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装甲響姫―鎧閃―ZERO  作者: 窓井来足
第0話(鎧閃編)
2/12

あたしたちがアイドルだ! その2

さて、成り行きでアイドルとして活動するために。

とりあえず部員ゼロ人の状態で存続していたダンス部に入部した峰柄鎬ですが。

果たして、どうなるのか……。

 (しのぎ)がアイドルとして遊にスカウトされた翌日。

 学校側に「ダンス部」として入部届を提出した彼女が、そのまま真っ直ぐに。

 ダンス部の練習場所である、多目的ホールの扉を開け……。

 そして。

 そこで、予想外というか。

 いや、むしろ。

 むしろ予想はうすうすしていたものを。

 その目で、はっきりと見たので。

 鎬は、それを。

 見なかったことにして。

 ホールの扉を閉めようとした。

 ――が。


「鎬君! 何故ドアを閉めようとする!? 鎬君! 」


 先にそれに気がついた(ゆう)に妨害されたので。

 結局、閉められず。

 なので、扉を閉める代わりに鎬は遊の質問に、


「昨日、ひらひら衣装は着ないって言ったじゃねーか!! 嘘だったのか!?」


 と返した。

 そう。

 鎬が扉を閉め、中を見なかったことにしようとした理由。

 それは。

 中にいた遊がフリルのついたエプロンや、ヘッドドレスを身に着けていて。

 ……まあ、つまり。

 メイドさん……をアイドル風にアレンジしたような恰好をしていたため。

 鎬は、そういう格好はしないと騙されてアイドルに誘われたのでは?

 と、思ったから見なかったことにして、その場を立ち去ろうと思ったのだ。

 が、そのあたりの事情をすぐに察した遊は。


「勘違いするな。これは私の趣味だ。いいだろう?」


 と口にした。


「……ああ、とってもいいかもな……」


 遊の言葉を聞いてとりあえずそう返した鎬の脳内には。

「昨日から気になっていたが、やっぱり一人では着る趣味はあったのか」という納得と。

「あたしの前で着るのは〈人前〉に入らねーのか?」という疑問が。

 ほぼ同時に発生しており。

 そしてそれらが中和しあった結果「もう、どうでもいい」という結論に至っていた。

 ので、先の言葉の本当の意味は。

「とっても(どうでも)いいかもな」なのだが。

 これを素直に誉め言葉だと受け取った遊は。


「すまないが、これは私の趣味なのでな。鎬君の分はないんだ……練習は体育で使っているジャージでしてくれないか?」


 と言った。

 鎬としては練習は最初からジャージでする予定で。

 現にズボンは既にスカートの下に穿いている状態だったりもするので。

 それ自体は問題ないのだが。

 遊がいかにもなアイドル衣装を着ていたため、この段階で。

 鎬にはこの先の事について、ある疑問が沸いた。

 それは、


「練習はジャージでいいんだが。本番はどうするつもりなんだ?」


 というものである。

 カッコいい系の衣装と言っていたが、鎬は私服ではそういう感じのを好むとはいえ。

 舞台衣装などは全く持っていない。

 ので、当日どうするかは気になっていたのだが。

 遊は。


「ふむ。今回は新入生歓迎会も、そして本番の大会も学生服で出ようと思う」


 と言った。


「が、学生服ぅ!?」


 その選択は逆に意外だったので目を丸くして驚く鎬。

 確かに女子高生アイドルなら学生服はありかもしれない。が、


「新歓はまあともかくよ。大会ってのは高校生の大会なんだろ? じゃあむしろ……」


 学生服は普通過ぎて人気とれないんじゃねーか?

