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コンビニ・ガダルカナル  作者: ほうこうおんち
第5章:絡み合う思惑
32/81

ガ島撤退に向けた牽制攻勢作戦案

1942年のガダルカナル島に持ち込まれた物で、当時の人も理解が及び、

非常に重宝する機械があった。

無線通信機である。

当時のものに比べ出力と、微弱な電波の増幅能力が段違いである。

無線そのものでなく、部品を持ち込んで現地で通信兵が組み立てた。

真空管の代わりの半導体、この理屈は分からずとも、操作盤や調整器等は1942年でも分かる。

全ての駐屯地には行き渡ってるわけではないが、1942年のガダルカナル日本軍陣地には、

旧式(アナログ)の箱をかぶった半導体型の通信機が設置されていた。


「門」近くの陣地と軍司令部との間は、この新型(デジタル)通信機で連絡を取っていた。

自衛隊からの提案で、送受信する際に自動で暗号化・復号する回路を取り付けてある。

傍受しているアメリカ軍には、雑音(ノイズ)のようにしか聞こえないデジタル暗号だ。

その通信は、検査をしたいから百武司令官の血液や尿、口粘膜等の採集を求めていた。


「儂はこの通り、何ともない。一度倒れたくらいで大袈裟過ぎる」

と百武は断るつもりだった。

「門」まで半日の道のりを、採集したサンプルを持って兵が行き来する、

それを嫌がっていた。


(これは使えるかもしれない)

辻政信はそう考えた。

辻は百武の方を向き、

「是非とも検査を受けていただきたい。この通り、お願いする」

と頭を下げた。

「貴官にしては珍しいことを言うな」

百武は驚いた顔で返す。

「今ここで司令官に倒れられたら、困るのは兵士たちです。

 是非とも彼等の求める採血などををし、検査をお願いします」

「司令、自分たちからもお願いします」

そう参謀たちからも頼まれたら嫌とは言えない。

軍医に命じ、求められた量の検査物を採集した。


「では、吾輩はこれを持って連中との再度の連絡を行いたいと思います」

辻は(うやうや)しく敬礼して叫んだ。

「貴官も腰が落ち着かんな。 兵士に任せれば良かろうに」

「いえ、この程度の事、苦ではありませんゆえ。

 それでは行って参ります。

 続け!」

近くに居た兵士を護衛に、辻は衛生兵と共に「門」に向かった。

「毀誉褒貶の激しい男だが、仕事熱心な事よ」

百武がそう感想を漏らしていた。


一方の辻は、思わずニヤついていた。

(こうして何度も向こうの頼みに応じておれば、こちらからの頼みも断れまい…)





20XX年の某コンビニエンスストア駐車場。

血液検査等を行える大型バスが止まっていた。

さらに「門」の方にも多数の医療用設備が持ち込まれていた。

計器を見ていた自衛官が

「もう間もなく『門』が開きます」

と報告した。

開いてすぐに兵士は来ない。

若干の時差があって、開通を確認してから来る。

しかし今日は実に早かった。


「里見衛生兵であります。司令官殿の検査用血液その他をお持ちしました。

 それと、辻参謀殿よりの手紙を預かっております。

 それは後で持参しますが、まずはこれを受け取り下さい」

そう言って、医療道具箱を渡した。

「確かに受け取りました」

自衛官は敬礼を返し、衛生兵に一度元の時代への帰還を促した。

彼は本日はこちらの世界に泊まり、現代医療のレクチャーを受ける。

だが、それでずっとこちらの世界にいると、食事や治療に来られる兵の数が2人に減るのだ。


医療バスの中では、百武中将の検査が急ピッチで行われていた。

既に昨日までの検査で、ガ島に未知の疫病が流行の可能性は消えた。

やはり、本来1944年に発症する筈の脳出血の前兆か…。


そして血液検査等より余程簡単な、現地で行った検査であっさり原因は特定されようとしていた。

「血圧が、下が175、上が240だぁ? もう高血圧が原因でいいですな」

「百武中将の写真があるが、痩せ型の体型だ。

 高血圧だとしても、もっと調べた方が良い」

「加齢なら仕方ないとして、塩分の摂り過ぎとかですかね?」

「ストレスの線もある」


他にも様々に検査が続けられた。

そうこうしている内に、そろそろ「門」が閉まる時刻である。

食事の兵士が引き上げ、「仏舎利」輸送で1942年からの届け物を持ち込み、

軍司令部に報告に戻る衛生兵に、現在までの検査結果と薬を託した。

最後に3人の衛生兵がこちらの世界に残った。


閉門後、3人の衛生兵は待たされていた食事を摂っていた。

そこに自衛官が来て

「この手紙は何?」

と聞いた。

里見衛生曹長と名乗った兵が

「それは辻参謀殿から預かった手紙であります。

 こちら側の、武器の補給に関する最高責任者に渡して欲しいとの事でした」

「それは了解しましたが、軍機なので、一度チェ…確認の為に目を通したいが、良いか?」

衛生兵は当たり前といった態度で頷いた。

検閲なんて当たり前で、許可を取る方が珍しいと言っていい。




『宛 未来の大日本帝国陸軍 本計画担当者殿

 発 大日本帝国陸軍中佐 辻政信

 

 ガ島より兵を転進するにあたり支援を要請す。

 心身健康に戻りし兵およそ二千を

 貴兄たちより頂きし偵察機器を用いて

 敵兵の少なき道を迂回し、

 敵本営及び補給物資集積所に一撃を加え、

 然る後に後退する所存である。

 

