1942年12月中旬のガダルカナルは史実よりもマシになっていたかも
「仏舎利輸送」作戦。
仏さまこと死体の中に、本来「門」が弾いてしまう様々な物を入れ、
「門」を通過させる裏技。
この方式が分かり狂喜した現代と1942年の日本の軍隊。
しかし、それでも問題は解決しなかった。
持っていける量? サイズ?
違う。
1942年に日本軍が使用していた兵器の部品は、
現代では生産していないのだ。
JIS規格という統一規格とかは無い。
「現代」の司令部は、個人の興味から持ち込めた電化製品用の発電機と、
変圧器や安定給電する為のバッテリー等を送った。
そして「手紙」でこう送った。
『兵器の補給については難しい。
現状の装備で無駄に攻勢を掛けるより、
送ったカメラを活用して敵の攻勢を先読みし、
小規模ならば先制攻撃で発動前に潰し、
大規模ならば速やかに撤退または
有利な地形に移動しての防御に徹すべし。
いたずらな消耗な避けるべし。
ガ島戦の誤りは戦力の逐次投入にあり。
陣中で耐え忍び、士気を維持しながら来るべき時に備えるべし』
と。
現在のガ島の日本軍は、奇襲を受けて密林にバラバラに逃げて兵士が
個々に散らばることなく、秩序を持って陣と指揮官を戴いて戦っていた。
無用な攻勢を控える事は、皮肉な結果ももたらしていた。
本来米軍で死ぬべき運命の兵も生き残っているのである。
ガダルカナルのアメリカ第1海兵師団は
「どうも日本軍に常に見られているような不快感を感じる」
と思いながらも、マラリアで半減した兵が無駄に死ぬ事もなく
今月中旬にはオーストラリアに後退する命令が出た為、準備をしていた。
11月30日に行われたルンガ沖夜戦で、日本海軍は勝利したが輸送作戦は失敗した。
その後の12月3日、第二次輸送が行われ、1500個のドラム缶がガ島に届けられた。
史実では飢えて体力の落ちた兵たちが、敵機の現れない夜間の作業で
僅か310個しか引き上げられず、残りは米戦闘機の銃撃で沈められた。
しかし体力が史実より大分回復している今のガ島の部隊は、
倍近い580個のドラム缶の引き上げに成功し、さらに物資的に満たされた。
制限の大きい「門」よりも、ドラム缶輸送の方が量を多く運べるのだ。
武器・弾薬もだ。
また日本軍は、「野良兵戻し」という仕事を行っていた。
脱走は「門」を超えて来る者ばかりではない。
戦場で逃げ出し、そのまま密林に潜伏する兵も多い。
彼等の中で、原住民の村に逃げ込む者はまだ良かった。
密林で生き延び、次第に軍規どころか人間性まで無くしていく兵もいた。
彼等は新兵や、病気で弱った兵を見ると襲いかかり、食糧を強奪していく。
そういった「野良」化した兵士を指揮下に戻せば戦力になる。
その餌として、「門」から持ち込んだ水・食糧とコピーが役に立った。
うちのコンビニで
「隊ヨリ離脱シタ兵士に告グ。
貴様タチモ飢エテイヨウ。
水ト握リ飯ヲ与ウ。
恩ニ感ジルナラバ軍ニ復セヨ。
兵ガ足リヌ今、旧悪ハ問ハナヒ」
というビラをコピーしていってる。
このコピーを密林の樹にガムテープで貼り付ける。
樹の根本には水とお握りを置いておく。
…食糧が貴重で、一粒の米とて無駄に出来なかった時には考えられない方法だ。
最初は警戒していたようだ。
水にも食糧にも手をつけていなかったりした、
数日経って、水と食糧だけが持ち去られていた。
コピーは破られ、踏みつけられていて、いかに荒んでいるか分かる。
飽きずに水と食糧とコピー貼りを続けていた。
ポスターは破られなくなり、水・食糧の置いた樹の肌に
「アリガトウ」と刻まれていたりした。
…原隊への復帰は11月中は全く無かった。
だが、12月に入ってからポツリポツリと戻り始めた。
そして戻って初めて、「門」による補給で、空腹には変わりないが、
飢えと死病からは解放された事を知る。
士官・下士官も物資と精神状態に余裕があるせいか、
形式的な営倉入りで済ますだけだった
(戦力とするのに、また厳しい処罰をしたら逃げるだろうしね)。
彼等はもう逃げないだろう、生きる上でマシな場所がある以上…。
1942年12月上旬から中旬にかけ、奇妙な戦闘の減少が発生していた。
-------------------------
「第17軍は何をやっているんだ?」
ラバウルに現れた辻政信はイラついた声で聞いた。
「報告によれば、病死・餓死が減っているようだが、だったら何故攻勢に出ないのか?
