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装甲響姫―鎧閃―ZERO  作者: 窓井来足
第0話(邪慟編)
9/12

あたしたちがアイドルよ! その3

さて、前回。新たなメンバーを得るために、新歓のステージでダンスをする事になった妖でしたが。

はたして彼女は無事にステージを成功させたのか? そしてメンバーは来るのか?

「ちょっと、誰も来ないじゃない!!」


 新歓が終わって数日後。

 ダンス部にはまだ誰も入部希望者が訪ねてきていなかった。

 何故か。

 それは、(あや)のダンスのクオリティの問題……ではない。

 あの新歓でのダンスを引き受けると妖が決めた日から、本番まで。

 妖は学校では勿論、休日も公園などで(はやて)と一緒に練習し。

 更に、自宅では室内で出来る部分の練習や、本番までに効果は出ないとは思いつつダンスのためのアイソレーションもし。

 その上、颯から貰ったダンスの動画も毎日見て、自身が踊る曲の「月華の夢刃(むじん)」も何度も聴くといった生活をしており。

 その結果、妖のダンスは颯が認めるほどには上達していたのである。

 そして、ステージの評判もとてもよかった。

 のだが。

 それでも、入部希望者が着ていないのである。

 その理由は二つ。

 一つは、そもそもこの緋衣ヶ原(ひごろもがはら)高校の周囲にいくつかの有名ダンスチームがあり。

 ダンスがやりたい人はここ最近はほぼ実績のないダンス部より、そちらでの活動を希望する事が多い事。

 もう一つは、選曲の問題で。

 颯は「月華の夢刃」を隠れた名曲だが、ファンならば知っているはずと読んでいたが。

 それは颯が行くような熱心なファンの集まるイベントにいるような人や、ネット上で知り合うオタク仲間の場合で。

『マスクドシャドウ』が好きな人全体で考えたら、知っている人はそんなに多くないのである。

 なので、一年生の中に何人かいた『マスクドシャドウ』のファンも、使われている曲が関連楽曲だとは気がつかず。

 結果的に、ダンスが好きな人も、オタク的趣味のある人も、どちらも来なかったのだ。


「おかしい……何故だ……」

「『何故だ』Iじゃないわよ!! このまま誰も来なかったらどうするつもり!?」


 アイドル大会に出場することは颯と活動するための建前だったとはいえ、自身が必死に努力したのに大会出場のためのメンバーつまり入部希望者が誰も来ない事に苛立つ妖。

 ちなみに、妖はダンスのために先に挙げた事に加えて。

「知らないアニメの曲を知っているというフリして踊るとか、私の美学に反するわ」と思ったために『影ノ仮面 月光』のアニメ版とオーディオドラマを両方鑑賞し。

 更に『マスシャド』アニメ三部作の他二本、十五世紀フランスを舞台にしたものと、二十六世紀の宇宙を舞台にしたものまで見ていたりもする。

 そしてこれを彼女は「新歓のダンスの世界観を広げるために必要な事」だと思っており。

 好きなものとはいえ、先に挙げた練習などの他に、合計六クール分のアニメに加えてオーディオドラマや劇場版まで含めて鑑賞するというのを二週間ほどで終わらせたというのを、努力した事のうちだとも思っているのであった。

 そんな事も加わって、彼女からしたらこの二週間ほど、あれだけ努力したのに、新入部員が誰も来ないというのは不満であり。

 しかし同時に、流石の彼女も「ダンスのためにアニメを見た」というのを他人は努力とは思わないという事ぐらいわかるので、それを言い出すこともできず、ますますイライラが溜り……と、いうところなのである。