 と、いうのが鎬の抱いた疑問だった。

 が、彼女がそう言い終わる前に。


「そうだな……鎬君。ちょっとこっちへ」


 と遊が多目的ホールの中に呼んだので。

 鎬は彼女に言われるがままについていく。

 すると、遊はそこにあった、竹刀袋の中から。

 とあるものを取り出した。

 それは……


「お、おい。これ、ビームサーベル……か?」


 目の前のそれをどのフィクションに出てくる光る剣に例えるか、ちょっと迷った鎬だったが。

 とりあえずビームサーベルという呼称を使ってそれを呼ぶ。

 そう。

 竹刀袋に入っていたのは。

 SF作品や特撮ヒーローならば定番の武器の一つ。

 ビームサーベル……の、よくできたレプリカだった。

 少なくとも、超巨大なペンライトではない。

 ちゃんと柄の部分にはヒーローっぽい装飾があるので、これが武器を模したものだとはわかる。

 そして、先の鎬の言葉に遊が、


「うむ。竹光の方が良かったのだが、本物だと間違われては困るからな」


 と返したことからも、これが「光る剣」の類の模型であることはわかる。

 ……が、何故、今ここでビームサーベルなのか。

 鎬にはそれが疑問だったので、


「おい!! あたしは当日の衣装の話していたんだぜ? お前のコスプレアイテムの話をしてたんじゃねー!!」


 と、もっともな意見を言った。

 が、それに対して遊は。


「いや、これは確かに私のコスプレアイテムだが。同時に君の当日の衣装でもあるのだよ」


 と自信たっぷりの顔、いわゆるドヤ顔で、腰に手を当て胸を張って告げる。


「…………はぁ!?」


 何言ってんだこいつ。

 そう思った、鎬は次に何を言うべきか、迷ったが。

 その迷っている間に遊の方が、


「ちなみに、当日の音楽も決めてあってだな……これで行こうと思う」


 と勝手に話を進め。

 床に置いてあったプレーヤーを操作して、その音楽を流した。

 そして。

 イントロが流れた。

 ――瞬間。

 鎬が素早く、そして的確に。

 プレーヤーを操作して曲を止めた。

 それに対して、


「む? 何故止める? 君が好きな曲のはずだが?」


 と再び言いながら、再び流す遊だが。

 それをまた、鎬が止める。

 そしてまた遊が流す。

 鎬が止める。

 遊が流す。

 また鎬が止める。

 また遊が流す……。

 と、何度か繰り返し。

 そして、お互いに飽きてきた頃合いで、鎬が曲を止めながら。


「やめろぉ! 好きだけど、好きだけど!! ここではちょっと……」


 と声をあげた。

 そしてそんな鎬に、


「むう、当日は君も好きなこの『幕末戦士サムライジャー』のオープニング『サムライジャー見参!!』で行こうと思ったのだが……」


 と遊が言ったのを受けて。

 鎬は、周囲に誰もいないことを確認してから、


「て、てめぇ……何故、あたしがそれのファンだと知っている……」


 と、小声で遊の耳元で囁くように伝えた。

 だが、これに対して、遊は真面目に回答せず、


「うふっ……鎬君やめたまえ。耳に吐息が……」


 と、誰かに見られたら誤解されるようなことを言って誤魔化す。

 しかし鎬は、さっき周囲を確認した際に誰もこの場を見ていない事は確かめているので。

 遊の冗談はは無視して、


「と、とりあえずあたしがそういうののファンってことは秘密だ。いいな!!」


 と話を本題に戻しつつ、睨みつけながら低い声で唸るように伝える。

 しかし、そんな脅しに屈する遊ではない。

 どころか、


「『幕末戦士サムライジャー』私も好きだったが。駄目なのか?」


 と、逆に聞き返した。

 この言葉に、「え? ホントか!?」と目を一瞬キラキラと光らせた鎬だったが。

 すぐに「……じゃねえ!!」と気持ちを切り替え、

「お前が好きかはともかく、流石に新入生全員の前で『サムライジャー見参!!』なんて踊ったら……」

 

 と口にする。

 鎬としては、仮にこのまま『サムライジャー見参!!』でダンスをしたら。

 今後、卒業まであたしは後輩たちにとって「サムライジャーのお姉さん」じゃあねーか!!

