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al fine─アルフィーネ─  作者: 鈴村嵐夢
一章家族の思い
5/23

#5夢の草原

ここは草原。夢の草原。夢だった草原。


2人の子供が隣り合って、手を繋いで、笑いあって座っている。


「シスカ」


「シンヤ兄さん」


意味もなく、お互いの名前を呼び合い、無邪気に笑う。

2人はとても仲が良かった。いつも一緒。どんなときも一緒。

2人で1人。

別々なんてあり得ない。だってそれが私たちだから。

それが当たり前だから。それが当たり前の日常。


けど、当たり前というのは、当たり前じゃなくなってから気付くもの。

友達がいなくなったとき、恋人がいなくなったとき、恋人はいたことがないから分からないけど、大切な人がいなくなる。


それはとても辛いもの。

大人でも辛い。

泣きたくなる。

大人で辛いなら子供はもっと辛い。


それか、わけが分からず、何も感じないだろうか?

私は感じた。当たり前の有り難さを、大切な人がいない悲しみを。それが戻ってこないことも。

それは、唐突だった。そう、本当に。




いつも通り、くまのぬいぐるみを持って兄の部屋を訪れる私。


「シンヤ兄さん!あ~そ~ぼ~」


返事はない。いつもなら、

『いいよ、入っておいで。』

と優しい、大好きな声が私を導く。


「兄さん?」


返事はやはりない。

今度は勝手に扉を開く。中には椅子に腰掛けた兄さんがいる。


「やっぱりシンヤ兄さんいたんじゃん」


ぷーと膨れて兄の方へ近づく。


「今日はね!くまさんで遊ぼ!」


兄の前へくまを出す。

次の瞬間、


「ああ、いいよ」


笑顔で兄が言う。

そんなことはなかった。

乾いた音が部屋に広がる。続いて、何かが落ちる音が広がる。静寂の中、さほど大きくない音なのに、私の中ではとても大きい音がなっていた。


()()と遊んでる時間はない」


兄さんがやっと口を開く。とても重く、冷たい言葉。

時間がないのは分かった。遊んで貰えないのは仕方がない。

そんなことを考えていられる余裕はなかった。


お前、という言葉が身体中をぐるぐると回る。


お前?誰のこと?私?


誰が呼んだ?兄さんが?私を?


お前?兄さんが?私を?


どうして?シスカと呼んでくれないの?


兄さんが私をお前と呼んだことは一度もなかった。


優しい声でシスカとしか呼んだことがなかった。


「シンヤ...兄...さん?」


「聞こえなかったか?遊んでる時間はない。出てけ」


ごめんごめん、と笑ってくれる、私の淡い期待は打ち砕かれる。


「なんで、どうして」


泣きそうなのを堪えながら、いや、堪えれていなかったかもしれない。私の中の兄さんの姿を兄さんによって打ち砕かれる。

その恐怖に怯え、私は部屋を走って出る。

明日になればいつもの兄に戻る。そんな希望も打ち砕かれることを知らないまま。




時は過ぎ、私たち兄妹の関係性はとても変わってしまった。


「シスカ」


「シンヤ兄さん」


いつもの呼び方はいつの間にか

「お前」

「お兄様」

に変わってしまった。


声色もお互いとても冷たくなってしまった。

必要最低限の言葉。

いってきます、いってらっしゃい、ただいま、おかえりなさい。日常会話もない。


両親はそんな私たちをどう思っていたのだろうか?心配?

とても優しい両親だった。なので心配はしていたのだろう。だからなのか、何も聞いてくることはなかった。


今となっては、どうして兄がそのような態度をとったのかも分かっている。


12貴族ということはいずれ、父様の後をどちらかが継がなければならない。

当然、女だと舐められやすい。だから、私を守るために兄は私を突き放し、後を継ぐことを決めたのだろう。

突き放し、継がなくて良いように、自分の近くにいることで、私に危害が及ばないように。とても優しい嘘。兄の本質は変わっていない。

けど、私たちの関係は変わってしまった。修復できないほどに。


私たちだけではない。町の人たちとの関係も兄さんは変えてしまった。

兄さんは町での評判も良かった。今ではどうだろうか、話しかけられることもなく、町を守っているのに怖がられている。


これも、兄さんは演じているのだろう。次代の領主として舐められないように。

とても優しい兄さんだから。他の人を犠牲にしないために自分を犠牲にしてしまう。


だから、私は兄さんのことが、とても嫌いで恨んでいる。何故今さらシスカと呼ぶのだろう。記憶喪失だからだ。答えが出てしまう。だけど、それでも、私はやはり兄さんのことを許せない。


だけど、それを表に出すことはない。


だってこれは夢だから、ここは夢だから。


だからこのお話はここでおしまい。


また明日、兄さんにシスカと呼ばれるのだろうか、呼んでくれるのだろうか、呼ばれてしまうのだろうか。もう朝が来る。答え合わせはもうすぐだ。


ここは草原。夢の草原。夢だった草原。その続きを見たいがために作られた私の夢。



呼んでいただきありがとうございます。

作者の鈴村嵐夢です。

先日、初めて文章評価とストーリー評価をしていただきました。感想や評価などを貰えると嬉しいです。更新報告はTwitterにてしております。

フォローしておいていただけると、すぐに分かると思います。

それではまた明日。夢の草原で。

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