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107話 大きくてゴツゴツして硬そう

引っ越しの為、投稿遅れます。

 瞼を開ける。

 気怠げな目眩だ。頭頂から押し寄せてきた。

 肢体を拘束する感触。こいつのせいか。体にまとわりつく太い触手が硬質化し、炭のように黒ずみボロボロと砕けていった。

 ああ、酷く微睡(まどろ)む。

 え? マジで触手責めにあってたの?


「サツキさん!! サツキさん!!」


 炭化した触手をひっぺがすマリーに、一気に目が冴えた。

 寝てる場合じゃねー。

 何でお前、サンバの格好してんだよ? 背中の孔雀の(はね)どこから持ってきた? あと貧相な体に金色のビキニ。おのれ。


「くそ、どれくらい眠らされてたんだ?」

最深部(ここ)(降り)てすぐでしたので、5分もありませんでした」


 ツワブキくんの声に振り向くと、彼は彼で全身銀色のぴっちりしたスーツに覆われていた。胸や関節にごついプロテクターを装着し顔はフルヘルムのマスクだ。

 甲冑とは違う。何だろ?


「君のそれは一体?」


 まとわりつくマリーの頭をポンポンしながら、恐る恐る聞いた。彼が一番やばい気がした。多分、世界観崩壊させかねない。


「試作中ですが上手く機能してくれました。邪念ライダー変身ベルト」


 やっぱヤバいやつだった!?

 え? 変身? 何て?


「テメェを助けるって小娘が無茶しやがるから、こいつを止めるのに2人がかりだったぞ」

「そいつは手間だったな――ぶっ!?」


 不覚にも吹き出した。

 何で頭がアフロになってんだ!? ワイルド通り越してファンキーだろ!?


「彼らがあるじを止めてくれねば、事態はさらに混迷を極めたであろうな」


 相変わらず姿を消した鬼神の声が、フロアの天井付近でした。

 どうやら、二人には助けられたらしい。

 改めて二人を見る。

 そうか。

 とても辛い……腹筋が。


「既に混迷の極みに到達しとるわ――本当にこの子は、無茶しやがって」

「ある意味、祭りでした!!」

「……うん、それは見れば分かる……うん?」


 ほんと俺の意識があの世界に囚われてる間に何があったの?

 握った手の内側を胸前で合わせ、潤んだ瞳で見つめてくる。サンバの娘が。


「私の名前を呼ばれてました。サツキさん、とても切なそうでした」

「あの世界の君と危うく温かい家庭を築きそうになった……君が呼び戻してくてなければ、育児までこなしていただろう」

「ええ!? それってサツキさんが私と『しちゃった』って事ですか!?」


 いやそれで含羞(がんしゅう)に紅潮するなら、君はまずその姿を恥じろ。


「テメェ、小娘としちゃったのか!!」

「サツキさん、お嬢さんに破談を申しつけられていたんですよね? なのにしちゃったんですか?」

「……何か俺、大それた事をしでかしちゃった気がしてきた」


 そもそもアレはダンジョンコアが見せたマリーだったのでは?

 小さな喫茶店で。ウエイトレス姿。気が利いて、いつも俺のそばに居て、適度に甘えてくる。

 改めて見る。

 金色のビキニ姿に孔雀の羽を生やした少女。


「現実はいつだって厳しいよな……。」

「本当ですね!!」


 厳しい現実の権化に同意されちゃったよ。


「それより、さっさと始末しちまえよ。テメェの回収待ちだ」

「へいへい、って、うわデカっ!?」


 マリーの身長ぐらいある。

 さっき見た量産型クリスタルと形状は同じ。ただ大きい。大きくてゴツゴツして硬そう。(クリスタルへの感想です)


「変質したって話だったが?」

「サツキさんの目覚めと同時に通常運用形に戻りました。あちらの世界で何をやられたんです?」


 ツワブキくんが覗き込むように見つめてくる。

 あ、クリスタルより俺を評価対象にしてるな。


「ちょっとした行き違いだよ――これでいいか」


 はぐらかすようにクリスタルをストレージに収納した。

 つまり、こいつは生命体の類じゃないって事か。

 或いは、俺がトドメを刺したのか。


21:30(フタヒトサンマル)クエスト達成だ。テメェら撤収するぞ」


 ワイルドが背を向ける。

 マリーもツワブキくんも。

 誰も気づいてなかったのか?


 水面(みなも)のような翡翠色の揺らめきの向こう側で、こちらを見つめる二つの(まなこ)と、その下で楽しげに開いた小さな唇。

 ……ほんとこれ、ストレージに入れてて大丈夫なのか?




「コアは回収してきたぜ」

「うむ、意外と早かったな――ぶっ!?」


 ダンジョンが消え、今や普通のドアからぞろぞろ戻る俺たちに、オダマキ卿が吹き出した。

 な? 吹くだろ?


