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14話 マリーとお姉さん

ブックマーク、評価などを頂きまして、大変ありがとう御座います。

「それでは、私はこのへんで」


 ここで得られるものはもう無い。次いくぞ、次。


「お待ちなさい。まさかあの宿屋に泊まるつもり?」

「自前のお布団や枕とか置いたままですので。いずれは」

「どこ行くのよ?」


 あ、最後の一言は余計だった。

 感がいいお姉さんは嫌いだよ。ううん、大好き。

 ていうか寝具の持ち込みには無反応なんですね。そうですね?


「お花を摘みに」

「代官っていう街の仇花があるんだけど、まさかそんな所に行く気じゃないでしょうね?」

「え!? どうして分かったんですか!?」


 そんな風に顔に出てたのだろうか?

 ……代官んちに殴り込みに行く顔ってどんなんだ?


「自分が今、何に囲まれてるのかよく見てみるといいわ」


 見回した。


「前衛的ですね」

「荒くれ5人を前衛的芸術品に変える女の子か……。貴女、何でEランクなんてやってるのよ?」

「へ、へぇ。何ぶんにも魔法が苦手な魔法使いなもので……。」

「一度魔法から距離を置いて見たらどうかしら。これ、東方の術よね? 他にもあるんでしょう?」

「こちらの国に存在しない職種だから、登録は結局魔法使いで――って、え!? 分かるんですか!?」

「あー、あたしもこの国の出身じゃないのよ。似ている術なら見たことがあるわ」

「それは、なんと……なんとお声をかけたら……。」

「おーい、何で今アタシを憐れんだー?」

「察するに――。」


 話しを戻そう。


「大掛かりな誘拐組織ですか。言いぶりだと代官さんが関わってて、というより主犯格ですね。こちらで聞いた話しと概ね一致します。冒険者ギルドが追っているのは、捜索依頼や護衛の要請がそれだけ多かったということかな?」

「法で裁ける程度の証拠は揃ってるから、あとは周囲の力を削ぐだけなのよ。同時に仲間の協力もあって事件を防ぐくらいは出来ていたの。今日はアイツ居ないから紹介はできないけど、マリーさんもきっと気にいるヤツよ」

「あ、私は事件とは無関係なので」

「ん? 実行犯に拐われたわよね? 黒幕まで吐かせるとは思わなかったけど。いや待て。普通、誘拐の被害者が黒幕吐かせるか? んん?」


 どうなんろう? 普通の拉致界隈とは縁がないからなぁ。


「じゃあ、そういうことで」

「だからお待ちなさいって。こいつらの供述の真偽が判明するまで大人しくして。今は一人になるのは危ないわよって言ってるそばから何で行っちゃおうとするのよ!?」

「さっきのおじさん。泳がせたらちょうどそこに居ました」

「送り狼持ち? 貴女ほんと何者なのよ……もう! こんな時にアイツどこ行ってるのかしら!」

「何者かと言われると困るけど……私はどこから来てどこへ向かおうというのか」

「哲学みたいになってるけど、ほんと大丈夫?」


 何だか心配ばかりされてる。


「そうですね。先ほど、影縫いに似た術を見たと仰いましたけど――。」


 右手を軽く上げる。

 どこからともなく白い小鳥が指先にとまった。


「こういった術も使える者でして」


 パサパサと乾いた音の羽ばたきを、アカシアさんは呆然と見ていた。美人の惚けた顔って、何かこう、胸にこみ上げるものが、こう。


「式王子……そんなものまで」

「あ、それはイザナギ流の言い方ですね。私は単に式と呼んでます」

「呼び方なんてどうでもいいわ。貴女、ほんとに何者なn――もういいわ。分かった。規格外すぎてランクの付けようがないって事ね」


 あ、諦めた。

 私もとっくに諦めている。


「SSランクって知ってる?」

「こちらの国では浸透してないと記憶してますが」


 そうだ。師匠がその域におられる。


「それでいきましょう」


 何言いだしてるの?

 アカシアさんも、私もよそ者だ。その存在は知っているけど、この国では一人しか会ったことが無い。

 その人も隣国のアザレア出身だった。カタバミさんという冒険者。何故か私を気にかけてくれて、アザレア王国に来る事があったら声を掛けてくれと言われた。冒険者ギルドに行けば繋がるようになってるんだって。SSランク凄いな。

 今頃は、迷宮街カサブランカってところで飲んだくれているかしら。

 そう。一見飲んだくれの筋肉オヤジに見える。でも相当な手だれだ。ここいらの冒険者とパワーが桁違い。身のこなしが猫のよう。魔法まで使えるって……あんなヤバイ人達と同列だなんて、無理無理。絶対無理。

 この話し、どうにか断れないかな?


