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コンビニ・ガダルカナル  作者: ほうこうおんち
第6章:足作戦
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「足作戦」分析・その3:結果を踏まえた新しい輸送

「『門』を開けた『何者か』の心理と、どうやって金額チェックをしているか、

 それが分かった上でどう『兵器』を持ち出すか…」

そのテーマに戻った。


匿名(アノニマス)氏は不機嫌な声で

「だから、武器供与(それ)をやるって事で統一見解(コンセンサス)取れてんすか?」

そう聞くも、モゴモゴモゴモゴ。

参加者は

「聞くだけ聞いてみたい。どうやっても、今の量に毛が生えた程度の輸送量なら、

 現状のままで大丈夫じゃないか、と思う」

と歯切れが悪いが、一方で方法論には興味があるようだった。


(危険な状態だな…)

匿名(アノニマス)氏は思う。

(問題を先送りし、方法論だけに興味を持ってしまった)

これでは『門』を開けた『何者か』の幼稚さと大して変わらない。

(僕が考え付いた方法は、本当に大量に輸送可能なんだ)

(それを言って脅してみるか…)

葛藤の後、口にする事にした。

(これは僕でなくても、考え付く事だから、長所短所を明確に言わないとな)


「某劇画の凄腕狙撃手(スナイパー)は、愛銃を銃規制の厳しい国や場所に運ぶ時、

 分解して銃と見せないようにしている」

反論が来る。

「それは試した」

「いや、試していない。その部品の金額データベースがどこかすら掴んでないだろ」

「………」

「すまない。続けて欲しい」

「あのGという狙撃手(スナイパー)に倣うなら、部品サンプルとか水道管とか模型とか、

 とにかく見た感じ全く武器に見えない物に偽装して送る。

 自分たちが見ている『門』の場合、それらが武器で無いとしても、

 今度は金額チェックが働いて、2000円以上ならば弾かれてしまう。

 だから、その送る『製品』をデータベースに登録し、そこで金額を1円にでもすれば、

 部品を大量に、堂々と運ぶ事が出来る。

 そして設計図を『仏舎利』に入れて現地組み立てをすれば、

 あっという間に師団単位の武器を1942年に送る事が出来る。

 そう、分解してパーツにし、金額を偽装して運び込んだ後で組み立てるなら、

 理論上戦車だって戦闘機だって運搬可能だ。

 まあ、こいつらは人間が運ぶには重過ぎる代物だが…」


興奮の色を帯びる参列者に冷水を浴びせる。

「…本気で歴史を変えられるんだぞ。大量の死者を出すぞ。

 その覚悟はあるのか?」




参列者の中から強硬な意見が出た。

「ここに至っては、歴史を変えてしまう『結果』を恐れてはいけない。

 今まで我々が助けた日本人を、どうやって多くガ島から脱出させるか。

 その為には戦車だろうが戦闘機だろうが、運べるなら運び、

 現地部隊に運用して貰うのが良いだろう」

「…なるほど、日本人を助けた代償で、アメリカ人を殺す事に躊躇は無いと。

 本来死ぬ筈の日本人を助ける事が、本来死ぬ運命にないアメリカ人を殺す事に繋がっても

 それは仕方ない、と」

そう言う匿名(アノニマス)氏に、その発言者は

「それこそ『結果』に過ぎない。結果は現地の部隊に負って貰おう。

 我々の歴史には変化が起きていないのだから、『結果』を恐れる必要も無いではないか」

呆れながら匿名(アノニマス)氏はその人物を見る。

(確か野党の政治家、前々回の選挙で落選しているな。引退してたか?)

そう思い出していた。

ふと隣を見ると前田警部が渋い顔をしている。

警察関係者は全般的に「歴史を変える事に反対。人道支援だけ」という立場だが、

(それすら中途半端だが、歴史に介入している事に何ら変わらない)

そう思う。

前田警部の渋面はそれとは違う。

彼のプロファイリングの「深く物事を考えない」がここにも居やがる、という表情だった。


この政治家に対し

「今までは何も起きなかったかもしれないが、先ほど彼が言った方法だと

 明確に歴史の転換点を作れてしまう。

 『結果』が与える影響が大き過ぎて、今度こそ我々の今の世界に影響が出るかもしれない」

そう反対している人物もいた。

(あの人は大学の教授だけど…理系じゃなかったな、社会学か何かだったかな)

匿名(アノニマス)氏は観察する。

「えーと、何さんでしたっけ? 質問していいですか?」

(この人も大学関係、こちらは工学部だったかな)

「どうぞ」

「セキュリティの観点から見て、その偽装輸送は影響が大き過ぎるから、

 すぐに『何者か』は気づいて対策してしまうと考えられます。

 その点どう考えますか?」

「あ、そりゃ当然です。『誰かさん』は歴史との乖離で短くなっていた開通時間を、

 一回繋ぎ直して元に戻したんでしたよね?

 つまり、たまには見てるって事っす。パスワードが怪しくなったから変えるか、って頻度で。

 それに対し、何度も何度も偽装輸送なんかしたら、バレますな」

「やるなら一回?」

(やれやれ、方法論に走ってしまった)

