表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
コンビニ・ガダルカナル  作者: ほうこうおんち
第1章:兵隊も我々も生きていて物を考える
12/81

【会議室にて】

防衛省の会議室にて:


「微弱だが、γ線が検出されていた件につきまして、

 もっと詳細に計測できる装置に置き換えました」

「今までに分かったのは、γ線は物が『門』を通過する瞬間に発生するという事。

 知見として、これが空間を歪めているものと思うかね?」

「違うでしょうね。別な空間に転送された瞬間に、そこにある空間が励起されて出るもので、

 空間を歪めるエネルギーとしては小さ過ぎます。

 一瞬だけだとしても、もっと大きな値が出る筈ですが、

 それが全く記録されていません」


ここには【俺】氏を含む素人はいない。

エンジニアや上級の官僚たちが居並んで資料を見ていた。


「今回は出入りする数が多いから、データが多くて助かる。

 以前はこうはいかなかった」

「いや、前の時はγ線が検出出来たとしても、かえってパニックになったでしょう…」

一同沈黙する。

「前のアレは失敗だった。閉ざすのが早急過ぎた」

「でも、閉ざさないと危険でした」

「判断が早過ぎた。あの時の総理ではああなって仕方ないが」

「時期も良くなかったですね」

「だが、存在について今も口を閉ざしていてくれてるのは幸いだ」

「いや、アレについて正直に言ったら、どうかしたんじゃないかと思われるだけでしょう」

軽い笑いが漏れる。


「他に観測データで気づいた事は無いか?」

「あとは計測誤差みたいなデータしか取れていません」

「うーーん…」

「この前、新しい観測機器入れたばかりじゃないか」

「どうしても欲しいのは、開く瞬間のエネルギー情報です」

「もしくは、チェックしていると思われるセンサーのパターンだな」

「ええ、出来れば我々が自由に開きたい。

 それがダメでも、何者かによるチェックをすり抜け、より多くを運びたい」

「どっちが見込みありそうかね?」

「おそらくは開くエネルギーの方です。

 チェックする方は、裏技的にすり抜ける事が出来たりと、

 意外に安定していないんです」

「ではそちらで行こう」


科学的な討論がこの後しばらく続いた。

続いて情報操作がテーマとなった。


「脱走事件について、マスコミは今も動いてないな?」

「動いていません。連中には麻薬中毒者の事件とか些末な話なんでしょう」

「いい具合に内閣の方に、突っつけるネタがあったのも幸いしたな。

 『海外勤務帰りの自衛官による麻薬中毒者』とか、海外支援活動が問題だった時期なら

 マスコミ各社が食いついていただろう」

「偽の経歴書やシナリオを作ったのに、無駄になりましたよ」

話はマスコミ対応だけでなく、警察、一般人にも及んだ。

「えー、該当区域の店舗の副店長の彼が何か言ってたとか」

これに広瀬三佐が答える。

「どうも我々の対応の速さを怪しんではいました。

 ただ、お役所仕事にしては随分速いですね、という感じで、

 何かを感づいたとかそういう事ではないようです」

「君は何と答えた?」

「仕事の速さはこんなもんですよ、これが普通です、と言いました」

「それでよろしい。

 あの立地は中継拠点として重要であるからして、

 怪しまれずに協力を得られるよう心掛けてくれ」


歴史の話。

「おそらく現地時間の本日、第三次ソロモン海戦第二夜戦が行われます。

 我々の歴史と今も同じであれば、ですが。

 そして3日後には第38師団による米軍攻撃・敗退が起こります。

 負傷者が続出しますので、医薬品の補給を求められるでしょう」

「その辺はどうなっているか?」

「現状、2000円枠で出来る支援は、こちらに移送しての治療のみです。

 負傷に対する本格的な痛み止めや化膿止めは金額制限に引っ掛かります。

 なんとか裏技を探してはいますが、まだ分かっていません。

 3日後までに分からない場合は、包帯程度の補給しか出来ません。

 医官は増員しておきます」

「抗生物質を大量補給出来ないのが厳しいなあ…」

運んで来て服用はさせられるが、そもそも運んで来る余力があるかどうか…。

「新鮮な水とライターは大量に支援しておくように。

 熱湯が使えるだけで、手術は大分安全になるだろう」

一同頷き、何人かはメモを取る。


「先日の脱走兵だが、本来ならガ島脱出以降に死亡または行方不明だが、

 それより早く死亡した事について、何か他の情報はあるか?」

「ガ島戦に参加した将兵のデータベース、特に餓死や病死について正確な情報はなく、

 調査して不足分を埋めたりはしていますが…、

 とりあえずはこれを元に話をします」

「歴史は大きく変わらない、ただ命日をずらすだけだ、というのが本作戦の根本でした」

「うむ」

「本来死亡する日を超え、今も生きている兵士が何人か見つかっています。

 もっとも命日がずれただけの、相変わらずの半病人だそうですが、