「まぁいいわ、これについては今度にしましょう。その子が見てきたのね?」


 やはりいい女は話しがわかる。空気が読める。私にはできないな。


「そのまま私の視界になりますので。先に逃したおじさんの逃げ込み先で裏付けが取れました。報告を受けて兵隊を揃えてるみたいなので、直接頭を潰そうかと」

「貴女、お尋ね者の素質があるわよ。だったら私もついて行くから」

「危険です。お姉さんを巻き込むわけにはいきません。って、お尋ね者って何ですか!? はみ出し野郎なアウトローみたいに言わないで下さい!!」

「証人が要るでしょ。あと生け捕りとか帳簿とかが欲しいわね」


 むむ? 私をいいように使おうって腹か?

 でも私じゃ守り切れないかもしれない。一応、防御は完璧だけど。でも、いざという時、どうしよう?

 いや、証言は必要か。私の今後の為に。

 いや、美人は必要か。私のテンションの為に。

 なら、アカシアさんの事はあの子に守らせようかな。


「それと、貴女、今晩は私の所に泊まるのよ? あの宿、今頃は証拠押収に燃える衛兵に荒らされてるから」

「いいんですか!?」

「お、おう」


 こんなグラマラスなお姉さんちにお泊り。やばい、上がるわー。ぐぅえっへっへへへ。


「どうして緩んだ顔になってるのよ?」


 アカシアさんが三歩さがった。


「じゃあサクっと行ってサクっと逝かせてきますんで、お布団の用意して待ってて下さい」

「だから何で一人で行っちゃおうとするのよ貴女は!! せめて服くらいちゃんとしたの着てよ!!」


 あ。



 夜も深くなってきた。

 あの後、いつものローブ重ね着に男物のマントと、魔法帽子に着替えた。というか、アイテムボックス使ったけど驚かれなかったな。こっちだと珍しくないのかな?


「やっぱりもったいないわね」


 私の出で立ちに、アカシアさんが残念なものを見る目になった。

 お姉さんほどの美人に比べたら、私なんてこんなものですよ……。

 二人で向かった先は、街の山の手だった。

 夜でも人通りのある表通りから閑静な住宅街を奥に向かう。その先。一番奥に代官の屋敷はあった。所々、高級店の店構えが見える。住宅も大きくて立派な門構えも多い。


「ここいらのヤツらは金持ってんなぁ」

「何で悪い顔になってるのよ? 代官だけよね? 殴り込みかけるの、代官の屋敷だけよね? 一般人には危害加えないわよね?」

「考えても見てください。悪徳代官の周りに住んでてこんな高級住宅に住む何者かが、果たして私たちの知る一般人でしょうか?」

「住む場所くらい選ばせてあげてよ!! 無関係のおうちに被害出したら、あたし達じゃ庇いきれないわよ!!」


 いいでしょう。

 今宵は代官の首で勘弁してやろう。

 間もなくして、一際大きな屋敷が見えた。門の前には5人も門番が居る。え? 要職だとこんなに門番居るの? ていうか、何で一か所に固まってるんだろ? 意味のある配置には見えないんだけど。


「流石に騒ぎを起こしただけあって見張りが多いわね。中も戦闘態勢充分って感じかしら」


 あ、これが普段じゃないんですね。


「慌ただしくしてるのは見えてましたね。全部の人数までは把握できませんでしたけど、それらを相手にするのはターゲットの首級を上げてからでも遅くないと思います」

「どうして全員と戦う前提になってるの? あと殺さないわよね? 親玉、殺さないわよね?」


 そこは相手の出方次第としか何とも。


「じゃあちょっと絞めてきますので、ここで隠れていて下さい」

「ちょ、待ちなさ――。」


 アカシアさんが言い終わる前にスタート。門番の死角になるよう塀に身を寄せる。とん、と中の木に移る。梢が鳴ったが、門番が仰ぐ頃には私はもう居ない。

 その調子でどんどん進む。番犬が居ないことは承知している。犬を忍者犬として育成する風習がないのか、犬が苦手なのかどちらかだろう。

 屋敷に近い木に飛び移る。間取りは式を通して見てるからばっちりだ。三階のテラスまで来た。目的の部屋だ。窓から明かりが漏れている。不用心な人だなぁ。警備も雑だ。もしもーし、こんな所まで刺客が潜り込んでますよぉ。


