修行~再び
庭のダンジョンを探索した次の日、朱音さんから自警団の訓練があるので参加して欲しいとの打診があったので快諾した。訓練は午後からだそうで、団員は午前中に畑仕事をするそうだ。
午前中は時間がある為、庭のダンジョンに潜り魔物の間引きに向かい順調に討伐数を伸ばしていき、午後になり朱音さんと茉子ちゃんと合流し自警団の事務所に向かった。
自警団の事務所は高嵜一家の自宅から歩いて20分と離れていていた。事務所の中に入ると10人程の女性達が雑談していたが一斉にこちらを見た。朱音さんが一歩前に出て、
「こんにちは。皆さん、今日はアドバイザーとしてダンジョン都市でお世話になった間崎さんに来てもらいました」
女性達の中から1人が立ち上がり、
「ちょっと朱音。あんたどういうつもりだい?」
「リーダー、どういうつもりも今の自警団に必要と思ったので来てもらいました」
「必要ないよ!男なんて命知らずでダンジョンで勝手に死ぬんだ。残される側の事なんて何も考えてない。そんな事を繰り返してる様な男からなんて学ぶ事はないよ」
どうやらリーダーと呼ばれた女性はパートナーに死なれてかなりの苦労を背負い歪んでしまったようだ。
「リーダー、間崎さんは違います」
「何が違うっていうんだい!」
「ちゃんと生きる術を身につけて安全に」
「ダンジョンに安全なんてないよ!」
「リーダー……」
「朱音さん、ちょっといいかな」
「間崎さん?」
「こんにちは、自警団の皆さん。私は朱音さんに請われて来ただけなんで、必要ないのでしたらこのまま帰らせて頂きます」
「なら、帰ってくれ!」
「朱音さん、帰りましょう」
「間崎さん……ですが」
「大丈夫ですよ。確か自警団が見つけた野良ダンジョンは全部で20個程でしたか?」
「ええ、だいたい2日位の間隔でこの地区に生まれています」
「なら、昨日4つ潰しましたから、今日もまだ時間ありますから近い場所なら3つは行けますね」
「わかりました。私達も行きます」
「ちょっと待ちな!あんた、何を言っている……昨日ダンジョンを潰したって」
「ん?だから、ダンジョンを4つ潰した。そう言っている」
「そんなわけが……」
「巡回すれば、嫌でもわかるさ。とりあえずダンジョンは俺が殺す。あんた達は巡回してダンジョンの場所を教えてくれるだけでいい」
「それだけって、あんた」
「あ!そうだ、自警団が訓練に使用しているダンジョンってあるのか?」
「あ、ああ、一応あるよ。この事務所の近くに」
「そこは殺さずに置いておくよ。んで、そのダンジョンは攻略出来そうなのか?」
「いや、まだコアは見つけていないが……」
「そうか、ついでに聞くがそのダンジョンは生まれてどのくらい経っている?」
「だいたい半年くらいだが、それが何か?」
生まれて半年か、そろそろ厄介なユニーク個体が現れてもおかしくないな。一応、注意はしておくか。
「ふむ、もしも浅い階層でユニーク個体が沢山現れ出したら、俺に知らせろ」
「ふん、あたし達だけで十分さ、あんたになんか頼らないよ」
「そうか、好きにしな」
自警団の事務所に来たが、時間の無駄だった。朱音さんからこの近くのダンジョンを教えてもらい、気分転換にダンジョンの魔物で憂さ晴らしをした。
この時、初めて朱音さんの戦闘スタイルを知った。朱音さんは後衛でスキルによる広範囲殲滅型でその分スタミナの消費が激しく、連戦には不向きだった。茉子ちゃんは以前に見掛けた時からだいぶ成長していて回避アタッカーとして特化していて、新たな称号が追加されていた。その効果で最大スタミナ値が上昇していて、前衛で戦い続けるスタミナを維持しているみたいだった。
それからは、1日山のダンジョンで由依と狩りをして、次の日は絵里香と野良ダンジョンを殺す。その次の日は茉子と庭のダンジョンに潜り、最後は朱音さんと野良ダンジョンで訓練。そのローテーションで適度に休みを挟みながら、絵里香と由依が学校に復学するまでの約3ヶ月間ダンジョンに潜り続けた。そのお陰で、この地区の野良ダンジョンは自警団の訓練に使用するダンジョンのみとなった。
野良ダンジョンは全部で60個程潰した。その戦利品の中でレア物は人体錬成薬が2本と小さな国が買える程の価値が今はあった。
持っている事が周りに知られると、命を狙われる危険がある物騒な代物を手にしてしまった。とりあえずはストレージに保管しているが、現金化しにくいレア物だった。
そして、俺がダンジョン都市で生活した期間と高嵜一家との修行期間を合わせると約半年の時間が経っていた。その間に世界は新たな局面を迎えていた。
政府はとある企業と協力し、ダンジョンと魔物で疲弊した国民に娯楽を提供する企画を考案した。それは探索者によるアイドルグループを作ること。
織姫ことベガと名付けられた12人組の女性ユニットと彦星ことアルタイルと名付けられた12人組の男性ユニットを結成した。彼らはアイドルとしての活動は個別でしていたが探索者としては素人。なので、先輩探索者との訓練にアイドルとしてのレッスン等をドキュメンタリーとして毎週放送した。
彼らは一様に美男美女で、そんな彼らが時にケンカし、お互いを高め合い、絆を深めていく姿に人々は徐々に惹かれていった。
そんな彼らをプロデュースしていた人物の名前を見た時、俺は言葉を失った。
「何をやっているんだ。部長……」
それは以前働いていた会社の上司だった。




