132話 二人のクエスト攻略
いつもお付き合い頂きまして、大変ありがとう御座います。
「こんなの島流しじゃないですか!!」
花壇に大き目のジョウロで水やりをしていたマリーは、激しく激怒した。狂気の沙汰だ。
キャミ風カジュアルシャツにショートパンツとサンダル姿は、年相応な町娘に見える。
この子は何を着ても自然体だよな。
「流刑じゃない。ただ外部との交易が困難でどの国も所有を放棄した未開の地を、アザレア王国の後ろ盾に基づいて俺の管轄に入れただけだ。うん……流刑じゃない」
「一体何やらかしてきたんですか?」
「そりゃおまえ――。」
王女を袖にした。
マドモアゼル・イチゴのブランド独占。
王妃へのセクハラ。
……よく斬首にならなかったな。
はぁ、と大きくため息をつかれてしまった。察してくれたようだ。
「とにかく王都での用は済んだんですよね? だったらまた二人旅に戻れますね」
「旅はお預けだ」
「二人きりで怠惰な日常が過ごせますね」
「何で二人きり推しなの? 怖いよ?」
俺、この子にフラれてるんだよね?
「さっきの説明に出た功績がって件、正式にギルド経由での依頼という形で落ち着いた。俺にはすぐに現場入りが要請されてんだよ」
現実にするまでは矯めつ眇めつ検証が要るが、どうせ商人相手に経済戦争仕掛けて勝算があるわけない。
なら優先は確固たる黙許と鑑札だ。
「二人きりのクエスト攻略ですね。サツキさんわかってるじゃないですか」
……。
……。
「サツキさん?」
「これも陛下の権限でな。俺の判断で補佐の要アリと認められる場合、第三者すなわちパーティメンバーの同行を認められている。枠一名だ」
「へっへっへ、おあつらえ向きじゃねーか、ちきしょうめ」
何者だよ?
「マリー?」
「……二人がいいです」
控えめに袖を握ってくる。
何だよ?
何でそんな泣きそうな目で見てくるんだよ。
実の所、ガジュマルくんを請け負いたい旨、交渉する予定だった。彼の情報収集能力と解析力と、あと何かよく分かんない誘導能力? 調査任務には外せないんだよなぁ。
だってのにさ。
マリー。そんな小動物みたいに震えんでも。
「オウケイだ。こちらで進めておくよ、マリーの編入手続きも」
「編入ですか? 王国軍の部隊でしょうか? 従軍経験なら故郷で済ませてますが」
何でそんなもん済ませちゃってんだよ?
「喜べマリー。五日後には君も王立第一学園の女学生だ」
「何受けて来ちゃったんですか!?」
何と言われても潜入調査だが?
「そこの東家で話す。まずは落ち着こう、な?」
「んもう、すぐに騒動に巻き込まれるんですから」
あ、機嫌良くなった?
「本当に、サツキさんは私がいないと駄目なんだからぁ」
それ程でもねぇよ。
「一学は王家や貴族連中の子息子女が通う定番のっていいや想像はつくかな?」
「エリート、つまり精鋭部隊といったところでしょうか」
「うんちょっと違うぞぉ」
「一学?」
「王立第一学園の略称だ。今俺が考えた」
「すぐ通ぶりたくなるんですね」
いや俺以外に使うやつはいないと思う。
「使途不明金の動きを追う簡単なクエスト、て名目の調査だが」
「潜入ですか。生徒? 教師? サツキさんならどちらでもいけそうですね。私的には教師と生徒の関係の方が燃えて、こほんエモいと思うのですよ?」
「二人揃ってご入学だ。学年科は別になるが」
「同じクラスがいいです!!」
「年齢的に合わないんだよ!!」
「どうせ身分なんて私文書偽造で押し通す気じゃないですか。ちょっと大人びた新入生なんてロマンですよ!!」
「俺がそっちに合わせんのかよ!!」
「掛け値の無い話し、先輩になんてなられたら下級生から人気出ちゃうじゃないですか。ライバルは生まれる前に消すに限ります」
確かに障害は膠着する前に排除が鉄則だが。
こいつは学園で何と敵対する気だ?