 とはいえ、アニメ鑑賞だのの事情を知らない颯も、妖がダンス素人同然の状態からステージで一人でできるまでに成長した事自体は知っているので。


「すまない。俺の選曲のせいかもしれない」


 と謝罪する。

 勿論、颯は本当に選曲のせいだと思っているわけではなく、自分のせいだとしたら選曲か振り付けかどちらかになるだろうと思ったので口にしたのだが。

 実際問題、選曲のせいである。


「ちょっと、責任取りなさいよ!!」


 一方、選曲のせいではないかと薄々気がついていた妖は、颯が本当にそう思っているのだとして対応する。


「責任を取る……だと……」


 言って口元を歪め、眉を顰める颯。

 颯の「本当に選曲のせいだという確証はないのに、なぜ俺が……しかし、妖の事を考えると反論するわけにも」という葛藤によってなったこの表情を。

 妖は「どうやって責任を取るべきか」と苦悩しているのだと判断。

 そのため、しばし二人は何も言わず。

 颯は難しい顔をし。

 妖はそれを見つめるという状況が続いたが。

 流石に。

 このまま何もしなくても現状は変わらない。

 とは、お互いにうすうす思うようになってきて。


「うむ。そうだ妖。気分転換に珈琲でも淹れよう」


 先に動いたのは颯であった。

 彼女は妖の気持ちも分かるが、かと言って何の責任もない(と、本人は思っている)事に責任を取るという事に対しての怒りも沸いてきてしまい。

 このままでは、冷静でいられなくなるかもしれない。そうすると冷静なキャラを作ってきた自分のイメージに関わると判断したので。

 自分の気分転換のために珈琲を入れようと考えたのである。

 だが、これを妖は「今すぐ何か責任を取ることはできないから、とりあえず私に珈琲を入れてくれることにしたのね」と判断した。


「そうね。ありがたいわ」


 その為、妖は素直に珈琲を頼む。


「砂糖とミルクは?」

「いらないわ。漆黒の闇に不純なものが混じってはいけないもの」

「フッ……俺と同じだな」


 颯は妖の要求通りにブラック無糖の珈琲を彼女の元へと運び。

 受け取った妖はそれのまろやかな香りを楽しんだ後……飲まずにテーブルに置いた。


「どうした? 飲まないのか?」

「……た、たまには漆黒の夜空に天の川を浮かべてみるのも悪くないと思ったのよ」


 妖はそう言うとさっき自分で断った砂糖とミルクを取りに行き。

 席に戻ってから、珈琲にそれらを入れた。

 実のところ。

 妖は本当は苦い珈琲は苦手なのだが、自分のイメージに合わないと思って先のような事を言っていた。

 だが颯は普段からブラック無糖で飲むタイプであったので、特にそこは気にしなかったのである。

 とはいえ、颯もまた「珈琲に不純物を入れない」というのは格好をつけて言っているのであって。

 実際には甘い珈琲が好きなものの、糖分の取り過ぎを気にして入れていないというのが本当の理由であった。

 ので、妖の行動を見た颯もまた、


「確かに、混じりけのある……つまり混沌(カオス)というのも悪くないからな」


 と、砂糖とミルクを入れて飲む。

 こうして結局。

 二人は一緒に、砂糖とミルク多めの甘い珈琲を飲んでまったりし始めたのだが。

 そんな時に。

 コン……コンコン……。

 と、何者かがドアを叩く音が。


「なっ!! まさか組織の追手か!?」

「まさか私を捕えに来た光の聖者……」


 とりあえず、いつものノリでノックに反応した二人だったが。

 当然「いや、そんなはずがない(わ)」と二人とも現実に意識を戻した二人は、そのまま「これは入部希望者」と考え。

 慌てて席を立ち、急いでドアを開ける。

 するとそこには。

 手には怪しい札を多数持ち、顔に口元が出るタイプの狐の仮面をかぶった不審な女子生徒が。

 それを見た二人はとりあえず、ゆっくりとドアを閉める。


「……組織の追手、まさか実在したとは」

「捕えに来た聖者ではなく、私を利用するつもりの呪術師だったのね」


 二人は不審者を見た感想を先に口にした妄想に絡めて述べる。

 だが、勿論即「そんなわけがない(わ)」と再び現実に意識を戻した二人は、外にいる不審者をどうするべきか悩む。

 すると、外から。


「僕の来訪を拒むとか……仕方がありませんね」


 などという声が。

 そして、その後、ドアに何かを当てるような音と、何かを貼るような音が聞こえてきた。

 これに、しばし何が起きているのかと疑問に思った二人だったが。


「まさか!!」

「このドアに!?」


 気がついた二人は、急いでドアを開ける。

 すると二人の予想通りその女子生徒は、手に持っていた……いや、よく見ると腰につけているポーチにも入っているお札を、ダンス部の部室ドアにペタペタと張り付けていたではないか。


