「アース神族、主神の力」 オーディン・シナリオpart2
退屈を持て余しているオーディン。
彼は主にカラスの眼から世界を覗き、有事に備えている為
ヴァルハラの玉座から離れる事は稀である。
今回はそのオーディンが珍しく、
玉座を離れるお話。
ミーミル
「ムスペルヘイムとの国境沿いに不穏な動きがあります。
念の為、兵を派遣した方が良いかと…」
儂が手で空を払うとフニンとムニンが玉座から飛び立つ。
カラス達は弓の様な速さで空を駆る。
その視界に入るのは雄大なアースガルズの地。
広大な地の森や山ですら一息で越える。
そしてカラス達が捉えたのは一面を覆いつくす兵士の波だった。
大群の旗に掲げられていたのはムスペルヘイムのシンボル。
おびただしい数の兵は永い戦争を続けて来た儂ですら初めて見る光景だった。
オーディン
「ルーンも扱えぬ蛮族共が。」
ヘイムダルやウルを進軍させても良いのだが、奴等も戻ったばかり。
何時、敵の捕虜になるかわからないトールを出すのも愚策。
…まぁ、これはほんの口実なのだが。
ムスペルの大軍勢。
これを儂一人で相手取れば今後の戦争をより有利に進められよう。
ミーミル
「御出陣ですか?」
オーディン
「スレイプニルの準備を。」
ミーミル
「畏まりました。」
口元の緩みが取れぬ。この状況こそ儂が待っていた機会。
この戦争を生かし、今後の交渉を有利に動かしてみせる。
儂は正門に用意されたスレイプニルに跨り逸る気持ちを抑え国境に向かう。
ムスペル
「止まれ。」
儂の気配に勘付いたのか、中央本陣のムスペルが兵士を止める。
以外に鋭い感性を持っているようだ。
ムスペル
「さっさと出て来ねぇかピーピング野郎。
目障りなカラス共を引っ込めねぇと潰すぞ。」
オーディン
「…一応、確認しておく。お前の軍隊は既に交戦区域だ。
何をされても文句あるまいな。」
ムスペル
「構わねぇよ。お前が此処まで来れるなら…」
儂は一言目の承諾を聞くとグングニルを投げ、その後ろをスレイプニルで駆け抜ける。
カラスの目から辺りを見たが、本隊はムスペルではない。
そのすぐ後方だろう。儂が向かって行っても速度を上げないのはおそらく爆発物を
運んでいる為…急な動きが取れないのだろう。
ムスペル
「おらぁ!相手になってやらぁ!こっちに来やがれ!」
案の定ムスペルは後方部隊から離れ、本隊の脇に陣を敷く。
王を囮に使うとはなかなかに奇抜な発想だが、悪くない手だ。
確かにヤツを放置するわけにもいかない。
儂はグングニルを大きく振ると直径10m程の竜巻を創り前の兵士たちを宙へ吹き飛ばす。
儂の後ろからカラスが後方部隊に向かい、ムスペルには儂の姿が直線に向かって行く。
ムスペル
「はっ、真っ向勝負ってか…。弾け飛べ!」
ムスペルの渾身の拳が儂の顔を貫くと、儂の姿は霧のように消えていく。
ムスペル
「どうゆうことだ…これは…」
空振りした拳の下をカラスがすり抜ける。
ムスペル
「のぉ野郎~。コケにしやがったな…」
一方、カラスに身を変えた儂は悠々と爆発物を抱えた部隊を掃討する。
オーディン
「カノ<K>」
おそらく本陣の要だろう最後の一体に焔のルーンを刻む。
兵士1
「ひっ…」
予想通り、大爆発を起こした火は次々に誘爆を起こし辺りは一面、火の海となった。
ムスペルより後ろの部隊と完全に分断したのだ。
ムスペル
「あの竜巻は死角を増やす為だったのか…狡い真似しやがる…」
オーディン
「カラスの姿になるなど不本意この上なかったが…
あのままの姿でこちらを責めても、貴様の的になるだけだったろう。
儂も、その程度には警戒しているのだ。誤解するな…貴様への賛辞だ。」
ムスペルの怒りは既に頂点なのだろう。
顔の周りの血管は浮かび上がり、鬼の様な形相で睨んでくる。
ムスペル
「上等だ。一人でこの軍勢をどうにかできると思うなよ!」
ムスペルが儂を目掛けて飛んでくる。蛮族とはサル並みの脳しかないらしい。
兵士2
「ぅ…うあぁあ…オ、オーディンだぁぁ~…」
ムスペルが飛び出した場所のすぐ近くで兵士の悲鳴が上がる。
と同時にグングニルがその場の兵を一掃。400m四方を綺麗に薙ぎ倒す。
ムスペル
「どうゆう事だ…奴は…」
次に軍隊の最前線で悲鳴が上がり、大軍は祭りの様な騒がしさで最早、指令系統は機能していなかった。
ムスペル
「落ち着け。カラス共が化けてるだけだ。オーディンが増えたわけじゃねぇ。」
オーディン
「半分正解だ。…儂のカラス達はお前の兵にも化けられる…」
儂はムスペルの背後から槍を構える。
ムスペル
「くっ…」
儂が突くより早く、ムスペルは体と横へずらし、致命傷を避ける。
ムスペル
「…。今回はテメーを甘く見過ぎてたみてぇだ…」
オーディン
「案ずるな。次回などない。」
ムスペル
「へへ…そうかな…うらぁ!」
ムスペルが右手を大きく横へ振るとその手の中からおびただしい数の兵士が
飛び出してくる。
オーディン
「グゥ…」
その質量に儂も耐えられず、後ろへ弾かれる。
体勢を立て直し、前を向くとそこに居たはずのムスペルの大軍勢が消えていた。
代わりにヤツの声が辺りに響く。
ムスペル
『決着は次だ。…テメーは俺が潰す。覚えてやがれ。』
予定通り。これでまた儂の野望は一歩前進した。
オーディン
「悪くない…いや、良すぎるぐらいか。」