「流石にSSランクといえど、一筋縄ではいかなかったようだな」

「? 割と余裕だったぜ?」

「そうか、余裕か……。」


 難しい顔で頷く。

 そりゃ納得できるものか。俺だって無理だ。

 もしもの為か、オダマキ卿の背後に10名程の騎士が控えていた。

 全員が震えている。

 笑ってはいけない。その強き信念のもとに。


「マリー、サンバのリズムで腰を振りながら登場するのはやめて差し上げなさい。領主が混乱してらっしゃるだろ?」

「サツキさん、意外と細かいですよね」

「いいから腰を振りながら回ってみせるのをやめろと。本場のショーがいつでも見れるやつか」

「君たちは……中で何があったというのかね」

「主観の相違を吐露したらとしか。特殊なアイテムボックスに回収したが今の所変質は治った。できればもう取り出したくないけど」


 ストレージは秘密にしとこう。ワイルドやツワブキくんには見られたけど、特に言及も無いしな。

 ……そういやギガンエビ戦でも(おおやけ)で使ったわ。


「さて、確証が無いまま放置する事は出来ない。貴族と付き合いのある君ならわかるだろう」

「後ろの騎士さんはそれでフル装備なのか」


 身構える。

 俺の両脇で、ワイルドとマリーが。アフロとサンバが。

 ヤバい。領主の背後の騎士さん達がそろそろ限界だ。


「待ってくださいオダマキ様!! 精製核のオリジナルを鎮静化し保管できるのはサツキさんだけです!! ここは協力を仰ぐべきです!!」


 邪念ライダーが割って入った。

 ていうか君はいつまで変身したままなんだ?

 ほら、騎士さんも目線逸らすので手いっぱいじゃん。何でその格好で入ってこようと思った?


「信用の話をしているのだよ。それとも担保があるというのかね?」

「いや何であんたもこの状況で真面目な話ができるんだよ!?」


 思わず突っ込んだら騎士が数名悶絶した。

 しまった誤爆したか。


 背後の気配にオダマキ卿が振り向く。

 騎士達がビシッと姿勢を正す。

 マリーがリズミカルに腰を振り、アフロワイルドがめっちゃメンチ切ってくる。

 甲冑が少しプルプル震え出した。


 ……いや可哀想だからやめて差し上げて。


「えーと、俺を領都で拘束する気ですか?」

「人材不足につき優秀なメイドなら歓迎だが」

「そっちかよ!!」

「だがオリジナルの精製核に関して言えば前述の通り手に余る。回収したのが救国の英雄ともなればな。ところで、ワイルドくんは何故アフロなのかね?」

「今更かよ!!」

「アフロワイルド――よもや、アフロディーテと掛けてるのかね?」

「何でアフロの女神みたいに言ったの!?」


 うむうむ、とオダマキ卿は優しい眼差しで頷いた。


「君のような元気なメイドは貴重だよ。励みたまえ」


 はっとして、マリーがピタリと動きを止めた。


「アフロなのに禿げを見るんですか?」


 うるせーよ。


「な、な、何の根拠があって、そのような事を……。」


 よもや、ここに来て領主が動揺するとは。


「頭頂の話は置いておいて、結局俺にどうしろと?」


 正確には「俺たちに」だが、マリーだけは巻き込みたく無い。


「うむ。まずは陛下への謁見の場を手配する。ワイルドくんとサツキくんには褒賞が下賜されるだろう」

「救国って言ったけど、他の二人だって――。」

「アイツらはダメだ」


 アフロが遮った。

 謁見する前にお前はそのアフロをどうにかしなくちゃな。


「クランは俺や父の代行で領軍司令として立ち回った。サザンカは聖教会の現場の士官だ」

「どっちも神輿に担げないか……。それでSSクラスの二人だって? いいように扱ってくれるな」

「謁見は10日後を設定する。連絡のつく立ち回りをお願いしたい」

「プロパガンダに勝手な事を。聖女が関わっていないと確約は取れるんですね?」

「街頭ビジョンにはSSランクパーティと教会騎士、ベリー領軍が表示された。それ以外の認識は無いと断言しよう」


 あくまでも戦闘面での事だ。

 キバナジキタリス氏やコデマリくんは巻き込まれないか。


「了解した。ジキタルリスのクレマチス商会に厄介になる予定だから」

「コアの事はくれぐれも」

「解析はいいんだよな?」


 邪念ライダーを見る。

 ひょっとして、変身が解けないのか?

 俺の懸念を察したのかすぽっとマスクを取ると、彼は莞爾(かんじ)として笑った。

 って取れるんかい!?


「保守は任せてください」

「運用する気満々じゃねーか!!」

「君たちは少し落ち着きたまえ。いいからちょっと落ち着け。最優先は他国への流出阻止。次点で恒久的な封印と心得るがいい」


 確かに、ラァビシュのように狷介なら過ぎた代物で一笑できるけど。おこぼれを狙うってのが共和国なら懸念も分かる。

 そこかかしこでダンジョン化されても困るしな。


「だからって何で俺なんかを……徳望なんざ無いっての」

「さて。それは追々に」


 訝しむ俺に初老の男は目を細めた。

 信用の話はどこ行った?

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