「貴女ねぇ、忍び込むならもう少し丁寧にやりなさい。少なくても音は立てちゃダメよ」

「ぴぃ」


 耳元の囁き声に思わず声を出しそうになった。自分の両手で口を塞ぐ。

 どうしてアカシアさんが着いて来れるのかとか、一切気配を感じさせないのとか、私が簡単に後ろをとられたとか、意外に可愛い声出たな自分とか、なんかもう色々と。こう、色々と。

 くいくい、とアカシアさんが顎で窓を指す。

 こくこく、と私が頷く。

 気配を消し窓から覗き込むと、宿屋のおじさんと大きなデスクにデブった男が居た。さっきと同じ位置。

 アカシアさんを見ると静かに頷いた。やっぱりアレが代官か。ここもハズレか。期待はしてなかったけどね。

 他に5人。さっきは居なかったフードを目深く被ったローブ姿。

 護衛か。ローブのラインからして全員男。刀剣等の武器は無い。短剣も無いな。全員が杖持ち。魔法使いか。

 失敗した。こんなことなら、こっちもローブの下に故郷の魔術装束を着てくるんだった。髪飾りも付けていない。ちっ、着替えるのに焦ったか。

 魔法戦になると、この装備じゃ不利か。

 魔法戦にしなきゃいいのか。よし、乗り込もう。

 アカシアさんにぱたぱた、くいっ、てハンドサインを送る。

 頷き合うと、アカシアさんは素早く身を寄せ、私のうなじに顔を押し寄せた。


「すんすん……とてもいい匂いだわ。甘くて、美味しそう」

「って、何嗅いでるんですか!?」

「え!? 今の、『私匂ってないか?』ていうサインじゃなかったの!?」

「何でここで匂い気になるって思ったんですか!?」

「今そういう動作したじゃない!?」

「だからって、嗅ぐことないじゃないですか!?」


 まさかこんな所で出会うとはな。私の匂いを好きだと言ってくれる運命の人(へんたい)


「そこで何してやがる!!」


 部屋から怒声が飛んだ。

 見つかったか!!

 咄嗟に窓ガラスを蹴破り、押し入った。


「す、すすす、すみません!! 通りすがりの百合姉妹です!!」


 ぺこり、と頭を下げると、同じく別の窓を蹴破り押し入ったアカシアさんが、私の体をエロっぽく抱きしめた。


「まぁ、可愛らしい子」

「あん、お姉さま……。」


 覗き込んでくる彼女の視線に、艶っぽい視線(多分)で応える。それを男たちは通夜っぽい視線で見ていた。


「何でいちいち窓割って入ってくんだ、おめーらは!? つか、そっちのねーちゃん、最初の窓から入ってこいや!!」

「だ、旦那、アイツです!! あの小娘が猫とつるんでるヤツです!! 仲間が5人も餌食になってるんで!!」

「こんな、えぇと、なんだ? ネコとタチでいったらネコの方なみたいな小娘に、てめぇら何やってやがんだ!? 警備はどうした!?」


 デブ代官とおじさんが混乱している。チャンスだ。5人の魔法使いを無力化するなら今しかない。

 動こうとしたが、身動きができない。

 私が?

 動きを完全に封じられてる!?


「貴女、とても抱き心地がいいのね。それに、本当、甘い匂い。ずっと嗅いでいたいわ」


 怖いよ!! アカシアさん怖いよ!!


