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装甲響姫―鎧閃―ZERO  作者: 窓井来足
第0話(鎧閃編)
6/12

あたしたちがアイドルだ! その6

前回、遊の作詞したあからさまにアイドル路線ではない歌詞を指摘した鎬は。

結局、自分がより良い歌詞を書くとしていたのですが……さて、どうなったのか。

「おい、本気なんだろうな? 本当にあれで出るんだろうな?」

「くどいぞ(しのぎ)君。勝った方の曲で出ると言っただろう」

「いや、せめて銃撃王(じゅうげきおう)の方で……」

「あれは銃撃王(がんげきおう)だと言っただろう」

「いや、それは兎も角。せめて主役をあたし以外にだな……」


 あの曲決めの話し合いから八日後。

 結局、大会当日に行う曲は「決めろ!! 勝利だ!! 斬撃王(ざんげきおう)」になっていた。

 なってしまっていた。

 何故か。

 それは、あの後鎬は部室にも顔を出さずに、ひたすら作詞に打ち込んだのだが。

 結果、根詰め過ぎで「何を書いても駄目な気がする」というスランプ的な状態になり。

 最終的に一週間以内に歌詞が完成しなかったため、鎬の不戦敗という形になったためであった。


「鎬さん、諦めましょうよ。負けを認めたのは鎬さんじゃないですか」

「でも、あたしが昔書いた歌詞の方が(ゆう)のよりカッコいいって穂薙(ほなぎ)、お前も言ったじゃねーか」

「それはそうですけど、約束は約束ですよ」


 鎬は、自身が負けを認めた日の夜。つまり昨夜。

 遊の歌詞に敗れた事が納得できなかったため、一応自分が過去に書いた歌詞をSNSで送り、穂薙には見てもらっていたのだが。

 その際の穂薙のコメントが「これを出していれば普通に勝ってましたよ」であった。

 つまり、もしもあの日、鎬が歌詞を書くと決めた日に穂薙と鎬が話しており。

 遊の暴走的な歌詞を止めるつもりだという穂薙の意図が、鎬に伝わっていれば。

 鎬は「中学時代に書いた歌詞を手直しして出せばいい」という状態になり。

 仮に一から新作を作っても精神的な余裕が生まれたので、スランプにはならなかった可能性が高いのである。

 ――が、もしもは仮定の話。

 現実の「決めろ!! 勝利だ!! 斬撃王」に決まったという結果は何も変わらないのである。


「でもよ、穂薙。お前、この曲でアイドル大会出て、女子の人気取れると思うか?」

「我々みたいな女子狙いなら、あるいは……」


 鎬の何気ない質問に返す穂薙。

 勿論、ここで穂薙が言っている「我々みたいな女子」とは、オタク女子のうち主に特撮やらロボットアニメやらを好む人たちの事である。

 だが、これを聞いて顔をしかめた鎬は。


「いや、アイドル大会にそういうヤツら、投票しに来ないんじゃあ……」


 と、口にする。

 もし仮にこの大会が、女性のオタクに人気のあるイベントならば、そういう人が見に来た場合「カッコいい系を狙った女性アイドルで、しかもアニソン的な曲をしている」というのは評価されたかもしれないが。

 そもそもこれはローカル女子アイドルを決めるためのイベント。

 来るのはほぼ男性だろうし、そして彼らはアイドルオタクかもしれないが、アニオタや特オタであるとは限らないのではないだろか?

 ……と、そこまで考えて。

 鎬は、ある事に気がついた。

 それは。


「ってか、そもそもカッコいい女性アイドルとして活動しても、そういうヤツらが大会に参加しているって広まってなければ、あたし等に投票するような女子とかの票、集まらねえじゃねーか」


 という事である。

 そう。

 大会当日に会場で投票するにしても。

 その後の期間で動画を見てネット投票するにしても。

 そもそも大会参加者に「イケメン女子アイドル」がいる事の存在自体が知られていなければ、アイドルの大会をわざわざカッコいい女子目当てに見る人など、ほぼいないのであった。

 そんな、鎬のもっともな疑問に。


「大丈夫だ。予選は審査員だけが評価するが、その際にどんなアイドルかは一般にも公表される」


 と言ったのは遊である。


「おう、なら大丈夫……」


 遊の返答に、とりあえずそう返した鎬。

 だが、しばし考え。

 そして。


「ん? 予選?」


 という部分に疑問を持った。

 何せ、彼女はこの大会に誘われた際にチラシを見て「大会は十月」とは知っていたが、その前に予選があるなんてことは知らなかったからだ。


「予選だ。ほら、五月の半ばにあるだろう?」


 一方の遊は、鎬が大会について彼女自身でも当然調べているものだと思っていたので、特に何も考えずにそう告げる。


「ほう、五月半ばに予選……って、五月半ヴァ!?」


 遊の発言を聞いて驚く鎬。

 それもそのはず。

 何せ現在は四月下旬なのである。

 確かにこの先五月半ばまでにはゴールデンウイークがあるから、その時間を練習に使えばそれなりには時間が取れる。

 だが、それは基礎的なダンスが出来ている人ならば、予選に向けて練習できるだろうという事で。

 今月行った新歓のほぼ武器を持っての演武みたいなのを除けば鎬のダンス経験は「将来、役者になったら使えるかも」とひそかに中が時代から行っていたネット動画を見ての練習だけである。

