閑話 好きじゃない夕食
ママが残業で、いつまでたっても帰ってこないので、昨日の鍋の残りを使って卵雑炊を作った。
それを見て、ハルの弟のタカが、
「こういう料理、好きじゃないんだよね」
と言った。
どこか「しかたないから食べてあげるよ」と言っているかのような態度で。
ああ、この子は不幸だ。
パパは、そう思った。
好きな食べ物じゃないと嬉しくなれない。ただ食べるだけじゃ幸せにはなれないんだ。
なんて不幸なんだろう。
どうすれば、この子は幸せになれるだろう。
そう考えて「じゃあ、食べるな」と、夕食を取り上げた。
夕食を一回抜いたくらいじゃなんてことない。
それよりも、空腹の辛さを知ることで、食事のありがたさを知ることができる。
それは、好きじゃない夕食を一回食べることよりも幸せなことだと思う。
児童虐待だと言う人がいるかも知れない。
だが、世間一般の虐待をするしないの前に、うちの子の幸せを考えなくてはならないと思う。
不幸を知らないことが幸せではなく、幸せを感じないことが不幸なのだ。
泣き出したタカから逃げるようにパパは寝室に引きこもった。
心開いた愛する人が辛いことほど自分が辛くなることはない。
やがてママが帰ってきて、タカの話しを聞いて、なにがいけなかったのかをさとし、パパには内緒で雑炊を温めなおして、食べさせた。
寝室の閉められた扉の向こうから、タカの「おいしい」という声が聞こえた。
「当然よ。パパがハルとタカのために、心を込めて作ってくれたんだから」
ママの声がする。
やがてタカは寝室の扉を開けて立ち、
「パパ、ごめんなさい」
と、涙声で言った。
タカが幸せになれるなら、それでいいんだよ。
許す許さないはともかく、パパは確かにその言葉を受け取ったことを伝えた。
なお、パパの分の雑炊は残っていなかった。
いや、出汁昆布が一切れ残っていた。
許さん。
 




