戦場(ガダルカナル)のメリークリスマス
1942年12月23日昼 ガダルカナル島にて
「Freeze(動くな)!」
白旗を持った日本兵は、アメリカ兵に銃を向けられ、足を止める。
「Surrender(投降か)?」
と問われるが、聞き取れないようだった。
日本兵は脇に抱えていた封筒を前に出し
「レター・フォー・ユア・キャプテン!」
と怒鳴った。
「Letter?」
数人が銃を突きつけたまま、1人がそれをひったくった。
そして
「Follow me(ついて来い)」
とジェスチャーをした。
(ここからアメリカ軍も日本語で)
「ふふ、ジャップめ。面白い事言って来た」
キャンプの1つでアメリカ陸軍第25歩兵師団に属する一部隊の隊長が手紙を見て言った。
「師団司令部にも連絡を入れよう。俺個人は反対だな。毒でも入れられたらかなわん」
~第25歩兵師団司令部~
「ジャップめ、シャレた事言って来たな」
師団長コリンズ少将は、通信文を参謀長に見せた。
参謀長は
「ほう、クリスマス休戦の申し込みと、ささやかなプレゼントとしてケーキと発泡酒を贈る、ですか」
「参謀長、ジャップがこんなジョークを言って来た記録はあるか?」
「いえ、今まで聞いた事ありません。彼等は寝て起きて戦うだけの、真面目な戦争猿ですから」
「戦争屋でなくて、かね?」
司令部で笑いが起こる。
「しかし、同様の通信が何ヶ所かから同時に来ている。どう見る?」
「クリスマス休戦は本気かもしれません。しかし…」
「しかし?」
「休戦の隙に兵を接近させ、休戦明けに奇襲ってとこでしょう」
「同感だ。ならば、この休戦あえて受けて待ち伏せするか」
「御意」
「ささやかなプレゼントとやらだが、どうする?」
「捕虜となっている日本人で試しましょう。
何か食い物だったら、適当に選んで、まず捕虜に毒見をさせましょう。
毒だったら自分の罠で自分たちの仲間を殺すことになります」
「なるほど。では、本当だったら?」
「折角くれるんです。貰っておきましょう。
卑怯日本人ですが、ブシドーとかいう正々堂々な部分もあるそうです」
「よし決まりだ。軍使に手紙を書いて帰そうか。
あと、今後の事をアメリカル師団とも話をしておくか」
アメリカル師団はガダルカナルの戦いにおける先任であり、
「アメリカ」+「ニューカレドニア」で「アメリカル」とした、
当時は正規番号の振られていない師団であった。
最先任の海兵第1師団が交代した今、ここが古参となる。
師団長パッチ少将の元にも、前線から不思議な手紙が届いていた。
そして熟慮し、コリンズ少将と同じ結論を出した。
両者は無線で話をして、休戦を受け入れることにした。
同日夕刻、同ガ島 第17軍司令部
「辻参謀殿、前線陣地より入電。軍使が戻ったとのことです」
「首尾は?」
「米軍、休戦申し出を受け入れるとの事でした。
ただし条件として、休戦日にあたる24日、25日、26日中は両軍共に軍を動かさない事、
毒物混入等の戦時国際法に悖る行いがあった場合、休戦は直ちに破棄される事、
以上了承ならば、という事です」
「毒か。その手もあったな」
「冗談でしょう?」
「冗談だ。流石に吾輩もそこまで姑息な手は使いたくない」
こちらの司令部でも笑いが起こる。
「『門』からの武器補充はどうなっておる?」
「当初の1個分隊につき2挺の短機関銃要請を、1個分隊につき4挺に増やし、
撤退時の支援にあたる部隊用合わせて計1000挺を要求していました。
制限が厳しく、現在は600挺程度となっております」
「あと3日、総動員ででも武器を持ち込め」
「それなんですが、持ち込む数が思ったより増えないのは、
『仏舎利』として持ち込める小銃擲弾筒が加わった事で、
短機関銃及び弾丸の輸送が減ってしまった、
双方補給だと無理があるから、こちらで調整して欲しいとの事でした」
「君はどう考えるかね?」
「確かに未来の日本軍の言う通り、密林で戦う上では
軽くて、射程距離が短いが弾をバラ撒ける短機関銃が便利です。
しかし今回は襲撃を行う訳ですから、敵陣突破用の火力が必要です。
小官は小銃擲弾を優先すべしと考えます」
「そうだな。短機関銃の弾丸は他と換えが効かんが、
小銃擲弾筒とやらは我が軍九九式短歩兵銃にも装着可能。
1個分隊あたりの火力を高める上でもそちらが良かろう。
『門』の主計にそう伝えておけ」
「はっ」
「戦車はどうか?」
