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聖人の本気と由依の観察眼

 朱音さんの結界を確認したので、目の前の脅威に集中することにした。

 激しく舞っていた土煙が収まり漸く敵の姿を確認することが出来た。 奴は蕾の様な大きな頭をしていて、先ほど襲って来た太い蔓を何本も持ち、身体は蔓より更に太い茎をしていた。 奴を鑑定すると、



名称 食人花(融合分蘖体)


状態 憤怒 ダンジョンマスター



 ふむ、どうやら裏庭ダンジョンの奴と同じようにダンジョンコアを取り込んだのだろう。 だが、こいつは分蘖体。 本体は別の所、更に下の階層にいることになる。 つまり、奴を倒してもダンジョンは死なない。 組合に文句を言われないってことだ。


 姿を現した奴は太い蔓を巧みに操り縦横無尽に襲って来た。 それを迎え撃つは、闘気を纏った炎の大太刀(アタッチメント付きライター)。 炎の長さに変わりはないが、より分厚い刀身を形成していた。

 ぶつかり合う植物の蔓と炎の大太刀。 相性を考えるとこちらの方が有利なはずなのに、蔓は燃える事無く何度も襲って来た。 その様子を見ていた高嵜一家の声が聞こえてきた。



 エナジードレインを受けた絵里香は壁に(もた)れながら間崎の戦いを見ていた。


「なんなのあれ……あんな魔物見たことないよ」


「そうね、鑑定してみたけどダンジョンマスターだって」


 先ほどの興奮は落ち着いたのか朱音は魔物に鑑定をしていた。


「それよりも、あのお兄さん。 姉さんの言う通りチートね」


 由依は冷静に観察していた。


「でしょ~」


「でも、まだ本気を出してないみたい」


「そうなの?」


「前に姉さんから聞いたのは火炎放射器みたいな炎だと。 でも、あれはどう見ても刀」


「確かに私が見たのと違うけど、それで本気を出してないって言えるの?」


「それはお兄さんが使っているのがキャンプ道具だから」


「キャンプ道具?」


「そう、あれは使い捨てライターを簡易のガスバーナーみたいに出来る道具」


「由依、なんで知ってるの?」


「お父さんに何回かそう言うのを扱っているお店に連れて行かれた」


「あ~パパ、キャンプ好きだったもんね」


「お父さんは新しい道具が発売するとすぐに買いに行ってたから」


「それがなんで本気を出していないのに繋がるの?」


「ライターであの威力。 私ならガスバーナーを使う」


「あ!」


「多分、お兄さんは火を使う道具ならなんでも強く出来るんだと思う。 だから、ガスバーナーを使えばもっと凄いはず」


「そっか~なら安心だね」


「それに……」


「それに?」


「ほら、お兄さんを見て。 あの場所から一歩も動いてない」


「あ! 本当だ」


「余裕がある証拠だよ。 そして、お兄さんを鑑定すればもっと分かる」


 そう言われて絵里香は間崎を鑑定すると、




名前 間崎聖人(かんざきまさと)


称号 無し


スタミナ  100/100


スキル 闘気 火


スキルポイント   0P 


状態 良好



 絵里香は間崎の鑑定したが特に問題があるように見えなかった。


「見たけど、何もおかしくないよ?」


「良く見て」


「……あ! スタミナが減ったのにすぐに回復した」


「多分、これがお兄さんの強さの秘密。 さっきからずっと闘気を使い続けてる」


「本当だ。 良く見ると闘気を纏ってる。 普通なら数分でくたくたになるけど、ずっと戦ってるもんね」










 エナジードレインの影響でまともに動く事が出来なかった絵里香も結界の中で少しは回復したようだ。 だが、由依の観察眼は厄介だな。 ステータスは隠蔽し偽装していたが戦闘中のスタミナの増減までは気が付かなかった。 それに、切り札の存在にも気付いてるみたいだし、出来れば切り札は使わずに終えたいところだ。

 幾度となく蔓と打ち合い、分かったことがある。 あの蔓を断ち切るには今のままだと無理だと言う事が。 あの蔓が内包しているエネルギーが多いのか、何かバリアーを纏ってるいるのか全く燃える気配がなかった。 激しい打ち合いは通常の戦闘時間の何倍にも及んだ。 その為、普段なら問題が無かったライターの燃料が減り、徐々に炎の勢いが衰え大太刀を維持する事が出来なくなり太刀サイズにまで縮小してしまった。











 それを後ろで見ていた絵里香は声をあげた。


「ちょっと! 急に短くなったよ!」


「多分、燃料が無くなりかけている」


 由依は冷静に観察していた。


「ピンチじゃん!」


「そうかな? お兄さん、焦ってないよ」


「そうだけど……」


 そんな事を話していると間崎の左手に新たな使い捨てライターが現れるとそれを奴に投げつけた。 その行動に疑問が浮かんだ。 その時、凄まじい爆発音と共に衝撃が結界を揺らした。


「な、なに、あれ……ライターって爆発したっけ」


「わからない。 でも、あんな使い方も出来るなんて」


「お兄さん、まじチート」


「同感、あれはチート」


 ライターの爆発で出来た隙に左手に別の新しい使い捨てライターが現れ、右手のライターと交換すると再び炎の大太刀が現れた。




 新しいライターに交換したので闘気を重ね掛けし一気に決める事にした。 重ね掛けした闘気の効果で炎の大太刀はより一層分厚い刀身となり激しい光を放っていた。

 再び襲って来た蔓を炎の大太刀は容易く切り裂いた。 ゆっくりと奴に近づいていくと、奴は残っている他の蔓で迎撃にしてきたが全てを叩き斬った。

 奴の前に立つと残された最後の細い蔓を奴は俺に向けずに地面に下ろしていた。 観念したのかと思ったが、俺の後方には既に事切れた探索者の遺体があった。 奴はそれを吸収する為に蔓を地面に下ろし床を這わしていた。 それに気付いたので床の細い蔓を炎の大太刀で軽く撫でると蔓は燃え、奴の企みは潰えた。 奴にトドメを刺す為、炎の大太刀を上段に構え奴の頭の蕾を真っ二つに焼き斬った。

 斬った蕾の中には真っ二つになった分蘖体のコアがあり、本体と繋がっていると思われる太い蔓が見えた。 その蔓も斬ろうと炎の大太刀を近づけると、蔓はコアから離れると地下に消えて行った。

 どうやら奴の本体は逃げる事を選択したようだ。 もし、あのまま探索者の遺体を吸収されていたらどうなっていたか分からなかった。 残っている奴の身体はコアを失った事により次第に枯れていき、真っ赤な花畑も同じように枯れていった。 戦闘が終わったと確信したのでゆっくりと高嵜一家の所に向かって行った。





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