「おのれー!! おのれー!!」


 じたばたする私。


「ひぃぃ……!!」


 怯える宿屋のおじさん。


「ヤツだ!! ヤツが動けないうちにどうにかしろ!!」


 代官のふわっとした命令に、何をどうすればいいのか戸惑う魔法使い達。


「あん、ちょ、まって、待ってください、お姉さん、指、そこ指、ちょ……。」


 代官に言われるまでもない。既にどうにかされていた私。

 豪奢なシャンデリアが照らす中、今夜のサバトは割と濃かった。


「失礼します!!」


 ドアが開くと、警備兵が8人ほど雪崩れ込んできた。まだ廊下に居るみたい。アカシアさんの話だと領主軍ではなく代官の私兵だそうだ。

 ザッ、と正面に陣取る。その後方に魔法使い。ドアの前まで下がった代官。腰を抜かしたのか絨毯に座り込んだ宿屋のおじさん。

 みんなが見ていた。

 私が(はずかし)めを受ける様を。


「おい貴様、おかしな真似はやめて投降しろ!!」

「兵士さん!! もっと言ってあげて下さい!! このままじゃ、んっ、私……!!」

「……。」


 兵士さんが、これどうしようって顔で代官を見る。


「いいから取り押さえろ――いいや、お前ら下がれ!! アレを試すぞ!!」


 号令で一斉に兵士が後ろに下がり、魔法使いが正面に出る。

 すごい、よく訓練されてる。

 特に兵士の身のこなし。いずれも精鋭なんだろうな。お姉さんに後ろからふともも触られてる体制でも、強いってわかるもん。

 この布陣。魔法使いが前衛なわけない。味方を巻き込まない為のヤツだ。


「あ」


 アカシアさんにしては焦った声だった。思わず出たという感じ。

 もぞもぞと、私のローブから自分の手を抜き出し、恐る恐る目の前に出した。

 どうした?


「……ごめんなさい。調子に乗ってしまったわ」


 彼女の人差し指と中指の間で、細い透明な糸がシャンデリアの光を反射していた。

 私はにこやかに振り向き、


「後で殺す♪」


 そんな事をしてる間にも、正面で魔力が膨れ上がった。

 魔法使い5人が杖の先端を重ねてスペルを詠唱していた。合体魔法か。


「ふはは、人身売買の計画を知られたからには生かしてはおけぬわ!!」

「……マジですか?」

「マジだ!! お前らには新魔法の実験代になってもらう!! こやつらはいずれも宮仕えすら惜しまない高位の魔法使いだ!! それが5人の合わせ術ともなれば、いかにあの猫とて逃れるすべはあるまい!」

「……あの、私、今まさに逃れるすべがないというか、凄く泣きそうになってるんですけど?」

「今更泣いても遅いわ!!」

「本当にそうですよね……。」


 なんだ代官さん。意外と話が通じるじゃないですか。

 アカシアお姉さん。美人で大人の女って感じで憧れるけど、こういうのはなんか違う。うぅ……。


「ご、ごめんね、マリーさん? 悪ふざけが過ぎたわ。謝るから、ね? 許して?」

「うぅぅ、なら」


 と、目の前の魔法使いを指さす。重ねた杖の先端で光の玉が大きくなった。


「あいつら、皆殺しにしてもいい?」

「……。」

「ねぇ?」

「……代官だけは、生かしてね?」


 あ、折れた。

 瞬間、私たちが球体に包まれた。表面に幾重にも呪文が浮き上がる。結界か。


「ふははっ、捉えたぞ!! その中はあの太陽と同じ灼熱の世界よ!! 他国にはこれを一人で成し遂げる魔法使いが居ると聞くが、見ろ!! 我が配下にかかれば造作もないことだ!! 燃やされ尽くすがいい!!」


 なんて代官さんの解説が流れるなか、次々とスペルが組みあがっていく。


「これは、立体積層型ってやつね」

「くすぐったいです」

「あら? 耳も弱いの?」

「よ、弱いですから、そんなバイノーラルみたいに囁かないでください」


 おっと、そうこうしているうちに球体の魔法が完成する。

 外側からどんな風に見えてるんだろう?

 めっちゃ燃えてるのかな? かっこ悪いな。燃えろいい女とは言うけれど、私はまだその域ではない。


「ふははは、百合の、いやネコ……小娘の分際でワタシに逆らうからだ!! いけるぞ!! これならばあ奴も葬れるだろう!! こそこそ嗅ぎまわっていたギルドの職員もろともな!!」


 何度言い間違えてるんだろ?