「『門』からもたらされた軽油で、戦闘を行うには十分であります。
また、未来からの依頼で構築した偽装戦車への敵空爆で目を逸らせた為、
上陸している戦車は全台稼働可能になりました」
「『門』からの工具も良かったので、故障していたものも修理を終えました。
問題は砲弾不足です。
1会戦にあたり57ミリ砲は10から15発程しか無いようです」
「九五式の37ミリ砲はどうか?」
「それも20発程度」
「野砲、山砲は?」
「十五糎榴弾砲、十糎加農砲の砲弾は十分にあります」
「では戦車はあくまでも弾除けとして歩兵の先に立った突入に使い、
攻撃は砲兵によるものを主としよう」
「”どろおん”とか言う無人偵察機が役に立ちますな。
ところで、どのような意味なのですか?」
「オス蜂、ひいては怠け者という意味だな。
ほれ、働き蜂は皆メスだからな」
「そう言えば、一度出撃させると長期の蓄電を必要とするとか。
5分飛ばす為に半日休むなど、確かに怠け者ですな。
此度ばかりはこき使ってやりましょうぞ」
日米双方、休戦と、その後に向けて動き始めた。
…本来はこの小銃擲弾を優先して送れと言って来た時点で気づくべきだった。
自衛隊が本来想定していた「夜間の移動で後方に進出し、ゲリラ活動」ならば
短機関銃の方が必要なのだ。
陣地を突破する為の火力というのは、陣地をすり抜けて後方に浸透という戦術からしたら
失敗した時の話になる。
この時点で「辻の目的は心理的奇襲ではなく、前線含めた全島での攻勢」と
気づくものが出ても良かったのだが…。
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20XX年12月25日22時。
「はい、デコレーション撤去! 安売りシール貼るぞ」
俺のコンビニのシフト時間。
親父に聞いたが、案の定こんな山奥では5個しか売れなかったそうだ。
「上の門前の爺さんとこの息子さんが、帰りに買っていったぞ。あとは…」
いや、もうその辺どうでもいい。
在庫が大量に出たってことだな。
…うちだけクリスマス無しでいいんじゃね?
統括部長が来た。
「今日は特別な値引きをしますんで」
と説明を始めた。
「チキンレッグ10本入り、一箱5円」
「は??????」
俺は仰天した。
アリそんなの?
変な価格設定したら、絶対「門」は弾く。
「うちの経営規則の、特別編のとこ。
ここの福祉施設への寄附って項目読んでみ」
「えーと、福祉施設への寄附。
季節もの売れ残り商品の廃棄前寄附について。
『節分豆、恵方巻き、バレンタインデーチョコレート、雛あられ、土用鰻、
クリスマスケーキ、年越しそば等、
決まった日に大量に仕入れたものが、販売日を過ぎて大量に売れ残った場合、
福祉施設等への寄附を可とする。
この場合、統括部長の許可を必要とする。
賞味期限が短く、寄附をしない場合廃棄するものについては、価格を最低5円とする事。
※寄附については税務署の審査対象である為、0円は認められない』
ほー、成る程です、分かりました。
これがあるから25日まで待ってたんですね。
要は、『門』の向こうの『施設』に合計6000円相当の
『黙っていれば廃棄予定の季節もの』を寄附するわけですね」
「ご名答!」
という事で、捨て値とはまさにこの事。
・チキンレッグ10本入りで1箱=5円
・ホールケーキ1箱+シャンペン1本=5円
・ショートケーキ8個入り+シャンペン1本=5円
保護者のいない児童や、虐待とかで親から離している施設なら、
これくらい安く、大量に送るのかな。
「…で、統括部長…」
「うん?」
「シャン〇リーの事をシャンパンとかシャンペンとか言うの、やめません?
単なる微炭酸飲料、シュワシュワですよね?
アルコール入ってませんよね?
アメリカ人が飲んだら、笑われますよ」
「仕方ないです。本物は高いんですから…。
あと、微炭酸じゃないです。結構な強炭酸ですよ」
「…それはどうでもいい話ですよね…」
こうして俺は、特別出張で「門」前にブースを作って、
日本兵にクリスマスチキンを渡すことになった。
恐ろしい程の特別値引きシールを貼って…。
(統括部長「施設とかの件、僕が急いで書いたテキトーな規約だけど、信じたのならOK…」)
(続く)
新章です。
前の戦車の章と同じく、ファンタジー章です。
話の都合上、欲しい章なので、優しい目で読んで下さればありがたいです。




