これは俺一人が持っていい力なんだろうか?!
《身体強化》の有用性は分かった。
じゃあ、これで攻撃したらどうなるかやってみよう。まずはジャンプと同じように。
同じように全身に魔力をまとわせて…
「………《身体強化》。」
目の前にちょうどいい木がある、これでまずは試してみよう。
「痛くない程度に…フッ」
バンッ、バギィ!
「おぉう!?」
木が殴ったところから綺麗にへし折れていた。
「ハァ、ハァ、ハァ…ハァ…フー……やっぱ、結構疲れるな、これ。」
でも、目の前の惨状を見ればその疲れようもわかる。なんせ、軽く殴っただけでこんなことになっているんだ。
この疲れ具合にも納得がいく。でも、こんな恐ろしい力をアニメや小説の主人公は、平常心でよく使えるな。
百聞は一見にしかずとはいうけど、見たくないこともあるもんだ。
正直、目の前の木を自分が壊したなんて信じられない。ファンタジーとかそんなんじゃなくて、これが現実であることが信じられてない。
主人公の中には、力を得て善行を行うもの、悪行を行うものの二者がいる。
力を手に入れ、他人の助けをする人、悪い奴をやっつける人、どんな時でもきらめない人、魔王を殺して英雄になるもの。
力を手に入れ、弱いものいじめをするもの、復讐をするもの、殺人鬼になるもの、悪い魔族の仲間になるもの、様々だろう。
結局ここで同じなのは、力を手に入れたことで人格が変わっているということだ。
普通人間の性格はなかなか変わらない、が、漫画や小説の主人公は急に生き生きし出す。それこそ、水を得た魚のように。
これは作り物だから、こうやって主人公がどんどん変わっていく、なんせそれが面白いからだ。
ここで俺の状況は、もし自分が主人公ならば強い力にときめき、さぞ喜んだだろう。
しかし俺は違う、俺はそんなんじゃない、力が怖くて仕方がない。力は人を変え、人格を歪ませ、価値観さえも変えてしまう。
俺は、力なんかで自分を見失いたくなんてない。
だからこそ、俺は俺のことをもっと知るべきだろう。あの声のことも、力のことも。
「ブルルルルッ!」
「うおっ!」
なんだ?!なんか来たぞ?
ザッザッザッザッ…
なんか猪みたいな牛みたいななんかよくわからないのがどんどん近づいてくるんですが、如何しましょう。
せっかくだし、身体強化で蹴ってみようかな。
「………身体強化」
毎回、やり過ぎちゃうからもっと魔力を少なくしてみよう。
そうだな…魔力を纏うぐらいでいいかな、前は全身にかけてたし。
おっと、そうこうしてるうちにこっちに突進してくるではありませんか!
それでは早速、狙いを定めてタイミングを待って…
「……セイッ!」
ドゴッ!
「ブルゥゥモォォォ!!?」
「ッシャア!クリーンヒット!」
目の前でヨロヨロしていた変な生き物が倒れた。
流石にここまで綺麗に決まると気持ちがいいな。
でも良かった、今までの身体強化だと、爆発四散していただろうし。
てかまだ生きてるよね?死んでたら困るんだけど。
丁度、俺を使ってくれと言わんばかりの木の枝があるし、これでつつくか。
つん
「生きてる〜?」
つんつん
「お〜い」
つんつんつん
「ブルモォォォ…」
「あっ、大丈夫そう。」
じゃあこのまま放置でいっか、起こしてまた襲われたらやだし。
さて、ある程度能力のことがわかったけど、ファンタジーにきたらやって見たかったことがある。
それは……『思考加速!』
一度これをしてみたかった!
五感の強化ができるのは分かっている、なら、思考加速ができてもいいんじゃないかな?!
思い立ったらすぐ行動!(自分のやりたい時だけ)早速やってみよう。
目をつむって集中していく。魔力を強化したい頭に集めて…
「…………《強化》」
さて、どうなった?
俺は、急激な変化にも耐えられるようにゆっくり目を開ける。
ありゃ?何も変わってないぞ?
おかしいな、できると思ったんだけど。
「やりたかったなっと!」
せっかくだし、投げ方のフォームに気をつけて投げよう。
腕の力がしっかり伝わるように、肘を前にして投げる!
おぉー、よく飛ぶなー、ってか随分と気がゆっくり落ちていくな。
ってことはまさか、成功ってことなんじゃない?!
俺は、局所強化を辞め、魔力の使用を止める。
「ッシャァァー!」
これはなんとも喜ばしいことだ、なんせこれでいざという時に、カッコ良く色々決めることができるのではないか?!
「……ん?」
なんだあれ、いつもよりなんか煙が多くないか?
いや、確かにもう夕暮れ時だったけれども、こんなに煙多かったっけ?
「……なんか嫌な予感がする…」
このセリフを一度言ってみたかった!
まあ、勘違いでしょう。今日はなぜか火を使う人が多かっただけでしょ。
さぁ、家に帰ろう。そろそろ戻らないと、かあさんに心配かけちゃうな。
「今日のご飯はなっにかなー♪」