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装甲響姫―鎧閃―ZERO  作者: 窓井来足
第0話(邪慟編)
11/12

あたしたちがアイドルよ! その5

前回、後輩の新入部員・彰にあらぬ誤解をされた(可能性のある)妖と颯。

その後二人、そして彰との関係はどうなったのか……。

 あの体育館前の地下倉庫での一件から数日後。

 結局。

 妖はダンス部に残り。

 そして新入部員として彰が加わった。

 のだが。

 そんな状況で、妖と颯の二人は、


「……ちょっと、砂糖」

「漆黒の闇に不純物は入れない趣味ではなかったのか?」

「何言っているの? 私のような高度に知的な思考力を有する者はエネルギーの消耗が激しいから、糖分は必要不可欠なのよ?」

「は! ついこの前言った事を忘れるとは。そんな記憶力も一貫性もない貴様の頭がそこまでエネルギーを消耗すると?」

「全く愚かね。思考力と記憶力や一貫性は関係ないわ。むしろ、不必要な記憶はすぐに破棄し、そして一貫性に囚われずより上位の価値観に脳内を更新し続ける事こそ優れた者の証よ」


 などと口では言い争いながらも、一方で行動としては。

 颯は妖にブラウンシュガーの角砂糖を二つ渡しながら、自身の信楽焼の黒いカップにはグラニュー糖を入れ。

 颯から角砂糖を受け取った妖はその二つを、昨日部室で使うために手に入れたセフィロトの木が描いてあるカップに注がれている珈琲に投入し。

 その様子を見ていた颯は「あのカップ、湯を注ぐとセフィラの名称が浮かび上がるのか」などと感心して、ちょっと欲しいと思い。

 颯が自分の手元を見ている事に気がついた妖は、スマホを操作してそのカップの売っているサイトを見せるといった。

 むしろ以心伝心という感じのやりとりをしているのであった。

 そして何故二人がこのような状態になっているかといえば。

 彰が二人の事を特別な関係だと誤解したままの可能性があるので、二人としてはそうであるなら誤解を解きたいものの。

 そもそもその誤解されているという事がむしろ二人の誤解であった場合。

 彰に「自分達は特別な関係ではない」と伝える事の方が話を厄介にしてしまうという恐れがあるので、直接的に訂正はできず。

 ならば態度で誤解を解こうと思っても、二人の仲が良い場合と悪い場合、どちらを彰は〈特別な関係〉なためだと意識するかが不明なので「仲良過ぎず、仲悪すぎず」を演じようと意識した結果。

 当の演じている二人自体、自分達は一体どんな関係を演じているのかがわからなくなっており、このような言動の雰囲気が不一致した関係になっているのだ。


「ちょっとこれ、こんな関係いつまで続けていればいいのよ」


 しかし、やっている本人たちも流石にこんな状況を数日間続けていて疲弊してきており、このままいつまでもという訳にもいかないとは当然理解している。

 ので、妖は颯に不満を口にしたのだが。


「いや、お前に合わせて先のような対応していたが、そもそも今日は別にこういった態度を作る必要性はないと思うのだが?」


 カップをテーブルにそっと置きながら颯はそう告げた。


「は? なんでよ」

「彰は今日、部活動を休むと連絡が来ていたが……見ていないのか?」

「見て……いない……?」


 そう言われて、妖はスマホを取り出し、部活の連絡用に使っているSNSを確認する。

 するとそこには「都合により本日から三日間、部活を休みます」という彰からのメッセージが入っていた。

 そのメッセージを読んだ妖は、ゆっくりと顔を上げ、自分の正面に座っている颯の顔を見る。


「お前、さてはあまり連絡に目を通さないな?」

「連絡って、あんなの一日に朝晩二回くらい見れば十分でしょ」

「いや普通、結構頻繁に見るだろうが……そういえば以前から既読が付くのが遅かったな」

「仕方がないでしょ。今まであまりこういうの使っていなかったんだから」


 強気の口調でそう口にした妖。

 それを聞いた颯は、妖は悪いと思っているからこそむしろ強めの口調なのではとも、あるいは妖は今まで友人が少なかったからこういった連絡が滅多に来なかったのではないかとも推測。

