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コンビニ・ガダルカナル  作者: ほうこうおんち
第5章:絡み合う思惑
31/81

軍司令官が倒れたらしい

その日、1942年ガダルカナル島からの、辻政信からの通信は無かった。

延期されたそうだ。

代わりに会議室の面々が首を傾げる事態が発生したという。

第17軍司令官百武晴吉陸軍中将が倒れたという報告が入った。




俺の勤めるコンビニに買い出しに来る兵士は、特に変わった様子はない。

浜さんは「司令官の不予とか、末端までは知らされませんよ」とのこと。

士気に関わるから秘密にされるらしい。


「クリスマスチキンの為には、参謀じゃダメなんだよ。

 やはり軍司令官の承諾が必要だから、治って貰わないと困るよ」

と統括部長が電話の向こうでボヤく。

あんた、そんなに鶏の足が重要か!?

「いやいや、胸肉の部分も重要だよ」

そういう話してんじゃねえ!

「ケーキも大量に送るからね」

迷惑だ!!!!






-------------------------


「司令官はご無事か!?」

辻政信が大声で入って来た。

「辻中佐、声が大きい。頭に響く…」

どうやら百武司令官は無事なようだった。

「おお、大丈夫そうで安心した」

「そうでもありません。突然倒れられ、半日程昏睡していました。

 今は大丈夫ですが、あの時は本当に肝が(すく)みました」

「司令官が参謀に心配をかけるものではありませんぞ」

偉そうに言う辻に百武は

『貴官が来てから儂の頭痛が酷くなったのだ!』

と心の中で毒づいた。


「軍医、司令官は何の病気なのか? マラリアやデング熱ではあるまいな」

それではないようだ。

では一体?

「深刻な病気であるなら、この島では検査道具が足りていません」

「騒ぐな、中佐も、軍医も。

 どうって事は無い。3万将兵の生命を預かる者として、

 頭痛程度で寝ているわけにはいかんだろう」

「その覚悟は立派ですがね…、ふむ…」

辻は偉そうな態度で考えた。

そして

「補給基地近くの小隊に伝令。

 医療支援を要請する、患者は百武中将」

と命じた。

「中佐!」

「度々倒れられては指揮上問題ですからな。

 なあに、あの未来の技術があれば、閣下の病気等どうとでもなりましょう」


-------------------------






広瀬三佐が、コンビニの隣の元ドライブインに詰めている。

何人かスタッフを連れて来ている。

医官たちも多数「門」の方に待機していた。

彼等は百武中将の治療の為に来たのではない。

万が一、百武中将を襲った病が伝染病で、「門」を出入りする兵士が罹患していたなら、

と検疫及び予防の為に集まったのだった。


浜さんは、3人の中では一番ガ島戦の細かい事を知っている。

俺は司令官が倒れるなんて大変ですね、と話を振った。

すると

「この時期に百武中将が倒れるなんて、史実には無かったことです」

と深刻な表情で返事をした。

「どゆこと?」

「歴史が変わりつつあるということです。

 百武中将は、ガダルカナル戦より2年後に倒れるので、

 早い方に歴史が変わったかもしれません」

「早い方に変わると何か不都合があります?」

「どれくらい早まったかにも拠るんですが…」

最も恐るべき「歴史の加速」の例として

「もしも原子爆弾が史実より早く完成してしまったら?」

「その場合、3発目の投下があるって事ですか?」

「それもあるんですが、怖いのは『どこに投下されるのか』が分からなくなる事です。

 例えば2発目の原爆は長崎に落とされましたが、

 完成が早まってもっと早くテニアン島に運搬され、

 1945年8月9日でない日に投下命令が出たならば?

