深夜イベントと日本兵
俺は就職氷河期に就職失敗し、親父のコンビニと諸々を継ぐ形だったから、
大学の同期の「あのクソ上司、俺がとっくに報告してた事忘れた癖に、
なにが『ほう・れん・そうは大事だよ』だ!」
とか愚痴を零しているのを聞くだけだった。
自分に降りかかって来るとは思わなかった。
俺は10日前には「サバゲー、ナイターでやるイベントがありますよ」と報告入れてたんだ。
統括部長に!
統括部長、その時は出張してたらしいんだ。
丁度脱走騒動が有った時だったし、引き継ぎの部下に
「〇〇店の件で何かあったらすぐ連絡しろ」とは言ってたようだ。
その引き継ぎは、事件のことは報告してたようだが、サバゲー大会の事は
「ああ、いつものか。あの店用の出荷増やしておかないと」
と通常業務で処理してようだ。
統括部長が帰って来て、留守中の報告を受け、それで安心してたそうだ。
先日、「そういや〇〇店のかき入れ時、そろそろじゃなかった?」と思い出し、
確認取ったら「もう手配しておきましたよ」と言われ、
『あれ? 例の部署に報告入れろとか言ってないよな』と思い出し、急いで報告したそうだ。
…そして広瀬三佐に言われたよ
「深夜時間帯に人が多くなるって分かってたんなら、もう少し早く教えていただけませんかね」と。
俺はちゃんとやってた!!!!!
というわけで、サバゲーイベント当日。
夕方くらいから随分客が増えて来た。
結構でかいイベントみたいで、毎年結構な人数が来る。
某場所のコンビニは、真夏と真冬の30万人以上動員するイベント期間で1年分の利益を出すという。
うちはそこまではいかないが、近場である何かしらのイベント期間で利益の大半を出してる。
寺と神社の方は、大晦日から元旦が危険だ。
結構な行列、車列が出来る。
22時頃から並び始め、25時頃にピークになる。
そこから午前中は人が途絶えない。
これに関しては三佐たちも織り込み済みのようだ。
今月は他に、神社が「紅葉の季節」で観光客が増えるが、
あそこの神社はライトアップするとか、そんなサービス精神は無いから、夜は安心だ。
他にもイベントはあるが、夏のものは今回は関係ない。
もう終わっているし、ガダルカナル島から日本軍が撤退するって頃は開催されない。
サバゲーイベントが厄介なようだった。
いや、別に参加者の大半には文句無いぞ。
ほとんどの連中は普通の人だ。
女子も結構いる。
しかし、ごくごくたまーーにその場のノリでやって来るのがいる。
山の奥で、しかもナイターってことで、ちょっと気が緩むのかもしれない。
軍服、迷彩服で買い物に来るのはかわいい方だ。
去年は草なのか何なのか、妖怪みたいな恰好で来店された。
(和田君「ギリースーツっすね」)
流石にモデルガンとか持ったままでは来ないが。
うちのコンビニの前には、1942年のガダルカナル島に通じる、謎の洞窟「門」がある。
広瀬三佐が言うには、そこから出て来た日本兵が、もしも米軍装備のサバゲーマーを見たら、
衝動的に何をするか分からない、という事だった。
俺は5km程山奥の廃墟を利用したサバゲー会場に行って、今年の参加チームを聞いてみた。
・21世紀大日本帝国チーム
・万歳!赤軍チーム
・鍵十字じゃなくて卍武装親衛隊
等等…
米軍コスのチームはいないが、3つ程ヤバめなのがいた…。
昼間から夜にかけては親父、弟、本物のバイト君の3人オペで営業した。
通常業務だし、俺が必要(本当に必要かなぁ?)なのは深夜時間帯。
今日の深夜は浜さんと野村さんの自衛官バイトも2人応援に来る。
俺は21時半には家から店に着いていた。
駐車場を見て、思わず「何か口に含んでいたら、ブーーっっと吐き出す」程の衝撃を受けた。
なにあれ?
なんで戦車が停まってるの?
