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103話 クリスタル

「なるほど、それですか」


 全員の視線を受けたマリーが、したり顔でうんうん頷いた。


「つまり、それなんですね?」

「うむ、それだな」


 オダマキ卿が頷き返す。

 それを確認して、彼女は一度思案する素振りを見せ、


「どれです?」


 小声で、困った風に聞いてきた。


「頼む。今は場を混乱させないでくれ」

「それですね」


 定見も持たずに体制に加わりやがる。こういうの、なんて言ったっけな。

 しかし、あのクエストがここまで繋がるか。


「例の聖女騒動と言うと、ジキタリスって訳か。名士の過度な領都への警戒は違和感というより、オダマキ卿の仕込みですね?」

「捜査線に、出入りの人間で木工芸商会に通じた者が上がっていた。今は逃走の後だが、君の言う通り今朝方、ジキタリスでも騒動があった事は聞いている」

「騒動が多すぎるんだよ。どれの事かなんて分かるものか……あ、よく考えたら全部の騒動に関わってた」


 だとすると、心当たりは一つだ。


「また共和国か。連中、よその国に迷惑かけないと死ぬ病気なのか?」

「他人の不幸でしか利益を得られない奴だって居る。テメェの価値観だけで物は図れねぇよ。結果的に領内は多くの中級冒険者を失った。ヤツら、これを実績として持ち帰るには十分だろ」

「主観の相違のレベル、とっくに超えてんぞこら」


 冒険者に国境を越えた連携は無いもんな。

 そういう意味では国の財産だ。

 だからってそんな事のために、俺は一度マリーを失ったのか。彼女の愛馬だって。


「そろそろ本題に入っても?」


 白衣の中年が手を上げる。

 オダマキ卿が小さく頷くと、彼はコンコンとクリスタルのケースをノックした。


「現時点で最大の物が紛失したままでして、討伐時点での稼働を見る限りその後持ち出された訳では無いと見ています」


 あ、そうか。アレもエビ型キマイラだって言ってたよな。なら数が合わないか。

 ギガンエビ。


「俺達を招集したって事は、正式なクエストの受発注と受け取るけど――。」


 改めて周囲を見た。

 ワイルドとクランが同時に首を傾げる。


「よりにもよって、何だってこんな遺失物捜索クエストに向かない面子を揃えてんだか」


 クエストは冒険者ランク以外にも相性がある。

 人探し。物探し。逃げたペットの捜索。散らかった部屋の片付け。急な来客の接待。

 この辺、今居る面子には明らかに不向きだ。


「むしろ適任だと解釈するがね」

「こんな剣呑(けんのん)な失せ物探しがあってたまるか」

「だったら俺達向けなんだろうがよ」


 ワイルドニキがつまらなそうに口を窄める。

 え、何でいじけてるの?

 自分だけまだメイド服だから?


「巨大キマイラの精製核のおおよその見当はついています。領主様、よろしいでしょうか?」

「案内する。ついてきたまえ」




 公共施設の地下とは思えない分厚い扉が前にあった。

 石造りだ。

 なんぞ魔物のようなレリーフが掘られてる。

 あとオーラ。オーラ超すごい。出てる。


「発見時は一般規格の事務用ドアだった」

「まさかと思われるでしょうが、徐々に変化する様は圧巻でしたな。捜査は皆様が正面で戦われた隙に開始しました。ここの設備に変化が認められたのと、最後の巨大キマイラ討伐のタイミングが一致していますので――。」

「当時は自分が詰めていました」


 白衣の言葉を、技師の若者が受け継いだ。

 北方のサイネリア族。ツワブキくんと名乗ったな。


「ご覧いただいた量産型クリスタルは問題なかったのですが、原本に変色変形、ひび割れ、触手などの変化が見られました。暴走を懸念して他の作業者は退避させ自分だけが残りました」

「量産? ああ、そういう関係か。培養まで君らが?」

「領主様にテクノロジーは凍結され一切の口外を禁じられてます。そりゃこんな物、故郷にだって持ち入れたくありませんよ」


 噂通りなら、彼の同族が許すまい。


「大体は理解出来た。ああ、この手の探索は俺たち向きだ。だからって追放した元メン頼るかねぇ」

「聖女だって安全は確保されただろ。クランもサザンカも余力はねぇからな」

「俺、朝から働き詰めなんスけど」

「俺だって早朝からずっとメイド業務だったぜ」


 え? 今もメイドの仕事してんの?


「貴方って人は!!」


 ずい、とマリーが間に割って入る。


「一方的に受ける追放が、どれだけ残酷か分かってるんですか!!」


 地下室に高音が反響する。

 マリー、そこまで激昂してくれるのか。

 それほど俺の事を……。


「あるじも、前の国では四たび連続で追放されておったからの」


 姿を消した鬼神の声が俺の頭上に降りかかった。どういう術か、俺にしか聞こえないらしい。


「いや、何やらかしたんだよ」

「役立たずの火炎系魔法使い。適正ジョブでありながら、ろくに術も使えなんだ」

「君を使役してるのに?」

「……。」

「おい」

「ぬかったわ。なるほど、それで火炎系か」


 こらこら。


「規格外過ぎて、彼女本人がそこに思い当たらなかったか。それでも、庇ってくれるのは嬉しいな」

(あに)様……ストーカーは恥ずべき行為であるな」


 あれれ? 遠回しに何か忠告されてるぞ?


「サツキくん。溜飲下がらぬのは理解できるが、君もこの騒動の顛末を見定める権利は持つと思うが、どうかね?」

「そういう煽りは嫌いだ。大人っぽくて」

「報酬を定めよう」

「金銭よりも、欲しいのはこの奥にある最大の戦利品だ」


 言った瞬間、どよめいた。

 すまん、ノリでつい。


「テメェ、何言ってるのかわかってるのか!!」

「そうですよサツキさん!! お金も貰っておきましょうよ!!」

「そっちじゃねぇ!!」


 あ、今思ったんだけど。ワイルドとマリーで相殺しあうとちょうどいいのかもな。


「ここまで知られてただで返す気はないんでしょ? こんな強制イベント、理屈でわかるものかよ」

「良かろう」

「「「いいの!?」」」


 何でこの人、簡単に了承しちゃうんだろ。要求しておいて何だけど、懐が広過ぎやしないか?


「有り体に言って、生成エネルギーの行き場を失い暴走した挙句ダンジョン化するような物、吾人(ごじん)に面倒をもたらす以外にない。制御できるのものなら管理凍結でもしてくれた方が有難い」


 ぶっちゃけやがったよ、この人!!


「要は素手で持てるなら、君に始末を一任しようと」

「厄介払いね。わかるけど、この、うーん……。ん? ちょ、触手とか言ってなかったか!?」


 今になって気づいてツワブキくんを見る。


「元々のクリスタル状の結晶体からうねうねと出てくるのをこの目で見ました。間違いありません」

「間違ってて欲しかった……。」

「テメェが触手に絡まれる未来しか見えないぜ」

「クリスタル・淫具ですね。ゆーあしょっくですよサツキさん」


 ほんとショックだよ。

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