第三次ガ島総攻撃
時間は遡る。
1942年12月26日:
アメリカ陸軍第25歩兵師団師団長コリンズ少将とアメリカル師団師団長パッチ少将は、
前線に警報を発した。
日本軍が接近している、彼等は迂回コースを採っていて規模は掴めないが、大規模である。
何より想像以上に体力と高い士気を維持している。
「攻撃は苛烈になる事が予想される」
「陣地を固め、M2重機関銃による長距離射撃で応戦せよ」
「我々は夜明けまで守り切れば良い、あとは航空支援を要請する」
指示は短く、明確だった。
トッド軍曹の陣地でも応戦準備が始まり、土嚢を積み上げ、早めの食事が済み、あとは
「ジャップお得意の夜襲」を待ち構えるだけとなった。
日付が変わり12月27日0時、クリスマス休戦切れ。
0時0分30秒には日本軍からの砲撃を確認した。
「おいおい、早過ぎだろ。そんなんじゃ女に嫌われるぜ」
と冗談を飛ばしていたのだが、今回の攻勢は確かに面倒臭かった。
「ジャップは夜行性動物か? なんで暗闇の中、あんな場所に居るんだ?」
とアメリカ兵たちは不思議がった。
地形から高所を抑え、そこから重機関銃陣地やスポットライト等を狙撃する事は予想出来た。
それゆえに障害物を置いたり、地雷を埋めたりしたのだが…
「どうして見えているんだ?」と驚かされた。
また、歩兵部隊なのに火力が尋常ではない。
一体いつ補給されたのか、小銃擲弾を惜しむ事なく使ってくる。
しかも「陣地の奥を見通している」かのように、要所に放物線を描くように撃ち込んで来る。
機関銃を潰されたり、観測所を狙われたり、倉庫を爆破されたりし、苦しい戦いを余儀なくされた。
だが、アメリカ軍各陣地に下された命令は「防御に徹する」事であった為、構造物が破壊されても
地形に拠って守りを固め、機関銃が無かろうが小銃を絶え間なく撃ち続け、戦闘を継続した。
トッド軍曹の陣地は日本軍の突破を許さなかったが、いくつかの戦線では死傷者こそ少ないものの、
陣地の火力が低下した隙に日本軍の部隊が突破し、後方に向かっていった。
通信設備は「何故か」狙い撃たれ破壊された為、個人携帯用の無線で司令部に報告を入れる。
コリンズ少将は「想像以上にまずい」と認識を改め、参謀に日本軍の攻撃目標を諮った。
「陣地をすり抜け、後方への浸透を第一にしている以上、
この司令部を攻撃して指揮系統を破壊する事 及び
物資集積地や港湾を攻撃して我々を窮乏状態に追い込む事
これが目的ではないかと考えられます」
2つの師団司令部は、重要拠点に至る道に水陸両用戦車、M3軽戦車を進めさせた。
暗闇での進行で、難航しているところを、随伴歩兵が「狙撃」された。
「散開しろ! ジャップは暗闇でも狙撃出来ると思え!」
その指示も虚しく、随伴歩兵は撃たれて戦列を離れる。
別な戦場では、日本兵の短機関銃の弾幕に、随伴歩兵は戦車の影から動けない。
その内に擲弾によって履帯が破壊され、戦車は動けなくなった。
それでも戦車は機関銃を撃ち、随伴歩兵は戦車を決定的に破壊する為、
戦車に地雷を取り付けようとする日本兵の行動を阻んだ。
山岳では日米双方の激闘が続いていた。
そして日本軍の切り札が切られた。
2000程の精鋭部隊が戦車を先頭に、海岸寄りを突進して来た。
山岳の戦闘と浸透戦術はそれ自体が陽動、本命は機動力による港湾破壊であった。
気づいた部隊もいたが、この方面にはなけなしの日本軍の砲兵も投入されていて、
火力支援も中々苛烈であった。
だがそこまでであった。
日本軍の戦車は、新型のアメリカ戦車と遭遇した。
丸っこい図体、巨大な砲。
Type-97とアメリカ軍が呼ぶ戦車があっさり撃破された。
そして日本軍の攻撃はその装甲に歯が立たない。
(※HEAT弾は陽動と補給地攻撃という目的から多くは支給されていない)
「なんだ、あの化け物は」
その日本軍の叫び声と裏腹に、米戦車兵は余裕であった。
「流石M4A1中戦車、なんともないぜ!」
~~~~~~~~~~
時はさらに遡り、1942年12月上旬。
ガダルカナルに最初に上陸したアメリカ海兵第1師団は、交代間際に小戦闘で捕虜を得た。
日本軍は「捕虜になるくらいなら死を選べ」と教育していたが、実際に捕虜になった時に、
どこまでの権利が認められるか、喋らなくても問題無い、等の教育をして来なかった。
ゆえに、尋問に遭った日本兵はペラペラと何でも喋る傾向にあった。
その日本兵の発言は、海兵第1師団長ヴァンデグリフト少将を驚かせた。
「ジャップがナチの機甲師団を呼び込んだだと?」
無論、欺瞞の類だとヴァンデグリフトは考えた。
だが、いくつか気になる情報も上がっていた。
日本軍の居ると思しき場所を、海兵隊では度々空襲しているのだが、
その中にやけに砲身の長い角張った戦車の破壊報告が増えていた。
それは日本軍の偽装戦車で、囮として使われていたものだったが、
(短砲身の戦車しか使っていないジャップが、新型を開発したのか?)