そう思うが、答えてしまう。

「一回とまでは言わないが、この輸送は使い捨てと考えて、短期間集中で大量に。

 それでなくては中途半端で終わるか、バレてしっぺ返しを食らうか」

「しっぺ返し?」

「それが何かは分かりませんよ。でも、自分なら何か手を打ちますよ」




この会議では結局方法論の議論で終わり、解散した。


賀名生(あのう)さん」

「前田さんスか。酷い会議でしたね」

途中参加組の2人が挨拶を交わす。

「お二人さん、コーヒーでも飲んでいかない?」

統括部長が誘い

「いいですよ、奢りで」

「あ、私は市民から接待を受けられないので、自腹で」

そう言って庁舎内の喫茶室に入った。


「賀名生さんって、結局苗字は本物なんですか?」

「そう思ってもいいですよ」

「…違うんですか。まあそれはともかく、流れが危ない方に向いて来ましたね」

「おや、貴方もそう感じますか」

「あれで感じない方が鈍感です。どうしたらいいか、確たる自信が無いから、

 技術論を聞いて、それで出来る無難な方、やるだけやっても問題が出ないとこ、

 と方針なくそちらに流れようとしてます。

 まるで前田警部さんがプロファイリングした『思慮の足りない子供』じゃないですか」

「おおー、統括部長さんもその結論にたどり着きましたか。素晴らしい」

「賀名生さん、茶化さない。で、部長はその話をするのが目的ですか」

「ええ、そうです。

 ただ、私も意地だけで『足跡』を掴んだ人間です。

 それ以上の方針が有るかって言ったら無く、会議でも何も言えませんでした。

 お二方はその辺、どう思ってますか?」

匿名(アノニマス)氏は砂糖湯コーヒー風味を作りながら、逆に問う。

「どうして日本軍の支援に固執してるんだろ? 無視する、壊すって選択肢もあったよね。

 その辺り、何か知らない?」

前田警部も続く

「今回は『何者か』をプロファイリングしましたが、この会議のメンバーも興味深い。

 何かがあって、補給だけは何としてもやりたいっていう執念がある。

 その先はバラバラなんですが」

統括部長は首を傾げた。

「お二方とも、前回開いた『門』の経緯は知らされてないんですか?」

匿名(アノニマス)氏はため息をついた。

「部長さん、チョロいね。

 僕さ、匿名だから機密保持契約書に署名してないんだ。

 署名したって本名じゃないから無意味だって。

 だから、聞かされてない事多数あるんだ。

 でも、今の話は興味深いね」

統括部長は『しまった』という表情になった。

「私は機密保持に署名してますが、賀名生さんの保証人って事もあり、

 要警戒らしくてその話は聞いていない。

 聞かせて貰いますよ」

統括部長は諦めた。

「チョロくてすみませんね。でも、そうであれば余計に、河岸を変えませんか。

 肝心な会議のお膝元で喋る話ではないでしょう」

「だね」

「そうしましょうか」

3人は防衛省の喫茶室から出る事にした。




防衛省の別室では、広瀬三佐が科学担当と続きの会議をしていた。

「進展していなさ過ぎる。時空転移のメカニズムはまだ糸口も掴めないのか?」

「エネルギーが出る、それも空間そのものから。ここから先がどうしても分からないんです」

「空間からエネルギーが放出されるというのは、宇宙創成(ビッグバン)とかでしょう。

 しかし宇宙創成理論も確たるものではないですし」

理論物理学の議論になりかけた為、三佐が止める。

「今日の、あのハッカーが言った話はヒントにはならないか?」

一同は考え込んだ後で、

「もしも人間とその所有物を何らかの形でデータ化し、量子通信で送信出来るならば、

 時空に穴を開けて透過させる事は可能と考えます」

「量子通信で、XML程単純ではないでしょうが、大量のデータを送り、

 送った先で再構築するならば理論上は可能です。

 人間をデータ化する上で、送った先の時間での時限消滅式や、

 記憶を封鎖する信号を付加することが出来るでしょう。

 しかし…」

「しかし?」

「だとしても空間を繋げるエネルギーそのものは分かりません。

 そこがネックなんです。

 2点間の空間を歪めくっつけ、穴を開けて送信する、所謂ワープというもの。

 これは空間を歪めるだけの超重力を必要とするのです。

 それをどこから持って来るか。

 それが分からなければ、例え人間を配列化した信号に変えて転送出来ても、

 現在の空間を彷徨うだけで、その先に進めません」

三佐は頷きながらも、自分の意見を言ってみた。

「確かに空間を歪めるにはそれだけのエネルギーが必要だろうね。

 でも、本来乗り越えられない障壁を超えて粒子を通過させるって、

 江崎玲於奈先生の理論であったよね」

「トンネル効果…」

「理論的に使えない?」

「………調べてみます。必要なエネルギー値を下げて再計算させます」

「頼むよ。『門』を使った先人を助ける事は我々の悲願ではあるが、

 それ以上に日本の技術革新の為にも、何としても『門』のメカニズムを

 掌中に収めないと。

 どんなに反対が多くても、この一点で大学の教授陣も手伝ってくれてるんだから」

「努力します」

科学担当の苦闘は続く。

『帰す為の穴を、いつか我々の手で開けてみたいものだ…』

(続く)

種明かしパート3部目。

感想で散々予想されたりしましたが、

「門」とは穴だらけのズタボロ設定です。

これは物語上は何者かが開けたにせよ、メタ的に門を考えたのは自分であって、

自分が完全じゃない以上、自分の作った制限もまた不完全です。

でも制限を設けた理由が、無条件に何でも持ち込める、何人でも行き来出来るなら、

少なくともガ島戦は勝てるようになります。

勝ってどうするの? ガ島にしか門が無いなら、その島封鎖されたら大局に影響無いよね、とか色々考えて、

風呂敷拡げ過ぎて畳めなくならないよう、ガ島戦で一区切り出来る小説にし、その範囲で現代の物資を持ち込もうって事になりました。

そうしたら脳内の人物たちが「その制限ならこういう突破法がある」とか色々動き出したので、素直にそれを書いてみたのがこの小説です。

この章で「突破する有力な方法」が出来ましたが、ここはそれ、登場人物が勝手に動くので、

残り1ヶ月ちょいの現場時間ですが、そう簡単には武器の持ち込みはさせないつもりです。

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