 死亡予定日を2週間を超えて生きている兵士も出ました」

「ほお?」

「先月はデータが少ないから確実な事は言えませんでしたが、

 推定死亡予定日には必ず死んでいました。

 歴史は全く変わっていませんでした。

 しかし、先月下旬あたりから寿命が延びる兵士が増えています。

 前の方は数日でしたが、最近は週単位です」

「薬や栄養の効果ではないか?」

「そうかもしれません。

 ですが、それでも言える事は”歴史は変わりつつある”という事です」

一同色めき立つ。

「ただ、このデータベースや元となった資料に変化は起きていません。

 変わる歴史はこちらには影響しないのではないでしょうか」

「だとしても、支援は続けよう。

 本来の目的は別に歴史を変える事ではないのだから」

「可能性のひとつですが…」

「あの『門』が開くまでは、我々の世界とあちらは同じ歴史の線上の世界だったかもしれません。

 『門』が開いた事により、徐々に2つの世界は異なるものに変わっていった。

 つまりは平行世界が出来てしまったのではないでしょうか」

「SFだね。先だって我々はSFごっこはやめようと決めたばかりではないか」

「いや、SFではなく、実際に起きている事の分析かもしれない。

 で、君、それを証明出来る何かはあるかね?」

「まだありません。これから試したいとは思っております。

 現在確認されているのは、個人の歴史が変わった事までです。

 しかしバタフライ効果と言いますか、今は小さい変化でも、

 この先大きな変化になるかもしれません」

「ガ島の戦いで日本軍が勝つとかかね?」

その発言者に一斉に目が向いた。

「いやいや、別に歴史を変えようとか、そんなのは思っておらんよ」

「ええ、そこまでは無理でしょう。

 それをさせない為の例の2000円枠でしょう。

 『門』を開いた誰かは、歴史を大きく変えさせない為に制限を作ったんでしょう。

 今のままでは、どう頑張っても歴史を変える大きな支援は出来ません」

ため息が聞こえた。

「で、君の試すというのは?」

「ガ島撤退です。史実では1943年2月7日です。

 今まで見ていて、海戦等の出来事は我々の歴史と全く同じ日に起こり同じ結果になっています。

 ですが、我々が頑張れば一個だけ動かせる歴史、それが…」

「ガ島撤退、『ケ号作戦』の前倒しか…」

「我々が現地司令部なんて呼んでいるものですが、あれは向こう側の『門』の近くにいる

 小隊級の寄せ集めで、大尉か中尉あたりが取りまとめをしているだけです。

 本物の司令部を動かすには、もっと『門』の価値を高めないと」

「だがどうする?

 伝令将校に歴史を変える情報を伝えても、『門』をくぐると忘れてしまうのだろう?」

「そこも裏技を考えます。何とか決定権のある者と意思疎通をしたいものです」

一同頷く。


「それにしても…」

「それにしても、いいように我々で遊んでいるよな、この『門』を開けた誰かさんは」

「我々がガ島から来た日本兵を研究材料的に見ていたのと、似たようなものじゃないですかね。

 及びもつかない技術を持った者は、それを持たざる者に見せて、反応を見て楽しむ」

「悪趣味だな」

「それでも、それでも我々は今度こそ、苦労した先人の役に立てるという訳だ」

「見ているがいいさ。

 脱走した兵士は我々の思惑を裏切って、自分の意思で動いた。

 我々とて同様だ。

 作られた設定を超え、自分の意思で事を為してみせるぞ」



会議は終盤に近付いた。

「他に何か議題は?」

広瀬三佐が挙手をした。

「件のコンビニ副店長から報告があったのですが、

 3日後に『門』より西に行ったとこにあるサバイバルゲーム会場で、

 『夜戦をやっちゃおう! オールナイト・コンバット大会』が開かれるそうです。

 夜通し一般人があの近辺をうろつき、コンビニに買い物にも来るから気をつけて欲しい、

 との事です」

一同が眉間に皺を寄せた。

「下手をしたら、ガダルカナルで死に目に合った兵士と、

 現代のだが米軍の装備をしたサバイバルゲームの一般人が鉢合わせするのか!?

 絶対食い止めろ!!」

(続く)

感想ありがとうございます。


先に書いておきます。

「門」は前にも別な場所で別な時間と開いた事がありました。

今回が何度目か(そこは今後書く)なので、組織的なとこでは準備が速いわけです。

…メタ的に書くと、開戦から撤退まで半年、しかも飢餓が始まった時点からのガ島戦で

「お役所業務」さらには「組織の立ち上げと調整」なんてやってたら間に合わないので、

報告が来た時点で立ち上げるプロジェクトが出来ていないと、ずるずる詳細な金額も

判明しないまま食糧か水を渡し続ける、あるいは強奪される話にしかならないので。


後の章で以前に開いた「門」の話も書く予定です。


とりあえず次章はネタ的な章です。

次章は少し間を空けて15日にアップ予定です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