話がどんどんデカくなっていった
うちのコンビニは山の方にあり、人通りは少ない。
それでも、元はドライブインが経営出来たくらいの道の脇にある為、
自動車は割と通りかかる。
元ドライブインの前に置いてある戦車を見て、
多分わざわざ停車して買い物に来てたんだろう。
「あれ、何なんですか?」
昼間担当の親父が答える。
「上の方に、玩具の鉄砲ガンガン撃つゲームの会場があるでしょ。
あそこで使ってたのが、なんかパンクしたみたいでしばらく置かせて下さい
って置いてったんですよ」
…全く間違っていない。
その後の面倒事をばっさり省略してる事以外は。
SNSに書かれたとかで、意外に戦車目当ての客が多かったようだ。
親父は交代に来た俺に
「あれ、うちの看板にならないか? あれ目当てで客が来てたぞ」
とか言いやがった。
あれは他人様の所有物だ!
あと、面倒事がついているのをまるっと無視してれば、良い面しか見えないよな!!
そんなこんなで無責任親父と入れ替わりで業務に就いた。
夜9時過ぎ、公用車で旧日本軍兵士が数名コンビニにやって来た。
否、彼等は本物の日本陸軍兵士ではない。
九五式軽戦車について、辻褄を合わせるべく呼ばれた陸上自衛隊の戦車兵だ。
…うちのコンビニ利用してガダルカナル島を補給するのって、極秘の作戦とか言ってたよな?
なんか最近、動かしてる兵力からして、極秘とか超えてるような気がする…。
旧日本陸軍戦車兵にコスプレした現代の戦車兵は、あえて小柄な人を選んだというが、
散々本物の日本兵を見て来た(普通に生きてれば有り得ない話だよね…)俺から見たら、
肉付きが良く、清潔過ぎる気がする。
だが、彼等は
「ちょっと行って来ます」と言うと、山に向かって走っていった。
数時間して、汗に塗れ、泥だらけになり、服のどこかを切れさせた、如何にもな感じで帰って来た。
…その格好での入店はお断りだ。
隣の元ドライブインの方に行って貰った。
やはりと言うか、偽装陣地の方では3人の兵士たちが戦車兵と話したい、と求めて来ていたそうだ。
いつ戦ってくれるのか?増援は一両だけなのか?そうでないなら、何時どれだけの数が揃うのか?
「作戦の詳細は話せない」
と何度言っても
「それがこの身ひとつで敵と戦っている者への態度か!」
「輜重兵如きが、偉そうにするな!」
と収まらない。
日本陸軍は補給を軽視
(浜さん補足:言われている程軽視してませんが、貧弱だったのでそう見られてます。
師匠のドイツ軍と似たり寄ったりです)
していた為、補給担当の輜重兵や、経理担当の主計等を
「あれが兵隊ならば、蝶々蜻蛉も鳥の内」
と馬鹿にしていた。
ここは未来の日本でなく、極秘の補給基地と誤魔化していた為、
補給や治療中は流れ作業的に無言で済んでいたが、時間が経ち暇になると態度に現れた。
ついに許可が出て、3人の本物が、10人の贋物戦車兵に会った。
…戦車兵、近年は健康の為に禁煙が進んでいるのに、無理してタバコ吸って当時っぽく見せてるが、
咽せてて大丈夫か?
13人の日本兵(本物は3人だけ)は敬礼を交わす。
階級章から、戦車兵が上官になっている。
本物「来援ありがとうございます」
偽者「いや、それが残念な報告がある」
本物「は?」
偽者「あの洞窟が狭く、このハ号でも通れない」
ハ号というのは九五式軽戦車の呼び名らしい。
「では工兵に言って拡張させましょう」
「い、いや…、落盤とかしたら元も子もない」
「その時は我々がツルハシとモッコで、いや、素手ででも掘ります」
「それに、連隊の方から待機命令が出ている」
「連隊でありますか!
それは心強い!
このような南方の島ゆえ、小隊、せいぜい中隊規模の戦車部隊でも有難いと思っていました!
