104話 リューコスペルマム
今日のイカれたパーティメンバーを紹介するぜ。
濃紺のライトメイルに眩い美貌で性別問わず魅了する、グリーンガーデンリーダー、ワイルド・ベリー!!
蠱惑的な瞳と小さなボディから容赦無く放たれる下ネタ、ツッコミ無用残念美少女、マリーゴールド!!
非の打ち所がない爽やか好青年はこれらの変人とどんな科学反応を示すのか!? サイネリア族のツワブキ!!
そして俺はサツキ!! 以上だ!!
「って、ツワブキくんも来ちゃったの!?」
気づくと技師服のままメイスを担いでた。
「自分らが使う素材はダンジョンから採取していました。故郷じゃみんなそうです。探索と開発は常に隣り合わせですから」
「常に死と隣り合わせみたいに言われてもな……。」
いいのだろうか? 連れて来ちゃっても。
「自分の身くらいは守れます。何より変質後のダンジョンコアは自分しか見ていません」
「ダンジョンコアって言っちゃったよ!!」
まぁそんな物が領事館の地下に埋まってたら、おちおち復興もできやしない。
「あ、サツキさん。さっき放った式が魔物を発見したみたいです。えぇと……6体くらい? それともっと奥に3体、5体、さぁどんどん行きますよ、曲がって2体、少し開けて8体、最後に1、いえ、これは3体? あ、その後は変わった扉が……むむ、私の式でも通り抜けれません」
「……いや、マリーさん?」
「シャクヤクやユリじゃダンジョン内は自滅の懸念があります。地道に潰していきましょう」
「その前に確認したいが、ハリエンジュという女性に心当たりはないかな?」
「えーと、多分、面識は無いと思いますが」
「今日、ギルドの2階で会った」
「ジキタリスのでしょうか?」
て事は、あの時は俺の影に居なかったのか。
「魔王の四騎士で赤騎士というのは?」
「前に話したドラゴン討伐で助けて頂きました!! え!? サツキさん、赤騎士様の中の人だったんですか!? 素敵、抱いて!!」
「俺じゃねーよ!! ていうか俺とは破談にしたかったんじゃないのかよ!?」
「肉体だけの爛れた関係? あ、待って、私たちそういう結ばれ方しちゃダメなんだ。えーと、抱いてっていうのはこう、抱きしめて、よしよしってみたいな?」
君はつくづく残酷な子だね。
今だって、どれほど忍耐を強いられてるk――。
「あ、だめ。それだと私が辛抱たまらなくなっちゃう」
自分もダメージ受けてんじゃん!!
「あのぉ、皆さん? あまり騒ぐと魔物に気づかれますよ?」
ツワブキくんが申し訳なさそうにしている。
大丈夫。おかしいのはこの子だから。
「向こうから来てくれましたね。15秒後に会敵します。私が先に牽制します――今!!」
照れを誤魔化すように早口になったマリーが、腕を横に振った。
黒光する鏢が放たれたと知った時、前方の薄闇から現れた人間型の蝙蝠怪人が全て動きを止めた。
影縫い。
それも6体同時に。
サクラさんがオオグルマで使ったのを見ていなかったら、何が起きたのか分からなかった。
「む? 抵抗が激しいですね。お兄さんたち、今のうちに!!」
マリーに言われるまでもなく俺とワイルドが動きを封じられた魔物に飛びかかった。遅れてツワブキくんもメイスを振り上げる。
それにしても出来立てのダンジョンに珍種の魔物とは。
「サソリ人間にクモ人間、あ、でもハチ女は色っぽかったですね? コスプレみたいで!!」
その後、探索は順調に進んだ。
初見の魔物ばかりだな。
「本来のダンジョンコアじゃないですからね。機能に従来品と違いが出たのかと。正しくは、こちらが類似品なんでしょうけど」
「ツワブキくんはこういった経験が?」
「いいえ、貴重な体験だと感じています。解明したいとは思いませんが」
「?」
技師って、未解明のテクノロジーに貪欲かと思ったけど偏見だったかな。
「ピクニックはここまでだ。ありゃ相当だぜ」
ワイルドの気配が変わる。
一度は鞘に収めた妖剣をゆっくり抜く。魔力を宿す動作だ。緋桜剣、やる気か。
正面。
