友達~手作り弁当とハンター(由依視点)
聖人の家でコカトリスの親子丼を食べた次の日。朝早くから私達がリクエストしたお弁当をお母さんと一緒に聖人は作ってくれていた。
「中身は普通だからな。期待するなよ」
「ん、期待してる」
「ありがとう♪お兄さん!」
姉さんが聖人から重箱を受け取り、学校に向かった。学校の入口で姉さんと別れて自分のクラスに向かい、教室に入ると室内が静寂に包まれた。復学してから毎日こんな感じで、腫れ物に触る様に誰も私に話し掛けて来なかった、一部の例外を除いて。そして、教室に入ってきた私をその例外が見つけた。
「おっはー!由依~」
「ん、おはよう。志保」
田中志保。留年しクラスで唯一の探索者である私を担任も含めクラスの皆がどう接していいかわからない状態だったにも関わらず、志保は私に話し掛けてきた。
「ねぇ、高嵜さんはアルタイルの中で誰が推し?」
確かこんな感じだったはず。志保はアルタイルを通じて探索者に興味を持っていたみたいで、何かと私に話し掛けて来ていた。それから、いつの間にか普通に話すようになっていた。
毎日ダンジョンに潜っていた日々と比べて学校は退屈だった。でも、今日は違う。聖人が私達の為に作ってくれたお弁当。今日はそれだけが楽しみで退屈な授業を受けていた。
ふと、気が付くと午前中の授業が終わっていて、クラスの皆は思い思いに昼食の準備を始めていた。姉さんが来るまで席で待っていると、自分のお弁当を持って来ていた志保が声を掛けてきた。
「由依~今日も学食?」
「ん、今日は姉さんと食べる」
「お姉さんって、あのお姉さん?」
そう、絵里香姉さんはこの学校ではちょっとした有名人になっていた。私と違い社交的な姉さんはすぐに友達を作り楽しい学校生活を送っていた。だけど、たまたま学生が野良ダンジョンを見つけスキルを会得して、それを学校で使い被害が出る事件が稀に発生していた。それを鎮圧するのに姉さんが関わっていた時があった。
最近、お洒落に気を使う様になった姉さんは黙っていれば美人に見えなくもなかった。スキルを得て暴走していた学生を鎮圧するのに手間取っていた先生方に代わり、姉さんが容易く鎮圧した。
姉さんは聖人との修行で様々な称号とスキルを得て、浅いダンジョンなら1人で攻略出来るまでになっていた。
その姿を見た男子は普段とのギャップにやられたみたいで、一時期は毎日の様に告白をされていたが、その全てを断った姉さんに異名がついた。鋼鉄乙女と。
「そう、今日は姉さんとお弁当」
「そうなんだ……」
志保はちょっと考える素振りをして、
「ねぇ、私もお昼一緒したらダメかな?」
「私は構わない。多分、姉さんも大丈夫だと思う」
「本当?良かったぁ。一度でいいから話をしてみたかったんだ」
「姉さんと?」
「私も探索者になって、お姉さんの様に強くなれば彦星に会えるかなって思って。だから、強くなる秘訣を教えて欲しくて」
「志保、アルタイル好きだね」
「うん!次のコンサートチケットは予約済みだよ♪」
志保と雑談していると教室の扉が開き、姉さんが中に入ってきた。
「由依、行くよ~」
「ん」
席を立って姉さんの所に行くと、志保の事を話した。姉さんは二つ返事で快諾してくれたので、3人で学校の庭に向かった。既に何人かの学生が庭で食事をしていたが、まだ空いているスペースに敷物を広げ場所を確保した。
そして、姉さんが大事に持っていた重箱を広げるとおかずがたっぷりと敷き詰められていた。お母さんが握ったおにぎりに私リクエストのタコさんウインナー、姉さんがリクエストしたコカトリスの唐揚げとその卵を使っただし巻き卵。それを見た志保は声を上げた。
「凄い量のお弁当ですね……」
「凄いでしょう?今日は特別なお弁当なんだから」
「特別ですか?」
「このお弁当はお兄さんが私達の為に作ってくれた物なの!」
「お兄さん……ですか?」
「ん、私達の知り合い」
「そして、これはコカトリスの肉と卵を使った料理なの!」
「え!?これって魔物の肉なんですか!」
「そうよ♪昨日、お兄さんが狩って来たの」
「凄いですね!そのお兄さんはハンターなんですか?」
ハンター……それは、最近ネットで騒がれている新しい職業。一部の探索者が特定のスキルを会得し、それを使って食材となる魔物を捕獲して売買していた。
「ん、一応ハンターかな」
「なんで一応なの?」
聖人に、俺の事を聞かれたらとりあえずハンターって言っとけって言われた。
「そんなことより、姉さん」
「わかってる」
「「いただきます」」
「い、いただきます」
お弁当を作ってくれたお母さんと聖人に感謝して、私達はお弁当を食べ始めた。
「やっぱり、唐揚げにして正解だったわ!昨日の親子丼も美味しかったけど、唐揚げには勝てないわ」
「ん、だし巻きも最高」
私達がお弁当に舌鼓を打っていると、その姿をじっと見つめる志保がいた。それを見兼ねた姉さんは、
「良かったら、一つ食べてみる?」
「良いんですか!」
「ん、1個づつなら許す」
「ありがとう♪由依~」
そう言って志保は抱きついてきた。だが、すかさず志保を引き剥がし。
「志保、邪魔」
「は~い」
ちょっと残念そうにしていたが、敷物に座り直すとお弁当に手を伸ばした。唐揚げを一つ食べると、志保は叫んだ。
「ん~~♪すっごく美味しい!」
「でしょう♪お兄さんの料理はいつも美味しいんだから」
姉さんは聖人の事を自慢出来て上機嫌になっていた。その後、お弁当を完食して雑談をしていると志保が突然真剣な表情をして告白した。私、ダンジョンに潜りたい。と




