表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
37/37

精霊使いの子供




「ここどこだろう……?」



 バスの中から見える景色が、まったく知らないもので、ハルは不安に震え、こぼれそうになる涙をこらえる。



 お使いで、ひとりでばぁばのところに行った後の帰り、家に行くために乗ったバスは、見知らぬ団地街にハルを連れて来た。


 団地街でバスを降り、キョロキョロと周りを見渡す。


 一緒に降りた数人の乗客は、三々五々に散って居なくなり、ハルはポツンとそこに置き去られた。


 見知らぬ街で、誰も居なく、どうしていいかも分からない。


 不安で心が押し潰されそうになった時に、それは聞こえた。


『ひさしぶり』


『お帰りハル』


『大きくなったね』


『会えて嬉しい』


 人の声……ではない。


 心に直接響く、なつかしい温かな喜びの色で染められた声。


 周りを見渡すが、誰の姿もない。


 でも確かに心に声が響く。


 まるで流れる川が、心を(おだ)やかにしてくれる水音を(かな)でるように。


 まるで、木々の葉を優しく()でる風がささやくように。


 体を暖めてくれる熱の火が勇気を叫ぶように。


 足についた地面が確かな安心を約束してくれるように。


 いくつもの声が心に伝わった。


 ハルはその声に、心の中の呟きで応えた。


 自分の窮状(きゅうじょう)を伝えた。


『それなら、次の次のバスに乗ればいいよ』


『それまで私達が一緒に居てあげる』


『知らない仲じゃないからさ』


『大好きだよハル』



 バス停には誰も居ない。


 でも、ハルは、まったくさみしくなかった。


 自分はひとりぼっちじゃない。


 誰も居ないのに、そう確信した。


 やがて、目的のバスが来て、それに乗る。


『またね』


『元気でね』


『パパによろしく』


『バイバイなんて言わないよ』


 見送りの声を受けてバスは走り出した。


 そのバスは間違いなくハルを、見慣れたハルの住む町に連れて行ってくれた。





 すっかり日が暮れた家に帰ると、玄関先でパパとママとタカが待っててくれた。


「よく帰って来てくれた」


「どこまで行ってたの?」


「おかえり、ハル」


 ママの質問に団地街のバス停の名前を告げた。


すると……。


「そこって、ハルが2歳まで住んでた街じゃない!」


 ママが驚いた。


 パパは納得したような顔でハルに言った。


「覚えていてくれていたのかい?」


 ハルは嬉しそうな顔で答えた。


「うん!」


 みんな、ボクのことを覚えていてくれた。


 そして、ボクのことを助けてくれた。


 ハルはーーー精霊使いの子供は幸せそうに、満面に笑みを浮かべて笑った。





 おしまい




 短い期間でしたが、お付き合い、ありがとうございました。


 よろしければ、続編であるエッセイ、『精霊使いの身の丈世界探索』を、引き続きお楽しみ下さい。


 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