感動であります
それで、どこの部隊が来られたのですか?」
偽者戦車兵は心の中で『しまった』と思った。
癖で旅団とか師団と言わなかっただけマシだった。
旧日本陸軍では、戦車部隊は満州か内地にいるくらいで、南方にはほとんど展開していない。
南方において、戦車一個連隊というまとまった数はかなりの戦力なのだ。
マレー作戦でイギリス軍を駆逐したのが、戦車第一連隊だった。
アメリカの、より新型(一世代前のM2軽戦車が九五式軽戦車と同世代で、
その問題点を洗い出して設計された次世代のM3軽戦車相手に、日本軍の戦車は相性が悪かった)に
イギリス植民地軍相手と同じ活躍は見込めないにせよ、まとまった数の戦車は相手にも同じだけの数を要求し、
補給にも作戦にも制限をかける。
そんな事を知らずとも、やはり大量の戦車は歩兵に期待を抱かせる。
米軍の物量に叩きのめされた後だけに、盾となってくれる戦車があったなら、と何度も思った。
ヘンダーソン飛行場を守る米軍重機関銃から守って欲しかった。
敵の戦車に追いかけられ、味方を逃す為に足止めとして、手榴弾を持って戦車に向かっていき、
全く足止めにもならず殺された戦友だっていた。
日本軍もガダルカナルに戦車1個連隊を投入する予定ではいたが、
輸送する事が出来ず、1個中隊10数両が砲弾不足で展開しているに過ぎなかった。
「あ、我々の部隊は、その…、臨時編成された部隊で、任務も特殊なんだ。
まとまった数の戦車が揃わないと動けない。
すまないがそういう事だ」
「分かりました。お待ちしております。戦場で勇姿を見るのが楽しみです!」
敗残兵、負傷兵とは思えぬ、鼻血を噴き出しそうなまでに生気の漲った兵たちは引き返していった。
偽日本兵は建物に入り、報告を入れていた。
うん、遠目に見ても説教されているのが良く分かった。
元々朝霞の訓練センターにいて、一通り装甲車両について知識がある自衛官を、
ちょっとレクチャーして、誤魔化す為に送っていたようだった。
簡単なレクチャーしか受けてない彼等は、上官の命令で待機している、
すぐにでも行きたいが戦車は「門」を通れない、
いずれ行くが今すぐは無理だ、と説明していれば良かった。
…細かい話までは詰めていなかった。
更に、生の声に接した彼等は、すっかり日本兵に同情してしまった。
「何とか送ってあげられないものでしょうか?」
と言い出していた。
なんと返事されたか、恐らく怒鳴られているであろうことは、やはり遠目にも明らかだった。
…武器は「門」を通過出来ない。
仮に武装を外して「武器じゃない」としても、2000円制限に引っかかるのだ。
これさえ無ければ…。
俺は一度、浜さんに聞いてみた。
武器は運べなくても、金額無制限なら何を持って行きたい?