一撃して敵を撃摧し、納得できる戦果が出たならば、
十分な活躍をしたとして撤退させる事も出来ように」
彼は最前線視察を命じられた真田穣一郎大佐にくっついて、ラバウルまで戻って来ていた。
そこで数字の書かれた報告書のみを見て、前線は今なら戦える、と判断していた。
無駄な戦闘を避けている現地陸軍に対し、ルンガ沖夜戦の後も
海軍の駆逐艦や潜水艦は必死にガ島への輸送を試みていた。
第三次輸送は失敗、第四次輸送は一部成功だった。
ガダルカナルを攻撃する海軍航空隊の犠牲も大きい。
史実では「海軍は輸送もしない」と激怒していた辻であったが、
ラバウルに来て戦況を見るに「海軍は輸送に努力をしている」
「これで陸軍が何もしないと面子に関わる」と思い始めた。
-------------------------
大本営陸軍部第二課長真田穣一郎大佐は、
最前線視察と言われながらラバウルから出なかった。
ただ彼は、継戦気分がまだある辻政信と違い、東條英機の意向を受け
「いかにガ島戦に見込みが無いか、船舶を投入しても無駄か、それが国力を弱めるか」
を調べに来ていた。
そこで後送された兵から奇妙な話を聞いた。
後送された兵とは、先に脱走騒動を起こした兵隊ヤクザ2人だった。
彼等は自衛隊からの嘆願通り、補給における功績大として脱走罪と相殺し、
除隊を認められ、モグラ輸送に来ていた潜水艦に乗り込んでラバウルに送られたのだった。
ラバウルで彼等は、真新しい包帯でグルグル巻きにされた手で食器を持ちながら
「こんな不味い飯は飯じゃねえ。
まだガ島に居た方が美味いモン食えた。
こんなとこじゃなく、早く内地に帰してくれんか」
と不平を零していた。
それを真田が聞き咎めた。
「貴様ら、まだガ島の方が美味い飯を食えたとか、基地の者に悪いと思わんのか?」
「事実ですからしょうがないですよ」
「そうそう。芋掘ったり、猪捕まえたりしてるようですが、
ガ島にあった補給基地の飯の方が遙かに良かったですよ」
「ガ島に補給基地? そんなもの無いぞ」
「アメ公みたいな鉄兜被ってた連中ですが、あれはどう見ても陸軍ですよ。
大佐殿も知らない基地が出来てたってわけですかい(笑)」
「その話、もう少し詳しく聞かせてくれんか。
話せば内地送りを早めてやろう」
聞くに、毎日2時間しか開かず3人ずつしか通れない洞窟の先に、
絶える事の無い水と食糧と医薬品と、
内地でも見たことの無い珍しい物を売っている「便利商店」がある。
そこから辻参謀の手配した戦車連隊が、米軍の補給基地を攻撃すべく出撃した。
最近では新型の機関銃の補給も始まったようだ。
なお彼等は、「門」を通った先で言われた「日本は負けた」ということについては
記憶が無くなっていた。
真田は第8軍司令部に戻り、今村中将と辻中佐に問い質した。
今村「そのような基地は聞いた事が無い」
辻「自分が戦車連隊を動かしたとか、愉快な話であるが、そんな事実は無い」
ではガダルカナルで一体何が起きているのか?