 この作戦案を示すゆえ、誤り在らば指摘願う。

 可なれば、この作戦を遂行するに十分なる武器弾薬の支援を頼む』


特におかしな事は書いていない。

多くの兵を退却させる前に、敵の追撃を止めるべく攻勢をかける。

その攻勢は犠牲を少なくすべく、少数精鋭を奇襲的に運用し、一撃離脱する。

史実では事前に察知されて迎撃されたが、現代の暗視技術を持ってすれば、

敵監視網の隙を縫って、敵後方に進むことも出来る。


一枚の手紙に作戦の全てを書いてくるわけもなく、

実際はもっと詳細に練られているのであろうが、

「これなら妥当な作戦だ」

と防衛省の背広組ではなく、実戦部隊たる自衛官も断言したそうだ。

「二千を分隊単位のゲリラコマンドとし、敵の監視に気付かれにくい夜だけ、

 少数で多方面から浸透し、後方で攪乱工作をして離脱する。

 どこかの部隊が見つかっても、少数兵力が多数の方面で行動するから、

 全滅させる事は難しい。1部隊でもたどり着けば、実被害はともかく、

 心理的にダメージを与えて守りに入らせる事が出来る。

 仮に全滅したとしても、二千ならば大局にそう影響は無い」

加えて言ったのが

「失敗した場合の退却計画もしっかりしないと、藪を突いて蛇を出す結果にもなりかねない。

 辻参謀にもメンツがあるから、追記として

 『貴官を信頼している。撤退時の作戦も疎漏無きと信じる』

 と添えてやりましょう」


その意見が会議の面々にも通った。

作戦に対しては大きく干渉すべきでなく、

未来の日本人の一番の希望である、犠牲の大きくならないガ島撤退を彼が言い出している以上、

細部に口を出し過ぎて臍を曲げられても敵わない。


残る問題は

「作戦を遂行するに十分なる物資の支援」

であった。

現代側は、色々要請し、それを1942年側が受け入れている事で、少々安心していた。

そして「向こうの言う事にも、多少は無理してでも便宜を図ってやろうか」と油断もし始めていた。


「さて、作戦に十分な物資だが…」

ある事はある。

こういう事を見越して、書類上廃棄した事になっている武器が用意されていた。

メーカー側に裏から裏から話を回し、納入した数よりも多くを生産して貰い、

登録番号無しで保管しているものもあった。

9mm機関けん銃がそうで、PKO活動の準備と称し予定数以上を保有していた。

(PKOならば海外の事になる為、臨時に友好国に支援したりするとか、

 地元勢力に引き渡すとかの"機密"もある程度黙認される)


発覚したら、省庁の裏帳簿とか政治家の献金隠しどころではない、大スキャンダルとなるだろう。

複数の省庁、企業、政治家がバレないよう帳簿を操作しつつ、

好きな時に手続き無しで投入できる一大兵団を隠し持っていたようなものである。

それだけに慎重論も出た。


「歴史を変えないだけでなく、アレを動かす事で、明るみに出たりしないか?

 自衛隊だって兵隊は存在を知らないのだろう?

 輸送担当の彼等が『おかしい』と思って、内部告発されたらおしまいだ」

「アレは2000円制限が分かる前に準備していたものだ。

 少数ならともかく、大量には運び込めない。『仏舎利』だって運べる量に限度はあるだろう?

 長々と補給をしていたら、明るみになりやすい」

「しかし、ずっと保管しておくのも同じくらいのリスクはある。

 どうせなら、ガ島で使い切って貰ったらどうかね」

「もしも、別の『門』が現れ、そちらの方がより武器を必要としていたらどうする?

 数年かけて貯めたものだが、使い切ったらまた数年かけて貯めねばならない」

議論はまとまらなかった。

差し当たりは、当時の日本軍の編制から、

1個分隊12名につき

・10名の小銃手(1942年の装備で賄い、分隊長用には予備用の短機関銃も供与)

・1名の機関銃手(現代の短機関銃を供与)

・制圧火力としての手榴弾

この170個分隊分の短機関銃(サブマシンガン)を準備と決まった。

手榴弾は現地にまだ十分にあるという判断だ。

追加で別の武器を送る等どうするかは、まだ定まっていない。




朝を迎えた「門」の過去側で、辻政信はほくそ笑んでいた。

「吾輩はあえて控えめに要求した。

 彼奴(きゃつ)らは下手に出て来る相手にどう対応するかな?

 何よりも、こちらは司令官の情報という、大層なものを差し出したのだ。

 そこまでした者の強い頼みを、果たして断る冷たさがあるかな?

 吾輩が見るに、軍司令の精密検査を願い出るなど、冷たく振る舞っているが、

 実際には彼奴(きゃつ)らの血は熱い。

 浪花節の日本人が、吾輩の手練手管に対抗できるかな?

 フフフフフ・・・・」

(続く)

感想ありがとうございます。

考証的なのは完了させてから書き直そうかと思います。

設定の方の補足です。

埼玉、近い線いってますが、コンビニは一応東京です。

道路で行ったら埼玉が近く、バスで30分くらい乗れば中央線の駅に着くから、都内に出るのも便が悪くはない。

ちょっと行けば、入間や狭山から群馬、新潟方面に出られます。

…って大体どの辺か分かったかと(笑)。


あと基本名前ついてる兵士下士官は第2師団、東北人です。

最初の西田軍曹は一木支隊で栄養失調が酷く要入院。

他は動いて物資運ぶ余力がまだあった第2師団。

後から来た第38師団は10月の時点では居なかったので。


今日は2回更新します。

次話は20時に投下します!

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