バックヤードにいた浜さんに問い詰めた。
「なんで戦車なんか持って来たんですか?」
「いや、自衛隊のじゃないよ」
「いや、戦車なんか持ってるのは自衛隊くらいでしょ」
「だとしても、あんな旧式使いませんよ」
「旧式?」
「あれは旧日本陸軍の九五式軽戦車です」
「それが何であるんすか?」
「トラックに積まれてたでしょ? 多分サバゲーやる人の自作ですよ」
「自作?? 自作なんて無理でしょ。だって戦車ですよ」
「いやいや、この動画を見て下さい」
浜さんがPCを操作して、ある動画を探す。
「あ! あの戦車だ。サバゲー大会に参加してる。すげえ…」
「あれ見て、我々も『凄いもんだねえ』と感心しましたよ」
「作る人いるんですねえ…」
「他にも、アニメの影響で戦車自作する人いたりしますよ。
あくまでも外側だけですが」
「へええー…」
「こっちは、自衛隊も協賛している大洗町のイベントですね」
「わお! 戦車の上におにゃのこのコスプレ!」
感心したものの、俺は悪い予感がした。
「あの戦車見たら、日本兵はどう思いますかね?」
「…いよいよ戦車をガ島に送ってくれるのか!と喜ぶでしょうね…」
「でもあの戦車、レプリカですよね。実際の戦力は無いですよね」
「そうですが、まあ本物持っていっても同じです」
「え?」
「九五式軽戦車って、アメリカと戦う為に作られた戦車じゃないんです。
ソ連の初期の快速戦車とかを想定して対戦車用の戦車だったんですが、
この九五式やソ連の快速戦車が戦ったノモンハン事件の後で欠点が洗い出され、
その次の世代、アメリカのM3とかがそうですが、それらは見つかった欠点を
克服するように作られたのです。
だからガダルカナルの戦いでは全く歯が立たなかったのです」
「じゃあ、あれを見ても大きくは期待しないか」
「でもないですよ。非力でも、戦車が有ると無いとでは大きく違います。
あれで2世代後の戦車を撃破した強者もいたそうですし、
それに米歩兵相手にはかなりの脅威になります。
士気ってものもありますしね。
ぬか喜びはさせたくないものです。
その辺は、『門』の警備隊がどうにかするでしょうが」
聞くと、本日は基本的に買い出しは禁止、偽装基地からの外出禁止、
また、誤って外から侵入されないよう警備を倍にしているそうだ。
まあ一安心かな。
だが、油断は禁物。
そしてその晩、事件は
起きなかった。
ホッとした。
自衛隊、ありがとおー!
日本兵に対し、完全に基地外外出禁止にした事で藪からこちらは見えていなかった事、
サバゲーマー(普通の服)がたまに警戒中の自衛官を見つけても…
「こんばんは。何してるんですか?」
「はい、こんばんは。
我々は現在訓練中なんです。
レンジャー部隊の訓練で、一人が逃走役、他が全力で追跡するのをしてます。
だから、あっちの山や茂みの方には入らないで下さいね」
「レンジャー!!! ktkr!!」
「すげえ!! お疲れさんっす! 頑張って下さい!」
こんな感じに誤魔化していた。
ところで俺は、脱走兵騒動から、たまの自宅待機以外は毎晩深夜シフトに入っていた。
毎晩毎晩毎晩だ!
「月月火水木金金ですね」
って、和田君、それシャレになってない。
そんな昼夜逆転しっぱなしの生活は嫌だから、明日は弟が久々に深夜シフトに入る事になった。
俺はいくつか見落としていた。
あの九五式軽戦車ってのを積んだトラックが帰ったのを見ていない。
うちの店前を通って戻らず、そのまま向こう側から出て行ったと思い、特に気にしていなかった。
だが、サバゲー会場はナイター祭の翌々日、
「女の子の戦車アニメ、コスプレ撮影会」
というイベントが入っていた。
旧日本軍の戦車は、まだ近くに残っていた。
それでも、そのイベントは昼間だから、深夜しか現れない日本兵との遭遇は無い筈だった。
そういや、脱走兵騒動が起きたのは、弟がシフトに入ってた時だったなぁ。
あいつ、偶然を重ね合わせる何か持ってるんだろうか?
浜さんから連絡が来た。
「道の前に止まっている戦車を見た日本兵が、万歳!万歳!と叫んでます。
ちょっとまずいかもしれません」
(続く)
新章突入です。
基本、ラノベっぽいテイストでいきます!
この章は軽い気持ちで楽しんでくだされ。
あと、九五式軽戦車をYoutubeで調べたら、
本当に動くレプリカ作った人いましたので。
日本兵のコスプレの間を駆け抜ける軽戦車と万歳の声、そんな動画を見ました。
この世界では、そういう素晴らしい人が結構いるって設定です。