「貴様、何をしている」

「我々を部屋に封印しようとはいい度胸ね」


 言いながら、怪しい生徒を捕まえて、人目につかないようにするために部室に引き込む颯と。

 既に貼られた札を剥がし回収する妖。

 そして札を回収し終えた妖がダンス部の部室に入り、しっかりとドアを閉める。

 ドアを開けて、怪しい人物を確保してからここまでわずか五秒であった。


「……で、貴様は何者だ?」


 とりあえず不審者を椅子に座らせた颯は問う。

「僕かい? 僕は宵星(よいぼし)(あきら)。この闇の集まりに招かれた影の者……とでも言おうかな?」


 颯の問いに対して自己紹介した不審者、彰はそのままポーチから封筒を取り出す。

 封筒を受け取った颯が、その奇妙な文様が入っている封筒を警戒しながら開けると、そこには。

 入部届が入っていた。

 これを見た妖は、さっきまで自分の努力が報われず新入部員が来ない事を嘆いていたこともあって、相手がいきなり部室のドアに札を貼る不審者だったことなど忘れ、


「ほう、あなた我々のサバトに加わりたいようね。いいわ、歓迎してあげる」


 などとあっさり部員として認める。

 が、一方の颯は、


「貴様、いきなり我らの部室に攻撃をしかけておきながら仲間に加われると思っているのか?