 あと、そのこそこそ嗅ぎまわっていたギルドの職員さんも、今まさに燃やされようとしてます。


「言うほど熱く無いわね。マリーさんの術?」

「私というより、この子ですね」


 くいっ、と顎でアカシアさんの背後を指す。

 アカシアさんがギョとした表情になる。

 背後。その先はまだ見ていないのに。あぁ、と妖艶な唇から呻きが漏れた。熱くないといったその額から、大粒の汗が流れてる。

 わかるんだ。

 見るまでもないと。

 この子の威圧が。私たちを背後から包み込む、赤くて巨大な影。言い知れぬ圧迫感は、それはそれは恐怖でしたでしょう。

 お姉さん。

 ささやかなお仕置きです。

 あんな風になるまで悪戯するだなんて。酷い人。

 でも、その驚愕に染まった顔で許してあげます。


「燃えろ燃えてしまえ何もかも!! ふははははっ!! あーっ、はっはっはっは!! は?」


 球体が横薙ぎに割かれた。

 中の熱量が霧散する。本来なら暴走して周囲を5000度の炎が嘗め回すんだろうけど、アカシアさんに被害を留めるようキツく言われてるので。


「な、な、なんだ、それは!! 何だそれは!!」


 代官さんが発狂したように喚き散らす。

 指を指す先――私たちを巨大な腕が包むように守っていた。背後にある巨体は体を折り曲げてこそいるが、筋肉隆々の赤い肌と、頭から延びるう二本の角でこの子の正体がわかっただろう。


「オーガを召喚しただと!?」

「違います!! うちの子をモンスターと一緒にしないで下さい!!」


 魔導士たちが怯えた。

 兵士たちがざわついた。

 まさか、あれは――と。


「ええい!! 焼け!! あんなもの焼いてしまえ!!」


 背後からの絶叫に押され、魔法使い達が火炎魔法を放つ。ちきしょう、詠唱が素早い上に威力あるな。コツとか教えてくれないかな? ていうか、この人達に弟子入りした方が魔法ちゃんと習得出来るよね? 同じ火炎系だし。


「シャクヤク!」


 私の合図と共に再び筋肉の塊のような腕で包み込んでくれる。いい子。

 炎が直撃し、私たちを飲み込んだ。


「やったぞ!! 小娘がワタシを驚かせるとは、この、あれだ、小娘だ!!」

「語彙を失ってますね」

「ひぃぃぃぃ!?」


 赤い腕が解かれると、何事も無かったような私とアカシアさんが現れた。


「な、何故だ!! アレを受けて、何故平然としていられる!?」

「そういえば――今、何かしたか?」

「ひぃぃぃぃ!?」


 師匠!! 私、やったよ!! 言ってやったよ!!

 いや、何かしたかもない。今、火炎魔法撃たれたんだから。使いどころ、これで良かったのかしら?


「あるじよ。二度もあるじに不心得を放ったやつらだ。よもや我を抑えようとは思わぬな?」


 魔法使いと兵士たちがざわついた。「オーガが喋った!?」とか言ってる。違うんだけどなぁ。


「奥の太ったおじさんは駄目ですからね?」

「承知した」


 ぬぅ、と前に出る。


「な、なんだアレは……?」

「魔物ではなかったのか?」

「言葉で会話しているぞ……?」

「どこからだ? 今どこから現れた?」


 シャクヤクの事、不思議そうに話している。そんな場合じゃないと思うのだけれど。


「気になるようだから教えてあげますね。この子はシャクヤク。鬼神ちゃんです」

「あるじよ。よもや我にロイヤルコペンハーゲンなどとふざけた真似をさせる気ではあるまいな?」


 この子の言う事が時々わからなくなります。

 筋肉の山のような肩が盛り上がる。右腕を振り上げた。距離は遠い。なのに魔法使いも兵士たちも悲鳴を上げた。目の前で、巨大な爪が自分を狙っているように見えたはずだ。

 果たして、その通りになった。

 シャクヤクが右腕を振った。5人の魔法使いが一瞬で薙ぎ払われた。文字通りだ。肉片をまき散らしながら、左側の豪華な飾りをあしらった壁に真新しい絵画のように押しつぶされた。


「ああ」


 と警備兵の誰かが言った。

 言葉が出ただけ、やはり彼らは場数を踏んでるのだろう。だが、それまでだった。一方的で刹那的な命の略奪を前に、体が動かないのだ。

 代官さんも言葉を失ったようだ。この辺が潮時かな。


「じゃぁ、投降したい人居ましたら手を上げて下さい。長生きしてくださいね?」


 私がほほ笑むと、はいはいはーい! と呪縛から逃れたように全員が手を上げた。はい。皆さんいいお返事ですね。

 宿屋のおじさんも、腰を抜かしたまま元気に手を上げていました。

お付き合い頂きまして、大変ありがとう御座います。

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