124話 御前会議
王都編になります。
(次話が番外になりますが)
朝から開催した会議は、暇を持て余したお爺ちゃんたちによって白熱した。お昼前には決着をつけたいらしい。午前会議だ。
「功績はともかく、問題は一介の冒険者という事だ!! 如何に信の厚いオダマキ卿の進言とはいえ、例外にも程がありますぞ!!」
「そうだ!! 陛下の謁見のみならず直接褒賞の栄に預かるなど!!」
「だが!! 今回の国防にも影響のある働き、多くの民の目にもとまっていますぞ!!」
「民はまだ良い!! 街頭ビジョンの記録を洗い出したが、ゲリラアトラクションで何とか通せる演出だ!!」
「あ、アトラクション!? 貴公はアレを興行の一環にでもしようというのか!? それでは民衆が納得しまい!! 必ずや民衆の中から――続編を望む声が上がるぞ!!」
「待て待て!! 続編とは聞き捨てならぬな!! ゾーニングは確保するんだろうな!? 同じパーティメンバーのオナゴの髪や鎖骨の匂いを嗅いでいたとか放送しておったぞ!!」
「そうだ健全でなくては認められん!! 我が教会の姫巫女たる娘は長時間履いて蒸れに蒸れ切ったブーツを嗅がれておったのだぞ!?」
「げ、猊下、お気を確かに!! 国王陛下の御前にございますよ!! ブーツの匂いならワタクシのをお嗅ぎになればいいじゃない!!」
「何を言ってるのだね君は!?」
「それとも何ですか? 30も年下の小娘の足なんて何も感じないって言うんですか!?」
「ええい、この件に教会が口を挟むな!! ていうかお前ら二人イチャイチャするなら他所でやれ!!」
「この大事に教会を締め出そうというのか!! 王政の横暴だぞ!! それにこの大司祭は娘のように思っておる!! そんな目で見れるわけないではないか!!」
「ワタクシは!! ……ワタクシは、幼い頃から猊下のことを一人の男性としてお慕い申し上げておりましたのに……。」
「大司祭、おぬし……。」
「まあお慕いというより押し倒したいなんですが」
「大司祭ーーー!?」
「陛下、中間評価を」
「うむ。いつもの光景じゃな」
「作用で。教皇もいい加減受け入れてやれば良いものを」
「まぁ娘同然に育ててきた少女に貞操を奪われる危機に直面しては、如何に教会のトップといえ気が気ではないだろうな」
「ハハッ、仰せの通りかと!! それでは教会組はこのままでという事で欠を取る!! 異議のある者は申し立てよ!!」
「はいはいはい!! 異議あります!!
「はい、大司祭」
「もう、やっちゃってもいいですか?」
「だそうですが、陛下?」
「何故ワシに振る? ――まぁいいんじゃない?」
「「「おおっ!!(こ、国王陛下が頷かれた!?)」」」
「いやワシ何なの? この会議、ワシ要る?」
頑張ってくださいお父様。
「では、近日中に大司祭懐妊の予定あり、と」
「書記官。マメなのはいいがそれ議事録に記録してどうするの? え? 次の会議で前回の議事確認で経過確かめるの?」
「私の職務ですから」
「……これで何もなかったら気まずいと思うが」
「お任せください陛下!! この大司祭、必ずや成し遂げてご覧にいれます!!」
「ご覧に入れんでいいわ。大司教の顔色、蒼白になっとるがな」
「ワタクシ、ぜひ見学させて頂きますわ」
「こら姫」
「ふふふ、大司祭はワタクシにとってはお姉様も同然のお方ですよ? お姉様の大事にワタクシが立ち合わなくてどうするのですか、お父様――いいえ、国王陛下」
「何故言い直したし」
「私も書記官として同席せねばなりませんね」
「お父様。このメガネを斬首にしても?」
「うむ」
「陛下ーッ!?」
「それでは話を戻してもよろしいですかな? 件の冒険者、SSランクという事もあり一人一党を名乗らせても申し分ないと進言致します」
「爵位を授けるというのか!? 国への貢献度が有れば確かに通るが、相手はパーティを追放された爪弾き者と聞いてるぞ?」
「エビを狩ったぐらいで貴族入りとは、舐められたものですな」
「ほら見ろ、貴族派が黙っておらぬぞ!!」
「だがあのメイドの娘になら舐められてもいい!!」
「やっぱ貴族派は黙っとれ!!」
「陛下!!」
「……ふむ、映像を見る限りメイドは二人いるようだが?」
「我ら貴族派は断然黒を推します!! 稀に見る可憐さよ!! そしてあの脚線美!!」
「何を言う紺色のあの佇まい。まさに伝説に聞く騎士王に通じる可憐さではないか!! 我ら騎士派は紺色メイドを推すぞ!!」
「陛下、何余計な事言ってんですか、可憐さで意見が真っ二つに別れちゃったじゃないですか」
「……お主ら、少しは王政の威厳とか貴族の権威とか、なんかそう言うアレな言い合いはないの?」
「お父様、気をしっかり」
「コホン、先程の案ですが冒険者が名誉貴族の栄誉に授かるのは前例があります。無論領地を持たず、本人も定住先を定めておりませんが」
「ワタクシ、聞いたことがあります。SSランクのカタバミですね。ワンマンアーミーの異名を持つとか」
「聞けばその黒メイド、あやつの弟子であるとか」
「まぁ!! 師匠と同じお国に貢献されているのですね!! ――待ってメイド???」
ん? SSランクパーティ・グリーンガーデンの男の子って聞いたけど?