 と問う。

 勿論、実際には一生徒である颯に入部拒否権はなく、学校側が許可すれば入部できるのだろうが。

 それはそれであり、颯としてはいきなり問題行為を起こすような生徒を入部させるわけにはいかないのだ。


「ハハハ、攻撃だなんて。大体、そちらが僕の話を聞かずにドアを閉めたのでしょう?」


 彰は颯の問いに余裕の笑みを浮かべてでそう返すが、颯はその様子に少し苛ついて、


「それは貴様が不審な格好をしているからではないか」


 と指摘。

 だが、それを聞いた彰は「ふむ」と言っておでこに人差し指を当ててしばらく考えてから、その指を妖に向け、


「しかし、その人が以前、今の僕なんかより派手な格好でこちらに来ていたのを見ましたが……ここはそういう集まりなのではないのですか?」


 と口にした。


「な、お前……あれを見たのか?」

「ええ。だから僕も自分の世界観がわかりやすいような恰好を着てきた方が良いのではないかと思いまして」

「あれは……ダンスの衣装だ。うちはダンス部だからな」


 颯は、ここで事実を言う必要性もないので、普通なら信じるだろうという嘘をついて対応。

 それに対して、わざとらしいくらいに首を傾げた彰は、


「そう思い調べてみましたが。今年に入った段階では颯先輩だけしか部員はいなかった……つまり――」


 と発言し、そのまましばらく颯の顔を凝視する。

 そのまま十数秒が経過したあたりで、颯は「どうやら俺が何か反応しないとならないらしい」と察したため、


「つまり?」


 と尋ねてやることにした。

 すると彰は「コホン」と、これまたわざと臭く咳をしてから、


「あの格好を見て入部を認めたという事でしょう?」


 などと胸を張って堂々と答えた。


「………………」


 な、訳があるか!! と颯は思ったが。

 今の様子から、この後輩おそらくこちらの話をまともに聞かない、いや、聞いてはいるが上手い事自分の問題点をあやふやにしようとするタイプじゃあないかとも思ったので。

 結局「まあ、いい」と呟き、この話はなかったことにすることにした。

 だが、この彰が問題行為をする気配がある後輩であることには変わりがないので。


「さてでは……貴様は、何故このダンス部に入部を希望するのか?」


 颯は彰が何者かを判断するために、まずは無難な質問をしてみることにした。


「そうだね。あの新入生歓迎会のダンスが気に入ったから、かな?」


 質問に対して彰は妖の方を見てそう伝える。


「あら、この後輩。大分見どころがあるじゃない」

「そう言ってもらえて光栄だよ」


 これに、颯と違い既に彰を部員に加えても構わないと思っている妖は素直に礼を言い、彰の方もそれに返す。

 だが一方、まだ彰を信用していない颯は、次の質問をしなければと考え、


「ほう、ところで貴様あの曲を知っていたのか?」


 と尋ねる。

 この質問、颯の中で「俺の選曲が間違っていたとは思えない」という気持ちがあったためされたものだったりするのだが、それは兎も角。


「いいや、別に。ただ和風テイストなところとか、僕好みだったんでね」


 颯の質問にそう返答する彰。

 そして、彰はステージで使用されていた曲を実際に気に入っていたのは事実であり、今後も聴きたいと思ったので、


「ちなみに、あの曲は何という曲なんだい?」


 と質問。


「『月華の夢刃』だ。『影ノ仮面 月光』の」

「『マスクドシャドウ』のアニメ版よ。知らないかしら?」


 彰の質問に答える颯と、補足する妖。

 妖がここでこういう補足をしたのは当然、自身がアニメ版に触れていなかったため、そちらのタイトルだけを言っても知らない人もいるだろうという配慮であるが。

 さて、そんな二人の説明を聞いた彰は「ほうほう、なるほどなるほど」と呟いてから。

 右手の人差し指をピンと立てて、


「『マスクドシャドウ』……ああ、あのオサレ系中二特撮の」


 と口にした。


「な、なんですって!?」


 その言葉に、動揺した妖。

 だが、一方の颯は、


「クックックッ……そうだろうそうだろう」


 とブツブツ呟くように言いながら頷く。

 さて、ここで。

 同じ『マスシャド』のファンであるはずの二人の反応が分かれた訳だが。

 これはこの作品に大きく分けると二種類のファンがいる事に由来する。

 実はこの『マスクドシャドウ』という作品は開始当初から、有名な深夜特撮の二番煎じと見られていた作品で。

 その上、実際に始まるとダーク系特撮やアニメから、中二病な人にウケそうな要素だけを抽出そして濃縮したような作風であり、アンチも多かったのだが。

 第三話が放送された辺りから、どうやらこの作品は制作側が意図的にそういう方向性を狙っている面があるらしいと理解され。

 現在は純粋にカッコいい作品だと思っているファンも一部いるが、むしろ、いかにも中二病の人が好みそうな雰囲気をネタとして楽しんでいるファンの方が多いのである。

 そして、今まで『マスシャド』の内容にあまり妖と颯は語り合った事がなかったのだが。

 妖は前者のタイプのファンであり、颯は後者のファンであった。

 が、妖は今までずっと『マスシャド』を一人で楽しんでいたファンで、初めて参加したファンイベントが颯と会った際のものだったりするぐらいなので。

 薄々は気がついていたものの、ファンでさえもあの作品を「オサレ系中二病特撮」として扱っている事はあまり認めなくない事実だったのだ。

 一方、颯は先の彰の発言や『月華の夢刃』を曲として気に入ったあたりのセンスを考慮すると、むしろ自分と同じような形で『マスシャド』のファンになるのでは? と推測したため一人で納得して頷いていたのである。なので。


「貴様、見どころがあるな――よし、我が組織に加わることを許可する」

「あなた、許すわけにはいかないわ――私のサバトに加わるという件は却下よ」


 ここに来て、二人の彰に対する意見は当初と逆転。


「妖、貴様、何故この女の入部を認めない?」

「颯、あなた、何故この子が加わるのを止めないのかしら?」


 そして当然だが、彰を入部させるかの対立は、そのまま妖と颯、二人の価値観の違いもはっきりとさせてしまう。

 結果として。


「……颯、あなたも我らが『マスシャド』をオサレ系なんたらと思っていたのね!?」


 先に相手の『マスシャド』に対する扱いが自分と違う事を指摘したのは妖。

 長年一人でファンをやってきた理由が「周りから痛い作品のファンと思われたらどうしよう」であり。

 そして勇気をもって行ったイベントでたまたま同じクラスの生徒である颯と知り合い彼女の事を仲間だと認識した妖にとって。

 颯の言動は、妖自身からしたら裏切りにも思えたのだ。

 だが、同時に。

 妖は颯に抱いていた仲間意識は自身が勝手に考えていたイメージだとも理解できる程度には考える力があるため。

 結果として。

 気持ちのやり場がなくなった彼女は、


「酷い!! あんまりだわ!!」


 などと誰に対してなのか、言った本人さえわからない捨て台詞を吐いて、そのまま部室を飛び出して行ってしまったのだった。

 さて、こうして部室には。


「あの、颯さん。妖さんは一体……」


 などと突如取り乱して部室を飛び出していった先輩に、流石に動揺する彰と。


「気にするな……とは、言えんな」


 と、一応は妖の事を心配する颯が残ったのであった。


(続く)

こうして、好きな作品の扱いによってメンバー内で分断が出来てしまったわけですが。

果たしてどうなるのか、次回に続く!!

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