あたしたちがアイドルだ! その1
女子高生がアイドルをする!!
……という作品ですが、まあ。
タイトルからも予測できるように。
ヒーロー作品の要素をふんだんに含んだものになるかと。
「おいおい、射的さんよ。あたしにこれに参加しろってのかい?」
「ああ。君以外に私と組める者はいないと思うのだが……どうだろう?」
「いやいや、どうだろうって言われてもね」
突然。
一年生の頃にクラスメイトだった、しかしあまり接点のない生徒の射的遊に。
訳の分からないものに誘われて戸惑う峰柄鎬。
あまりに理解しがたい展開に。
鎬は今日、ここになぜ自分がいるのかを振り返る。
☆ ☆ ☆
始業式が終わり、ホームルームも終了した後。
鎬は学校に特に親しい友人もおらず、また部活にも所属していないので。
さっさと帰ろうと思いつつ、何気なく、特に意味もなくスマホを見た。
すると。
SNSに新着メッセージが一つあった。
友人が少ない彼女からしたらメッセージなど滅多なことでは来ないので。
何かと思い、すぐにそれを確認する。
すると。
それは「屋上に来い。話がある」という。
一年時のクラスメイト、遊からの呼び出しだった。
この突然の呼び出しに。
何故、特に親しい友人でもない遊が、急に自分を呼び出したのか。
と、訝しんだ鎬は。
確かあいつとは、昨年の文化祭の際、もしものためにと連絡先を交換していた。
だから、あたしの連絡先を知っていること自体は不思議ではない。
が、結局はその連絡手段も大したやり取りもせず放置していたような関係だ。
なのに、今更何だろうか?
ちょっと怪しいが……。
と、考えたものの。
最終的には。
まあ、暇だし。
行ってみるか。
と、思ったので、呼び出された通りに。
高校にしては珍しく、生徒に開放されている屋上に向かった。
そしてそこで。
何故か腕を組んで仁王立ちしている遊と出会った。
その、春風でなびいているやや長めの艶のある黒髪と、制服のスカートが以外は全く動きを感じない様子に。
鎬は「こいつ、学校創立当初からここある石像かなんかじゃねーだろうな?」と思い。
近寄りがたい空気を感じたのだが。
呼び出してきたのがその石像みたいな女である以上、無視するわけにもいかない。
とも考えて。
話しかけるために遊に近づく。
すると。
遊の間合いに、鎬が入った、その時。
鎬に対して遊が、組んでいた腕のうち右手に持っていた紙を。
急に力強く、突き出すようにして見せつけてきたので。
――一瞬。
あまりの迫力に。
鎬は果たし状でも渡されているのかと思った。
が……よく見るとそれは。
とある地元のイベントの参加者募集のチラシだった。
しかし。
そのイベントの内容が。
自分と。
そして目の前にいる遊とはまるで似合わないものだったので――
☆ ☆ ☆
「おいおい、射的さんよ。あたしにこれに参加しろってのかい?」
と、鎬は遊に訊ねたのである。
そして、それに対しての返答は冒頭の通り。
どうやら、射的遊は、峰柄鎬と、そのイベントに一緒に参加したいらしい。
のだが。
鎬は何故、自分が彼女から誘われているのか。
まるで理解できない。
何せ。
鎬は遊の事を、一年の頃同じクラスだったのと。
その名前を当初「しゃてきあそび」だと思っていた事のインパクト。
それに加えて、クラスでも真面目な優等生タイプで。
体育祭や、文化祭でも中心となって仕切ったりする生徒。
つまり、逸れ者の自分とは全く違うタイプの女子。
――くらいしか知らず。
いきなり呼び出されて組むのに適任だのなんだの言われても全く理解できないのであった。
というか、まず。
一緒に組んで出場しようというのが。
「そもそも……だ。あたしと、あんたで、地域活性化のための女子高生アイドルの大会に出るとか……あんた正気なのか?」
というところである。
遊は先に言ったように真面目系なイメージのある優等生で。
一方、鎬は人付き合いが悪いことと、目つきが鋭いせいで。
何故か不良に間違われるタイプ。
正直。
アイドルみたいな可愛いものに向いているとは思えない。
そう思っている鎬は、率直に、
「何? あんたとあたしで、ひらひらフリフリの衣装とか着て、似合うと思ってんの? つーか、あたしはあんまそういうの着たくないし。まあ……あんたにそういう趣味があるのは」
否定はしねーけど意外っつうか。
と口にした。
が、これに対して、遊は、
「誰も君にそんな衣装を着てくれとは言っていない」
と返答。更に、
「それに私だって、そういうのを人前で着る趣味はない……人前では」
と付け加えた。
鎬としては「それは一人だと着る趣味があるのか?」と気になるところだったが。
本題からずれそうなので、そちらは置いておくとして。
「いや、でもアイドルの大会なんだろ?」
と、再確認する。
鎬の頭の中のイメージでは、アイドル、特に女性アイドルとは。
ひらひらしたスカートや、何のためについているのかよくわからないアクセサリーとか。
そういうのを纏ってステージ上で可愛い曲に合わせてダンスをしたりするもので。
可愛い衣装を着ないとなると、何をするつもりだ?