 いや、勿論。

 それでも数年は行っているので、多少経験はあるといえないこともないのだが。

 しかし、少なくとも他の人間と合わせてダンスを踊った経験はほとんどないのである。

 しかもその上、更に問題になるのは。

 そもそもの大会で踊る曲がまだ完成していないはずという事になる。

 何せ、遊が言っていた事から考えるならば、作曲するのは遊がネットで知り合った友人であり。

 その人には昨日、大会でやると決まった歌詞を伝えているはず。

 仮にその人物が作曲する速度が異様に早い人だとしても、まさか昨日送って今日明日に完成とはいかないだろうという事は、作曲についてはド素人である鎬が考えてもわかる。

 そしてそうだとすれば、練習しようにも当面は曲がないということになるはずだ。


「お前!! 昨日曲を決めて、しかもそれまだ作曲できてなんだろ!? 間に合うのか!?」


 自身の練習の方はこの際やるしかないとして、曲はどうするのかの方が問題だと思った鎬はそちらの方を指摘。

 それを受けて遊は、自身のスマホを取り出し、操作。

 するとそこからとある音楽が流れた。

 それは――


「……こ、この歌詞、もしかして」

「『決めろ!! 勝利だ!! 斬撃王』ですね……」


 驚く鎬と穂薙。

 その様子を見た遊は「ふふん」と笑ってから。


「曲ならもう一週間前にはできている」


 と宣言するかのように言った。


「一週間って……おい! あたしとの勝負な何だったんだよ!?」


 声を荒げて思わずそう意見する鎬。


「あの日、私は既に完成したこれを聴かせる予定だったのだが、鎬君があまりこの曲の内容が気に入らないような様子だったからな。だから、あの日はこの曲にするべきかを決める勝負をすることにしたのだ」


 対して、遊はさも当然、どころか自分は鎬のためにわざわざ勝負をすることを決めたのだという口調で説明。

 これを聞いた鎬は、


「お前……どうせあたしの曲に決まっても作曲する時間がない事を言って……」


 自分の曲を選ばせたに違いない――と邪推する。


 それに「鎬さん、鎬さん」と待ったをかけた穂薙は、


「遊さんは多分、そんな事考えてません。というか、考えない人だから……」


 むしろ困るのだと説得。

 そして、遊が実際そういうヤツであることは鎬もここ約1ヶ月でさんさん思い知ったので。


「ああ、そうだった……こいつはそういうヤツだったぜ」


 と、あっさり納得したのであった。


「……で、その予選とやらへの練習はどうすんだよ?」


 とりあえず曲の事は諦めると決めた鎬は、頭を切り替えてもう間近に迫っているその予選対策についての話に持っていく事を決め、質問。

 彼女としては当然、こんな歌詞(きょく)で勝てる気はしていないのだが、それでも出ると決めてしまった以上はできる限りの事はやりたいのである。


「うむ。とりあえず、学校の体育館や多目的ホールの他、近くの市民センターや市民体育館などで使えるところを予約しておいた。ゴールデンウィークはそこで練習する」


 鎬の質問に、スマホで予定表を出しながらそう返す遊。

 遊はどこか抜けたところがあるとはいえ、一年の時はクラスのイベントなどでまとめ役として仕切っていたような人間である。

 なので、こういう休日の学校施設の使用許可は速やかに取っているし、学校が使えない場合には周辺の公共施設でダンスの練習が出来そうな場所を押さえることもまた当然のように行っているのである。

 無論、本来ならばゴールデンウィークという旅行やイベントなどに向かう人が多い時期に、他のメンバーに相談なく練習場所を予約したことは問題となる可能性もあったのだが。

 今回、鎬、穂薙共に特にゴールデンウィーク中に予定はなかったため、そのあたりで揉めることもなかった。

 ので、結果として彼女たち三人は五月中旬に控える大会予選に備えて、ゴールデンウィークは練習三昧となるのだが。

 その際、練習場所として使用した体育館で、彼女たちは宿命のライバルと出会うことになるとは――

こうして、鎬たちは予選に向けての練習をすることになるのですが。

その前に、別の学校でも――

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