話がデカくなり過ぎて、俺にはついて行けなくなった
戦車兵は言った、戦車連隊が増援されると。
歩兵は喜んだ。
俺はこの後始末に現代の戦車の大軍でも並べてみせて、
「ほら、ここに戦車部隊がいるぞ」
と見せるのかな、と思った。
だがそれだと、
「早く戦線に投入して下さい! それで勝てます!」
となりかねない。
士気の維持と話の辻褄合わせは出来るが、面倒事を拡大するのも事実だった。
俺の貧困な頭脳では、予想はそこまでだった。
これを考えた奴、正気だったんだろうか?????
「ねえねえ、和田君、和田君」
「はい?」
「あれ、何?」
「あれはⅢ号戦車ってやつです」
「あっちにあるのは?」
「あれはⅢ号突撃砲ってやつです」
「日本の?」
「ドイツっス」
「なんでドイツ軍の戦車がここにあるんだ?」
「だから、自分も聞かされてないんです」
「お!ケッテンクラート! あっちはハーフトラック!
Ⅳ号戦車もいる、ちゃんと短砲身のだ。
よく集めたなあ!」
和田君は感心しているが…、
俺はなんか頭痛くなって来た…。
さらにFIAT戦車だ、ルノー戦車だとか和田君が言ってた。
「フィアットって、あのフィアット?」
「あのフィアットですよ」
「イタリア?」
「イタリア」
「同盟国?」
「同盟国ですね」
「フィアットって戦車も作ってたんだ。
まあ、そこは良いとしよう。
ルノーってあのルノーだよね? フランスだよね?」
「ああー、言いたいこと分かりました。
ルノーFT戦車って、日本軍も使ってたんです」
成る程…。
「で、あれがそのルノー戦車の後に日本で設計された八九式中戦車です。
中々良い仕事してますねえ」
君は鑑定団か何かか?
…って、一体何両集まってるんだ?
それと、期待に膨らんでる日本軍をどう誤魔化すんだ?
時間が来た。
「門」が開く。
うちのコンビニに前は異様な集団が溢れていた。
もしもバイクのヤンチャな少年たちが爆音轟かせて来たとしても、
裸足で逃げ出すんじゃないかってくらいの、異様さと人数…。
「和田君、あれ、ドイツ軍?」
「ドイツ軍ですね」
「あっちのは?」
「あっちのは武装親衛隊ってやつです」
「ドイツ?」
「ドイツ」
「なんでいるの?」
「なんでですかね?」
和田君、兵器の種類は詳しい癖に、細かい事情は本当に何も知らされてないようだ。
俺は理解するのを諦めた。
一方、理解しないとならない連中もいる。
戦車を見に来た日本兵は道路に展開した援軍を見て、一瞬「?」という表情になる。
偽装基地の方に日本軍の将校とドイツ軍の将校が向かった。
さらに和田君が言うには「イタリア軍です」という軍服の者も。
日本軍の将校服も併せて、日独伊三国同盟揃い踏み…。
日本兵が訝しがっている。
期待の目でなく、思いっきり不審な目で見ている。
声は聞こえないが、藪の向こうの陣地の辺りから困惑した感じが伝わってくる。
「副店長、漫画とかアニメ見ます?」
「思いっきり見る」
「日本兵が、フランスのスタ〇ド使いみたいになってます」
「ああ『戦車』繋がりだけに…」
「『な…何を言っているのか、わからねーと思うが、
俺も何をされたのかわからなかった…。
頭がどうにかなりそうだった…』ってとこですね」
ガ島の方にも「ありのまま、今起こっている事」が伝わったらしく、
状況を調べて来いとなった。
現代に来られる階級の内、最上位の曹長の階級章を付けた者がやって来て敬礼した。
「これまでの任務、ご苦労であった」
日本軍の将校が口を開いた。
敬礼を返す曹長に
「こちらは独逸北アフリカ軍のハンス・ルッツ大佐殿、
こちらはリビア・伊太利軍のルシウス・カラバッジョ中佐殿である。
今回、日独伊同盟軍による合同作戦が立案された。
残念ながら我が軍のロ号やチハ号は米軍新型戦車と相性が悪い。
そこで北アフリカ戦線で英軍を追い詰めている同盟国獨逸のロンメル将軍に頼み、
その強力な機甲軍団から一部を貸して貰った。
獨逸の戦車は今まさに米国の戦車を北アフリカで駆逐しておるからな。
だがその代わりと言ってはなんだが、今回の作戦指導は獨逸がする事になった。
