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コンビニ・ガダルカナル  作者: ほうこうおんち
第1章:兵隊も我々も生きていて物を考える
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コンビニの役割が定まった

俺の勤務するコンビニの前に現れた、1942年のガダルカナル島と現代を繋ぐ「門」。

それを使って極秘裏に日本軍に補給を行う。

その作戦に巻き込まれていた俺の店だが、ちょっと運営方針が変わったようだ。




広瀬三佐は脱走事件からの顛末を話してくれた。

「どうも我々はSFごっこをしていたようだ。

 つい、過去と現代を繋げる『門』の存在に浮かれ、

 またそこが絶望的なガダルカナル島であったことから、

 物資を補給し、出来るだけ助けてあげよう、そう思っていた」

と。


だけど、そこにはどこか、旧日本兵を実験対象(モルモット)として見ている部分があった。

現代の物資を見せ、欲しい物を与え、その反応を調査していたりした。

それは間違いだった。

旧日本兵も人間なのだ。

こちらの思惑通りに動いてくれるなんて保証はどこにも無い。

人間なんだから、こんな平和な世界を見れば、里心も出るし、逃げたくもなる。

良い人ばかりでなく、悪い人も、壊れた人もいる。

悪いが、あんな過酷な戦場でしばらく女も見ていない。

性犯罪を起こす危険性もある。

そうなると、流石に隠し切れなくなる。


伝令を通じてだが、ガ島の司令部と意見交換をして、もっと軍隊的にいくことに決めた。

向こうの司令部も、つい同じ日本人である事に甘えていた、と反省していたそうだ。

士気が上がってもいたし、兵士たちの気の緩みを大目に見てしまっていた、と。

お互いがお互いに敬意を持ち、同じ軍隊として接しようと。

だから、神社っぽく偽装しているのは変わらないが、規模を拡大した。

脱走出来ないよう、周囲を有刺鉄線で囲み、見えないようにこちらも歩哨を置く。

水と食糧の補給だが、こちらで消費する分には、同時には3人しか来られずとも、

交代でなら2時間の間は何人も来ることが出来る為、

交代でこちらで食事を摂り、水筒に給水して帰す事にした。

コンビニ弁当でなく、世間で言うとこのミリ飯だ。

こちらの方が軍人には良いだろう。

それと入浴・消毒だが、建物を一個増設し、そこで自衛隊の監視下でやってもらう。

検疫の観点からもこちらの方が望ましい。


「じゃあ、うちは何をするんですか?

