2回目と3回目の間の話
2回目の「門」が開いたと思われる年:
東京都港区赤坂 某料亭
「総理、わざわざお越しいただきありがとうございます」
「いえ、野党だった先生から、是非にと言われまして、断る理由もありませんしね」
ここで周囲に聞かれない話をしているのは、かつて「門」から出て来た兄と再会した政治家先生と、
その後の選挙で与野党逆転し、政権奪取した党の総理大臣であった。
政治家先生は、もう「元」を付けた方が良いのかもしれない。
この与野党逆転となった選挙の時に落選し、年齢も年齢だから引退したのだから。
「では先生、ご用件とは?」
総理大臣に対し、「門」の存在、出現から爆破までの経緯を話した。
それだけではただの与太話に過ぎないが、先日横須賀の防衛大学校でも同様の事件が起きた為、
「一度ご確認していただきたい。僕の言ってる事が嘘ではないと分かりますから」
そう念を押した。
総理大臣は秘書を呼ぶと、直ちに確認を命じた。
2人が料理を食べ終わる頃には、その話が本当だったという調査結果がもたらされた。
「先生は何をお望みですか?」
「僕はね、折角現代にやって来た先人を助けられなかったのが残念でね。
いや、結果として助けられなかったのならまだいいんです。
あの時、うちの党の総理は話を聞かず、放射能が出たってだけで一方的に閉鎖した。
やれる事も出来ずに、見捨てた形になったのが残念なんです」
「お気持ちは察します」
「もう過去に繋がる通路が出来ないなら、有った事は胸に抱えて引退していました。
しかし2回目が起こった、また過去に繋がり、今回は2人を助けられた。
3回目、4回目だってあるかもしれません。
その時に国のバックアップが欲しいのです。
前回も今回も、小規模に、個人として動いただけで、救える人数だって僅かです。
だがもし国が居たならば?
現代の国民はもちろん大事で、放射能を入れまいとした元総理の判断を否定はしません。
でもそうでなかったら、先人だって日本人ですし、国で助けられませんかね」
「仰ることは分かりました。確かに苦労なさった先人は、救うべき同じ国民です。
そこまでは私も賛成です。ただ、国を動かすとなると………。
先生は私にした説明で、所属していた党を説得出来ますか?」
「いえ……、出来ませんでした」
「そうですよね。私だってこれでは党内を説得出来ません。
党も国民も説得出来ない以上、国が大っぴらに支援なんて出来ません」
「そこを何とか」
「いや、先生、落ち着いて下さい。私は『大っぴらに』と言ったのです。
秘密のプロジェクトチームを作り、何かあった時に対応させる事は出来ますよ」
「おお!」
「そのプロジェクトチームにはですね、先生が入っていただきたい」
現総理大臣は曲者である。可能性を見せた上で、責任は己で取れと言っている。
それが分からない政治家先生ではない。
(若造め、抜け目がない。総理大臣になるのはこういう人か…)
そう思いつつも、表では笑顔で
「自分なんかでよろしいのですか? 是非とも立ち上げに加えさせていただきます」
そう頭を畳にこすりつけた。
「まあまあ先生、頭をお上げ下さい。まずは一杯」
酒を注ぐと、総理は少し考えてから
「この話は、実際に見たり証拠を得たりした人でないと、信じてはくれないでしょう。
報道とかで発表しても、国が嘘をついていると見做されます。
私なんかは、疑惑から目を逸らす為の作り話だと、さらに批判の種になるでしょうね」
「はい」
「秘密で動かせるのは、実際にその過去に触れた人間、組織。
そこに話を通してみるとこまでは私が面倒をみましょう。
それ以上は先生の才幹ひとつと思って下さい」
要は、警察や防衛省等の官僚については話を通すが、それ以上の支援体制に必要なもの、
食糧や医薬品だのを用意する、医者を待機させる、その他の物資等は自分で準備しろと言っている。
無理もない、秘密のチームに国が税金を投入して物を揃えるわけにはいかない。
例え国で揃えたとしても、いつまでも「門」が開かない場合、無駄遣いとして批判される。
だが政治家先生は、先の「門」の時に某コンビニのオーナー企業の会長と知り合い、
何かあったら協力する誓いを立てていた。
「分かりました。その点は心配ありません」
「おや、既に当てがある顔ですね。先生もまだまだやりますなあ。
どうです? 引退を撤回して、うちから出馬しませんか?」
「はは…、有り難い申し出です。今回の事が無かったら、飛びつかせていただいた。
しかし、このプロジェクトチームが出来るなら、僕はそっちに専念したいと思ってます」
「先生」
「はい」
「秘密から国を動かすには何が必要だと思います?」
「先人の苦労を伝えて…」
「そんなんじゃダメですよ。その過去に繋がる通路の、科学的な裏付けが欲しいのです。
本当に過去に行けるのか、過去から人が来るのか。
それと、その通路の科学的なメカニズムを明らかにして、現代の我々が使えるかどうか、です。
画期的な技術の進歩に繋がるのなら、国は先行投資という形で金と人を動かします」
「ははあ、成る程……」
そう言いながら政治家先生は、総理は同情心とか先人の苦労という
右派政治家的理念で話していない事を理解した。
もっと功利的に考えている。
(戦中の苦労を救いたいだけではなく、過去への道を調べる事によって
現代日本でも使える科学技術を得ようってのが本心か…)
「それともう一つ」
「まだ何か?」
