ダンジョンが現れた!
この小説を書いたのはだいぶ昔なんですが、御愛読ありがとうございます。
時は20XX年。 突如として世界中の至るところにダンジョンが現れた。 ダンジョンの入口は使われていない倉庫の中だったり、空き地のど真ん中に地下に続く階段が現れていた。 そして、この男の近くにもダンジョンは現れていた。
「ありがとうございましたー」
俺は仕事の帰りにコンビニで缶ビールとつまみを買いに寄った。
「今日も遅くなったな」
俺が働いている会社は自他共に認めるブラック企業だ。 ここ数年はまともに休みが取れず、会社と家を往復する毎日だった。
住んでいるアパートは1DKと狭いが、駅前でコンビニもすぐ近くにあるから一人暮らしには丁度良かった。 たまの休みにお気に入りのRPGをやる為のゲーム機とテレビにパソコンに冷蔵庫と最低限の家電があるくらいだ。
家に帰りシャワーを浴びた後、ジャージ姿で狭いベランダに出て、缶ビール片手にタバコを一本。 仕事終わりの至福の一時だ。 これがあるから辛い仕事も続けていられた。
至福の時間はあっという間だ。 缶ビールを飲み干し部屋に戻ろうとした時、視界の端に奇妙なものが見えた。 アパートの裏手にはバーベキューが出来るくらいのスペースがあるが、手入れがされてないので雑草が生え放題だった。 そこに階段らしきものが見えたので不審に思った。
「まさか……な」
まさかとは思いつつも期待と不安が入り交じり、とりあえず確認をしようと玄関に向かいサンダルを履きアパートの裏手に向かった。
俺の住んでいる部屋はアパートの一番端にあるため、階段が見えたのはアパートの裏手の奥になる。 膝辺りまで伸びた雑草をかき分けながら奥に進むと、
「あった……ダンジョンの入口だ」
俺は興奮した。 夢にまで見たダンジョン、それが目の前にある。 そのことが嬉しくて急いで部屋に戻った。
部屋に戻ると壁に立て掛けていた一本の木刀を手にした。 昔、親父に貰ったやつだ。 外で振り回す訳にもいかず、使い道が無いが捨てるには勿体ないとずっと手元に置いていたものだ。
とりあえず様子見をするだけなので、持ち物は木刀だけ。 スニーカーを履き、再度ダンジョンの入り口に向かった。
「行くぞ!」
俺は覚悟を決め、階段を下りて行った。 しばらく下りると、そこは何も無い広間のようだった。 階段から差し込む月明かりが届かない広間は薄暗く見通しが悪い為、広間の全体を把握するが出来なかった。
「しまった。 ライトを持って来るべきだったな。 ダンジョンの初歩なのに……」
俺は光源を持って来なかったことを後悔したが、今回は様子見だけだから大丈夫と言い聞かせた。 とりあえず広間を確認しようと歩き出すと、胸の辺りが光って透明な石板みたいなのが現れた。
一瞬驚きはしたが、落ち着いてそれを手に取ると、ニュースで報道していたステータス画面と同じものがそこにあった。 ダンジョンに踏み入れた者には最初に自分の状態を知るステータスが見れる様になると、俺はさっそく確認してみた。
名前 間崎聖人
スタミナ 100/100
スキル 無し
「え? これだけ? ……スキル、無し。 ニュースで見たやつのは、一杯スキルあったんだが。 とりあえず、鑑定とか地図、自動書記とか無いのかよ……」
俺はショックを受けたがステータスにはそれ以上表示されていなかった。 一度、ステータスを閉じて再度表示させた。 もしかしたら見間違いかもしれない。 そう思い、もう一度ステータスを確認するとスキルの下に新たな項目が追加されていた。
名前 間崎聖人
スタミナ 100/100
スキル 無し
習得可能技能 鑑定、地図、自動書記
「お! おお! 増えた! スキルが増えた! じゃあ、さっそく……」
ステータスの習得可能技能の所にある鑑定をタッチしたが、何も反応がなかった。
「あれ? おかしいな」
何度もタッチするも反応が無いため、再度確認するとまだ続きがあった。
名前 間崎聖人
スタミナ 100/100
スキル 無し
