決意
自警団の一件を終え一夜が明けた日の朝、朝食を作りながら今後について考える事にした。今回の件は一応警戒はしていたつもりだったが、信用が無かった為に情報がこちらに来るのが非常に遅く危うく大惨事になる所だった。今回、俺に足りなかったのは肩書き、つまりは信用だ。今の俺はただの探索者、ダンジョン都市から一歩外に出たら俺に信用は無い。
そして、今回の敵には極みにまで到達していたスキルが通用しなかった。切り札のお陰でなんとかなったが、いずれ切り札が効かない魔物が出るかも知れない。そうなった時、行動を共にしている高嵜一家を守る事が出来ないだろう。
更に、今回のダンジョンコアからまたしてもファンタジーアイテムが出た。俺の戦い方に即したアイテムで、手を塞ぐ事無く盾を使える。今回も前回もだが、俺に足りない物が都合良く出現した。ならば、他のダンジョンでコアと融合したダンジョンマスターを討伐すれば、俺に足りない物が出るかも知れない。だが、その為には此処にいてはダメだ。
最初は此処の生活に戸惑いを覚えた。都会と違い、何もかもが不便だ。だが、慣れると此処の生活は楽しくて、時を忘れて夜空を見上げていた事もあった。隣に高嵜一家が一緒だったのもあるだろう。共にダンジョンを攻略し、食卓を何度も囲んだ。知り合いではない、友達とも違う。恋人でも、家族でもない、戦友。そこには確かな絆がある気がした。故に、次のステージに進む為に、今は別れの時。その為に後顧之憂を絶つ。
朝食の準備をしているど、庭から高嵜一家の声が聞こえてきた。
「「おはようございます」」
「お兄さん!お腹すいた!」
「ん、聖人。ご飯」
「おはよう。ちゃんと用意しているよ」
高嵜一家はいつもの様に囲炉裏の周りに座り、俺は朝食を仕上げた。彼女達と朝食を食べながら、自警団での話し合いについて聞いた。
どうやら自警団的には今回の件が表沙汰になると不味いらしく、一般市民に被害が無く魔物が溢れた事を知っている人間は自警団と高嵜一家と俺だけらしい。ダンジョンは既に無く確かめる術が無いので無かった事にすると決めたそうだ。ただ、俺への報酬に関してはまだ決まっていないんだと。まあ、報酬はなんでもいいや、どうせ現金化しにくい代物だったし。
朝食を食べ終えてゆっくりとした時間が流れていた。切り出すなら今しかないな。
「ちょっと聞いてくれるか?」
「どうしたの?お兄さん、改まって」
「今回の一件でダンジョンはやはり危険だと思った。たまたま、なんとかなったが次も上手く行くとは限らない」
「ん、確かに聖人がいなければ危なかった」
「そうだ。毎回、俺が居るとは限らない。だから、庭のダンジョンを攻略しようと思う」
「勝てるの?お兄さん……」
絵里香は不安そうな表情をしていた。
「やってみなければわからないが、このまま間引きをするだけだと危険だと判断した」
「確かに……間引きはしていますが、コアと融合するユニーク個体が生まれたら危険ですね」
朱音さんはダンジョンの危険性を正しく認識してくれている様だ。
「守護者を倒すだけなら1日で済むと思うが、その先があった場合も考えて2.3日は潜る予定だ」
「わかりました。ただ、危険だと判断したら必ず撤退してくださいね」
「ああ、わかっている。無事にダンジョンを攻略出来たら、皆に大事な話があるんだ」
「お兄さん、それ死亡フラグじゃ……」
「言うなよ。自分で言って思ったわ。大丈夫、必ず帰ってくるよ」
「聖人。帰ってきたら、志保も強くしてあげて」
由依に言われて思い出した。
「あ~、あの子の事忘れてたわ。そうか、探索者になるか」
「うん、やっぱり諦める事出来ないって」
「なら、仕方がないな。あ!ちゃんとあの子にも口止めしたか?」
「大丈夫なはず。事務所で一応ダメって言っておいたけど」
「ま、それなら大丈夫か。じゃあ、準備してくるわ」
「ご武運を、聖人さん」
静かに祈る様に茉子ちゃんは送り出してくれた。
「ああ、行ってくる」
高嵜一家と別れ、庭のダンジョンに向かった。
庭のダンジョンは既に9階層までの地図は出来ている。だが、1階層が広く次の階段まで進むのに時間が掛かっていた。小休止を何度も挟みながら10階層に繋がる階段まで来た。時計を見ると20時を過ぎていて、ダンジョンに潜って10時間が経っていた。このまま進むより此処で仮眠を取り、明日改めて守護者に挑む事にした。朱音さんが使っていた結界を学んだので、比較的安全に仮眠を取る事が出来るようになった。奴に挑むまえにステータスを確認する事にした。
