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149話 5対5

来週から更新速度がまた落ちます。


もっと一話一話を短く分けた方がいいでしょうか。

「君も災難だね」


 フラスコから俺の分のコーヒーを注ぎ、若い担任教師は複雑な表情になった。


「皆さんに惜しんで頂くのは光栄ですが、教員会議の決定を差し止めるとは思いませんでした」


 散乱した書籍を系統別に揃えながら、手記を探る。

 が、昨日も見た通り、研究室というより教科の控え室なんだよな、ここ。


「君も微妙な立場だ。他の教え子達への紹介は先延ばしにしようか」

「先生がそう仰るなら」


 ここが駄目なら、他の研究メンバーを当たればいいか。


「Aクラスに移ることになってもここへは通ってくれるんだよね?」

「先生さえご迷惑でなければ!!」

「ははは、むしろ期待はしてるかな」


 丸眼鏡の奥で、胡散臭い目が笑っていた。

 一限目が急遽自習になり、魔道科の講義がない担任の元へ身を寄せていた。

 あのままクラスには居られなかったから。

 今頃、メンバー選出の作戦会議中なはずだ。


 ……ほんと、よく決定を覆したよ。




 5対5。

 競技場に臨時に設置された武台に、両チームの参加者が並んだ。


 ……理不尽には慣れていくものなのね。


 まだ朝の二限目だってのにさ。

 緊急イベントにつき休講だ。

 ぐるっと囲むスタンドからは、ギャラリーの学生達が声援を送ってる。

 屋台や売り子まで出てる。おいそこの教師。ビール片手に観戦とはいいご身分だな。


「ルールを確認する」


 ぷるぷる震えながらお爺ちゃん教師がレフリー服で壇上に上がった。


「勝った方が、えー、あー、何だったかのう。そうだった、転校生を好きにできる」


「「「ウォー!!!!」」」


 何故か一際大きな歓声が上がった。

 そして何故かルールが変わっていた。


『では今日のイカれたメンバーを紹介するぜ。青コーナー2号生Bクラスの五名!! 西組2号生Aクラスの五人!!』


 何だこのふざけたアナウンス? 呼び方くらい統一しろや。


 ずらりと向かい合い並んだ総勢10名の戦士。

 本当にイかれた野郎どもだよ……。


 あの後、俺を賭けたクラス対抗チーム戦となった。


 ……いやチーム戦じゃねーよ!!


 何で俺がBクラスの大将の位置に居るんだ!?


「ふふふ、手加減は期待しないで下さいましね」


 向かい合ってるAクラスの大将が不敵に笑う。

 いや俺、景品だったはずだよね?


「スミレ様は手加減できるほど器用じゃありませんから。いざという時は早目の降参をお勧めします」


 先鋒、辛辣だな。

 確かスミレさんの友人でアサガオさんか。

 次鋒は同じくアザミさん。

 中堅が何かよく分からん丸くてふわふわしてる巨大な猫。

 副将は、これまた意外。演劇部のアカネさんだ。彼女もAクラスとは縁だなあ。


 ……。

 ……。


 いや!! いやいや中堅!! お前どっから入って来た!?


 睨みつけてやる。あ、そっぽを向いた。


 え? これほんとどういう繋がり?


「見ろよ、Aクラスの奴ら。学園の迷い猫まで担ぎ出してるぜ」

「大将のスミレ様といい、勝ちに行ってるな」


 にゃー、野良扱いかよ!!

 小型キマイラ粉砕するような奴だぞ!? いや実力は認められてるのか?


 対するこちらの中堅は……あ、委員長だ。


 これヤバくね? 最悪、トラウマな事態になるんじゃ。

 委員長も災難だな。

 あ、めっちゃワクワクしてる。猫好きか。




 第一試合。

 相手チームはアサガオさん。細身のレイピアか。

 対するBクラス(こちら)の先方は、クール男子だ。転校初日に何かと話しかけて来た子。

 知的ロン毛だが、大振りのグレートソードか。


 ……魔法キャラじゃないんだ。


 よく考えたら魔法まともに使える奴居ないんだよな。


「では、見張って見張って発勁よい――。」


 お爺ちゃん、何の試合させる気なの?