というところである。
が、当然。
鎬がアイドルにそういうイメージを持っていることは、遊も理解していた。
というより。
彼女は鎬に限らず、世間の女子アイドルのイメージがそうであるからこそ、鎬を呼び出したのである。
何故なら、
「我々が目指すのはカッコいい女性アイドルだ。可愛い系ではない」
という事だ。
「カッコいい女性アイドルって……」
一応、可愛い系の衣装を着なくていいという理由は理解したものの。
今度は「何故そんなものを」とか。
「どうしてあたしを」辺りが理解できない鎬である。
果たしてどちらから聞くべきか……
彼女がそう迷っていると、遊の方から、
「まずカッコいい女性アイドルを目指す理由。これは他との差別化を狙うためだ。そして、我々は男性票ではなく、女性票を狙う。男性票が他のアイドルの間で割れれば、まとめて女性票を手に入れた我々の勝利になるだろう」
と自論を展開。
更に、鎬が質問をする間も与えず、
「次に君を呼び出した理由だが、鎬君、知らないかもしれないが、君は女子には隠れファンがいるくらいに人気があるのだよ。だから呼び出した」
と続ける。
「か、隠れファン?」
そんなヤツ、あたしにいんのかよ!?
と、思った鎬だが、それは言わず、
「いや待て。隠れファンっていうのなら、あんたには隠れてもいねぇ女子のファン、沢山いんじゃねーか……あたし必要なくねえか?」
という部分を指摘する。
これを聞いた遊は、「何? 私にファン……いるのか?」と露骨なまでに首を傾げたのち、
「私のファンの事はともかく。ここを見てくれ」
と、応募要項の部分を指さす。
そこには。
「三名以上のアイドルグループであること」という内容が記されていた。
「つまり、仮に、万が一私にファンがいたとしても。一人では参加できない。よって、君をメンバーに加えた後、あと一人参加者を探す必要性があるんだ」
なるほど。
ピンのアイドルではなく、グループを募集しているってことか。
と、鎬にもなぜ自分が必要なのかまでは大体わかった。
――が、鎬には別段アイドル大会に出る必要性はない。
ので、鎬は断るために、
「言っとくけどあたし、まだ参加するって言ってねーから。勝手にメンバーに……」
と強気の口調で言い。
そして、それと同時に募集要項の下、優勝者に対する待遇の部分を目にして、
「勝手にメンバーに……メンバーに……入ってやるよ」
と、断り文句を言い終わる前に、意見を変えた。
彼女が急に意見を変えた理由。
それは優勝賞金三十万円相当の商店街で使用できる金券――ではなく。
既に活動中の別地域のご当地アイドルのコラボ企画検討中というところであった。
何故、鎬が他の地域のアイドルとのコラボに興味を持ったのか。
それは実は。
遊が鎬を、カッコいい系アイドルとしてスカウトした理由とも絡む話なのだが。
その件についてはいずれ説明するとして。
話を戻すと。
「そうか。君も地域活性化のために協力してくれるのだな? ありがたい……では、早速これを」
鎬が他のアイドルとのコラボに興味を持ったとは知らない遊は。
そう言いながら、鎬の気が変わらないうちにと鞄から新たな紙を取り出す。
それは、アイドル大会の応募書類……ではなく、
「は? 何でこのタイミングで入部届けなんだよ」
と鎬が言うように。
学校の入部届である。
確かに鎬は帰宅部だから今から部活に入ることは可能だ。
だが、この学校にはアイドル部なんて存在しない。
また、もしも仮にアイドル部を設立するならば。
最低五人集めないとならないので。
大会出場以上に人が足りなくなってしまう。
だから、大会出場を目指すならば部活なんてしている暇はない。
そう、鎬は思ったのだが。
それに対して、遊は、
「とりあえず私と共に、ダンス部に入部してくれ」
と伝える。
「ダンス部? んなのあったか?」
「ああ、ある。いや、あったというべきか」
「? どういうことだよ」
聞いたことがない部活の名前に、遊が何か勘違いをしているのではと思い、鎬は彼女の顔を凝視する。
すると、どうやら自分が疑われているらしいと気がついた遊は。
「昨年まで、幽霊部員の三年生が二人所属していて、形だけ部活が残っていた。今は部員ゼロ人だが、今年新入部員が入る可能性があるので、部としては存在している」
と説明しながら、制服のポケットに入っていた生徒手帳、その校則の記されたページを開き。
その中から部活動についてのページを見つけ、そこを鎬に見せながら、
「そして、校則によれば、我が校では部から同好会への降格はなく、また部員無しの状態が一年続かない限り廃部もない」
と、続ける。
それを聞いて鎬も、
「なるほど。とりあえずあたしたちがダンス部ってことにすりゃ、学校で練習できるし、新入部員の勧誘として大会出場者を探せるってことか」
と納得、そして、
「では、ダンス部に入部してくれるな?」
という遊の質問にも、
「オーケー、オーケー。明日までに書いてもってくっから、よろしくな!!」
と、あっさり引き受けたのだった。
さて、こうして。
東京都M市欅ヶ森高校にダンス部という名目で女子高生アイドルグループが結成された。
――のだが。
彼女たちはまだ、この瞬間に戦いの運命を選んでしまった事を。
この時はまだ、知らなかったのであった。
(続く)
とりあえず第一章はサクサクと進みまして。
(その2)では早速、ダンス部という形での練習が……。
まあ、どうなることやらと。