「視界に映るモノ」 オーディン・シナリオ part3
神1
「オーディン様の活躍…聞いたか。」
神2
「あぁ。もちろん。神界一の大軍を一人で追い払ったとか。」
神1
「オーディン様はやっぱり格が違うな。」
儂は暇つぶしにフニンとムニンを城内へ飛ばし周囲を見るが皆、一様に同じ話をしている。
当然といえば当然だ。あの数を相手に無傷で戻って来るなど、儂以外の誰にできよう。
オーディン
「ふっ。」
賛辞の言葉は心地いい。それが自賛できる内容であれば尚のこと。
ミーミル
「えぇ。確かに可能ですが…」
物陰で誰かと話しているミーミルの姿をフニンが捉える。
??
「へぇ…。じゃ、今度僕にも分けてもらえるかな?」
ミーミル
「あの力は神にとっては毒…
例えオーディン様でもその力を御する事はできませぬ…
諦めた方が御身の為かと。」
??
「ふふ。俄然興味が沸いてきたよ。…。
おっと、こんな時間か。じゃ、また…近いうちに。」
物陰から出てきたのはロキだった。
アースガルズで最も危険な男…儂の命令に従う事もなく各地で戦争の火種をばら撒く
まさに悪魔の様な存在だ。
…しかし、先程の話は捨て置けぬ。
ムニン
「ガァガァ!」
ムニンをミーミルの肩に乗せ二度鳴かせる。『玉座に来い』という伝令だ。
ミーミル
「御呼びでしょうか…。」
オーディン
「先程、ロキと何を話していた。」
ミーミル
「…。知の泉に関する事を…少々…」
オーディン
「…ロキに話した内容を端的に述べてみよ。」
ミーミル
「はっ…。『力を強化する方法を知っているのか』と尋ねられたので、
『可能だ』と。
『しかし、オーディン様をもってしてもその力を御する事は不可能だ。
諦めて頂きたい』と…」
ほとんどの内容をムニンは聴いていたのか…
オーディン
「ミーミル…貴様の眼から視てロキはどう映る?」
ミーミル
「…例えるなら狩人かと。」
オーディン
「…続けろ。」
ミーミル
「狩人は罠を張り、獲物を誘い込み、身を陰に潜めます。
その身を現すはのは、相手を確実に仕留められる準備が整った時のみ…」
なるほど。なかなかに興味深い。何も考えず各地で戦争の火種を捲くだけだと思っていたが
ロキが原因となる戦は常に勝って終わらせている。
何も考えない獣かと思っていたが考えを改める必要があるかもしれない。
オーディン
「であれば、知の泉に関しては知らないと貫くべきだったな…。
もし、ヤツが知の泉を見つけたら厄介な事になる。」
ミーミル
「下手な嘘は事実より多くを語ってしまいます。
あの時の私にはアレが精一杯でした…」
このままヤツを野放しにしておくのは危険…先に手を打つべきだろう。
オーディン
「…下がれ。…代わりにロキを此処へ。」
ミーミル
「はっ…」
カツカツカツと高く音を鳴らしながらロキは現れる。
不気味な笑顔を浮かべながら。
オーディン
「ロキ…貴様のせいで何度戦を行ったか知っているか?」
ロキ
「…。いきなり変な質問をするね…知らないよ。数える気も無いし。」
オーディン
「5698回だ。」
ロキ
「へぇ、思ったより少ないんだね。」
オーディン
「戯言を…。これから儂はムスペルと一戦控えている…」
ロキ
「あぁ…宮殿中で噂している再戦のことね…それで?」
オーディン
「…貴様の視界を儂に寄越せ。」
ロキ
「…。」
オーディン
「同じユミルの血を引く者として今までは大目に見てきたが、
貴様の奔放な行動は混乱を招く。そこで鎖を付けることにした。」
ロキから薄ら笑いが消え、殺気の混じった瞳で儂を見てくる。
ロキ
「…」
オーディン
「どうした…構える必要などないだろう。我らは義兄弟だ。」
ロキ
「仰せのままに…兄上様…」
儂はロキの顔を左手で覆う。短い呪文を唱えると儂の眼の前に半透明な眼球が現れる。
儂はそれを一口で飲み込み眼を見開く。
そこにはロキの眼を通して映る、儂の姿があった。
オーディン
「明日の日の出まではろくに見えぬだろうが、案ずるな。視力は戻る。」
ロキ
「くっ…」
オーディン
「以降、勝手な行動は慎め。…下がれ。」
ロキはふらつきながら壁に手を付くとゆっくり出ていく。
当面の不安要素はこれで回避できるだろう。
仮にロキが知の泉を探したとしても先手を打てる。