 というところである。

 ちなみに鎬のこの発想は。

『幕末戦士サムライジャー』は数年前、彼女たちが中学生時代に放送していた特撮作品であり。

 そのため「小さい頃見ていました」とは言い難い作品でもあり。

 また、有名シリーズではなく、深夜に放送していたような作品で。

 鎬は録画で、遊はネット配信で見ていたような作品でもあるので。

 そんなマイナーな作品の曲を流したら。

 おそらく歌詞内容から「何の曲だ? アニソン?」と思った一部の生徒に検索されて。

 曲中でタイトルを連呼している部分があることもあって。

 すぐに「マイナー特撮のオープニング」とばれてしまい。

 結果として隠れオタとして生活するために人づきあいがめんどくさいという理由で。

 目つきが悪い事などもあえて利用して築き上げた〈不良っぽい一匹狼系女子〉のレッテルが。

 いともたやすく、えげつないくらいに剥がされてしまう。

 ――というところまで瞬時に予測しての。

「卒業まであたしはサムライジャーのお姉さん」という発想なのであり。

 極端に話が飛躍しているわけではない。少なくとも鎬はそう思っている。

 ……という事は、一応説明しておこうと思う。

 が、そんなことは気にしない遊の方は、


「しかし『サムライジャー』いい作品だった。主人公がまさか……いや、本当に意外というか、あれは面白かった」


 などと『サムライジャー』について思い出していた。

 が、そんな遊とオタクトークに花を咲かせているような余裕は、今の鎬にはない。

 ので、


「な、何とか別の曲に変えられねーか?」


 と、頭を下げる。

 しかし遊は、


「今回私が考えていた武器を使ったダンスは、中学時代に友人たちとこの曲でやったのを二人用にアレンジしたやつだからな……今から急遽変更というのは……」


 などと言って顔をしかめる。

 これに対して鎬はすかさず、


「おい! そのオタク仲間……か? そいつらとアイドル大会、出ればいいんじゃねーか?」


 と指摘。

 確か、アイドル大会は女子高生をターゲットにしていた。

 が、同じ学校の生徒とは書かれてなかったので。

 おそらく他の学校にいるだろうそのオタク仲間との参加も可能なはずである。

 だが、その提案に遊はすぐに首を横に振り、


「彼女達にもそれは提案したのだが『そんなの無理でござる』『拙者たちにアイドルとか向いてないでござる』と言われてしまったのだ。仕方がないだろう」


 と返す。

 それを聞いて思わず鎬は、


「そんな露骨なオタクっぽい言葉使うヤツ、いるわけねーだろ!!」


 と言ったが。

 すぐに。

「いや待て。〈オタクだから無理〉というのを表すためにわざとその時だけそういう口調で喋ったのかもしれねーな。あるいは話題が侍関連だったからかも」と考えを改め。


「ま、まあそんな喋り方するヤツがいるかは知らねーけど、それじゃあしかたねーな」


 と遊の意見に納得。

 そして、即、


「でも、この曲はまずい。この曲は……」


 と、今自分が解決しないといけない問題に再び頭を切り替える。

 そして、言ってからしばし考えて。


「そ、そうだインストゥルメンタルだ。確かあっただろ配信しているやつに」


 と提案した。

 鎬は、この曲自体はマイナーな特撮ソングだから知っている人が少ないし。

 歌詞さえ流れなければタイトル連呼も阻止できるから、そこからオタバレすることもない。

 そして同じ曲ならば、極端に振り付けとかをアレンジする必要もない……はずだ。

 そう考えて。

 せめてやるならば歌詞なしでと提案したのである。

 そして、それに対して遊は、


「ふむ……私としてはあの勇ましい歌詞が好きなのだが。そうか……鎬君が気にするならば仕方がない。そうしよう」


 と決断。

 まあ、こうして。

 鎬と遊は新入生歓迎会で『サムライジャー見参!!』をインストゥルメンタル版で使用することになった。

 これにより、鎬はオタバレを阻止できる……はずだった。

 ……のだが、まあこの手の作品にありがちなように。

 そうなるはずがないのであった。


(続く)

ちなみに『幕末戦士サムライジャー』は一応、ストーリーを考えていまして。

タイトルに幕末とありますが、舞台そのものは現代だったり……。


と、まあ実は昔考えていた小説のアイディアを転用しているので。

話を書こうと思えば書けたりします。

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