このルッツ大佐殿が指揮される。
そこで、当方面の部隊にも任務がある」
「はっ!」
曹長は言いたい事が山ほどあるみたいな表情だったが、
大真面目に言われ、さらに任務と聞いて表情を改めた。
「三国同盟合同戦車部隊は、当地を離れ、迂回しながら米軍後背を襲う。
作戦は極秘であるゆえ、箝口令を敷くよう伝えろ。
大戦車隊が居た等と大騒ぎをしないように」
「はっ」
「それと、戦車の上陸自体は米軍も察知しておるだろうから、
適当な場所に戦車の欺瞞を作り、敵の目をそちらに向けさせるように」
「分かりました。命令を中隊司令部に伝えて来ます」
…なんか話が壮大になった…。
その後、ダミー戦車となるベニヤ板や、ダミーを隠蔽しているように見せる布等が運び込まれた。
偽装陣地には、相変わらず負傷兵が運び込まれ、その負傷兵を担いで来る比較的軽傷の負傷兵が、
治療そっちのけで日独伊同盟軍を見に来る。
「???」な目で見てはいるが、目の前に日本人よりもでかい外人がいるのだから、
信じざるを得ない。
「戦車兵乃歌」も聞こえてくるし。
旗だってよく知ってる同盟国の旗だ。
いや正確には、信じられなくて、それでも目の前では奇妙な光景があって、
混乱しているようだった。
(夢でも見てるのかと思ったことだろう)
やがて午前4時、戦車のエンジン音が響く。
ドイツ兵がハーフトラックに乗り込む。
イタリア兵は幌付きトラックに乗り込む。
日本兵が整列し、戦車を先頭に山の方に徒歩で動き出す。
日本兵同士敬礼を交わす、帽子を振り合う。
「前へー、進め」
指揮刀が振られ、日本軍が前進する。
藪の中から、わずか3人の日本兵が見ていた。
さっきまでは夢か現か疑っていたが、それでも日本軍が歩き出し、
戦車が履帯を響かせ前進し始めると、
「頑張れ!」
「日本男児の意地を獨逸や伊太利に見せてやれ」
と声が飛ばし出した。
3人が「門」を通って帰り、また交代で3人が来る。
早く治療した方が良い兵士を抱えたまま、そのまま山の方に移動しつつある部隊の背中に、
黙って敬礼を捧げていた。
そして、コンビニ前に置かれた戦車は撤去された。
…ペテンは規模がデカくなると、考えるのどうでも良くなるなぁ…。
そして1時間経たず、「門」は閉じた。
今日は全日本兵を送り帰せていた。
前日の謎の10分早い閉門の疑問はあるが、分かっていれば早めに帰す事ができる。
…そうでなくても、今日はさっさと帰ってもらいたい。
日本兵はもう現代にはいない。
その連絡を受け、山の方から大軍が帰って来た。
「お疲れ~」
「あー、眠い~」
「手当いくら出るんだっけ?」
「つーか、どこで撮ってる映画なんだ? カメラとか有ったか?」
こんな声が聞こえる。
メガホンで
「はい、深夜ご協力ありがとうございました。
些少ではありますが、出演料をお渡ししますので、麓の待機所までお願いします。
では、ここで一時休憩を取りましょう」
とかアナウンスしてるのは広瀬三佐だ。
…おっさん、何やってんねん!!
「借りるよ~」
と言われ、元ドライブインの休憩所やトイレに何人かが入り、
外ではタバコを吸ってる人が多数いた。
コンビニにも買い物に来て、朝5時とは思えない忙しさだ。
そうしたら、あれ?ドイツ軍の将校も並んでる。
和田君が声をかけた。
「留守さん、お疲れ様。似合ってますね」
「おう、お疲れ様」
「和田君、あの人日本人なの?」
「全員日本人ですよ。
くどい顔だけ集めて、軍服着せてると、特に夜間だからバレなかったみたい。
まあ、日本軍は背が低いので固め、
ドイツ軍とイタリア軍は背が高い、ガタイが良いので固めてますね」
「あのドイツ軍将校も?」
「留守さん? あの人、経理やってる人です」
ルッツ大佐は留守さん、
カラバッジョ中佐は唐松さんだそうだ。
壮大なトリックの夜は終わった…。
(続く)
えーーー、批判は受け入れます。
荒唐無稽で現実味の無い話ですんで。
自分でも分かってます。
次章か次々章でこの章の意味を回収しますんで、
評価がその時良い方に反転すればいいなあ、と思います。
とりあえず、この章はあと2話分続きます。