ユニーク個体~再び
闘気と瞑想を利用した肉体改造を始めて1ヶ月が経っていた。 弛んでいた肉体は引き締まり、闘気を丸1日使用しても筋肉痛にならない様になった。 だが、その間管理人さんから苦言を言われ続けた。 ダンジョンに潜らない探索者はクズだとか、色々言われたが全ては闘気を使いこなす為だと割り切りひたすらに己を鍛え続けた。
満足出来るレベルに達したと感じたのはそれから更に1週間が過ぎていた。 季節は冬、寒空の下、再びダンジョンに向かっていた。 初心者ダンジョンの入口に立っている警備員に挨拶して中に入ろうとしたら中から声と走る音が聞こえてきた。
「おい! 急げよ! 組合に連れて行けばまだ間に合うかも知れない。 だから!」
「分かってる!」
男の声が近づいて来ると、
「そこを退いてくれ!」
言われた通りに道を譲ると、中から仲間を背負った男と片腕を失った男がダンジョンから出てきた。 男達はそのまま俺が乗って来たバスに乗り込み運転手に何かを伝えるとバスは動き出した。
「あれは3階層に行ったな」
入口に居た警備員がいつの間にか横に居た。
「3階層って例のユニーク個体か?」
「ああ、奴しか考えられないな。 ったく、行くなって言ってんのに……」
「そんなに強いのか?」
「初心者には無理だろうな」
「なんで上級者に頼まない?」
「アホかてめえは、上級者がこんな旨みのないダンジョンに潜るかよ」
「成る程……だから放置なのか」
「そう言うこった。 てめえも死にたくないなら変な気を起こすなよ」
そう言って警備員は持ち場に戻って行った。 行くなと言われると人は行きたくなるもの。 何人もの探索者を屠ってきた奴の顔を拝みに行くとしよう。
闘気を使いこなせるようになったので常時闘気を纏い、最短で1階層を踏破し2階層を探索しながらゴブ共を殲滅して3階層への階段まで一気に進めた。 階段を下りる前に自身の状態を再確認した。
名前 間崎聖人
称号
生還者☆☆☆☆☆ MAX 効果 極
ファイアーマン MAX 効果 極
屠殺 MAX 効果 極
迷宮踏破 1/3 効果 微
スタミナ 100/100
スキル
光源 火 地図 自動書記 鑑定 固定 遅延 空間収納 水 隠蔽 偽装 ストレージ 闘気 洗浄 消臭 乾燥 瞑想 アクティブソナー
スキルポイント 20235P
ステータス的には何の変化も無いが肉体的な強度は格段に上がったと思う。 油断はしない、ただ己の力を試したいだけだ。 自分の鍛えた力がどの程度なのか、ただ殺すだけなら炎の大太刀(使い捨てライター)やガストーチを使えば瞬殺出来るだろう。 だが、それではこれ以上の成長は見込めない。 故に、より強くなる為に新たなスキルと肉体を強化してきた。
3階層への階段を下りて行くと、徐々に空気が変わっていくのを感じた。 階段の最後の段を下りる前に奴を見つけた。広い部屋の中心でただ立っているだけ。 それだけなのに感じたことのない威圧感を放っていた。 最後の一歩を踏み出したら奴が襲って来ると直感で理解した。 とりあえず奴を鑑定してみる。
名称 ゴブリンガーディアン
状態 守護者 孤高
奴はその手に無骨なショートソードを持ち、ただそこに立っていた。 意を決して最後の一歩を踏み出した。 すると、奴は凄まじい勢いで距離を詰め上段から剣を振り下ろしたが、すかさず木刀でかち合った。 勢いがある分奴に有利だったがこちらも闘気で強化している為、ほぼ互角の状態だった。 だが、徐々に押されて行き、遂には地面に片膝をついてしまった。 すると、奴は勝利を確信したのか笑みを浮かべていた。
「くっ、流石にこのままだと不味いか、仕方がないな。 闘気の重ね掛けだ!」
闘気を鑑定した時、説明文にはまだ続きがあった。 それが闘気の重ね掛け。スタミナの消費は瞬間的に倍になり肉体に掛かる負担も倍増するが、飛躍的に肉体を強化することが出来る。
全身から光を放ち押されていた状態から一気に逆転し奴を吹き飛ばした。 奴は壁に激突し、その衝撃で剣を手放した。 奴は痛みに耐えながら起き上がると何が起きたのか理解出来ていないようで狼狽えていた。 ゆっくりと奴に近づいて木刀に闘気を集中させてただ振り下ろした。
奴が消滅すると、足下に拳大くらいの結晶が落ちていた。 それを拾い上げ鑑定してみると、
名称 生命の結晶体
効果 無し
「こいつは……」
今までユニーク個体を殺してもドロップアイテムは無かった。 唯一、コアと融合していた個体からは指輪が落ちた。 だが、こいつと今までの奴との違いはなんだ? コアを守っているからか? それとも数多の探索者を屠っているからか。 もしも、後者だとするとこれは人の命で出来ていることになる。 一度、組合で聞いてみるしかないな。
守護者を倒したことでコアを破壊できる様になったが、一応ここはダンジョン都市が管理しているらしいから勝手にダンジョンを殺す訳にはいかない。 名残惜しいがコアには手を出さずに地上に戻った。