習得可能技能 鑑定、地図、自動書記
スキルポイントが足りません 500P
「ふっざけんなーー!!!」
俺の魂の叫びがこだました。
鑑定 500P
何度も見直したが見間違いではなかった。
「と、とりあえずスキルは後回しで探索をしよう」
ステータス画面は念じるだけで出し入れ出来る。 ステータス画面を閉じ、改めて広間を確認すると壁や床は石で出来ているみたいで、見た感じ古い遺跡のような感じがする。 広間の中央に立ち周りを見回すと入口から下りてきた階段を南とすると北に細い通路がある。
通路は木刀を振り回すには少し狭く、戦えないこともないが襲撃されると苦戦するだろう。 通路の先は広間同様に薄暗く、先がどのようになっているかわからなかった。
「ダメだな、先が全く見えないこの状態で進むのはやめよう。 とりあえずライトを持ってこないと……」
帰ろうと後ろを振り向こうとした時に音が聞こえた。 何かが地面を擦る音がして、その音がだんだん近づいてくる。 音がする方を向いたまま広間までゆっくりと後退りし、広間の中央まで下がり木刀を握る手に力が入る。
しばらく警戒していたが通路からは何も見えて来ない。 音がかなり近く聞こえるから距離的には広間の中に入って来ていてもおかしくないはずなのに、その何かの姿が見つからない。
「何かがいるはずなんだ……何処だ、何処にいる」
周囲を見回すがまだ見つからない。 緊張の連続で一瞬警戒が緩んでしまった。 その時、何かが身体を覆い被さるようにまとわりついてきた!!
「な、なんだよこれ!」
突然身体に絡みついてきた物を引き剥がそうとしたが、手で掴もうとしても柔らかい何かが、逆に手を包み込んだ。 それは掴み所の無い水の様な感じだが、粘着性が有り意思を持って俺を取り込もうと身体にまとわりついてきた。 それは顔を覆う様に動いてきた!!
「やば! 口を塞ぎに来やがった!」
顔を覆われると息が出来なくなる。 その恐怖が全身を襲う。 こんな所で死ぬのかと。 すると、身体を覆っている何かが動きを止めた。 チャンスだと思い、顔を覆う何かに必死に抗ったがどうにもならなかった。 諦め自分の身体を見ると上半身がすっぽり何かが覆っていたが、まだ下半身は無事だった。 それを見て閃いた!
「ごぼっ! のやろぅ!」
口を覆われ息が出来ないが、着ていたジャージを力一杯に脱ごうと身体を振り回しながら少しずつ脱いでいった。 身体に絡みついていた何かはジャージを取り込もうとしていた様で、ジャージを脱いでいくのに合わせて身体から離れていった。
首元まで脱ぎ、もう一度力を込めて一気にジャージを脱いだ。 顔を覆っていた何かが脱いだジャージと共に剥がれた。 それを壁に向かって投げつけた。
「ふぅ……死ぬかと思った」
壁に投げた何かを見ると、形の無い水の様なもので生物と言っていいのか、わからないものだった。
「こいつは、スライムか? スライムだとすると弱点は火だろうな。 確か……」
ポケットにライターを入れていたはず。 ポケットに手を入れ目的の物を掴んだ。 それは年季入ったオイルライターだ。
「少し惜しい気もするが……」
オイルライターに火をつけ、ジャージを食べているスライムに投げた。 火がジャージに燃え移りスライムを焼いた。 しばらく燃えた後に周囲に焦げた臭いが漂ったが、無事スライムを倒せたようだった。
「危ない所だった。 ゲームじゃない……これはリアルだ」
脅威は去った。 緊張が解け、その場に座り込んでしまった。 自分の手を見ると僅かに震えていた。 初めて命懸けの戦いを経験したことで恐怖が全身を包んでいた。
「そ、そうだ! スライム倒したからステータス変わってないかな?」
ステータスっと念じると透明な石板が現れた。
名前 間崎聖人
スタミナ 100/100
スキル 無し
スキルポイント 0.1P
習得可能技能 鑑定、地図、自動書記
「0.1ポイント……命懸けの対価がたったこれだけ……」
鑑定の500Pまでスライムをあと4999匹