「待てよ……同級生を仮想敵に見立てるのは学園生活じゃ恒常化してるとでも……?」
「私は学校に通ったことが無いので断言はできませんが」
「無学には思えんが?」
「家庭教師が五人も居ましたから」
「さぞ苦労されたのだろうな」
「今誰に同情した?」
だったら尚更マリーにして良かったかもな。
仮初とはいえ、少しは女学生気分も味わえるだろう。
「いっその事、私たち付き合ってる設定で行きませんか?」
「交際中を装うのか? 袖にした相手に残酷な奴だ」
「引きずりますね……敷地内で学年科が違う二人が会うって、接点を疑われますよ?」
何!?
「まさかそんな所から偽装が看破されるのか? くそっ、計算外だ。最近の学生がそこまで情報戦に特化してようとは!!」
現地で王女が信頼する生徒を協力者として紹介される手筈だったが、そちらも距離を取るべきか?
「サツキさんは女子学生の耳年増性質を軽視し過ぎです」
「解析力が看過でき無いか。マリーとの距離もとった方が得策だな」
「もっと近づけるべきです」
「何?」
意外なセリフに彼女の顔を見ると、自身の両肩に反対側の手を交差させ抱き寄せ、腰をくねくねしていた。
「周囲が割って入れないほど愛が深いカップルになれば、いついかなる時でも共に寄り添い病めるとき癒し合うもはや一心同体」
「……せめて授業中はそれぞれのクラスに別れようぜ?」
だが納得のいく話でもある。
「確かに目的を一つにした酒徒の絆は強固で崩し難い。革命の徒はそこが厄介だが」
「何を改革する気ですか? 普通に愛し合う恋人同士でいいんですよ?」
むしろハードルが高い……。
「だったら兄妹の設定でも不都合はなかろう」
「そういう、趣味なんですか?」
「家族の方が親密度は高い認識だが。これなら住居を共にする口実も立つ」
「ベリー邸にそのまま間借りしてますけどね」
苺さんは明日出立するが、こちらはご好意に甘え引き続き別邸を利用させて頂く予定だ。
「コデマリくん達も当分戻らなそうですし、そこまでして消化しなくちゃならないクエストなんですかねぇ?」
短納期とはいえ、一つ所に留まるのは落ち着かない様子だ。
そう思うと、カサブランカの宿屋は居心地が良かったんだろうな。
「アルストロメリアの話が無ければ、マンリョウさんへの義理で済ませた所だよ」
「あー、やっぱり島流しじゃないですか」
あえて言うなら陸の孤島ってところか。
「王家認可の元、工場も権利も持ち込めれば当座の産業は確保できるからな」
「買う人が居なかったら何にもならないじゃないですか!!」
「だからジキタリスまでの流通経路の確保が急務になる。関税だって考えにゃならん。事務方の専門が居ればいいんだが、人事はまず事が始まってからだな」
「名士おじさんの所? 謁見じゃ商工組合まで引き合いに出してたんですよね?」
「買ってもらうには信頼に足る小売りに卸すのが手っ取り早い。手堅い市場ならノウハウ蓄積の割愛が望めるしな」
「この期に及んで他力本願だなんて、サツキさんらしくないですね」
自分でもそう思うけどさ。
「その後には未開地の開拓が控えてるんだ。コネクションの使い方にだって慣れていかないとね」
「そこまでして魅力的でしょうか? アルストロメリア」
「伸び代はあると解釈してる」
厄介な事は他にもあるが。
今回のクエストの依頼人だ。
王女様ご本人なんだよな。
今回はマリー回
次回クラン回
次々回おかもちの女回
次々々回サツキ回
その後、学園編になります。