 結果、あまりこの話題を引っ張るのは良くないのではと判断した颯は、


「兎も角、そういう訳であいつはここに来ない。ので俺達も普通に接して良いという訳だ」


 と、話題を戻す。


「あらそう。なら普通に話すことにするわ」


 妖の方も自身が連絡に対して反応が遅い事をあれこれ指摘されたくはなかったため、すぐにその話題の切り替えに応じ、そして、


「ところで、今後このダンス部としてはどういった活動をするのよ」


 と、尋ねたが。


「活動? 何のことだ?」


 妖の質問の意図するところがわからない颯は首をかしげる。


「何って、例えば文化祭にむけて練習するとか。地元のイベントに出るとか」


 颯に対して具体例を挙げながら説明する妖だったが、それを聞いた颯はますます自身の理解が追い付かなくなり、


「いやいや、待て待て。まだ大会も終わっていないのに次の事を考えても仕方がないだろう」


 と両の手のひらを妖の方に向けて静止のジェスチャーをしながらそう告げる。


「大会……って?」

「『って?』ではない、貴様が誘ったのだろう。アイドルの大会に」

「え……何……出るの?」

「当然だろう。何せ出場に必要な人数が集まったのだからな」

「人数って、あなたと私と……」

「彰で三人じゃあないか」

「………………」


 彰の名前を聞いて、妖は颯があの後輩をアイドルメンバーに加えている事に疑問を持つ。

 何せその後輩は自分たちの関係を何やら誤解しているのである。

 そしてその誤解のために普通の会話を彰とはまだほとんどしていない妖としては、彰は「親しくない人」である。

 そんな相手と一緒に大会に出ても上手くいくはずがない。

 妖としてはそう考えていたので、彰はメンバーに加えないものとしており、結果として「メンバーが足りないので大会には出ない」と考えていたのだ。

 だが、一方の颯。

 彼女は中学時代からアニメや特撮のイベントでパフォーマンスなどを行う経験をしてきている。

 そして、そんな彼女にとって「あまり親しくない相手と、イベントのために協力する」という事はよくある事であり。

 更には今までの経験から、むしろ協力してイベントに参加した事で親しくなることも多かったので。

 当然のように彰もメンバーに加え、アイドル大会に参加するものと計画していたのだ。

 もっとも、ここには。

 妖はあくまで、颯に近づくための口実として「アイドル大会」を利用しており。

 更に本当は自信もないのに五月までに人前に出せるレベルのダンスができるようにすると言ってしまっているので。

 大会は都合により出られなかったという状態になった方がありがたいのだが。

 一方の颯はまだこの前、妖が純粋にカッコいいと思うものを「オサレ系中二病」扱いした事や、あるいは自身の不注意で彰にあらぬ誤解をされる原因を作ってしまった事を気にしており。

 その為、妖の願いである「アイドル大会出場」くらいは自分の力で実現させたいと考えているため。

 大会参加に対して、妖は消極的で、颯は積極的という状態になっているという面もあるのだった。

 そして妖が大会に実はあまり参加したくないという点は察する事が出来ない颯だったが、一方で妖は彰を大会メンバーに加える交渉を自身ではしたくないだろうという点は理解できるため、


「そうだな。彰の件は俺に任せてくれ。上手い事説得してみせようじゃあないか」


 と宣言。

 一方、今更そこまでして大会に出たくはないという事を言えば「ならば何故アイドル大会に自分を誘ったのか」と颯に聞かれるのではないかと考えている妖は。

 もし今の状態で「大会に誘ったのは颯と一緒に活動するための口実」と明かしたら、彰の誤解もあってますます自体がややこしくなるとまで考えてしまっており。

 結果として直接的に大会を辞退するとは言えなくなってしまったので、代わりに、


「彰の事はいいとして、大会で使う曲はどうするつもりなのよ」


 と、話題を曲の事に切り替える。

 妖の考えでは、そうすぐには曲をどうするかは決まらないだろうと思っており。

 その決めるまでの時間を使って、何か大会に出られない理由を探そうという魂胆だったのだが。


「それならば、既にここに俺の知り合いから提供してもらったオリジナル曲が三曲ある。この中からお前が好きなものを選んでくれ」


 颯は妖の質問を聴いて、即座にスマホをいじり、知人から受け取っていた音楽データを妖に示したので、妖に大会出場ができない理由を考える余裕などはなかった。

 そして。


「聴いてもいいけど、どれも気に入らなかったらその時は覚悟する事ね」


 などと上から目線の台詞を吐いて曲を聴き始めた妖は、今度は「良い曲が無い事にして時間を稼ごう」と企てていた。

 が――、


「何よこれ……凄いじゃない」


 最初の一曲を聴き終えた段階で思わず妖は口からそう漏らしていた。

 何せその曲はクオリティで言えば間違いなくプロで通じるもので、その上その雰囲気は妖の好みにピタッと一致していたからだ。


「それはそうだろう。何せそういう世界で稼ぎも出しているヤツだからな、作ったのは」

「え? そうなの?」

「ちなみに、今回の三曲についても俺が報酬を支払って手に入れたものだ」


 颯はそう言いながら、次の曲を流す。

 一方、その曲を聴いて「これもまた良いわ」と思いつつも妖は同時に。

 どうやら颯は今回の大会に出るためにプロに三曲も作曲を依頼したらしいけど、一体いくらしたのかしら? と考え。

 そうなると、今更「大会は出ない」とは言えないとも考えていた。

 が、実のところ。

 颯が支払った〈報酬〉というのは、相手の依頼を引き受けてイベント参加したというもので、そもそもそのイベントは颯も参加したかったものだった上に。

 曲はアイドル大会のために依頼したのではなく、今後も颯が自身のイベントで使いたいという形で使用許可を取ったものだったりするのだった。

 しかし、そんな事情を知らない妖は結局、三曲目を聴き終える頃には「これは真面目に曲を選んで、勝つつもりで大会に出ないとならないわね」と考えを改めており。

 結果として、


「どれも凄く良かったのだけれど、今すぐ一曲に決めるのは難しいわ」


 という正直な感想を颯に対して告げた。


「とはいえ、大会初戦までに時間が無いからな。できれば三日以内に決めてくれ」

「三日ねぇ……」


 それを聞いて妖は、そういえば彰が部活に来ないのが三日間だったと思い出し。

 そこから、颯の考えは選曲は自分に任せ、その決まった曲をやると彰に伝えるというものなのだろうと判断したため、


「いいわ、三日以内にこの中から選んできてあげる」


 と約束。

 こうしてようやく。

 妖は颯、そして後輩である彰をメンバーに加えた状態でアイドル大会に出ると決めたのだが――


(続く)

こうして、曲を三日以内に決めることになった妖だが。

一体どうなるのか、次回に続く!!

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