名前
間崎聖人
称号
生還者☆☆☆☆☆ MAX 効果 極
ファイアーマン MAX 効果 極
屠殺 MAX 効果 極
迷宮踏破 61/100 効果 大
吸血妃の祝福 MAX 効果 極
雷を操りし者 MAX 効果 極
水を生み出す者 MAX 効果 極
火を燃べる者 300/500 効果 中
スタミナ 100/100
スキル
光源 火 地図 自動書記 鑑定 固定 遅延 空間収納 水 隠蔽 偽装 ストレージ 闘気 洗浄 消臭 乾燥 瞑想 アクティブソナー 光 雷 手加減 結界
スキルポイント 30268P
結界を習得するのに5000Pが必要で、どうやら俺には結界系のスキルに適性は無いみたいだった。階段の近くで結界を張り、空間収納から以前にまとめ買いしていたパンを取り出し腹を満たした。そして、壁を背もたれにし仮眠を取った。
しばらくして自然と目が覚めた。時計の時刻は朝5時を過ぎた所で、約6時間は仮眠出来たみたいだ。少し身体に怠さが残っているが、頭はスッキリしていた。身だしなみを整え、軽く朝食を食べて守護者の待つ10階層に向かった。
10階層に下りると、部屋の中央に全身が金属でできた様な巨人が立っていた。如何にも守護者って感じだが、鑑定してみると。
名称 ゴーレムガーディアン
状態 守護者 沈黙
とりあえず奴の身体がどの程度の硬さがあるか調べてみるか。小手調べに『ウォーターブレード』で斬ってみると、奴は微動だにせず金属の身体に弾かれた。奴の身体が水に濡れたので、今度は『チェインボルト』を放つと、奴の全身を電撃が包み込んだ。
奴の全身から煙が上がっていたが、攻撃が効いている感じがしなかった。
「マジか……なんか無理な気がしてきた」
こちらから攻撃を仕掛けているのに奴は一切動かなかった。こうなったら俺の最大火力をぶつけてみてダメなら撤退だな。空間収納からOD缶+ガストーチを取り出し闘気を重ね掛けして、渾身の熱線を放つと、今まで動かなかった奴が始めて動きをみせた。奴は右手を迫る熱線に向けると、そのまま熱線を受け止めた。
今まで様々な魔物を一撃で屠ってきた切り札がこんな簡単に防がれるとは思っていなかった。だが、全く効いていない訳ではなかった。少しずつだが奴の右手が融解していたので、継続して熱線を放ち続けた。
奴の右手が完全に融解し肘の辺りまで溶けた頃、ついにOD缶のガスが切れた。一本全部使っても倒しきれない相手は初めてだった。空間収納から追加の一本を取り出した時、ついに奴がこっちに向かって歩き出した。ゆっくりとした動きだが、その一歩はこちらの何倍もあるのですぐに近づかれるだろう。
奴から距離を取る為、部屋を入口から時計回りに走りながら次の缶にガストーチをセットし、十分な距離を確保すると再び熱線を放った。すると、奴は左手では無く肘から先の無い右腕の方で熱線を受け止めた。そして、右腕を融解させながらゆっくりとこちらへと進んで来た。
仮に、今ここで熱線を止めたら、動きの止まった俺の所に勢いのある奴の左腕が届くだろう。例え、熱線を撃ち切ったとしても、奴の左腕が届く距離まで近づかれる。
「これは、詰んだな……」
まさかゴーレムが自らの腕を犠牲するとは思っていなかった。諦めたその時、ついにガスが切れた。まだ距離は離れていたが、奴は左腕を振り上げ、床に叩きつけた。凄まじい衝撃と床の破片が弾丸の如く俺に向かって放たれた。
衝撃で身動きの取れない状態だったが、辛うじて盾の指輪に意識を集中し半透明な盾を出現させたが、頭と心臓を守るのが精一杯で、他の部分はまともに破片を受けたので、あちこち裂傷だらけになってしまった。闘気を重ね掛けしている肉体はかなりの強度があるはずだが、奴の力が乗った破片は闘気を纏う肉体に傷をつけた。だが、奴の攻撃は耐えきった。再び空間収納からガス缶を取り出し、床に刺さったままの左腕に向かって熱線を撃ち、奴の左肩付近を撃ち抜いた。
両腕を失ったゴーレムを処理するのは簡単だった。身体の中心にあったコアを破壊すると奴の身体は崩れ落ちた。激戦を制した後、身体の傷を癒してから階層の探索を行ったが、次に繋がる階段しか無かった。
奴が守っていたのはダンジョンコアへの階段だった。そして、ゆっくりとコアのある階層に下りて行った。




