135話 メイド少女ガン見の怪
先日は沢山の方に読んで頂いたようでした。
お付き合い頂きましてありがとう御座います。
王女と立ち話でパンツ談義に花を咲かせるクランとマリー。
うん駄目だろこれ。
結局、この中での三択を迫られ、一も二も無くマリーと答える。今度は周囲の衛兵からブーイングを受けた。何でだよ。
いや相手変われど主変わらずは俺の事か。
とにかく貴賓室へ通ってもらった。
俺達が到着した時には、テーブル中央の大理石の花瓶にありったけの新鮮な花が生けられていた。流石ベリー家の使用人だ。分かってるじゃないか。
通常、貴族間での面会は事前に予定を擦り合わせる。アポイントが重視されるのだが。
……王族だもんなぁ。
普通は城に呼び寄せるもんな。向こうからおかもち持ってサンダル履きで来ないよな普通。
「事前に……先触れを頂ければ、準備もできたのに……。」
珍しいな。クランが咎める口調だなんて。
「うん、メンゴ!!」
にかっと父親譲りの勘に触る笑顔を放つ。
……過去、よくコレを使節団に担ごうと思ったよな。
「ご理解頂いて……何よりです」
あ、前向きにとらえた。
物分かりがいいのではない。諦めがいいのだろう。
「それで……本日はどういった御用向きでお越し頂いたのでしょう……?」
「これよ!!」
テーブルにおかもちを置く。
ラーメンだとしたらとっくに冷めてる筈だ。
フタを縦にスライドし、その中身を彼女は取り出した。
「どうなってるんですか!! 似合い過ぎですよサツキさん!! やばい!! 何で似合っちゃうんですか!!」
ちょ、マリー、落ち着け、怖いから、いいから落ち着け。
「ワタクシの見立てに狂いは無かったわ。冒険者サツキ、ワタクシの妹におなりなさい」
見立ても何も、取り出した時に一緒に愕然としてただろ。
おかもちの中身。王立第一学園女子制服を試着した俺に、マリーとツバキ王女も興奮を隠しきれない様子だ。
……だから何で女子制服にしちゃうんだよ!!
「最近のサツキくん……女の子の格好が多い……お姉ちゃん心配」
クランだけがドン引きしてる。
ていうか、普通に憂色を湛えられた。失意の淵にある顔だ。
「ハッ!? そういえばこの前、メイド姿のベリーお兄さんの股間に潜り込んで顔を押し付けてましたね!! 本当にそういう趣味なんですか!? もう手遅れなんですか!?」
周囲から熱が引いた。
やばい、鳥肌が立つ。
「……どういう事……マリーちゃん?」
「確かタイツ越しにどうとか言ってました!! はい、この耳で聞きましたから間違いありません!!」
「何で知って――そうか!! あの時、既に俺の影に居たんだったな!!」
体捌きⅡを会得してるのに体が重かったもんな。コイツが居たからだ。
「マリーさんの仰る事に齟齬が無いと認めるのね。そう。冒険者サツキ、ううんサツキくんって男の子が履いてるパンツが好きだったの? へ、へぇ、そうなんだ――どうしましょう、こんな事が貴族子女のお茶会で露見したら、サツワル派が優勢になってしまうわ!!」
「何だよその派閥は!?」
「サツキぃ……?」
ぶつぶつ言い始めたおかもち女に対し、俺に凍てつく波動を浴びせる女。クランが恨みがましい視線で詰め寄ってきた。それも昔の呼び方で。
「お姉ちゃんのお股には顔を埋められないのに……兄さんにはできるとは、一体全体どういう了見ですか……?」
「思想真理とは無縁の根本的な濫觴だって知ってて言ってるだろ!? あとただの意趣返しだ!! 大意は無ぇーよ!!」
ていうか俺、手遅れ……じゃないよね?
「そもそも素足に上品なソックスなのに女の子より女の子みたいだなんて!! ずるいです!!」
「マリーさんの仰る通りだわ!! かくなる上はワタクシのことはお姉様とお呼びなさい!!」
「好きでこんな格好してんじゃねーよ!!」
あの時、
おかもちから制服を取り出し王女が手を二回打ち鳴らすと、テーブルの下から、額縁の裏から、戸棚の中から、天井から、わらわらとメイド少女が出現し俺をあっと言う間に着替えさせたのだ。
いやお前ら何者だよ。
あと、また下着まで女の子の着せられた……。
「おちん〇んの位置が曲がっていてよ!!」
「だから女物だから窮屈なんだって!! って、何で知ってんだよ!?」
「え」と王女が口元に手を当て紅潮する。自分で言っておいて何だよその反応……。
「ワタクシ、王女なのにおちん〇んなんて言っちゃった……。」
「そっちかよ!! 知らねーよ!!」
メイド少女どもにはガン見されたけどな!!
「根本的な問題として男子服はどうした男子服は!!」
「ワタクシも気になっていた所なのだけれど」
持ってくる前に気にしろや!!
「裁縫課には計測結果の数字しか渡らないはずよ。いや、メイド服が似合う可愛らしい子との機密がどこからか漏れたのやも知れん。むむむぅ」
「国家機関が情報管理くらいしっかりしろよ!!」
その機密もどうかと思うが。オダマキの映像記録と第一学園の編入者が同一人物って漏洩してるってことじゃん。
「対極的に見てさしたる問題にはならないわね」
「これから潜入する所にそのまま漏れるリスクは問題だろ」
「被服部は総員斬首に処すから問題ないわ」
「温情!! せめてもの温情!!」
極端なんだよここの王家は!!
「そうね、サツキくんの女子制服姿に免じて特別褒賞に処すわ」
本当何が何だか分からんな!!
「結局その被服部とやらはどうなるんだ?」
「分かったわ。十日の特別休暇も付けて上げる」
浮き沈み激しいな!!
くいくいっと袖が引かれた。
「私のことも」
マリーが控えめに口を挟む。
都合がいいか。
「助手枠にこちらのマリーを使いたい。同様に支給を要請したいが問題ないか?」
「被服部が徹夜で仕上げるから問題ないわ」
「ちゃんと休ませろや!!」
ほんと浮き沈み激しいよ!!
「でも失礼な言い方になるけどマリーさんで大丈夫なの?」
「下手な諜報員よりは動いてくれる」
筈だ。
「隠密行動ならお任せあれ。死して屍拾う者無し。疲労する者は居るかもだけど」
あ、それ俺の事っすね。
王女が「結構よ」と了承してる。
いや俺だよね? その疲労する人。
不安が募った時だ。
ノックが鳴った。
貴賓室だ。決して人を近づけないよう、申し付けてあった。
クランから視線を向けられ王女が小さく頷いた。
「短く二回。緊急の知らせね。入ってもらっていいわ」
いや、何であんたベリー家の習わし知ってるんだよ?
クランは静かに一礼してからドアに向き直った。
「お許しを頂戴した……お入りなさい」
深々とした礼と共に入室したのは、先ほどの年配の使用人だった。
「恐れ入ります。実は正門に――。」
また出前でも来たか?
「おかもちを持った不審な男が。ラーメンの出前と言い代行へ面会を求められておりまして」
何であんたまで来ちゃうんだよ。




