本格的に関わる事になってしまった
あれから1週間程、日本兵はうちのコンビニに現れなかった。
日本兵自体は現代に来ていたのかもしれないが、件の洞窟付近に自衛隊がいて、
そちらで調査兼物資の手渡しをしてたようだ。
このまま俺はフェードアウトかな?
そうはいかなかった。
防衛省からの入金の額を見て親父(店長)が喜んでいた。
うちの店、前身のドライブイン時代は比較的繁盛していた。
峠を越えるルートだったので、昔は近くにも店が多くあったそうだ。
高速道が通ってからは、寂れた。
今は多くが潰れ、そこを買い取ってサバゲーフィールドにされたりした。
もっと奥に行ったとこに神社や寺があり、そこの門前の店は生き残ったが、
そこに住んでる爺さん婆さんが半分趣味でやってる店だったりする。
息子さんたちは都心で働いてるようだしね。
神社はパワースポットとか紅葉がキレイとかで、年に数回賑わう。
また、一般道を使い、高速料金を払いたくない自家用車やトラックもちょくちょく来る。
だから廃業って程儲からないわけではないし、年に何度かは大忙しだ。
その期間以外は結構暇である。
サバゲーしに来た客が寄る時間は、例外な時期を除けば閉園後の21時まで。
自家用車は0時頃までで、トラックは大体1時頃集中だがここが不定期だ。
渋滞で遅れたりして2時に来たり、4時に来たり。
「トイレ借りるよ~」と寄るドライバーもいるし、駐車場で仮眠してたりもする。
運送会社からは「休憩所として良いから、今後も使わせて下さい」とお歳暮を貰っている。
だから暇で客が滅多に来ないのに、24時間営業を家族経営でやっている。
バイトは、麓の方に学校があって、そこの学生が応募して来る。
ただ、基本は夜22時までで、深夜はやりたがらない。
帰るのが面倒臭い場所だからだ。
街灯少ないし、暗いし、怖いしね。
そんなこんなで、防衛省からの結構な額の臨時収入は親父と弟には嬉しいようだ。
面倒事のほとんどは俺が対応して、手伝ってくれた弟はともかく、親父は何もしてない…。
親父は(自分がする)面倒事は徹底的に嫌ってるので。
だから他人事なら無責任な事も言い出す。
再度、警察と防衛省からの呼び出しがあった時、親父は言いやがった
「いいお客さんなんだから、要望には出来るだけ応えてやれよ」
…気楽なこった…。
送迎車を降りたら、今回は警察ではなく防衛省の方だった。
なんか大きい会議室に通された。
人は既に集まっていて、中にはうちのコンビニのフランチャイズ本部の統括部長もいた。
「久しぶりだね」
たまーーに研修会とかで会ってるから、お互い顔は知っていた。
「ご無沙汰しております。部長も呼ばれたんですか?」
「実は私は、もうちょっと前から関わっていたんだよ」
なんか俺の知らないとこで話が進んでいたようだ…。
広瀬三佐が俺の方に来た。
「呼び出したのに恐縮ですが、こちらに署名捺印お願い出来ませんか?」
む?
機密保持に関する誓約書?
資料等持ち込み/持ち出しに関する確認書?