「先生はお嫌いでしょうが、我が国とアメリカは同盟関係にあります。
戦中の日本人を助けて、それがアメリカ人の命を脅かすとなると、
国として動こうとしても確実に介入を受けます。
大義名分としては『歴史を修正してはいけない』です。
私はリベラルからは『歴史修正主義者』と見做されていますしね(笑)」
「それは、考えなくもなかったです」
「もし先生が望む戦中の苦労している先人を救ったとしても、
それが歴史改変に全く繋がらないという事が証明出来たなら、
歴史を変えるのではなく、人道支援という大義名分で押し通す事が出来ます。
ですから、プロジェクトチームの役割は重要ですよ」
何のことはない。政治家先生は、上手く難題を押し付けられたのだ。
総理は秘密の支援として、人事とコネの面では動くが、
・過去へ行ける道の科学的な分析
・過去を支援しても歴史が変わらないという根拠
・過去へ支援する物資の自弁
・過去へ支援する事を国民に説明して納得させられる証拠
これらは自分でクリアしろと言っていたのだ。
それがクリア出来たら、税金使って本格的にやってやるよ、と。
しかも、過去に行ける道の科学的な分析が、現代日本で使える技術となったならば、
功績はプロジェクトチーム立ち上げを命じた総理大臣のものとなる。
過去への道が出来なかった、またはそれが致命的失敗に終わったとしても、
「協力するように」程度しか言っていない総理は、批判の火の粉を振り払える。
(戦後生まれの若造の癖に、曲者だな。…うちから出した総理の面々とは違うな…)
利用される形ではあったが、動く権限は得たし、役所との連携も保証された。
後は動くのみ。
政治家先生は「戦時中の日本人の生活について振り返る勉強会」と言うのを立ち上げ、
それは後援は内閣府であるとして、官庁や企業、さらには大学やシンクタンクを集めた。
勉強会の中で秘密を共有し、かつ役に立つ人物を、プロジェクトチームにスカウトした。
統括部長や広瀬三佐にも白羽の矢が立った。
そして「いつか開く、過去への通路」についての研究会は、隔月ペースで会合を開いた。
最初は親睦会のような感じではあったが。
そうした中で、あるシンクタンクの研究員が
「どうして大戦中の日本にばかり繋がるんでしょうね?」
と根本的な疑問を口にした。
いや、研究員はその疑問の答えを用意していて、あえて口にして興味を引いたのだ。
「思うに、これは自然に繋がったものではなく、あえてそうしたんじゃないでしょうか」
「過去への通路は、意図的に開かれたと? そんな技術がどこに?」
「もしも解析に成功したら、我々自身がその技術を持てますよね」
「では、誰が何の為に過去への通路を作ったと言うのか?」
「誰かは分かりませんが、目的は分かるでしょう。
我々に過去の日本人を支援させよう、そういう事です。
開いてみて、助けるのか、助けないのか、観察してるのかもしれませんね」
「我々は試されていると?」
「可能性の一つです。ただ、次も同じように過去の日本と繋がったのなら、
もう恣意的なものと考えて良いのではないでしょうか」
「うーーーむ…」
そして、もしも偶然ではなく、人為的に、しかも目的を持って過去への道が繋げられたのなら?
「次の開通はどこになると思う?」
意見が出た中で可能性が高いものをまとめると
・1945年3月10日 東京(東京大空襲)
・1945年2月~3月 硫黄島
・1944年11月 サイパン島
そして可能性はやや低いながら
・1945年4月7日 坊の岬沖 戦艦大和艦上
というものが考えられた。
日本周辺としか繋がっていなかったからである。
この分析から「東京大空襲時はともかく、他は戦場に繋がる可能性がある」とし、
武器・弾薬・燃料・医薬品・工具を備蓄する事が決まった。
それに際し、政治家先生は時に政府の名を使って、関連工業を巻き込んだ。
そうしてちょっとずつ、密かに一個の軍隊を作るような感じで備蓄をしていった。
その裏には「何者か知らないが、助けるか助けないか見ているような連中に、
しっかり助けてやるとこを見せてやろうじゃないか!
ちょっと歴史を変えるかもしれないが、それは道を繋げたお前らのせいだぞ」
というような反感もあったかもしれない。
そのまま数年が過ぎた。
準備した物は無駄になるかな、とも思われ始めた。
そして連絡が飛び込む。
「どうやら過去への通路開通の可能性です。東京某所のコンビニエンスストアから
日本兵が出て来て倒れたと通報がありました。
現在警察が動いています」
その報告が出た。
(続く)
感想ありがとうございます。
昨日、一昨日と予約投稿してPCの前にはいませんでした。
沖縄、琉球語については使おうか悩みました。
正しい使い方分からなかったので、間違って使うよりは読めるようにってことで、
ツッコミむしろ歓迎、教えて下さい!って感じで標準語で書きました。
プロット決めて、一気に書き上げるやり方してますので、細かい事に悩み過ぎて
勢いを削ぎたくもなかったので。
あとこの回政治の話ですが、政治家に特定のモデルはいません。
モデルにした政治家何人かの足し算です。
特定の誰かを侮辱する気はないですし、賞賛する気もないです。
「総理」は、だから記号の1つです。
一個弁解すると、2011年の方の総理、モデルは誰か分かるでしょうけど、
「今の東京を守るのが最優先で、過去なんか知らん!」
は判断上正解だと思ってますので。
正解でも、不満が残ったから物語に繋がったって事です。




