侵入者?!
《sideクロエ》
「ユートはまだ帰ってこないのかしら?」
そろそろ帰ってくると思ってたんだけど…あの子に限ってそれはないわね。
さて、今のうちに洗濯物をしまっちゃいましょうか。
……!…何かいるわね…。
「…クロエ・ソルシエールだな。」
「そうよ、それがどうかしたの?…侵入者さん?」
…何者かしらこの人。このエルフの集まる町にはそうやすやすと侵入できるところではないわ。
いえ、今はそうじゃないわ。いま聞かなければならないのは——
「…一体何が目的かしら?こんな僻地に来たのだから、何もない…なんてことはないんでしょう?」
侵入者に向けて、警告の意味も込めて強めの魔力を放つ。
「……ッ!」
侵入者が初めて大きな反応を見せた。
「……俺の雇い主の依頼はあんたの誘拐だ、本当はもっとスマートに行きたかったんだが、あっさりバレてしまったからこうやって正面からきてんだよ。」
こいつの狙いは私、なら襲われるのは一人で十分ね。
「…誘拐犯にしては随分とお喋りね、今時の誘拐犯はそんなにお話がすきなのかしら?」
「いや、本当はこんなに話さないんだが、あんた同様俺も時間稼ぎがしたくてね。」
「ッ!」
バレてるわ!
クロエがそう思った瞬間、足元からロープが伸びてくる。
「しまったわ!」
「終いだ!」
侵入者は、クロエに向かってナイフを投げた。
それと同時にロープがクロエの足に絡まる。
「キャッ!」
「そのナイフには毒が仕込んであってな、即効性のある眠り薬だ、これでお前は終了だ。」
……油断したわ、でも。
「《解毒》」
「無駄だよ、その毒には魔力が通りにくいからな、並の魔法じゃ解毒なんてできないぜ。」
私は、侵入者が油断しているのを確認し素早く立ち上がるそして、
「《火球》!」
「何ッ!」
火の玉は、侵入者を少し炙ってから、向こうがわで爆発する。
侵入者が火の玉に気を取られてる間に、小さな炎を出してロープを焼き切る。
「あんたなんでだ動けんだっ!」
「簡単な話よ、私が並の魔法使いじゃなかったってことよ。」
次の火球を《何発も》用意して、照準を侵入者に合わせる。
「クソがっ!こんな話聞いてないぞ!」
「喰らいなさい!」
侵入者は、こんな僻地に来れることだけあって、全てを避ける。
「これでおしまいよ、《火砲》!」
「グワァァァァァァ!」
侵入者さんに直撃したわ。この分なら大丈夫そうね。
「エッ!」
侵入者が爆煙の中から私に向かって走ってきたわ!
「死ね。」
「ッ、《火球》!」
火球が爆発した瞬間、今まで見えていた侵入者の姿が消える。
「どこにッ!」
次の瞬間、クロエの目の前に侵入者が現れて、左腕には真っ黒なナイフが刺さっていた。
「…え?」
気づいた時にはもう遅かった、クロエは全身に力が入らず、そのまま倒れこむ。
「…本当はこいつを使いたくなかったんだけどな。」
そう言いながら、懐からロープを取り出す。
「さっきのナイフに塗ってあった毒は、なかなか手に入らない代物でな、一度体内に入ったら俺の持ってるこの解毒剤じゃないと解毒できない代物なんだ。」
そう言いながら、私に見せるために出した解毒剤と言っていた瓶をまた懐に戻した。
私は余裕綽々の侵入者を可能な限り鋭く睨む。
「そんなおっかない目で俺を見ないでくれ、これも仕事なんだ。」
そんな言葉に似合わず、薄ら笑いで私んのことを縛り終える。
「おっと、時間をかけすぎた。急がないと間に合わないな。」
そう言って、侵入者は私を担いで森の方向へ走り出す。
しかしその瞬間。
「クロエェェェェェェェェェェ!」
そこに割り込んできたのは、クロエの夫、ゾルダートだった。