「メイドって映像の黒い衣装の子ですのよね?」
「ははっ、仰せの通りです」
「……男の子?」
「こんな可憐な姿が女の子のはずないでしょう!!」
「あ、うん」
「ちなみに紺色の方は冒険者パーティ・グリーンガーデンのリーダーにしてベリー辺境伯の嫡男にございます」
「ワタクシの知ってる男の子となんか違う!!」
え? だってあんなに脚綺麗なのに?
「貢献度合いで言えば、かの者の弟子とやらも先日、ワスレナグサで不穏分子の討伐に成功し、かつ首魁を生捕にしたと報告が上がっておりますぞ!!」
「何と!! 既に後進まで育てておったか!!」
「くくく、これではますます放っておく事は困難ですな。いっその事、王宮で抱き抱えてしまいますかな?」
「馬鹿な事を!! そもそも陛下自らが褒賞をお授けになる事自体がだな!!」
やっと本筋に戻ったわ。
「――失礼します!!」
「何だ今は大事な会議中だぞ!! 陛下の御前であるぞ!!」
「うむ、御前ですよ」
「流石は陛下。ご飯が進みそうな語感ですな」
「ハッハッハッ、よせやい――それでどうしたのだ? 直答を許す申してみよ」
「ハッ、今しがた広報部より続編のトレーラーが上がったと報告が!!」
本筋から外れてしまったわ。
「どうやら……我々は退路を断たれたようだな」
「陛下!?」
「陛下!!」
「陛下――ご決断を」
「うむ。続編制作の決定は無い」
「な!? 御無体な!!」
「これは決定である。だが、かの者どもが新たなステージを勝手に展開する分には、状況に応じて支援しても良い」
「汚いお父様、流石汚い!! 費用とリスクを相手に負担させ実益だけを吸い上げる、流石!!」
「……姫、さっきからワシに辛辣じゃない?」
「全然」
「しかし、そうなりますと問題は、舞台ですな」
「さてはて。冒険者風情に相応の権限と後の王国への寄与。神輿に据えるにしても相応のものが必要となると」
「空いた席の領地ではどちらにせよ角が立ちましょうぞ?」
「むむムゥ」
やっと出番が来たわね。
「ワタクシにいい考えがありましてよ?」
「「「姫様!?」」」
「姫よ。良い考えとは?」
「アルストロメリア」
「「「何と!!」」」
「確かに山脈が入り組んでおり孤立した土地だけあってどの国にも属しておりませぬが」
「海路も商船を狙う海賊のせいで未開のまま。陸路もままならない。何よりあの魔大陸と海峡を挟んで隣接する魔獣や魔物の生息地ですぞ!!」
「救国の英雄に祭り上げるならまだしも、そのような島流しじみた事、民衆の反感を買うだけではありませぬか!!」
「陛下!! これは悪手ですぞ!! 何より国の監督が行き届かないのは非常によろしくない!!」
「そう、それですぞ!! 冒険者風情に独立自治を認めるも同然!! 例え姫様に一計あろうと、認めるわけには参りませぬ!!」
「そもそも此度の肯定的判断から外れておりますぞ!!」
「でも、秘境開拓よ? パーティ追放された男の子が何かを成し遂げるなだなんて、とてもワクワクするわ」
「「「姫様の趣味だコレー!!」」」
「そして大願を成就した時に彼はこう言うの――今更戻って来いと言われても、もう遅い」
「「「戻ってきて欲しいのは姫様ですじゃー!!」」」