その他諸々書類書類。
なんか面倒になって来たなあ。
流されるままに署名捺印をした。
「議長、OKです」
三佐が言うと、会議が始まった。
参加者については省略する。
大体、一々覚えてはいない。
挨拶に続いて報告があった。
まず、以降は例の洞窟を「ガ島門」と呼ぶ事に決まったようだ。
略称は「門」または「ゲート」。
…自衛隊が絡む、そういう小説・アニメがあったよな…。
その門に関して、調査を進めてさらに分かったようだ。
【門についての報告】
・3時±10分から5時±10分の間、現代とガ島が接続される
・その他の時間に接続された証拠は無い
・現代とガ島とは同じ時間の進み方をしている
・ガ島は現在1942年10月29日であり、日本軍撤退まで残り4ヶ月程である
・日本軍撤退、米軍の島制圧後は速やかに門を爆破し、閉鎖する事が望ましい
【門を通過出来る人間に関する報告】
・ガ島から現代には来られるが、逆は不可能
・現代からガ島へは動物も移動不可能
・現代に来られる人数は生死問わず3人まで
・一晩の内であれば、戻って別な3人と交代する事が可能
・少尉以上の士官は現代に来る事が出来ない
・ガ島戦参加者で、現代まだ生きている人は来る事が出来ない
(同じ時間に同一人物が2人存在は出来ない)
【門を通過出来る物資に関する報告】
・持ち出し可能な金額は1人あたり2000円+α、3人分まで
・現代に居られる人数は最大3人で交代可能だが、物資を持ち帰る事が出来る人数は
交代していようが物資に触れた3人のみ。
・合計6000円ではない。例えば
甲が1500円、乙が2000円、丙が2500円という振り分けは出来ない。
また、交代要員を使った
甲が1500円、乙が2000円、丙が2000円、丁が甲と交代して残り500円というのも出来ない
・持ち込んだ物を、未使用で再度現代に持ち帰った場合、別な物と交換可能
・持ち込んだ物を使用して現代に持ち帰った場合、使用分は交換不可能
・意図的に値引きした物は、元の金額で換算される為、高額商品はやはり持ち出し出来ない
・無料の食品については、同等物の販売価格が適用される模様
ただし米粒や水などの「量」でまとめて金額が設定されるものについては現在調査中
・セット商品や見切り品で安くなったものについては、その金額が適用される
(意図的に安くした物は適用外だが、賞味期限等で商品価値が下がった場合は適用)
・武器に限らず、火薬や燃料も持ち出し出来ない(マッチやライター程度は可)
・高額な医薬品等は、瓶単位でなく錠剤単位でなら2000円以内で持ち出し可能
・工具やネジ等の当時も同種の製品が存在した物は持ち出し可能
【現代の技術や知識を伝えてしまう事に関する報告】
・本は持ち出し不可能、従って戦史や地図等は持ち出し出来ない
・その他、歴史を変えかねない情報も持ち出し出来ない
・紙そのものは持ち出し可能だが、手紙やメモをつけると「持ち出し」は出来ない
しかし手紙やメモを「持ち込む」事は可能
・口伝えで戦局を変えられる重要情報を教えても、あちらの世界に戻ったら忘れてしまう模様
・電子機器のように、オーパーツとなり得る物も持ち出し出来ない
・現代の技術で作られたものでも、食糧や薬品、衣類等の消耗品は持ち出し可能
・持ち込んだプラスチック製品等当時存在しない物質は、消費後に消滅する
【治療に関する報告】
・現代にやって来た兵士は治療可能で帰還後に治療効果が消えることも無い
・こちらの世界で高度医療による治療を受けた者も帰還可能
・つまり2000円以上の医薬品を持ち出し出来ないが、患者として迎えれば問題無い
【歴史改変に関する報告】
・これまでのところ、現代が関与した事による影響は認められない
・歴史上死亡する人物が現代に移動しても、現地時刻でおよそその日になったら死ぬ
・死因や死亡日は若干改変可能とみられる(要調査)
聞いていて、俺はいくつか疑問に感じた。
質疑応答の時、聞いてみた。
「生死を問わずとか、その日に死ぬとか、試したんですか?」
「試した」
冷たい返事だった。
「先日、ガ島で大規模な戦闘があってね…」
…………………………………………………
1942年10月24日、日本軍は米軍に攻撃を仕掛け、撃退されたそうだ。
