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結晶体

 なんかダンジョンに潜る気分じゃなくなったから再びBarに戻ってきた。


「マスター、なんか酔いたい気分なんだ。 オススメを1つくれないか?」


「……」


 マスターは何も言わずにグラスを1つ取り出し、グラスの縁をレモンで濡らし塩をつけていた。 酒とジュースを入れ混ぜ、出来上がった物をカウンターに置いてくれた。


「ソルティ・ドックだ」


「ありがとう」


 塩とフレッシュジュースのスッキリとした酸味が調和し後からアルコールがガツンと喉にきた。


「旨い……」


 モヤモヤした気分が晴れていく気がした。 そんな時間を過ごしていると、後ろから声を掛けられた。


「お、色男じゃないか! どうした、こんな時間から1人で呑んでいるなんてよ。 早速、三姉妹に嫌われたか? マスター、俺にはラム酒をロックで」


 そう言って横に座ってきた。


「なんだ、あんたは?」


「俺かい? 俺は探索者をやっている笹崎だ」


「そうか」


 俺は静かに呑みたかったので、隣の席に移動しようとしたら腕を掴まれた。


「まあまあ、逃げんなってちょっと話があるんだよ」


「ん?」


 仕方なく元の席に着くと、男はカウンターに置かれた酒を煽ると話し始めた。


「いやな、色男は上手いことやったなと思ってな。 朱音さん、いい女だろ? 朱音さんと俺はダンジョンが生まれる前からの知り合いでな。 旦那の事も知っているだよ。 ダンジョンが出来たばかりの時に旦那が金に困ってたみたいでな色々と世話もしたんだ。 まあ、ちょっと残念な結果になっちまったがダンジョンってのはそんなもんだしな」


「そうか」


 話が終わった感じがしたので再び席を立とうとすると、


「まだ、終わってねぇよ」


「なら、ささっと話してくれ」


「そう急かすなよ」


 更に男は酒を煽り、グラスを空にした。


「もう気付いてんだろ? 周りの視線によ。 ま、俺から言える事はあまり目立つ場所で一家と関わらない方がいいぜ? いらん恨みを買うことになる。 ダンジョンに潜る時は気を付けな。 ダンジョンってのは魔物より探索者の方が厄介なんだ」


「俺は単に依頼を受けただけなんだが」


「そうだな。 んで、その依頼を完遂した。 そして、今日同じテーブルを囲み食事をした」


「いや、飯は食ってない」


「そんな細かい事はどうでもいいんだよ。 あの4人と同じテーブルに男がいる。 そんなこと今までなかったんだ。 仲良くなりたい、一緒に食事をしたい、パーティーを組んでダンジョンに行きたい。 そんなことを考えている探索者は山ほどいるんだ」


「いやいや、女は他にもいるだろ?」


「ああ、いるさ。 でも、あの4人がいいんだよ。 他の女じゃなく、あの中の1人でもない。 あの4人と仲良くなりたいんだ。 分かるだろ? 男なら」


「ハーレムかよ……」


「そう言うこった。 んで、色男は上手いことやったからな。 嫉妬されるのは当たり前だよ」


「もうあの4人と関わる気ないんだが、報酬さえ貰えば」


「その報酬も問題だな。 茉子ちゃんを好きに出来るんだからな」


「いやいや、報酬は金銭か貴重品になる予定だ」


「なに? お前やらないの? 不能なの?」


「おい! 俺は正常だ! それに、未成年者に手を出すのは不味いだろ」


「何言ってんだ? ダンジョンの中での出来事は自己責任。 何も問題ねぇよ。 ま、好きにすればいいさ。 でも、手を出さないとなると、せっかく恩を売ったのに勿体ないな」


「別に恩を売りたくてやった訳じゃない」


「そうか、色男はお人好しだな。 そんな色男にいい話があるんだが聞くかい?」


 そう言って男は唐突に話題を変えた。


「いきなりだな。 本題はそっちか?」


「あ~まぁな」


「一応、聞いておくよ」


「そうか! なぁ、色男」


「色男じゃない。 聖人だ」


「ん、聖人。 あんたはこれを知っているかい?」


 そう言って男は懐から1つの結晶体を取り出した。 それは、以前初心者ダンジョンでユニーク個体からドロップした生命の結晶体だった。


「こいつは……綺麗な結晶だな」


 この男がこれを持っている事に不信感を抱いたが、顔に出さない様に努力した。


「これはな、特定の魔物からドロップするアイテムなんだ」


「ん? ダンジョンの魔物からドロップするのか?」


 少しぎこちなかったかなと思ったが、男は不信に思わなかったようだ。


「そうか、聖人は初心者ダンジョンを卒業したばかりだったな」


「ああ、昨日玄武に初めて潜ったし、極力戦闘を避けていたからな」


「なら、知らなくて当然だな。 こいつはな青龍のダンジョン8階層で会える魔物から取れるんだが、ちょっと問題があってな」


「8階層……問題?」


「ああ、かなりの人手が要るんだよ」


「強いのか?」


「いや、大して強くはない。 俺の相方と2人で十分倒せるんだが、奴を倒したら速やかにコアを摘出しなければこの結晶が消えちまうんだ」


「コア?」


「ああ、奴は草人(くさびと)と言ってな。 この結晶をコアに人の形を取るんだ。 普通に倒しちまうと、地面から背中のコアに繋がった蔓からエネルギーが抜けてしまい結晶が消えるんだ。 だから、複数人で囲みコアを露出させて、奴を倒すのと同時に背中の蔓を斬ってコアを摘出する。 その為に人手が必要なんだよ」


 男は真剣な表情で説明していたが、不信感は募る一方だった。 全てが嘘だとは思わないが、真実を話しているとも思えなかった。


「それで、俺に話したって事はそれに参加しろと?」


「ああ、簡単な仕事だがダンジョンに潜るんだ。 それなりに危険が伴う。 道中の魔物はこちらで対応するから安心してくれ。 報酬に関しては出来高になるが、結晶1つにつき500万は出す」


「500万か、高額だな」


「そうだろ? どうする、聖人?」


 この結晶体に関してはもう少し調べたいと思っていたから渡りに船か……少し考える振りをしてから、


「わかった。 その話、乗らせてもらう」


「良し! 決行は一週間後の早朝8時に青龍の入口で」


「わかった」


 そう言って男は上機嫌で席を立ち組合を出ていった。






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