真田は念の為に海軍にも問い質した。
海軍も知らぬ、そのような一大補給基地があるなら、
貴重な駆逐艦や航空機をあれ程失う事も無かった、と恨み節。
おかしな事だ、と真田は思った。
そこに辻が語りかけた。
「吾輩がガダルカナルでマラリアに苦しんでいた時の話だ。
吾輩はマラリアの薬を貰い、飲んだ。
気休めにはなるかと思ったが、よく効く薬であった。
多くの兵士がマラリアに苦しんでいたが、ある野戦病院では豊富な綺麗な水と、
薬と蚊帳を釣って治療をしていた。
吾輩は一度そこで治療を受けたが、その時に
この水や薬はどこから手に入れたのか?と聞いた。
緑の砂漠たるガダルカナルの中にオアシスがある、と。
吾輩は戯言と思って聞き流していたが、それではないか?」
「中佐はその補給基地を見たのか?」
「見ておりません」
「馬鹿馬鹿しい。そんな場所がある訳が無い」
「確かめてみませんか?」
「何?」
「大佐殿とこの辻とで、ガ島の最前線を視察いたしましょうぞ。
前線の兵は不思議と活気を取り戻しておる模様。
もし怠けているようなら、叱責も必要でしょう」
歴史が少しずつ、だが段々と分離し出していた。
-------------------------
ところで、俺の勤めるコンビニは最近また役割が増えた。
某大手ネット販売の荷物の受け取り先にされてしまった。
島村曹長との小旅行の結果、「仏舎利」の中に
小型の電子機器を入れて送る事が可能と分かった。
デジタルカメラや、営倉から出された島村曹長が「現代」で練習し、
使いこなせるようになった小型ドローンで敵の情報を逐一手に入れられるようになり、
敵の大規模な攻勢は回避し、分隊単位の小さなものなら先回りして潰す、
しかも最適な人数で行動したりと効率良く動けるようになった。
そこで「自分の部隊にも欲しい」という依頼が殺到した。
自衛官は電機店まで買い出しに行くのではなく、
インターネットを使って伝令に欲しいものを購入させた。
あの特徴的な段ボール箱の受け取り先がうちのコンビニになった…。
おーい、そのネット企業はアメリカのだぞ! それでいいのか?
「しかし、デジカメやドローン使えるようになったのなら、PCも欲しいよなぁ…」
浜さんが独り言を呟いてたが、聞き捨てならない。
「いくら何でもオーパーツです」
「あ、副店長聞いてました?」
「これ以上何を送るんですか? アッ〇゜ルですか? マイ〇ロソ△トですか?
元々アメリカで発明されたものを、日本の勝利の為に使っちゃっていいんですか?」
「いや、一般論として画像解析ツールとか、メールで即時情報共有とかしたいよね、
…って思っただけです。
残念ながら、ノートパソコンですら『仏舎利』のサイズに合いませんから」
「俺が前呼ばれた時は、歴史は大きくは変わらない、だから
『飢えて死ぬより、戦って死なせてやろう』というのが目的だって言ってたんですけどね。
俺もオーパーツをあっちに持ち込む手助けをしといてツッコむのも変だけど、
ここまで大がかりにやっちゃっていいもんですかね」
「ですが、やはり歴史は大きくは変わっていませんよ。
彼等は未だ、補給を断たれた孤島に孤立した軍隊で、
アメリカ軍の本格攻勢があれば、多少のオーパーツがあろうと叩き潰されます。
何と言っても、武器の方は相変わらず弾切れ、故障中、役立たずのままですから」
「自衛隊としては近代兵器を持ち込んでいない、それが『歴史を変えない』の線引きですか?」
「すみません。自分は上の意向までは分からないんです」
基本、現場の人間に上の意向は伝わってないようだ。
俺も落ち着いて、話題をちょっとだけ変えてみる。
「仮に持ち込めたら、どうなりますかね」
「携帯型対戦車ロケットと携帯型対空ミサイル、
この2つが数多くあれば戦局を大きく変えられます」
「そりゃそうだ」
「いや、副店長が思っている以上に、です。
対空噴進砲と対戦車噴進砲は既にあるので、誘導装置だけ送り、間違いを正せば良いんです。
日本の対戦車ロケットはHEAT弾を回転させて、かえって使えなくしてます。
そういうのを直せば良いんです。
中部太平洋で猛威を振るったM4中戦車は鉄屑と化します。
日本の対空ロケットに誘導機能があると分かれば、航空攻撃は及び腰になります」
「そこまでやると思います? 上とやらは。というか、兵器開発に影響及ぼせますか?」
「無理でしょうね。教えてやれる、持ち込む事が出来るガ島に、
日本の将来の兵器開発や戦略について発言出来る人物はいませんから」
そう、今まではいなかった。
こちらの歴史とあちらの歴史が同じものならあり得なかった。
しかし…。
(続く)
感想ありがとうございます。
そろそろ奴が物語に関わって来ます。
その釣り餌で荒唐無稽な戦車ネタが欲しかったんです。
奴が話に絡んで来ることで、展開がまた変わりますので。




