90話 中枢機関内への侵入
人々を助けた日から3ヶ月がたった。
今日が人間界の軍が動き出す日、リズたちは緊張するもすでに覚悟は決めていた。
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遠目から見る武装した群衆はもはや圧巻としているようにすら見えた。
草木の陰に隠れ、念のためということで空間歪曲魔法、防音魔法をかけた状態で、リズたちは話し合っていた。
「いいかい?流石に僕たち神獣がついてるとはいえ、多勢に無勢だ。正面から行けば間違いなく失敗するし、そもそも警戒されて撃たれる可能性もある。」
「ならどうやってこの戦いを終わらせるの?」
「あなたねえ……自分で考えてみたらどうなの?いつか後悔するんじゃない?」
ニックの説明に対し、リズは不安を全面的に出した声で問うと、ベルが心底呆れたとでも言いたげにため息を吐き、リズに辛辣な言葉を投げかけた。
目の前に敵がいてもなお、ベルは味方に対し当たる元気や余裕があるらしい。
「ベル、流石に今の状況でお小言を言ってる余裕はないんじゃないかな。早急にことを済ませないと悪化する。一応僕たちの作戦が失敗した場合の応援が後方にいるとはいえ、できることなら犠牲は少なくしたい。」
リズたちは中枢機関に忍び込み、指揮を出している大元の人物たちを捕らえることになっている。
もしも失敗した場合、または計画が思った以上に長引き、本戦に入った場合の対処として、色々な種族の部隊を派遣してもらい、人間軍が進軍して来るであろう場所を計算から出し、配置している。
快くこの作戦に応じてくれたものたちのためにも、被害を最小限に収めたいところだ。
「本軍にバレる前に駆けぬけよう。ルフィナの魔法がいつまで持つかわからないし、魔力回復薬も数に限りがあるからなるべく無駄遣いは避けたい。」
「ならば今すぐ走り出した方が良いかのう!」
ラタムは狐の姿……元の姿に戻り、すぐ近くにいたリズを彼女の許可なく背に乗せると、全速力で走り出した。
他の神獣たちもそれぞれ他の人間4人を背に乗せ走り出した。
途中途中軍の人にラタムの尻尾が当たり、自分たちの存在が晴れやしないかとリズは気が気でならなかったが、どうやら何か勘違いしてくれたようだった。
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「ルフィナ!あとどれくらいなら持つ?!」
「頑張ってもあと五分くらいが限界!」
先に割り出しておいた中枢部まであと3分の1という時、ニックが大声でルフィナに問いかけた。
ルフィナは一見涼しい顔をしているように見えるが、それは彼女が猫又の姿に戻ったからであり、今人間の姿だとしたら苦虫を噛み潰したような顔になっているはずだ。
ニックは一つ舌打ちをして、「もっと速度を出せ!じゃなきゃ間に合わない!」と、今まで聞いたことのない大声で怒鳴った。
それほど切羽詰まっているわけだ。
先ほどよりも風の圧が強くなり、思わずラタムの毛をぎゅっと強く握る。
もしも地面が雪で覆われていたとすれば、雪煙が上がっていただろう。それほどの速度が出ていたと思う。
冷たい風に抗って、四角利と息を吸うのに集中していたため真偽は確かじゃない。
「あと1分!」
「あと少しだ!走り抜けろ!」
心なしか、ニックの声が上ずったように聞き取れた。
リズは心の中で間に合いますように、と祈っていた。
本当にギリギリ、間違えば敵側の人間に見つかっていたであろう。それほど間一髪のタイミングで施設の中に入りきった。
「ラタム!」
「そう急かすでない!」
ラタムの認識阻害魔法により、リズたちは機関内にいる人に違和感がない姿に見えるようになった。
ひと段落したところで、神獣たちは人間の姿に変身した。
ここからが本番だ。この戦いの行く末は今、リズたちの手の中に握られた。




