奴は下にいる
笹崎がこの場から去り、しばらく様子を見ていたが戻ってくる気配はなかった。 闘気を纏っているからか、足に絡み付いている蔓に生命力が吸われている感覚はない。 だが、念のためステータスを確認することにした。
名前 間崎聖人
称号
生還者☆☆☆☆☆ MAX 効果 極
ファイアーマン MAX 効果 極
屠殺 MAX 効果 極
迷宮踏破 1/3 効果 微
吸血妃の祝福 1842/5000 効果 中
スタミナ 89/100
スキル
光源 火 地図 自動書記 鑑定 固定 遅延 空間収納 水 隠蔽 偽装 ストレージ 闘気 洗浄 消臭 乾燥 瞑想 アクティブソナー
スキルポイント 20358P
どうやら毎秒スタミナを吸われている様で、スタミナの数値が目まぐるしく変化していた。 闘気の継続使用で毎秒1消費するはずだから、蔓に毎秒10吸われている計算になるが、称号『生還者』の効果で毎秒MAXまで回復するから現状問題がなかった。
この蔓は対象のスタミナを吸って、動けなくなった対象の身体に寄生。 その肉をエネルギーに変えて結晶を作り、新たなコアを形成。 分蘖した蔓がコアを中心に集まり、新たな個体となると、いった所だろうか。
笹崎達はその結晶がコアを形成する前に採取し、新たな苗床をこいつらに与え再び採取する。 実に効率の良いやり方だ、反吐が出る。 ここは奴らにとっての結晶の養殖場か。
この蔓植物の生態はだいたい分かったが、それよりも新たな称号が追加されていた。
名称 吸血妃の祝福
効果 所持者の生命力を高め、エナジードレインに対して抵抗力を高める。
この称号は特定の行動に対しての時間で経験値が増える初めてのタイプだった。 蔓植物に絡み付かれてからの時間を考えると1秒1ポイントみたいだ。
蔓に絡み付かれたまましばらく放置して称号を強化しようと考えた。 その時、視界に花畑の中心付近にいた被害にあった探索者達の姿が入った。 既に事切れている様でピクリとも動いていなかった。
笹崎が何かを企んでいると思っていたが、まさか魔物を使ってくるとは思わなかった。 突然の事に対応が遅くなり、彼らにまで気を配る事が出来ずに助ける事が出来なかった。 探索者は危険と隣り合わせ、ダンジョンでの出来事は全て自己責任。 それでも、一時とはいえパーティーを組んだ彼らに黙祷を捧げた。
その後、数時間を蔓に絡み付かれたまま過ごしステータスをにらめっこしていた。 そして、遂に称号がカンストした。 そろそろダンジョンから脱出しようかと思っていた。 その時、複数の足音が聞こえてきたので、笹崎達が戻って来たのかと身構えた。 すると、通路から見覚えのある女性が飛び込んできた。
「お兄さん!」
以前、玄武で助けた高嵜一家の次女、絵里香ちゃんだった。
「なんで、君がここに?」
突然の出会いに驚きを隠せなかった。
「なんでって、お兄さんを助けに来たの!」
「俺を助けに?」
そんな緊張感の無い会話をしていると、絵里香の後ろから遅れて3人が現れた。
「間崎さん!」
「間崎さん、大丈夫ですか?」
「なんだ、生きているんだ。 お兄さん」
最後に入ってきた末っ子の由依ちゃんが毒を吐いていた。 家族が揃って安心したのか、絵里香がこちらに近づこうとした。
「それ以上近づくな!」
「え!」
突然の大声に驚いた絵里香はたたらを踏んだ。
「お兄さん?」
「それ以上先に進むなよ。 死にたくなければな」
「どういう意味?」
絵里香はその身に迫る危機に気付いていなかった。 離れて見ていた由依は俺の足元の脅威に気が付いた様で、
「絵里香姉さん、お兄さんの足元」
「足元?」
そうして、やっと俺の足元の脅威に気が付いた。
「植物の蔓?」
「ああ。 そして、後一歩進んでいたら……」
