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コンビニ・ガダルカナル  作者: ほうこうおんち
第8章:過去に開いた「門」の話
54/81

【会議室にて】×3

1943年1月4日 ニューブリテン島ラバウル:

この会議の参加者は第8方面軍司令官今村均陸軍中将、第17軍司令官百武晴吉陸軍中将、

南東方面艦隊司令長官草鹿任一海軍中将、第8艦隊司令長官三川軍一海軍中将、

大本営海軍部第一部長福留繁海軍中将、連合艦隊参謀長宇垣纏海軍中将、

第二水雷戦隊司令官田中頼三海軍少将、同戦隊次期司令官小柳冨次海軍少将、

第三水雷戦隊司令官橋本信太郎海軍少将、第十戦隊司令官木村進海軍少将だった。

重要な事は中将級が決め、少将級はその実戦部隊を率いることになる。

福留は東京から、宇垣はトラック諸島から、百武はブーゲンビル島からやって来た。

田中頼三少将は、この作戦を最後に舞鶴警備隊司令官に転任する事が決まっていた。

だがこの作戦については「慎重な田中にやってもらいたい」という

山本五十六連合艦隊司令長官の意向があり、

既に任地到着した小柳少将とともに第二水雷戦隊を指揮する事になった。

先任の田中少将が指揮系統上の上位だが、田中は

「自分は任務に専念するから、戦闘指揮は君に任せる」

と言っていた。


「さて百武さん、辻君の口車に乗せられたのは残念だったね」

今村が労うが、百武はかえって恐縮した。

「だが、一部だけでも既に撤退させていた事で、実行部隊の負担は軽くなるでしょう」

「第17軍では、撤退は困難だから玉砕させろという意見が多く、

 そういう者の多くは辻とガ島に残っておりまして…」

「では現在の司令部には玉砕論者はいないのですね?」

「悲観的ではありますが」

「ですか。ならば、十分に作戦を練って悲観論などどこかに飛ばしましょう」

今村はそう言った。

彼も不安が無いわけではないが、既に大本営からガ島撤退の命が下った以上、実行する他ない。

しかも天皇からの勅という形であり、期待に応えなければならない。


海軍の方も、同じく勅を貰った山本五十六が本作戦に積極的であった。

自身の代理として宇垣参謀長を派遣し、ラバウルで協議をさせた。

作戦は概ね、史実通りの「一部に陽動である上陸作戦を行い、攻勢と見せかけて撤退」と決まった。

(それは先日失敗した辻の作戦と、そう大きくは変わらんではないか)

と百武はどうしても不安をぬぐい切れずにいた。

そんな彼に、ガ島から連絡が入った。

「辻からか?」

「いえ、例の洞窟の向こうの日本からです」




ガ島、「門」は再び賑わうようになっていた。

負傷兵が来ては治療し、食事をして帰って行く。

12月27日の攻勢は、健康状態の回復した兵を中心に行った為、

かつての飢えた、免疫も低下した兵に比べて回復が比較的早かった。

また通信兵や工兵が来て、「門」や陣地、通信機の修復を行っていた。

そんな中で、”新方針”が定まったようで、ガ島側司令部への連絡希望が出た。

辻政信は、最早威勢の良い事を言えなくなっていた。

ガ島撤退を完璧に近い形で行わないと、勝手に総攻撃をかけた責任を問われてしまう。

罪を贖うに功を以てして、という昭和の軍部の悪癖があった。

しかしこの場合は、それが有効に働いたと言える。

辻は全身全霊で生き残りの兵をまとめ、撤退させるよう働いていた。


だが未来日本の要求は辻宛ではなく、その上の司令部までである。

(吾輩を無視するか!)

と辻は怒るも、既に第三次総攻撃失敗の報は未来にも届いたようで、

(かくなったのも仕方なしか…)