と疑問を感じていた。
念のために航空写真を撮影した。
そのピンボケ写真に写っていたのは、角張った車体に細長い砲身の戦車だった。
「こいつはドイツ戦車ですぜ」
そう断定された。
更に間の悪い事に、Ⅲ号突撃砲らしきものの写真も撮影された。
ヴァンデグリフトは、日本兵の言う「日独伊三国同盟戦車隊」等は信じていない。
実際、イタリア戦車は見当たらないのだから。
しかし可能性として「日本がドイツ戦車を輸入、あるいはライセンス生産をした」かもしれない。
半信半疑ながら、ヴァンデグリフトは本国に報告を送った。
アメリカ陸軍情報部(MIS)はこの報告を信じはしなかったが、
一方で開戦前に中華民国空軍に義勇兵として参加していた
「フライング・タイガース」が送った報告、
「日本には途轍もなく優秀な戦闘機がある」
を無視し、痛い目に遭った愚を繰り返さないよう考えてもいた。
さらに報告は続く。
交代途中の海兵第1師団を乗せた輸送船が、
ガダルカナルに向かう日本軍の駆逐艦から攻撃を受けた。
情報部では「日本はまだガダルカナル島占領を諦めてなく、更に増援がなされた」と判断した。
可能性としてゼロではない、日本によるドイツ戦車の運用。
北アフリカでの戦いで、イギリス軍にレンドリースしたM3軽戦車は
ドイツの戦車に全く歯が立たなかった。
例え数両でも、ドイツ戦車がいるならば、アメリカの優位は覆りかねない。
そう判断し、総司令部の許可を得て、本来予定の無かったガダルカナル島に
新型のM4A1中戦車1個中隊の派遣を決めた。
やがて暗号解読や情報分析の結果、ドイツが戦車を日本に送った事実は無いと判明したが、
4両のM4A1中戦車は既にガダルカナル島に向かってしまっていた。
残りの派遣は中止したが、既に送ったものは「当地で使用して良い」とした。
情報部は他にもガダルカナル島からの情報を精査していた。
UFOの報告も多い。
「フー・ファイターの報告とは違うのか?」
「違うようだ。超小型の機械で近距離で見た報告によると、
4枚から6枚のプロペラがついたジャイロだそうだ」
「回転翼機だと? 確かに兵器の類ではあるが、ジャップにそんな機械作れるのか?」
「その油断が、零戦を無視して緒戦で痛い目に遭わされたわけだ。
可能性は常にあると思っておけ」
「OK。だが俺が思うに、それこそドイツからの輸入じゃないのか?
