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コンビニ・ガダルカナル  作者: ほうこうおんち
第3章:「門」の裏技を探し出せ!
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旅行する事になった

弟よ、悪かった! 事件はお前の時だけ起きてるんじゃなかった。


第3の脱走事件が発生した。

だが、それはこれまでの脱走事件とは全く様相が違った。




「久々ですな」

「門」が閉じている時間帯なのに日本兵がいる。

しかもそれは俺と顔馴染みの島村曹長だった。

一応俺は「補給に協力する商社の関係者、現地責任者、軍属で少尉相当」とされているので、

以前のように対等に「貴様」と呼んでは来ない。

「島村曹長、お久しぶりです。が、なんでここに?」

「それがお越しいただいた理由でして…」


………


島村曹長は、堂々と「門」を通って現れ、社務所こと診療所兼詰め所に顔を出した。

そして

「頼みがある。それを聞いて貰えるまでは帰らない」

と言い出した。

帰営時間を過ぎても帰ろうとせず、軍規違反ということで「脱走兵」扱いとなる。

しかし島村曹長は逃げるわけでもなく、上と相談して要望を聞いてみることにした。


「この時代を知りたい」

その要求に自衛官たちは顔を見合わせた。

そして答えた。

「実は貴官には何度も、この時代について説明し、貴官の時代についても説明した。

 そして貴官は『門』を通って元の時代に戻ると、それらを忘れてしまった。

 覚えていれば伝令として情報の伝達が出来たのだが、誰一人覚えて戻れず、

 我々は先日の『仏舎利輸送』をせざるを得なくなったのだ」

「その事は分かっている」

「では諦め給え。貴官は任務を放棄したり、軍規を乱す目的は無く、

 ただ情報を集めたかっただけであるから、温情ある措置を求めよう」

「いや、温情ある措置よりも、この時代の事を見てみたい」

「全て忘れてしまうと説明しましたが」

「全てではない」

「?」

「誰もがこの時代は豊かであると覚えて帰って来ている。

 自分たちの物とは違う武器を使っていると覚えて帰って来ている。

 自分たちの時代とは比べ物にならない明るい電灯の店がある事を覚えて帰って来ている。

 優れた医療がある事を覚えて帰って来ている。

 だから知りたい。

 この時代の事をもっと知りたいのだ。

 その中には辛い事もあるかもしれないが、自分たちの戦争に役立つものもあるかもしれない」

自衛官は『面倒臭い判断は上に報告してして貰う』を発動した。

返答は

「それならば再び現代の東京に招待する」

というものだったが、島村曹長はそれを断った。

「自分の目で見たい、自分の頭で考えたい。与えられた場所を見て回りたくない」


………


「そこで店長殿にご足労願いました」

「うへえ…」

要は俺に、明日は休みの俺に、東京案内しろという事だ。

「島村曹長からのご指名でして」

おい!!!!

「差し当たりの足代も用意されてます」

って封筒を割らされたが、


25万円!!


「え? これ、電車賃とかタクシー代とか?」

「はい」

「何か買ってもいいの?」

「はい」

「豪華なもの食ってもいいの?」

「はい」

「曹長をフー〇゛クに連れてってもいいの?」

「はい」

「うは!」

「何やっても良いですが、絶対に!領収書は貰って来て下さい」

やっぱりか…。


お目付け役の俺に、さらに付き添いで野村さんが付き添う事になった。

(野村「フーゾ〇? 行きたいならどうぞ…」)