と切歯扼腕しながら、回線をブーゲンビル島の第17軍司令部に繋ぐ許可を出した。

未来側は通信兵に教育を施し、直接ブーゲンビル島に通信を送った。

だが、百武中将はラバウルに赴いていた。

ここからさらにリレーする形で、ラバウルに無線を繋げたのであった。

ガダルカナル島からブーゲンビル島までは、デジタル通信(音声のみ)が届いている。

ブーゲンビル島からラバウルまで通常の軍用通信を使う事になった。

こうしてかねてよりの悲願であった、百武中将を介した今村中将との交信が出来た。


-------------------------






20XY年1月8日深夜3時 東京市ヶ谷

「今村中将が通信に出ました!」

会議場は大喜びだった。

「はい、気を引き締めましょう。百武中将は『門』を知っていても直接見てはいません。

 今村中将は『門』そのものを知らない。

 その人に我々の事を信頼させるのは至難の業だと思って下さい。

 目の前で兵士が往来するのを見ていた辻政信より、ある意味難しいでしょう」

会議室は静まった。

常識人であれば常識人である程、「どこの空想未来小説か」と相手にしないだろう。

だが、辻政信を介してとはいえ、散々に補給をしたし、百武中将に薬を渡したり、

噂となって伝わるような事は今までやって来た。

やって来た事が回り道でも、無駄道では無かったと信じたい。

「もう思い切り、核心に迫りましょう。作戦名を出して」

「向こうしか知らない筈の情報をこちらが持っていれば、何らかの反応はあるな。良し!」

パソコンから会話を入力する。

それがモールス信号に変換され、「門」境界面での電磁波励起を使った通信に使われる。

受け取った信号をデジタルに変換し、増幅してブーゲンビル島の中継基地に送信する。

ブーゲンビル基地ではそれを通信兵が、ラバウルへの通信に打ち直して送る。

そうして出た電文が

『ケ号作戦の進捗は如何なりや?』

であった。


しばらく時間が経ってから

『ケ号作戦とは何か?』

という返信が来た。

これは予想通りである。探りを入れて来たのだ。

辻政信の時は腹の探り合いをしたが、もうそんな時間も無い。

『去る昭和十七年十二月に裁可されたガ島撤退作戦の事である。

 今村閣下並びに連合艦隊の山本閣下が勅をいただいた事も当方は知っている』

そのように送信。


返答は

『そのような事実無し』

であったが、ここで本音をぶつける。

『腹の探り合いをしている時間的余裕無し。

 ケ号作戦を当方は全面的に支援する所存である。

 ついてはいくつかの要求をしたい』


更に時間がかかって、返答が来た。

『諸君たちの事はかねてより噂になっていた。

 信用出来なかったので試すような真似をした。

 確かに時間は無い。

 要求を述べられよ』


やっと会議室にホッとした空気が漂う。

そして要求を行った。

・ガ島とラバウルの間に新型通信を開きたい。

・ケ号作戦に参加する駆逐艦に対し、新型装備を設置したい。

・ラバウル及びブーゲンビル島に対し医薬品を補給したい。

・1943年1月から2月にかけて、米軍の行動記録を渡したい。

・以上の細かい作業について、海軍の下士官を当地に派遣して貰いたい。

 改修作業の為の研修を行う為である。

・必要な物資を直ちにラバウルに運びたいから、潜水艦を派遣して欲しい。


返答が来た。

・委細承知。

・設備については2組送られたし。1組だけでは潜水艦が撃沈され、失われる可能性がある。


・追伸、本職の攪乱においては心配をかけた。

 もう大丈夫だから、兵士の為に働いて欲しい。 第17軍司令官 陸軍中将百武晴吉


異存は無かった。

そして急ぎメールで書類系のものが「門」前の基地に送られた。

「どうしてプリンタの紙が切れてるかな!?」

自衛隊(うち)の貧乏体質はよくご存じでしょうに」

そうブツブツ言いながら、俺の勤めるコンビニにプリントアウトしに自衛官が来ていた。

「門」が閉まる最終便で、多数の書類が「仏舎利」に詰められてガ島に送られた。






-------------------------


「これは………」

勝手に書類を開けて見た辻政信は驚いていた。

・1月10日 駆逐艦「初風」 米軍魚雷艇襲撃により大破

・1月19日14時35分 輸送船「妙法丸」、米潜水艦「ソードフィッシュ」により撃沈

・同日夜間 駆逐艦「秋月」、米潜水艦「ノーチラス」の雷撃で大破。

 味方潜水艦との見誤りによる

等等…。

「こんな事が分かれば、敵軍を待ち伏せして先制攻撃可能ではないか」

「あの、辻中佐殿。海軍の情報を見て、どうにか出来るんですか?」