ジャップがジャイロを作ったって報告は無いが、ナチ公は5年前にはもう飛ばしていただろ」
「或いは合衆国から漏れた、とかな」
「まさか」
「シコルスキーのヘリコプターは現在軍用に改造中だ。この情報が洩れていたら…」
「……防諜を見直さんとな。日系人の隔離・収容は機密保持上重要と、大統領にも報告しておこう」
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話をガダルカナル島の戦いに戻す。
4両のM4A1は魔王のような破壊力を発揮していた。
この巨大な鉄の塊は、被弾経始もあって手持ちの火力や、
日本軍の戦車で破壊出来る代物ではなかった。
またその75mm砲は日本のあらゆる戦車を簡単に貫いて破壊した。
日本軍の切り札たる電撃作戦が新型戦車に止められた頃、各地の陣地戦でも転機が訪れた。
「夜が明けたぞ」
ヘンダーソン飛行場は、夜明け前の薄明時から陸軍のP-39、海兵隊のF4Fが出撃し始めていた。
そして位置報告を聞くと急行し、日本歩兵を機銃掃射や爆撃で蹴散らした。
やや遅れて、同じ意図を持って出撃したブインからの零戦部隊が駆けつけたが、
やはり近い基地から出撃したアメリカ軍に機先を制せられ、日本の歩兵部隊は総崩れとなった。
今更ながらの陸攻十数機のアメリカ軍陣地爆撃も精度が荒く、大した効果も無かった。
12月27日6時には日本軍は撤退を開始した。
トッド軍曹が見た日本軍の潰走は酷いものだった。
以前の日本兵は「死兵」であり、背を見せることなく無謀に攻撃し、死んだ。
だが今回の日本兵は一度崩れたら、今までとは違って脆かった。
何かに縋るかのように、背後から撃たれる事も気にせずに逃げていった。
「なんだ? ジャップは逃げる先に希望でも残ってるのか?」
軍曹の陣地では、守り抜いて撃退した喜びからか軽口が飛び出した。
だが、兵士レベルでなく司令部レベルでは話が違った。
逃げる日本軍の向かう先を偵察した戦闘機は、巧みに偽装された日本軍陣地の数々を発見した。
日本軍が息を潜めていた時期には見つけられなかったのだが、
傷ついた日本兵が大量に逃げ込んでしまった為、明るみになってしまった。
その報を受けた第25歩兵師団とアメリカル師団は、前線の兵士に一時の休養を与えるとともに、
予備兵力と戦車を投入して、追撃を命じた。
「奴らが逃げ込んだ先には希望があるようだ。それを踏みつぶせ!
この島は開け放ったパンドラの箱だ! 希望等残っていない事を教えてやれ!」
M4A1中戦車の他、応急修理を終えたM3軽戦車も追撃に加わる。
上空からはP-39が重砲でコンクリートで防御された日本軍陣地を襲撃する。
12月27日午後からの戦闘は、逃げ惑う日本軍を「狩猟」するような様相を呈した。
トッド軍曹らにも出撃の命令が出たのは、12月29日になってからだった。
既に前線は大分先に進んだが、日本兵は多くが密林に逃げ込み、散発的に抵抗して来る。
残兵狩の任務で軍曹らは出撃した。
何人もの日本兵に、樹上から狙撃され、逆に狙撃し返して倒したりしながら新年を迎えた。
軍曹らは、空襲を受けたが完全破壊は何とか免れた日本軍陣地跡で休息を取った。
「こいつら、いい生活してやがるぜ」
と上司が言う。
側溝を掘り、排水出来るようになっている他、壊れてはいたが小型の扇風機があり、
木造りの甕には新鮮な水が入っていた。
病院だったと思われる陣地では、重傷だった日本兵が手榴弾を腹に抱えて自爆していた。
「連れていって貰えなかったんだな」
そう言う横では
「おい、ペニシリンがあるぞ」
「何だって? お前日本語読めるのかよ?」
「英語で書いてる。どっかの部隊が横流ししたな!」
「道理で病気で弱ってる筈のジャップが元気だったわけだ」
「裏切者を探せ」
その激高を指揮官が制した。
「勝手に決めつけるな。ジャップはドイツから手に入れたのかもしれない。
今回の奴らの行動は何かと不可解だ。
この随分と清潔な病院だってそうだしな。
まだ日本軍には余力があるものと考え、警戒を厳にせよ!」
そう言われた晩、元の日本軍陣地で野営している部隊を襲撃から守るべく歩哨の任に当たった
トッド軍曹は、12.7mm銃弾の掃射で一部が崩れた洞窟を発見した。
その洞窟は足場が整えられ、滑らないよう砂も撒かれていた。
「何だ? ここは?」
一旦報告に戻ろうかと思ったが、もしもそこに誰かが潜んでいて、背後から撃たれたらかなわない。
軍曹は小銃を構え、洞窟を覗き込んだ。
そして足を滑らせてしまった…。
(続く)
感想ありがとうございます。
人名間違いは修正いたしました。
史実じゃ銃剣突撃、白兵戦狙いだった日本軍が、
短機関銃ガンガン撃って来て、短射程のグレネード撃ちまくり、弾切れさせないので、
アメリカ軍としても面食らってる筈です。
いかにM2ブローニングがあっても、相手も機関銃持ちならやっぱ苦戦します。
最初はこの歩兵戦で浸透させようかと思ったのですが、どう考えてもアメリカ軍の
前線は突破出来ても最終防衛ラインまでは無理っぽかったんで、
いつぞやの風呂敷畳む意味でもなけなしの戦車突入させました。
「日本軍+近代兵器でTUEEE」やりたかったんですが、攻撃読まれていたら米軍に勝てないって結論になりました。
あと、話の都合上シャーマン投入しましたが、それ無しでもアメリカの勝ちでしょう。