蔓に絡み付かれていない方の足で花畑の中心に向かって一歩踏み出すと、ダンジョンの床を突き破り大量の蔓が身体中に巻き付いてきた。
「お兄さん!?」
「こうなる。 そして、絡み付かれた人間はああなる」
そう言って花畑の中心で事切れている探索者達を指差した。 それを見た高嵜一家は声にならない悲鳴を上げた。
「ひっ!」
「あ、あ、あぁ……」
「っ!」
「なんてこと……」
「とりあえず、それ以上近づくなよ」
身体中に蔓が巻き付いていて、いい加減鬱陶しくなったので瞬間的に闘気を重ね掛けして蔓を引きちぎった。
「それは分かったけど……なんでお兄さんは平気なの!」
「スキルだ」
「スキルって、そんなの……」
「絵里香ちゃん、ダメだよ」
「ママだって分かってるでしょ! ここにはパパだって来たはずなの! なのに、お兄さんは大丈夫でパパがダメだなんて。 そんなのスキルってだけじゃ説明できないよ!」
「絵里香……」
興奮した絵里香を後ろにいた茉子が抱き寄せた。
「パパって……確か、笹崎がそんな事を……」
「間崎さん! 笹崎から何か聞いたんですか!」
笹崎が朱音さんの旦那を嵌めたって事を口にしかけてしまい、朱音さんが危険ラインを越えて近づいて来ようとしていた。
「ちょっと待ってください! 朱音さん! それ以上は!」
「ダメ! お母さん!」
1人冷静に見守っていた由依ちゃんが必死に朱音さんを引き止めていた。
「でも! 何か、少しでもあの人の事がわかるのなら!」
押し問答をしていると、突然凄まじい地響きが起きた。
「な、なんなの!?」
「これは一体!?」
花畑の端に立っていた俺の迷宮踏破に反応があった。 足元、それも下層から何かが上がってくる振動をキャッチした。
「みんな! 下がれ!」
俺の一声にすぐに反応出来たのは冷静だった茉子と由依だけだったが、2人とも絵里香と朱音さんの身体を引っ張って下がらせた。 そして、地響きが一段と強くなり魔物の花畑より更に奥の床が盛り上がり、何かが突き破ってきた。
土煙が舞い上がり視界が悪くなったが、俺の中の何かが警報を鳴らしていた。 すると、足に絡み付いていた蔓よりかなり太い蔓が土煙を突き破り、俺に向かって高速で迫って来た。 すかさず闘気を重ね掛けして両腕をクロスさせ防御した。
「ぐっ!」
蔓による刺突は想像以上の威力だった。 蔓は貫けないと分かったのか、鞭のようにしならせ土煙の中に戻っていった。
痺れた腕の回復を待っていると、床を這うように細い蔓が俺の横を通過し後方にいた高嵜一家に向かって高速で伸びていった。
蔓は一番前にいた朱音さんに向かっていたが、それを庇うように後ろにいた絵里香が前に立ち左手のバックラーで防ごうとしたが、蔓は盾に巻き付き絵里香の腕に絡み付いた。
「い、嫌!」
「早くその蔓を斬れ!」
絵里香は絡み付いた蔓を右手のナイフで斬ろうとしたが、突然力が抜けた様にナイフを落とした。 絡み付かれた瞬間から既にスタミナが吸われていた。
これ以上エナジードレインを受け続けると絵里香が死ぬ可能性が! そう思った瞬間、空間収納からアタッチメント付きライターを右手で取り出し、スイッチを入れ炎の大太刀を生み出した。
すかさず床に伸びる蔓に向けて、炎の大太刀を軽く振ると蔓は容易く焼き斬れた。
蔓に絡み付かれた絵里香の方を見ると床に力無げに座り込み、自力で立つ事が出来そうになかった。
「絵里香!」
「姉さん!?」
絵里香の後ろにいた茉子と由依が絵里香を抱き上げて、朱音さんと共に部屋の壁際まで下がった。
「朱音さん! 結界を張れ!」
「は、はい!」
「ダメ……だよ。 ママ……そんな事をしたら、お兄さんが……」
「手伝い、いる?」
「いいや、俺1人で十分だ!」
「だって」
「分かったわ」
朱音さんはこの間より分厚い幕を張り、攻撃に備えた。