 お役御免だったらわざわざ呼び出して書類渡さないでしょ?」

俺の質問に三佐は答えた。


必要とする水、食糧、医薬品、工具、軍手や靴下なんかは自衛隊で準備出来る。

だが、それ以外の物については準備し切れない。

何が必要か予想が出来ない。

その場合、買い出しをする必要がある。

そして近場にあり、とりあえず何でも揃ってるのが

「うちのコンビニですか…」


買い出しは

・現地上官の署名入りの発注書を作成する

・それが偽装宿営地に存在しないと判断した場合、外出許可証を発行する

・外出許可証を持った日本兵1人に、自衛官2人が付いて来訪する

・領収書は必ず発行してもらう

という手順に決まったそうだ。


「お役所仕事ですね」

「仕方ないですよ。事件が実際に起きてしまったんですからね。

 事件を最小限にする為、お互い軍隊として、というか公僕として接し、

 甘えは無しにしましょうって事になったんです」


また、峠の途中にある「門」なので、適当な駐車場はうちの店の横だけ。

「大型の輸送車を停めさせていただきたいのです。

 それに関するのが、そっちの書類です」

…日付時間を記載し、入った、出たのチェックをする…。

「ああ、それはうちの派遣してるのにやって貰いますんで」

そうしてくれればありがたい。


ただ…

「うちのコンビニの前、夜はトラックが入れ替わりで何台か来ますよ。

 その時は、悪いんですがあっちを優先してやってくれませんか。

 つき合い長いし、これからもつき合うお客様なので」

「了解です。

 と言っても、荷物の搬出はそう時間をかけませんので安心して下さい」

確かに、見ててもあっという間に作業をしていた。

その辺は心配無いか。


俺は書類サンプル一式を貰った。

偽造とかに注意するよう、一応レクチャーも受けた。

買い出し票のコピーの送付先情報も貰った。

「なんか、手回しいいですね」

「?」

「いや、10日くらいで書類一式整って、対応マニュアルが出来て。

 お役所仕事って思ってたんですけど、随分速いんですね」

「いやいや、私たちは書類仕事のプロですよ。

 上に話を通したり、(政治家)先生方の都合に合わせたりする時に時間がかかるだけで、

 自分たちだけで何とかなるなら、こんなもんですよ」

「へー。なるほどです。勉強になりました」

そんなものなんだね。




そして早速その晩、買い出しが来た。

私服姿だが、痩せた男が1人とガタイが良いのが2人。

聞いていた通りだ。

分からなかったのが買い出し票の項目だった。

「掃除用バケツ、脱臭剤、食用酢、トイレ用洗剤、キッチンペーパー、ビニールテープ、茶葉」

「???」

確かにこんなのは自衛隊では常備はしてないだろう。

(野村「無いことは無いですけど、供出用ではなく備品扱いで、譲渡すると問題が…」)

痩せた日本兵と思しき男は、付き添いの男に色々質問していた。

何種類かの中から選んでいた。

買い物かごを出し、レジを通した。

支払いは付き添いの男のプリペイドカードから。

もう1人の付き添いは、同業の野村さんとこに行って、何やら書類を書いてもらっていた。


買い出しが帰っていった。

コピー取った書類をメール送信し終わった野村さんが来た。

「変な買い物だったね」

「いや、あれは私たちには分かりましたよ」

「バケツに洗剤、掃除でもするのか?」

「脱臭剤ですけどね、わざわざ活性炭の物を選んで買い込んでました。

 あと洗剤は塩素系でした。

 きっと浄水器を、あっちで作ろうって事になったんでしょうね」

「浄水器か!水を自分たちでも作ろう、って事か」

バケツの上に手作りでフィルターを置く。

フィルターの外枠は、現地で手作りだろう。

活性炭や現地で作った焼き石とか砂利を敷き詰め、最終的にはキッチンペーパーで濾す。

そこを通す水だが、酢や塩素で殺菌してからにする。

何回か濾過して出来た水だが、飲料用にはしないだろう。

洗濯したり、道具を洗ったりする為の水に使う。

しかし、何らかの事情でそれを飲む場合には、お茶にして味と殺菌をする。


「自衛隊でも、あり合わせの物で水や食糧を確保する訓練はしますから」

なるほどね。

水や食糧とかは偽装陣地(じんじゃ)で何とかなる。

持ってない物、使えそうな物についてはコンビニで調達するって寸法か。

…雑貨屋やってた方が都合良かったのかな…。


とりあえず、俺の勤めるコンビニの使われ方は納得出来た。


もう一つの使用法である自衛隊のトラックの駐車場。

今日も大型トラックが来ていた。

路駐でも構わないんじゃ?と思うくらい迅速に運んだりしている。

「あれ、何?」

何か大型の機械を、トラックに積んでいるのが見えた。

「何でしょうかね。私たちには知らされてないので…」

答えて良い範囲の物は答えてくれるが、そうでないのか、本当に知らないのか、

表情からは分からない。

「つーか、あんな物、『神社』のどこかに置いてたの?」

「そう…ですねえ」


やっぱり俺の知らないとこで、自衛隊?防衛省?もっと上??は何か動いているっぽい。

面倒だからこれ以上突っ込まないでおくか。


おっと、また買い出しが来た。

「タバコ、酒、栄養ドリンク…」

「上官の嗜好品(わがまま)ですね…」

レジの表示を見て、日本兵が驚いていた。

「自分、19歳なのですが…」

そこには”あなたは20歳以上ですか[はい] [いいえ]”と表示されていた。

『あれ?徴兵って20歳からじゃなかった?』

『志願兵は17歳からです』

だが、よく考えたら

「貴方はこちらの時代ではもう80歳を超えてますから、[はい]を押して下さい」

脱走事件以降、緊張感があった日本兵の買い出し現場で、久々に明るい笑いが起こった。

(続く)

感想ありがとうございます。

鬱展開終わり、ちょいちょい笑い混ぜときます。

前から考えていた事でして、

仮に現代と近代(明治~昭和20年)の軍隊が出会ったとしたら、

最初は同じ日本人として狎れ狎れな交流になるも、

軍隊同士ならきっとどこかで一線引いて、普通の同盟軍的な態度になるんじゃないかな、と。

それが軍隊としての矜持じゃないかな、と思ってます。

で、書いたのがこの章です。

(それ以外の意味ももちろんありますが)

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― 新着の感想 ―
[一言] 笑っちゃってたけど10代の若者もあの場所にいたんだよね。何とも言えん気持ちになる
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