女の顔が三つ浮かんでいた。
ふわふわと。
なのに、泥を這うような嫌な音が耳障りだ。
三つの女は、それぞれ俺たちを見定めると目を細めた。
どれも口が歪んでる。
「この生臭さは、嫌ですね」
マリーの嫌悪に、初めて奇妙な匂いに気づいた。
気に留めなかったのが不思議だ。
「磯の香りに似た、いや、爬虫類の匂いに近いか?」
「何言ってるんです? 女が出す嫌な匂いを全部集めて煮詰めたような匂いじゃないですか」
すまん、分からん。
「来たぜ」
ワイルドニキ、早いよ!! 背を低くするのに遅れて、女の首がにゅーんってきた。先に反応しちゃってるじゃん。
しかしゆらゆら浮かんでたわけだ。頭から下が蛇の胴体だったとは。
妖剣の剣先がヤツの牙と噛み合う。ツワブキくんもメイスの柄で受け止める。俺もノーマルのショートソードで初撃は捌いた。ガリアンソードやシャマダハルじゃ小回りが効かない。
「これがモンスター娘の筆頭格、ラミアですね!?」
「こんなラミアは求めてねーよ!!」
頭が女とはいえ、口から黄色く濁った牙が露出していた。肌は能面のように白く、長い髪は油で照り光ってる。
「お嬢さん!! ラミア族への侮辱はほどほどに!!」
「ツワブキさん!! ラミアっぽいの好みなんですか!?」
ぽいって何だよ?
「好みとかそういう問題じゃ無いですよ!! よく見てください!!」
せいっ、とメイスを振り抜く。ツワブキくんを襲ってた女の頭がシュルシュルと収縮する。行き着く先に、先に初撃を諦めた他の頭があった。
さらにその先。
一箇所に集まってる。ていうか一つの胴体から首が三つ伸びてるのか?
「アレはヒュドラっていうんです!!」
「俺の知ってるヒュドラと何か違う!?」
「大技仕掛けます、お兄さんたちは注意を引いてください!!」
「テメェら議論は後だ!!」
「了解です、自分が先行で!!」
寒気に身震いした。
振るうメイスの先端に、空気の熱量が吸い寄せられる。
白い霞は急激な冷気によるものか。
一思いに距離を詰め、
「スノードロップ!!」
透き通った結晶体が先端で凝固する。もはや形状さえ変質させたハンマーが大蛇の胴体へ振り下ろされた。
クリーンヒットした部分が、えぐれるように歪曲した。
上体をのけぞらせ、尻尾を大きく振る。のたうち回るのは、その衝撃よりも設置面の変化によるものだろう。
「高等魔法だよね氷結系って!! 最近の技師はどうなってんだよ!!」
「魔法じゃありませんよ。粘性を持たせた空気の分解体に液状のアミノ酸やアンモニアなど数種類の化合物を合成すると、マイナスの生成熱を発するんです」
「……要するに?」
「よく凍ります!!」
言うまでもなく、蛇の胴が凍りつくのが見えた。
「これは……しまった、自分としたことが!!」
「どうした!?」
「先端までくっついて剥がれません!!」
「もうそれ捨てちゃってもいいだろ!! ていうかさっきのスノードロップって何だよ!? 術名じゃなかったのかよ!!」
「開発した人の名前です!! 使うたびに宣伝する旨を要請されました!!」
「どんだけ目立ちたいんだよ!!」
「あ、準備ができました」
ヒュドラ?の真上の天井に逆さまに立つマリーが複雑な印を組む。
「ちょ、おまえは少し待て!!」
「だめです!! 先っぽまで来ちゃってます!! もう出ちゃいます!!」
両手の親指と人差し指を合わせ、手のひらを広げていた。
小さな指だ。
先端から、細い線が放たれる。10本の紅い糸は、それぞれが意思を持ったように蠢きながらヒュドラ?に絡みついた。
「やべ、ツワブキくんっ、退避だ!!」
俺に言われるまでもなく彼はメイスを手放し反対側へ跳ねた。
天井に張り付いたマリーが良くないモノだって直感したんだろうな。
そりゃそうだ。
ありゃ、日輪印ってやつだ。
「火遁の術・九字八式――リューコスペルマム!!」
端的に言って、灼熱地獄でした。
ていうか独鈷印じゃないのか。
「カーカカカッ!! 灼熱地獄へようこそサツキさん!!」
うるせーよ!!




