存在
最初に存在について伝えよう。
ん? 存在ってなにだって?
お前は今ここに居るよね?
ここに居る、ここにある。居ないのではなくって居る。
ないのでなくってある。
それが存在しているってことだ。
お前だけじゃなくパパもママも、帽子もスイカも、あらゆる物がある。それに投げるとか走る、言葉をしゃべるとか考えるという事も存在しているんだよ。
今ここに『ある』も、いつかどこかに『ある』も、現実だけじゃなく夢や想像の中も含めた『ある』だよ。
ん? 存在だとか難しい言い方しないで欲しいだって?
ははは、悪い悪い。
今日はその存在が、存在自身が存在するためにやっているやり方、方法について伝えよう。
お前の嫌いな難しい言い方をすると、存在の原理ってやつだ。
これは精霊魔法の一番元になる原理だからね。
心して聞くように。
あらゆる存在は『無はない』という方法で存在している。
無は、ないんだ。
純粋な無というものは存在しない。
ん? ゴミはゴミ箱に捨てれば部屋からなくなっちゃうよだって?
そうだね、部屋からは、なくなっちゃうよね。
でも、ゴミ箱の中にはあるよね?
どこかに移動しているだけで、どこかにある。
そういうのは純粋な無とは言わないんだ。
無はないんだ。無は存在しない。
この『存在しない』という無が存在しないとは、どういうことか。
『存在しない』という状態は存在しない。それは転じて『存在が存在する』ということなんだ。
存在は『無はない』というやり方で成り立っているんだよ。
だから、分かるね?
あらゆる存在の原理はない。
存在の原理は無。
つまり原理は『無いということが分かる』つまり『分かる、無い』つまり『分からない』なのだ。
ん? それじゃあ存在の真ん中に無があるよだって?
でも、その存在が『無がない』というやり方で成り立っているのは分かるよね?
それに無って『存在が存在していない状態』ってことだよね?
『無がある』と言って『存在が存在してしない状態がある』とは、なにを言ったことになる?
そう、結局は『無はない』と言っていることになるんだ。
無には論理的に逃げ道がないんだ。
感覚的にはあるんだけどね~。
ん? わけが分からないって?
いいぞいいぞ! お前は原理をつかんだ!
そう、『分からない』んだ!
無があるともないとも言えなくなっただろう?
それでいいんだ。よくやった。お前には才能があるぞ。
昔の偉大な魔術師は「ないと言えばある。あると言えばない」って言ったんだ。
「存在と無という正反対のものが一緒になって、表と裏が入れ替わり続けるので、つかまえることができない」と魔術書に記録が残されていたよ。
無をつかんだと思って手の中を見たら、そこにあるのはいつだって存在。
いつだって無は何食わぬ顔で手の外に『ある』。でも、あると思ったら『ない』。
そうそう、お前の今の状態をあらわす言葉がある。
無意味だけど聞いておきなさい。
「神秘」
それを神秘って、言うんだよ。
ん? ただ分からないってだけなのに大げさだって?
そう言ってやるな。
昔、誰にも教えてもらえず、自力で存在の原理にたどり着いた人が、人間の知る力のあまりもの小ささに、がく然として、両膝と両手を地面について、地面に額を擦り付けた。
そう、まるで神様を前にしたようにね。
人の知る力で手が届くのはここまで。
これから先は、神のみが知る秘密。
もう、どうしようもない。
それで神秘って言われているんだよ。
ん? どうして無意味なのだって?
無の意味ほど無意味なものもないんだ。
もっとも、意味を意味にしている無意味だけどね。
2019年4月1日 追記
2019年4月10日 修正