ!!」
仰向けになってお腹をわしゃわしゃされていた。
「勝者、Aクラス。決まり手、猫騙し」
お爺ちゃんもう適当言ってるだろ。
「相手の委員長さん――まんまとモフらされましたね」
どういう解釈なの?
第四試合。
副将戦だ。
相手チームはアカネさん。獲物はない。暗器使いかな。
対するBクラスは、いつも注意してくれる子だ。彼女が実質のリーダーである。むしろ大将戦でスミレさんと当たる立ち位置だ。
「武器はお持ちにならないのね」
弓を構えながら、リーダー女子も暗器を警戒する。
にゃー以外のニ戦で恐るべき変態性を見せ付けたAクラスだ。この期に及んで如何なる辱めを受けることやら。
「ご心配には及ばず」
アカネさんが手を上着の後ろへ回す。引き抜かれたのは鎖鎌だ。刃を構えブンブンと分銅を振り回す。
それでも分はリーダー女子にあった。
長距離vs超長距離。
試合開始の合図と共に矢が放たれる。放たれる。放たれる。いや放ちすぎ。
連射してるよリーダー女子。
最初は分銅や鎌を駆使して撃ち落としていたが、次第に腕や太ももに擦り出した。
「フフ、まだまだ行きますわよ!!」
今度は同時に三つ!!
束になって迫る矢を防ぎきれず、鎖鎌が飛ばされてしまう。
次の斉射に備え、アカネさんが右手へ走る。
「死角を突いたつもりでしょうけど、残念ね」
リーダー女子が軽やかにターンする。
アカネさんが動きを止めた?
トン、と矢が胸に直撃した。心臓の位置だ。
「あ」と一言漏らし、彼女はその場に崩れ落ちた。
「アカネ君!!」
武台にコマツナギさんが飛び出し、折られた花の様に横たわる少女へ駆け寄った。
コマツナギさんだって勝敗を決する場に気安く出てくる人じゃない。なら示し合わせたか。
「お姉様……。」
「しっかりしたまえ。傷は浅いぞ」
倒れた彼女を抱きしめながら、優しく上体を起こす。少女なら誰もがこんな王子様を願っただろうか。
「浅いも何も、鏃は取ってますわよ? ワタクシの矢、刺さってませんわよ?」
最後に直撃した一撃は、その辺に転がっていた。
「悔しいです……私だけ、クラスの役に立たなかった……。」
いや、もっと役に立ってないのが中堅に居たぞ?
「そんな事はあるものか。君は立派に戦ったよ」
コマツナギさんの声はどこまでも優しかった。
いつの間にか辺りが暗くなり、二人をスポットライトが包んだ。
……ここ。屋外だったよな? え、夜空? この星の自転どうなってんだ?
「誰が何と言おうと、君は見事にAクラスの代表メンバーを務めたさ」
クラスどころか学年すら違う人が何か言っている。
「君の頑張りは、次の試合にきっと引き継がれるはずだよ」
「ありがとう、ございます……先輩。最後に……私のことを……抱きしめt」
ことん、とアカネさんの手が力無く床に落ちる。
「アカネ君……? アカネ君!? アザミくーん!!」
観客席から貰い泣きする生徒まで出てきた。
誰も止めないんだな。この茶番。コマツナギさんの芝居が大仰しくて笑いを堪えるのに苦労した。
「決して君を一人きりにはしない」
アカネさんの亡骸? を抱いたコマツナギさんは観客に見える様に顔を上げ宣言した。
「私たちの想いは永遠なのだから」
切ないBGMと共に舞台を後にした。その背に、盛大な拍手が押し寄せる。
「……勝ったの、ワタクシですわよ?」
リーダー女子も納得がいかない。
「試合に勝って舞台で負けたってところか」
「意味が分かりませんわ!!」
ならアカネさんの勝ちだ。
さっきのマリー風に言うと、まんまと勝たされたんだから。それに気づかないようじゃ。
やっぱ本物の女優は違うわ。
もしやと思ったが。
作られた最終試合かよ。




