110話 Strawberry Fazz
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地方領主ベリー卿は辺境伯の王道に漏れず、上位貴族の格と軍司令権限の認可を得ていた。
今代は取り分け、少女のような幼い容姿に反し殲滅戦を異常に好み、ダンジョン産魔物、隣国の侵略者、大海の王者、その他お構いなしにぶっコロして周るほど非情に手加減を知らない。
王国内部からも【皆殺しのブルー】と恐れられた戦歴は、魔王軍幹部【気品のミモザ】(少女好き)をも退けた記録を持つ。
そんな戦闘狂の所へ嫁いだ貴族の娘がまともな訳がい。
まず、本邸に二人の挙式の姿絵があるのだが、どっちが花嫁か分からない。そこからだ。
二人の間に長男に続き長女も授かったが、どちらがどちらを産んだのか判然としない。社交会とやらじゃ、そんな噂がまことしやかに囁かれていた。
もっともこれはベリー領に対抗意識を持ったこすい侯爵が流したのだが、まるで誹謗になってない所が闇が深い。
ストロ・ベリー。
イチゴ柄の下着を愛用し、幼い俺に着衣姿を見せつてきた真性。幼少の頃。俺の淡い初恋が(記憶の欠損がある為、恐らくは)クランだったのに対し、年上の女性に感じる色気を歪められた、言わば唯一で絶対のイヤラシい視線で見てしまう人が彼女だ。
何せ事あるごとに苺柄だよ。あの豊満なおっぱいとデカイお尻に幾度顔を埋められたか。
今だってほら。
腕を挟む柔らかな感触が――。
「あらあら、サツキちゃん?」
愛くるしい少女のような瞳が、俺の顔を覗き込んでくる。
だから近いってば。
あ、待って。太もも撫でるの、ちょっと待って。
「お顔が赤いし呼吸も荒いわ。まさかサツキちゃん――!?」
くそ、駄目だ、気取られちゃう。
「風邪ね!!」
よし、明後日の方向に行った!!
「風邪と決まれば――。」
『善は急げ』みたいに立ち上がりいそいそとスカートを捲りあげる。
「お母さんよね!!」
「風邪で確定させちゃうのもどうかと思うし、とりあえずビールみたいに言われても」
目の前に真っ白な太ももが曝け出される。
至近距離だ。毛穴までしっかり観測できる。おのれ。
あとちょっと上の方で苺が見えた気がすr――違う!? ただの苺柄じゃねぇ!!
大ぶりな真っ赤な果実。
まさか伝説に聞く博多あまおうとでも言うのか!?
「うふふふ、サツキちゃん目が釘付けね。やっぱりサツキちゃんはお母さんが好き」
「苺さんの事は好きだけどそうゆう好きじゃないから!!」
「えー? そうゆーって、どうゆー好きなのかな」
「おいリーダー!! お前のお母様だろどうにかしろ!! あとなんで子供二人も産んでるのにこんな太もも瑞々しいんだよ!!」
「母上、今こいつに大事な作法を仕込んでいるのです。余計な真似をしてそれが謁見の作法だと思い違いをしたらどうなるとお思いですか?」
「お前何言っての!? 思わないよ? これ苺さんだからだよね? 王家もこんなんじゃないよね?」
「どうしましょう!! お母さんのせいでサツキちゃんうっかり王妃ちゃんのスカートの中に顔を埋めたりしたら!!」
「よくて打首」
「待って何で王妃様に行くの!? 王女様だって居るよね? いや謁見の場に出てくるかは分からないけど!! ていうかよくて斬首なの!?」
「テメェは王女様と王妃様が並んだら王妃様に行くタイプだろうがよ」
「そりゃそっち行くけどさ!!」
……あ、これ俺が悪い話だわ。打首コースだわ。
「大丈夫よサツキちゃん、事前に駄目な所が分かっていれば対策なんてお茶の子さいさいなんだから」
何か俺、すげー言われてない?
「この場合は、矯正か許容になるわね」
え? 何で二択なの?
「お母さん、いくらでも許容しちゃいます!!」
一択になっちゃったよ?