 元々8月9日は小倉が目標だったんです。

 小倉上空が曇りで投下に適さないから、長崎に変わったんです。

 知ってますか? 原爆投下目標候補には、京都も含まれていたんですよ」

歴史が変わるという事を、俺はようやく恐ろしい事だと思った。

別に京都に思い入れがあるわけではないが、1日変わっただけでどこが被害に遭うか分からない。


「まあ、今のは極端な例です。

 何が起きたのかは分かりません。

 単純に百武中将個人の歴史が変わっただけかもしれません…」

「百武中将は史実ではどうなったんですか?」

「彼は史実では1944年に脳出血で倒れるんです。

 そのまま戦後まで生き延びはしますがね。

 しかし、1944年の発病が今に早まったのなら、

 折角のガ島撤退計画に支障が出るでしょうね」

「それって、俺たちが歴史に介入した事が理由ですかね?」

「可能性はありますが、違うかもしれません。

 ただ、自分たち自衛官も上から『SFごっこは控えよ』と注意されてますので、

 もうこれ以上の憶測は止めます。

 百武中将の発病が早まった可能性のみを指摘しておきます」

そういうと、元の愛想の良いおっちゃんに戻った。



「門」前の神社で検疫態勢が強化されているのとは別に、

広瀬三佐が医官たちと話をしていた。

内容はやはり百武中将が倒れた件だ。

広瀬三佐は歴史を調べてからここに来ているので、

やはり本来は1944年に発病という事を知っていた。

しかし医官と話をしているのは、もっと専門的な話であった。

「史実だと脳出血だそうだが、原因については何か史料がありますか?」

「調べた限りは無いですね。現代でも原因は一つではないので」

「検査項目は血液検査でいいね?」

「他の検査も必要ですが、それで状態の絞り込みは出来ます」

「血液検査をするからと連絡を入れ、向こうの軍医に採血して貰おう」

「採集瓶はこちらから送ってやらないと、ガ島には無いでしょうね」

「血圧計はどうだ?」

「戦前からありますが、ガ島に持って行ってるかどうかは…」

「よし、予備で小さいのを入れておいて。他には…」

「軍医から体温、脈拍、呂律が回っているか等の問診結果を送ってもらいましょう。

 これは無線を使えばすぐにでも結果が来ます」

「痛み止めはどうする?」

「症状を抑え込んでしまって、原因が分かりにくくなるので、今回はやめましょう」

「冷えピタシートくらいは送っておきますか。症状はそのままでも、多少楽になるかと」

「症状次第では気休めにもならないがね」

「軍医をこちらに送って貰うってのはどうでしょう?

 診察方法、治療方法を伝授出来ます」

「軍医は任官即将校だから、こっちに来られないぞ」

「いや、大卒すぐの軍医なら特務曹長だから、ぎりぎりでこちらに来られる」

少尉の下、准尉がダメで曹長が「門」を通れる最高位である。

「そんな新米軍医がガ島に居るだろうか?」

「聞いてみないと分かりません。使える者は何でも使わないと」

「衛生兵は下士官だから、こちらに来られるな」

「あとは、医師免許を持つ者が徴兵とかで入営した場合、これも下士官だ。

 こういう人がいないか、探して貰わないとな」


「門」が開く前に打ち合わせは全て終了し、配置についたようだ。

広瀬三佐は元々科学畑の人で、超常現象(オカルト)である今回は現場監督っぽい役割をしている。

現場によく来るのはこの人だ。

監督は作業員がどう動くかを事前に決めておくのが仕事で、あとは不測の事態でない限り

作業中の現場をウロチョロせずに、どっしり構えておくってのが三佐の心得のようだ。

(作業の段取りを決めるまでは現場によく足を運ぶが)

だから三佐は元ドライブインの休憩所で、あちこちに連絡していて

今は「門」の方には行っていない。


三佐が連絡所の留守を誰かに任せて、コンビニに来た。

息抜きなのか、普通に買い物をした。

コーヒーミルク入り砂糖抜き、あとガム。

俺の顔を見て、こう(こぼ)した。

「君はガ島の第17軍司令官が倒れたって話は聞いている?」

「はい、なんか大変な事になりましたね」

「彼は本来、あと2年後に倒れる予定だったって話は?」

「それも聞きましたよ」

ため息をついた。

「不思議なものだ。

 我々が今までやって来たことは、歴史を変える方への行動だった。

 今回やろうとしているのは、本来の発病時期に戻そう、

 早まった出来事を遅らせよう、歴史を元に戻そうとする行動だ。

 …全く、皮肉なもんだよね」

(続く)

感想ありがとうございます。

医療系のネタに入りますが、自分専門ではないので、ツッコミ多数かと思います。

まあ勢いで何とかします(笑)。

百武中将、居ても辻ーンに引っ掻き回されますが、

辻ーンとしても療養でどっか行ってくれるに越したことはないもので。

てな感じでこの章入ります。

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