サラマンダー
朱音さん達が脱出するまでの時間を稼ぐ為、正面に残っていた魔物を『ウォーターブレード』で切り刻みながら4階層への階段まで進んだ。3階層の魔物を全て討伐し次の階層に進もうと、階段を下りても階段がずっと続き、いつまで経っても次の部屋にたどり着かなかった。だが、アクティブソナーの反応にはこの先に大きな反応があった。
数階層分を下りるとようやく次の階層が見えてきたが、視線の先には小さな灯りが点いたり消えたりしていた。次の階層に近づくにつれソナーの反応が大きくなり、その反応がダンジョンマスターであると確信していた。
長い階段を下りきると、目の前に超巨大なトカゲがいた。頭だけで1mを超えていそうで、人を軽く丸呑みに出来そうな大きな口。そして、その口を少し開けチロチロと長い舌を出し入れしていた。その時に口から小さな炎が漏れていて、先ほど見えた灯りはそれだったのだろう。奴の身体が巨大過ぎて尻尾の先までが見えなかった。鑑定を使うと、
名称 サラマンダー(融合個体)
状態 飢餓 ダンジョンマスター
奴は俺を視界に捉えると、口を大きく開け息を吸いエラを膨らませ口を閉じた。
「ちょっと待て、まさか!」
奴は少し溜めた後、再び口を大きく開けて炎を吐き出した。すかさず両手に持っていたアタッチメント付きライターのスイッチを入れ、炎の大太刀を発現し迫る炎にぶつけた。
火炎放射器の様な炎と炎の大太刀の力は拮抗していた。しかし、その余波で俺の服が所々焦げていた。称号の効果で肉体は火耐性が非常に高いが、着ている服に効果は無く。当然、燃えてしまう。
服が燃えてスタイリッシュな半裸状態になった頃、奴の炎が徐々に収まりほぼ無傷の俺を見て、奴は戸惑いを覚えた様で目をキョロキョロさせていた。
その隙に『ウォーターブレード』を発動し奴に向けて放つと、奴の皮膚に弾かれ斬る事が出来なかった。どうやら対刃に優れた皮膚の様で刃が通らないみたいだ。
次に『ショックボルト』を発動したが、同じく皮膚に弾かれ電撃が床に逃げていった。奴の皮膚はゴムみたいに絶縁体の効果もあるようだ。
と、なると残された手はこの炎の大太刀しかないが、ちょっと火力不足が否めなかった。なので、早速切り札を使う事にした。空間収納から出した数本のライター爆弾を、再び息を吸い始めた奴の口の中に放り込むと切り札の準備をした。
対光サングラスを着けていると、奴の口の中で爆発が起こり、煙と口から大量の血を吐いて動きを止めたので、奴に向けて切り札であるOD缶+ガストーチのスイッチを入れた。
以前、使った時より太い熱線が奴の身体を貫いていた。あの時は闘気を知らなかったが、今は息をするが如く自然に闘気を発動出来るまでになっていた。
闘気で強化されたOD缶+ガストーチから放たれた熱線は奴の身体を貫通しダンジョンの壁をぶち抜いていた。そのまま奴を真っ二つにするように徐々に上へと熱線で凪ぎ払った。
熱線で溶けた奴の頭にコアがあったみたいで、しばらくして奴の身体は消えると、足下に指輪が落ちていた。
名称 盾の指輪
効果 装着者のスタミナを使用し、攻撃を防ぐ盾を生み出す
「また、ファンタジーアイテムだな」
とりあえず左手に着けて、部屋を見渡して無事にダンジョンを終わらせた事を確認した。
魔物が消えたダンジョンを脱出すると、入口付近に救護テントが張ってあった。テントの近くにいた絵里香と由依が俺に気づき駆け寄って来た。
「お兄さん!こっち」
「聖人、まだ終わってない」
「おいおい。今、終わらせてきた所なんだけど」
2人に引っ張られながら救護テントに入ると、簡易ベッドに寝かされた団員達が居た。そして、2人に連れて行かれた所ではスタッフが慌ただしく治療を行っていた。その近くに朱音さんと茉子ちゃんがいた。俺が入って来た事に気づいた2人は安堵の表情を浮かべた。
「良かった。間崎さんが間に合ったわ」
「これで大丈夫!奈津美さん、もう少し頑張って!」
2人はベッドに寝かされた自警団のリーダーに寄り添った。
「イマイチ状況が掴めないんだが?」
「聖人さん!奈津美さんを助けてください!」
「すみません。間崎さん、様々な薬を試しましたが傷が塞がらないんです。毒を中和する薬も使いましたがダメでした。唯一、部位欠損治療薬が効果がありましたが、しばらくすると再び傷が広がるんです」
「ふむ……」
2人に促されベッドに寝かされたリーダーの側に近づくと傷の状況が掴めた。
「こいつは……毒か?」
「多分、そうだと思います」
「で、ちゃんと傷を塞いでから薬を使ったか?」
「いえ……傷口を完全に塞ぐ事が出来なかったんです。塞いだ所から壊死していったので」
「なるほどな。と、なると中途半端な薬じゃ回復しないな」
そう言ってストレージからダンジョンコアからの戦利品を取り出した。
「こいつはそこらの宝箱から出る制限付きの部位欠損治療薬とは違う。コアからしか手に入れる事が出来ない、制限の無い部位欠損治療薬だ。これは一滴で効果があるし、一度蓋を開けても劣化しないから複数回に分けて使用出来る薬だ」
「それなら、治療出来ますか?」
「使ってみなければわからないが、こいつは身体を正常な状態に戻す効果があるから、毒に犯されていても大丈夫なはずだ」
「じゃあ、お願いします」
「だが、こいつの対価はどうする?」
「それは……」
俺の言葉に朱音さんは黙ってしまった。すると、今まで黙っていた自警団のリーダーが口を開いた。
「それが、あれば助かるの……か?」
「そうだな。恐らくいけるはずだ」
「他にも手足を失った者達がいる。彼女達も助けてくれる?もし、助けてくれるならどんな対価でも払う!だから、助けてください」
「なら、対価は要相談って事で。じゃあ、早速」
ベッドに横たわる彼女の脇腹に小さなフラスコを傾け、薬を一滴足らすと、眩い光が彼女を包んだ。しばらくして光が収まると一切の傷が無くなり正常な状態に戻った彼女がそこに居た。
「凄い!ちゃんと治っているよ!奈津美さん!」
そう言って茉子ちゃんはベッドに横たわる彼女に抱き、
「良かった。本当に良かった」
目に涙を浮かべた朱音さんは彼女に寄り添った。
「さて、他の団員達にも使ってくるよ」
そう言い残しその場を立ち去った。その後、全ての団員を治療し終えた俺は、絵里香と由依にこの後の予定を聞くと、高嵜一家はそのまま自警団の事務所に泊まるそうなので伝言を頼み家に帰った。
対価についての良く話し合って欲しいと




