『力の根幹』 オーディン シナリオpart1
北欧神話を題材にした作品になっています。
地上編の始まる遙か昔の物語。
今回はオーディンの視点でのお話です。
此処は神界ユグドラシル、アースガルズの国境沿い。
戦士が倒れゆくなか戦場で2羽のカラスが舞っていた。
トール
「はっは~。ったく懲りねぇなぁ、お前たちも。
大人しくヴァナヘイムに戻りやがれぇ。」
トールは自慢の赤髪を振り乱しながら単身敵陣を切り抜けていく。
経験も実力も無い若者が陥りやすい、全能感に溺れているのだろう。
ウル
「トール、いけません。罠です。引いて本陣と合流を…」
弓の神ウルが声を上げるがトールは既にヴァン神族に包囲されていた。
状況を理解し、致命傷を覚悟しながらも反撃の体勢を整えるトール。
オーディン
「まだ早かったか。」
儂はヴァルハラの玉座からグングニルを投げる。
弓が放たれようとした時、短い風切り音が弓兵の意識を奪う。
弓兵が右腕に目を向けると、そこにあるはずの腕は切り落とされていた。
1人の悲鳴が響き渡るよりも短い時間で、次々とその場の兵士たちは倒れていく。
それは瞬きに等しい時間でトールを囲む兵士全てを戦闘不能にした。
トール
「クソ親父…」
トールは主神に対し感謝ではなく暴言を吐く。
正に未熟な者の典型だ。
儂がアース神族の主神オーディン。
儂の力は多岐に渡る。二匹のカラス(フニンとムニン)の視界から世界を視る力、
スレプニルという空を駆ける馬、目標を貫くグングニルの槍
ルーンに対する秀でた知識…それが力の根幹だと殆どの神が思っている。
間違いではないが、正解でもない。
トール
「こらクソ親父!俺の喧嘩にしゃしゃり出て来るんじゃねぇ!」
不躾で無力なトールが玉座に怒鳴り込んでくる。
まったくもって不愉快だ。
オーディン
「貴様の喧嘩等と低い次元で戦を語るな。
儂の手を煩わせおって…暫くの間、貴様が戦場に出る事は無い。
用があれば儂が呼ぶ。それまで大人しくしていろ。話は以上だ。下がれ。」
トール
「んだと…テメーの命令なんぞ…」
言い終わる前にグングニルを軽く振り玉座から風圧で飛ばす。
トールが玉座から出たことを確認すると拳を軽く握る。
玉座の扉は閉まり、外の音を遮断する。
騒がしいだけの未熟者め。
オーディン
「ミーミル…今回の戦果は?」
ミーミルは儂の相談役。
儂より老いた姿をしているが、これはルーンによる擬態である。
儂はこやつの本当の姿を見たことが無い。さして興味も無いが。
ミーミル
「はぃ。国境線を南に数キロ、高山地帯の制圧に成功しました。」
オーディン
「とは言っても、この区画は防衛も容易ではない。
次の段階に進めるには、暫く時間が掛かりそうだな。」
ミーミル
「その様で。…しかし今回の領土には希少な鉱石が多く埋蔵されています。
それを用いれば…」
ミーミルは常に多くの情報を提示してくる。可能性、留意点。
儂が求めているのは最短で結果を出せる案のみだというのに。
オーディン
「あぁ。貴様の好きにせよ。」
戦場で暴れていた頃を懐かしくも感じる。
儂がまだグングニルを手に入れる前。
ヴァナヘイムのニョルズと国土防衛線やムスペルヘイムのムスペルと五日間寝ずに殴り合いをしたこと、
ヨトゥンヘイムのウルガルド・ロキとルーンのみで勝負をしたこと。
幾度となく殺し合いをしてきた。
その度に儂は新たな力を手に入れて来たのだ。
そう、儂の力の根幹は成長する力にある。
神は完成した存在として生まれて来る。だが、儂は違う。
巨人族と神の血を引くため未完成なまま産まれたのだ。
戦場の傷は他の者の様に簡単には癒えぬが、儂の能力は向上する精度も威力も。
この力こそ儂が主神であり続ける最大の理由である。