「パ◯ェロとかジ◯ニーとかランド◯ルーザーですね。
悪路でも走り回れるし、ちょっと改造すれば、あの時代の戦車とか軽く蹴散らせます。
ト◯タ戦争と呼ばれたチャド内戦では、
日本製トラックの荷台に対戦車ミサイルや重機関銃を積んで戦い、
トラック3両の犠牲と引き換えに、ソ連製T-54/55戦車やT-62戦車で編制された
リビアの一個機甲旅団を壊滅させています」
こういうのを「テクニカル」というらしい。
中東のゲリラ組織が愛してやまない理由である。
この安上がりなテクニカルに高額な戦車を破壊されたら、費用対効果の面でシャレにならない。
例え20両撃破しても引き換えに戦車1両破壊されたら、まだ敵の方が安上がりである。
その為アメリカでは歩兵戦闘車という、重機関銃を使ってトラック等の接近を許さない
装甲車両を同伴させているという。
「1942年にM-2歩兵戦闘車はいませんから、足回りの良いトラックと対戦車ミサイルの組み合わせに勝てるやつはいませんよ」
「でも、対戦車ミサイルは持ち込めませんよね」
「荷台に兵士を乗せて輸送し、終わったらまた乗せて引き返すヒット&アウェイだけでも十分です」
「元々『歩兵の随伴しない戦車は脆い』と言われてまして、
走りながらの砲撃が出来ない、というか極端に命中率が落ちる当時の戦車は、
砲撃時に足を止めますから、特に市街戦とかでその隙に砲塔基部に地雷を着けられたりしました。
それと、止まってしか撃てない戦車にジャングルでも足回りの良い車は当てられませんよ」
仮定は置いといて、どうも「一個戦車連隊増援」という出まかせで上がりまくった士気の為にも、
更にもう一芝居必要との事だった。
日が暮れ、日が改まり、また「門」が開いた。
現代に泊まった3人は帰っていった。
あちらで、洞窟を超えて見た話を喋りまくったのだろう。
負傷兵を担いで来る兵士が、一様に藪の中から顔を出し、戦車整備中、
実際はフリをしているだけだが…、の偽戦車兵に一礼したり、
帽子を振って去っていくのが店内から見えた。
「どうすんの?」
今日の深夜番の和田君に聞いたら、
「もう手は打ったそうです。
明日、迷惑をお掛けします、と伝えておいてくれ
そう言われました」
「何があるの?」
「自分は存じません」
「本当?
なんか嫌な予感がするんだけど、
本当に何も知らないの?」
「本当に知らないんです。
伝言されただけなんです。
本当ですって」
そして翌日、俺は目を疑った…。
(続く)
感想ありがとうございます。
感想、気になったことへのレスを少々。
何故自衛官だけに買い物任せないのか?
陸軍の方が、自分たちの備品の調達を完全に他人、他部署任せにするのを嫌ったからです。
それと、どっかで書くかボツにするか決めてない兵士たちの事情。
兵士弐「戻ったか」
兵士参「出すもんあるだろ?」
兵士壱「おう」
煙草を裸で渡す。
兵士弐「シケモクじゃねえから美味いなぁ」
兵士参「なんて煙草だ?」
兵士壱「ラークとか言ってた」
兵士弐「知らないな」
兵士参「まあ、買い出しに行く奴の役得だな」
兵士壱「なんか分かんないが、持ち込めるギリギリになるよう、あっちの輜重兵が煙草とかバラでくれるから、買い出し担当は毎日でも行きたいな」
兵士弐「楽しみだな。いつ俺の番が来るかな」
てな感じで、陣地とかと違う場所たまには行きたい欲求と、合計1990円とかなら、ギリギリ2100円にならないくらいに、役得の個人的なお土産貰えるんで、買い出し担当になりたい人多数なんです。
もう一個。
自衛隊が無能に描かれてる。
無能ではなく、命令が「出来る限り便宜を図ってやるように」と「先人への礼を欠くことのないように」と「話は適当に合わせて、敗戦はなるべく教えないように」なので、現場はどうしても判断に困るのです。
後で出て来ますが、悪意を持った行動へのマニュアルは出来ていて即応出来ますが、基本性善説で対応しているので、甘くなるとこがあります。
例えるなら、関係悪化前の某隣国への対応で「多少の事は大目に見るように」「外交問題化させたら処分する」と政治家から言われ、どうしても対応が後手に回ったり、政治家の判断仰いでしまうようなものです。
その上、歴史を変えて良いのか、変えないとしても補給してる以上どこまで許されるのか、指示が曖昧な上、秘密の作戦だから、何かあったら某会議の方から指示出すって事になっていて、自主的な判断を封じられてる状態です。
その上の会議の方も方針が固まりきってないので…。
前回書いた後書き通り、目指すのは完走で、終了してからおかしなとこは、全体の話と調和する形で書き直すつもりなので、基本気になった事とかへのレスは書かないでいますが、後での修正の参考にします。
お目こぼしを、とまでは言いませんが、多少のご都合主義は後で直すので、ご容赦ください。