「のこった」


 ぷるぷるしながら号令。

 アサガオさんが一気に詰めた。レイピアの先端が相手の心中に迫る。

 グレートソードで受け止めた。やるなクール男子。だが、間合いに入れちゃ駄目だろ。自分の獲物が長さ取るんだし。


「!?」


 ハッとしたアサガオさんがバックステップで下がる。イニシアチブを放棄した理由はすぐに分かった。


 レイピアの先端が、白く濁っていた。

 氷結か。


「広範囲は難しくても、彼は一点だけなら得意なものですわ」


 隣に座る副将、いつも注意してくれる女子が解説する。

 確かに、魔力消費が節約できれば難易度は下がる。だが、にわか学生に出来るとは。


「あの剣が触媒か」


 ご名答と頷く。

 なるほど。この場合の弱点は――。


「なら剣に触れなければ意味ないよな」

「まさかそんな弱点があっただなんて……!!」


 おい副将。青ざめてる場合か副将。よそ見してる場合か。


 凍ったレイピアの先端が砕けた。

 クール男子の顔が歪んだ。嗜虐に。

 アサガオさんの清楚な顔も歪んだ。ある表情に。

 獲物を失い再度退がる少女に、何を思ったか。


「フフ、フハハ、公爵令嬢の取り巻きが、よもや降参なんてしてくれまいな?」


 アサガオさんが刀身を失ったレイピアを無造作に捨てる。相手に投げつける真似をしないのは戦闘放棄の意思表示だろうか?

 だが武器が破損した程度で、ジャッジは下されなかった。

 男子が剣を構える。

 アサガオさんも構える。


「あの構えは!!」


 思わず叫んだ。

 俺に幾度も精神的苦痛を味合わせた、その挙動の前触れ。

 少女の両手がスカートの中に差し込まれた。

 誰も止める間もなく、一気に引き抜かれた。クランより早いだと!?


 刀身の砕けたレイピア同様に、手にした布切れを無造作に投げ捨てる。薄いピンクだ。

 風に舞った時、肩幅に足を開き両指でスカートを摘み上げていた。

 横で摘む儀礼の所作じゃない。

 前で摘む変質者の()()だ。


 アサガオさん……常識人だと思ってたのに!!


 裏切られた気分だ。

 対峙するクール男子も同じだったろう。彼女の変質に、いまいち踏み込めずにいる。


 そりゃ、さっきまで清楚な少女剣士だった奴が、淫蕩に顔を歪めてりゃ、近づきたく無いよな。ガチの変質者だもん、コレ。

 下手に打ち込まないのは正解だ。

 ずるっと嫌な音が鳴った。

 誰も、俺すらソレらが何か分からなかった。

 少女の股間から、武台に垂れ下がる無数の触手だ。

 深い緑色のそれらは、妖しく濡れ光り、そして意志を持つが如く蠢いていた。


「あれは……蔦?」


 隣で呆然と聞き慣れた声が呟いた。マリーだ。いつから居た?


「確認したいのだが、女の子ってのは皆んな股間から植物の蔦を垂れ流せるのかね?」

「んな訳ないじゃないですか!! 女の子を何だと思ってるんです!?」


 すると、今見ているアレはアサガオさんの特殊スキルって訳か。

 ズル、ズル、と植物の蔦が扇型の陣形でクール男子に迫る。


「来るな!! 来るな!!」


 濡れ光る蔓に囲まれ、彼は懸命に剣を振った。まだ氷結魔法が効いてるのか、薙ぎ払われた僅かばかりの先端が凍りつく。


 それでも彼を囲む触手の量よ。

 一斉に飛びかかった。


「ひぃぃっ!! 嫌だ!! 嫌だぁ!!」


 狂ったように振り払う。

 むしり取る。

 抵抗虚しく足に腕に胴に、やがて全身を黒く染め、彼は蔓の固まりとなった。


 観客が固唾を飲んで異様な光景を見守る中、レフリーのお爺ちゃんが左手を上げる。


「勝負有り。決まり手……モロ出し」

「いや何がモロなんだよ!!」


 静寂の中、俺だけが叫んでいた。


 時間を置いて、「おぉぉっ!!」と歓声が上がった。

 手を振りながらアサガオさんが応える。

 股間から大量の蔦を垂らして。


「待て待て、いやソレほんとなんなの!? モザイク入らなくて大丈夫なの!?」

「私にとっては手や指先のようなものです」


 ハンカチで口元の涎を拭きながら、アサガオさんは佇まいを直した。しゅるるる、と蔦がスカートの中に巻き取られていく。

 コレ、どこから伸びてたんだろ?


「この勝利をスミレ様に」


 と今度は優雅にスカートを摘み礼をした。


 ……嫌なもん捧げられてんなぁ。

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