108話 マリーの訳
宿泊に用意された部屋を見て、途方に暮れた。
部屋の中央。キングサイズのベッドだ。他にスペースがない。
……どうしてどいつもこいつも振り幅が大きいんだろ。
「わ、あからさまにヤレって言ってますよねコレ」
そして居るし。
オダマキ卿気を利かせるし。
「いや、お前は何でおr」
「あ、私は領都防衛戦に参加してませんので、特に歓待はされません」
「ていうか、よくひょっこり混ざって追い出されないよな」
「伊達に追放経験の数でサツキさんの上を行ってません!!」
逞しいことで。
「オウケイ、ここは君に任せた。今夜はロビーに降りる」
「何言ってるんですか? 救国の英雄をロビーに寝せたとあっては領主のおじさんの沽券に関わるじゃないですか?」
「君のような少女をロビーに寝かせても沽券に関わると思うぞ?」
「オダマキおじさんこれ詰んでますね」
「誰かさんのおかげでな」
「えへへ」
何がそんなに面白いんだ。
「流れは読めた。陣地を決めよう」
「私も含めて全部サツキさんの領土です。さぁ!!」
「いやお前は俺との肉体的接触を禁じてるんじゃなかったのか?」
はっとなって何かに思いあたり、マリーはベッドに崩れ落ちた。
「そうでした。サツキさんと結ばれちゃダメなんでした。そうじゃなかったら、再会のテンションが高いうちに喪失ぐらいやってましたよ、本当にもう!!」
「ちなみに誰が喪失するんだ?」
「サツキさん以外に誰がいるんですって?」
俺、割とピンチだった?
「怖いから、ここからこっちの陣地は侵害しないように」
「どうしてもですか?」
「くれぐれも」
「サツキさんから侵略するよう仕向けろと」
「何で俺の方から行くと思った?」
「ほら見てください、私の生足ですよ。うっふーん?」
「すまないマリーもう我慢できない誘ったって事はいいって事なんだな」
「せめて、せめて感情くらい込めたっていいでしょ!? 惰性でずるずるとか嫌すぎです!!」
「もう我慢できなーい」
「どうしてフレークの虎みたいに巻舌になった!?」
律儀に球拾うなぁ。
「よし、時間も時間だ。騒ぐのも迷惑だし消灯にするぞ」
「何事もなく普通にお休みになるんですね……。」
これだけ広いんだ。密着する事もないだろ。
掛け布団を捲る。
体を丸めたクランと目が合った。
「……。」
「……あの、あの……サツキくん」
顔色はそのままに、瞳が白藍に透き通っていく。あこれ相当テンパってるな。
「……。」
「……これには……深い事情があって」
透け透けのベビードールの胸前で握った両手を合わせ、しどろもどろになっていた。
ほんと、どうしてどいつもこいつも振り幅が大きいんだ。
「……あの?」
「クランお姉さん素敵です!!」
「ひぃ……!!」
残像を残しクランの後ろに回り込みやがった。
そのまま背後から両腕をガッチリホールドする。
「な、何を……!?」
「やっぱりサツキさんがいいですよね!! 初めてはサツキさんがいいですよね!!」
「……えぇと……叶うなら、初めてもこれからも……サツキくんが……。」
動きを封じられ、クランがくてんとなる。
「やっちゃいましょう!! さぁサツキさん!!」
「できるか!!」
「ほらクランお姉さん、こんなに素敵ですよ!!」
「……だめ……そんな、足を広げないで……。」
「くそっ、居るんだろ、サザンカ!?」
ドアを睨むと、
(ガチャ)
「クランにさっきの続きをと思ったけど、まさかその子が復活してただなんてね」
反対側のクローゼットから、ブラとパンツだけのサザンカが出てきやがった。
そっちかよ!!
「カサブランカを出た後亡くなったと聞いたけれど、冒険者の言うことなんて信用できないわね」
「あ、はい、私は何度でも復活します。この世にサツキさんが居る限り、はい」
めっちゃ軽いノリで光ある限り何度でも復活する魔王みたいに言ってるし。
「とは言え――。」
呆れたようにくんずほぐれずな二人を見る。いやほんと呆れるよね?