「確かにサツキのコレは今更叩いて直るものとも思えんが」
うるせーよ。人の性癖を昭和の家電製品みたいに言うなよ。誰の母様のせいだと思ってんだよ。
「そうねぇ。矯正した結果、王妃ちゃんでも王女ちゃんでもない所に行かれたら、国が傾いちゃうものね。困ったわねぇ」
傾国の俺か……。
「って、消去法で言ったらそれ王様だよね!? アザレア国王陛下だよね!?」
「そうならない様に、サツキちゃんをお母さんじゃなきゃ駄目な人間にしちゃいます!!」
「本当に駄目そうだなそれ!!」
と言いつつ、苺さんから目が離せない。
この人はどうしてこう、無邪気な顔で人の脳を焼き切りにくるのか。
「じゃぁ遠慮なく、ぎゅーってしちゃいます!!」
あと遠慮するのは、こちらの方だ。
あ、思ったんだけどさ。
クランもあと20年ぐらいしたらこんな風になるのかな?
瑞々しい太ももに頭を押し付けられつつ、そんな事をぼんやり思った。頑張れ俺。
その後、辛くもベリー辺境伯夫人の誘惑に打ち勝った俺に、
「テメェ、解呪は良かったのか?」
ワイルドの呆れた視線が突き刺さる。
「あ……。」
「忘れてたのかよ……。」
文字通り、目と鼻の先にベリー家のパンツがあったのだ。あまおうとか言ってる場合じゃねー。
「呪いたって呻吟するようなもんじゃないしなぁ」
「まぁ、テメェの愛及屋烏に母上を巻き込まなかったのは評価するがよ」
精神や意識すら苺柄という物質に還元する唯物主義だ。
むしろ苺さんは巻き込んで行く方だと思う。
「置いて行くなんて酷いです」
部屋に戻ると、ベッドの上にザックリとしたニットをすっぽり着たマリーが居た。
股下まであるセーターから下は、若々しい少女の太ももが露わになっていた。膝上のオーバーニーソックスと相まって苺さんとはまた違った眩しさを感じる。
……。
……。
あの下。ちゃんと衣服履いてるよな?
「確かにオダマキ卿とのやりとりの場には君もいたが。そうそう部屋まで分かるものではあるまい」
「ああ、それなら――。」
少し考える素振りをして、片膝を立てて頬をつく。ニットの裾が捲れ……良かった。ちゃんとショートパンツ履いてるな、うん。
「私の素性を説明したらこちらの番頭さんが案内してくれました」
おい番頭。どういう事だ番頭。
「元お見合い相手であの番頭さんがよく通したな」
「あ、そっちじゃなくて……。」
言い淀む。
【戻って】きてから多いな。歯切れが悪い。
「それに……それに婚姻や懐妊は駄目でも、その、ちょっとくらいなら……その……そう!! 粘膜的接触程度ならイケると思いませんか!?」
「程度にもよるかな?」
「ですよね!!」
要するに――どういう関係なんだ? 内縁の妻ってやつか?
「いや、やっぱダメだ。君はちゃんと君のための恋をすべきだ。破談になった時点で関係は絶つんだよ」
「じゃあ、じゃあ――。」
え? なんで食いついてくるの?
「可愛い妹がお兄ちゃんに恋をする、みたいな?」
「他国には親族婚により血筋を保つ王家があったが。君の出身かな?」
「違います!! 違いますけど、でも!!」
むー、てなる。ハムスター系の小動物みたいで可愛い。
「まぁ、クレマチスが歓迎するならこっちに滞在してもいいだろうさ。本来は君と二人で受けたクエストだし。おっと君も居たか」
俺の影からユリが飛び出し、マリーとハイタッチする――ていうかバンザイするユリの手のひらにマリーがタッチした。
「今までありがとう。マリーが居なくなっても君が側に居てくれたおかげでここまで来れた。本来のご主人様の所へ帰らなきゃな」
ふかふかの毛並みを抱きしめる。包み込む様な巨体に体が埋まった。
幻獣・鵺。
伝説の雷獣。
又の名を、レッサーパンダ。
「おいでユリ」
マリーが声を掛けると、幻獣は彼女の小さな影に潜った。頭が闇に消える瞬間、名残惜しそうな視線とぶつかった。
「さて、お互い時間はたっぷりありますし、分かっていますよね?」
おどけた口調に反し、仔猫のような瞳は笑っていなかった。
お付き合い頂きまして、大変ありがとう御座います。