「いや、出来ん。詮無き事を言った。

 それにしても、では何故この書類に匹敵する情報を、吾輩には送って来なかった?」

「…あの双眼鏡や無人偵察機があれば、書類にするより確実な情報が取れますからね。

 それでも負けたわけですし……」

「言うな…」

辻も今は強く出られない。


潜水艦と大発に乗せ、2組でなく4組バラバラにリスク分散させて、ラバウルに向かった。

潜水艦は無事にラバウルに着いた。

そして、深夜までには通信機を組み立て、ついにガダルカナル島と通信が繋がった。

当時の技術では解読できない暗号化方式が使われていた。


「これが未来の記録による、我々のこれからの行動だと言うのか?」

宇垣中将は艦艇・船舶・航空機の出撃・喪失地と日時が示された図に愕然としていた。

出撃して来る米艦隊の位置も記録されている。

このように攻撃すれば、このような被害が出るというのが分かるものだった。

(未来の日本等、単なる与太話だと思っていたが…)

真剣な顔で眺める宇垣や三川中将に対し、田中頼三少将が口を挟んだ。

「宇垣さん、それは話半分に見ていた方が良いですよ」

「ほう、貴官は信用してないのかね?」

「いえ、どっちとも言えません。しかし、戦場は不確定です。

 潜水艦を恐れて縮こまっていても、潜水艦の方から攻めて来たら結局同じ事です。

 それよりも自分は、送られてくる予定のこの装備の方が気になります。

 新型の水中探信儀、水平方向のと垂直方向のもの。

 潜水艦の位置を割り出すには、紙の資料よりこちらの方が良さそうです」




ラバウルから東京の大本営にも連絡が入った。

ここには、今村中将ら将官の総意で「未来の日本から示された支援」については秘せられていた。

堅物の東條総理が目にしたら、全員を乱心と断じてしまうかもしれない。

送られたのは、未来日本からの情報も考慮された、改修型ケ号作戦と言えるものであった。

未来予想(実際には既に起きたことだが)等は入れず、余計な航空攻撃や輸送作戦を控えた

計画が届けられ、2月上旬の完全撤退を予定していると結んでいた。

東條や杉山総参謀長は喜んだ。

ここに割いている船舶を国家の為の輸送に戻せるのだから。

そして辻政信も第三次総攻撃に失敗し、随分とケ号作戦に協力的になっていると聞く。

「辻君が居なくなったせいで、随分と事が早く運ぶようになった。杉山さんはそう思いませんか?」

「そう思わないでもないですが、口にしたら可哀そうですな」

「ふむ。もしも撤退を上手くやり遂げたなら、先般の失態は罪に問わず、

 陸軍大学校教官に推薦してやろうと思いますが、どう思います?」

「東條さんのお好きになさい」


20XY年の市ヶ谷、1943年のラバウル、そして大本営でガダルカナルの運命は変わろうとしていた。

(続く)

感想ありがとうございます。

改編した過去が乖離なので、現代の置換かは今後出します(書き上がってます)。

とりあえず今までは「色々変えてしまったけど、手持ちの史料に変化が全く無いし、

こっちとあっちは別なんじゃないの?」って感じになってます。

だから「もうこっちは好きな事をする、好きなように送るから、そっちはそっちで好きにして。

でも、こっちのやりたい事にそっちとの連携もあるからね」ってなってます。

……だとしたら「我々の先人」って扱いが微妙になるんですが、その辺は惰性かも。


正直、本気出してガ島戦動かすのなら、辻政信ごときでなく、

大本営と第8軍と連合艦隊に話しかけないとどうにもなりません。

それは分かってましたが、いきなりそうさせない為にも「門」は制限だらけでした。

制限無しなら、最初から近代兵器持った部隊送って米軍駆逐し、その戦果と威力を見せた上で

第8軍や連合艦隊に未来を教え、そこから大本営動かして「南方戦略の見直し」とかさせれば良い。

それくらいしないと動かせないとは思います。

それをさせないが為の「門」の「未来から人は行けない」「未来情報は消される」でしたが、

大分セキュリティホールが見つかったので、何とか出来るようになりました。

が、こんなあっさり今村中将説得できるかと言うと、無理だと思います。

無理を可能にさせるとしたら、今まで散々補給した事が彼に伝わっていて、

南方では公然の秘密くらいになってる積み重ねが必要でしょう。


ぶっちゃけ、未来と過去が双方本気出したら、俺氏とか辻―ンとか小者に用は無くなります(笑)。

辻―ンは頭を超えてやり取りされるので、ストレス溜まることでしょう。

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