「まるっきり障害というわけでもなさそうね」
「……障害だらけだよ、サザちゃん……!!」
「サザンカお姉さん今のうちです!! 私が押さえてる間に足を!! 足を!!」
「だめ……サザちゃん、そんな事をされたら……私」
「そんな事ないです!! 私には分かるんです!! クランお姉さんが期待に体を火照らせてるのが!!」
「……嫌……こんな姿、サツキくんに見られるだなんて……!!」
「いやあんたら、あたしに何させようって言うのよ?」
「クランお姉さんのくぱぁです!!」
「……もう、致してしまうしかないだなんて!!」
「要するに手遅れなのね。ああ、それとサツキだけど、とっくに出てったわよ?」
「ぬかりました!!」
「……サツキ、お姉ちゃん寂しい」
「ひとまず誰か。あたしを労われ」
「そんな訳で王都に行く」
「サツキの姉さ兄さんの向かう所なら!!」
あ、着いてくる気満々なのな。
「あれ? シチダンカさん? いつの間にオダマキに来たんd……あれ?」
目を覚ましたか。
「君が眠っている隙にジキタリスに連行した。クレマチス支部に匿ってもらう手筈だ」
「流石サツキの姉さ兄さん!! 攫われた聖女様を助け出した感が微塵もない!! くぅ!!」
ぺちっと額を叩いて無駄に賛美しやがる。よせやい、ふふふ。
「え……えぇ!? みんなは!?」
「あそこは良くない物が渦巻いていた。一歩遅ければ君も巻き込まれていただろう」
「そんな、ガジュマルちゃん……。」
「せっかく友達になれたのにな。残念だ」
「あの、勝手に残念にしないで下さい?」
「あ、ガジュマルちゃん」
居るし。
そしてコデマリんとハイタッチしてるし。
「やっと追いつきましたよ。夜半過ぎは居たのに、早朝業務前に到着ってどんな魔法使ったんですかぁ」
軽装の彼が、少し非難めいて頬を膨らませる。
なんか可愛い生き物系? ハムスターみたいな。
「鵺をすっとばして来たからな。君こそ良くここがわかった」
「領主様からここに滞在すると指示があって。ボクは謁見の場まで同道する様にって――え? 鵺? 温泉のですか?」
「監視役か」
そういや情報部だったか。
あと後半の疑問には答えない。
「要人の監視役!! ボクそんな凄い任務に着いたんですか!?」
「あ、うん?」
本当にただの道案内役、なのかな?
いかん、ガジュマルくんのキラキラした瞳を見ると迂闊に訂正できない。
「情報部の精鋭がエスコートに着くなら心強いな」
「重要な任務ですね!!」
「君には期待しているよ」
凄い上から行ってしまった。
「この命に代えてでも!!」
「代えないで?」
この子もヤバない?
昨夜の執事もだけど、なんでオダマキの人らって命を軽んじる?
「情報部の威信に掛けて、王都までの経路をわくわくする旅にします!!」
どうやら、俺は知らず知らずの内にツアーコンダクターを期待してしまったようだ。
「それで、彼女はどうしてる?」
シチダンカに話を戻す。
一番気に掛けていた。コデマリくん救出とはいえ、ジキタリスを離れがたかった理由。
「サツキの姉さ兄さん、その彼女とは……どの彼女でしょう?」
真剣な顔で聞かれた。何言ってるんだコイツ、と思ったが――確かに。
「ほら、例のこう胸がこう、こういう」
「大きいと?」
「ストレートに言うなよ///」
「なるほど。三人に絞られました」
「候補三人も居るの!?」
俺、どんな人間付き合いしてたんだ?
「むしろ除外されたのは一人です」
「配慮しようよ!!」
多分、アオイさんかな……?
「それで、大きいと言っても具体的にどんな形状でしょう?」
「……すまん、そろそろコデマリくんたちの視線が痛くなってきたので、この辺で」
何故か女の敵を見るような視線だった。