いや、今日この時もまだ戦っている部隊があり、現代に来たのは撃退された部隊からだった。
「残念な報告だが、現代に最初に来た西田軍曹だが、彼は死亡した」
「ガ島に戻したんですか?」
「いや、彼を通じて色々話を聞いていたのだが、今から3日前、24日の総攻撃が行われた翌々日に
何の前触れもなく死亡した。
調査したら彼のいた部隊はその攻撃に参加し、壊滅している。
おそらく史実通り1942年10月24日からの戦闘で『戦死』したのだろう。
そして、彼が死亡しても現代に来られる人数は増えなかった。
彼の遺体をガ島に送ったら、3人来られるようになった」
沈黙が包んだ。
「つまり、戦死予定の人を現代に避難させても、運命は変わらないという事だ」
「歴史は変わらない」
「まだ調査例が少ないが、数時間から数日は時間をずらせるかもしれない。
それがどれだけ延長出来るかは分からないが、おそらくガ島で死ぬ予定の兵は
こちらでどんな手を使ってもガ島から生きて出る事は無いだろう」
出席者のつぶやきの後、再度沈黙。
俺も言葉が無かった。
議長が咳払いをすると、その横の人が口を開いた。
「さて、このように大きくは歴史が変わらない事が分かったのだが、
それ故に現代の我々は、可能な範囲でガ島の日本軍を支援する事に決めた」
「????」
俺にはよく分からなかった。
「感情的なものなのだが、ガ島で飢えと病気で死ぬより、戦って死んでもらいたいのだ」
「結果は一緒でしょ」
「それでも、です」
再び沈黙。
「この件は公になれば問題になります。
近隣諸国の文句はともかく、同盟国たるアメリカも面白くは無いでしょう。
また、歴史が変わらないのに支援して何になる? 税金の無駄遣いだとも言われるでしょう」
(そういう人は、歴史を変えられるなら変えられるで『そんな事をして良い筈がない』
と批判するだろうなあ、と思ったが黙ってみた)
「なので、1日最大6000円という、誠に小さなものではありますが、
極秘に支援を行いたいと思います。
ひいては関係者各位の協力をお願いしたいと思っております」
視線が俺と統括部長の方に集まった。
部長は
「この件は上の者も了承しています。協力いたします」
はっきり答えた為、俺は驚いた。
『いいんですか?』
「上も承知って言っただろ。
何があったかは言えないが、協力しろ、社としてもバックアップする、だそうだ。
それで、あとは君のとこを活用するから、責任者として私が来たってことだ」
…やっぱりうちのコンビニ使うんかい!!
かくして、憶測が立ちやすい自衛隊による現場封鎖とかはせず、
現場は偽装して隠した上で、ひっそりとコンビニで取引を行うこと、
渡した分の商品情報は報告として上げる代わりに、
毎月定額で協力費(予想より大きい額だった)が貰えることになった。
風呂や休憩所は使わせてやって欲しい、と。
医薬品は、統括部長の責任で「取り扱い店」に指定し、納入される事になった。
在庫が無い場合は統括部長に連絡し、送って貰う事になる。
深夜はワンオペでしていたが、無給で自衛官がバイトという形態で派遣されて来る事も決まった。
期間は現地で日本軍が撤退するまでの約4ヶ月。
金銭面でも責任面でもうちに損は無いが…
面倒ごとは増えた、確実に…。
それと、何か引っかかる。
俺が呼ばれたのは、何度か会議が行われた最終段階だ。
俺がいない間に、何か別な話があったのではないか?
ただ単に「本来餓死、病死する兵士を、本懐通り戦死させてやりたい」なんて理由で
世知辛いコンビニの親会社まで巻き込んでこんな極秘作戦を行うのだろうか?
それと、金銭にシビア(やる企画はたまに間抜け)な本社が、どうしてOKを出した?
いつかは統括部長にでも、この辺突っ込んで聞いてみよう。
絶対、何か裏がある。
こうして俺は、本格的に旧日本軍と関わる事になった…。
(続く)
感想ありがとうございます。
設定の説明はこの回にて大体終わります。
感想で色々通る設定の穴を書かれてましたが、
その通りです。
色々抜け道、逃げ道があるってのが「鍵」です。
徐々に作中の人物がそこを見つけていきますので、
願わくばあまり先回りし過ぎないで下さい。
これにて序章的な部分終了。
次回からもう少し掘り下げていきます!
土日で大分書き溜めが出来ましたので、あとは推敲しつつ上げていきます。