曹長は自衛官から借りた服に着替えた。

「ここからは階級無しで、島村さんと呼びますよ」

「分かった、貴様に任せる」

「それなんですけどね…」

「?」

「現代では『貴様』は相手を攻撃する言葉なんですよ。

 言葉の響きから1942年はそうではないって知ったんですが、

 それでも今の人間が聞くとギョッとしますよ」

「分かった、貴様の言う通りにしよう。

 で、貴様ではなく君とでも呼べばいいか?」

「それにしましょう」


電車を乗り継ぎ、東京駅丸の内口に来た。

あえて俺たちは改札から外に出てみた。

曹長は御所の方に頭を下げていた。

そして駅を見て、駅舎を見て

「変わってないな」

と呟いた。

…戦前と同じ形に戻ったのは、つい最近の事だけどね…。


「島村さんの生まれ故郷の仙台に行きます」

「仙台? 待て、流石にそこまで遠くには行けんだろ。

 今からだと着くのがいつになる? 夜行列車でも使うのか?」

「新幹線という鉄道が出来ていて、仙台までは2時間ってとこですかね」

「東京から仙台までたった2時間? まるで弾丸列車だな」

「新幹線は英語でバレット・トレイン、まさに弾丸列車と訳されています」

と野村さんが補足してくれた。

「英語に訳されている? 世界はその新幹線というのを知っているのか」

「知ってるも何も、日本の顔ですよ。

 世界初の高速鉄道、開業以来1件の人身事故も起こしていない神話級の乗り物」

「ふうむ…」

曹長は唸っていた。

そして駅の雑踏と新幹線乗り場の電光掲示板を眺めていた。

「あ、東北新幹線はこっちです」

「『ひかり』号か。本当に弾丸列車計画そのものだな。

 この『ひかり』号はどこまで行くのだ?」

「博多までです」

「では次は、対馬まで海底トンネルを掘り、対馬から釜山、そして朝鮮に接続かな。

 満州鉄道と同じ広軌でシベリア鉄道に乗り入れ可能なのかな?」

あ、あっちに延ばす計画はもう無いっす。


新幹線の速さや駅弁の進化に驚いていた曹長を乗せ、仙台に着いた。

「お墓参りを済ませたら、すぐに東京に戻りますね」

と野村さんが言う。

本当に弾丸ツアーだ。


曹長の祖先が眠るという寺に向かう途中、いくつか雑談をした。

「なんと、東北で巨大な地震があったというのか?」

「この辺まで津波が来たんですよ」

「君たちの技術力で何とかならなかったのか?」

「何とかしたんです。建物の倒壊や大火災までは防いだのかもしれません。

 しかし我々の技術力では、地震動そのものや津波には勝てません」

「そうなのか。万能に見えたこの時代でも、まだ無理なのか…」

さらに震災後の米軍の支援(オトモダチ)作戦に話が及んだ。

曹長は、流石に交戦中の相手の事で「信じられん」と聞く耳を持たない。

「米国は良いとこも多数ある国だ。

 だが、殺し合いをしている我が国相手に、そんな親切などあり得ない。

 我が国の力が弱まるのだから、見捨てるのが正しいだろう」

「アメリカだけじゃなく、あの時は世界中から助けが来たんですよ。

 アジア諸国、アフリカ諸国とか」

「そんな後進国からも助けられる程、日本は弱くなったのか?」

「逆です。今までインドネシアの巨大津波とか、東南アジアの台風被害とか、

 洪水とか内戦の後始末とか、色々日本が手助けしたので、

 恩返しもあって世界中が駆けつけたのです」

「信じられないな。国際連盟で日本がどれだけ浮いていたか、君らは知らなかろう」

「今は国際連合って言うんですけど、相変わらず日本は浮いてますよ。

 分担金ばかり取られて、非難されてばかり」

「うむ」

「ですが、国連以外のとこで頑張ってますので」

野村さん、ここぞとばかりに自衛隊の活躍を広報している(笑)。


仙台での用事を済ませ、東京に戻る事になった。

帰りに俺はつい思い付いたことを言ってみた。

「秋葉原寄りません?」

「あきはばら? どこだ?」

「…店長、島村さんの時代、秋葉原には青果市場があるだけで、今とはまるで違います。

 あそこが電機街になるのは戦後からです」

野村さんがツッコミを入れる。

「まあ、見てみる価値はあるんじゃないすか」

「何があるんだ?」

「…えー、戦前の日本人の価値観が崩壊しそうなのが、あれやこれや、一杯あります。

 無理しない方がいいと思いますよ。

 あそこはまた、現代日本の中でも特殊な場所です」

「是非見たいな」

「だそうだ」

「分かりました…。では東京都区内までの切符なんで、上野で降りて乗り換えましょう」

「そうだ」

「どうしました」

「東北本線の夜行列車は上野までじゃないか。

 東京駅から仙台に来たからつい忘れていたが、東北の玄関口は上野だろう」

『野村さん、それ、何十年前までの話でしたっけ?』

『私もよくは覚えていません』

「ひそひそ話は止せ。上野も見たい。上野でも降りてみよう」

…一般人と自衛官と軍人の旅はまだ続く。

(続く)

感想ありがとうございます。

書き溜めてますんで、大体構成が固まって、これ以上に延ばす事も短くなる事も無いようになりました。

なので今後の事書くと

・金額設定の謎解き:第6章

・現代人が支援を続ける理由:第8章

となる予定です。

終わりが見えて来た感じになりました。

(元々が1943年2月7日で門が閉じるので、長々は書けない話でしたが)

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― 新着の感想 ―
[良い点] >何やっても良いですが、絶対に!領収書は貰って来て下さい 社会人としてはそのとおりなんですけど、こういう状況で言われるとおかしみたっぷりでフフってなりました。
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